2017.04.19

廃食油をエネルギーに変える バイオディーゼル発電の可能性(後編)

ヤンマーエネルギーシステム株式会社が2011年より取り組んでいる、廃食油(植物油燃料)を使ったバイオディーゼルコージェネレーションシステム(以下、バイオディーゼルコージェネ)の開発。Y MEDIAではその技術、仕組みと背景にある狙い・想いを可視化すべく、前後編の取材記事をお届けしています。

前編では、生活協同組合連合会 コープ東北サンネット事業連合(以下、みやぎ生協)に導入されたバイオディーゼルコージェネによる発電が行われるまでの一連の工程を密着取材。廃食油の回収から、廃食油をSVO(Straight Vegetable Oil)に精製し、発電を行い、電気が使用されるまでのすべてのプロセスを写真とテキストでご紹介しました。

後編では、みやぎ生協本部にて行われた、みやぎ生協とヤンマーエネルギーシステム株式会社、それぞれの代表者による座談会をレポート。今回のプロジェクトの背景にある、みやぎ生協の理念と環境問題への取り組み、そして両社に共通する持続可能な社会づくりへの思いなどをテーマにお話いただきました。

循環型社会へ 廃食油をエネルギーに バイオディーゼル発電の可能性 後編
みやぎ生協本部の朝。個人宅配のトラックがずらりと並んで出発を待っています。バイオディーゼルで走る車もあります。
循環型社会へ 廃食油をエネルギーに バイオディーゼル発電の可能性 後編
みやぎ生協本部社屋の裏に設置されたヤンマーのバイオディーゼルコージェネ。

取材場所となったみやぎ生協本部では、みやぎ生協リサイクルセンター(以下、リサイクルセンター)に続いて、2017年に2台目となるバイオディーゼルコージェネを導入しました。みやぎ生協はなぜ、バイオディーゼルコージェネに注目したのでしょうか? まずはその背景にある地球環境への問題意識からお話をうかがっていきましょう。

宮本弘
みやぎ生活協同組合 代表理事 理事長

大原英範
みやぎ生活協同組合 環境管理室長

大橋隆一
ヤンマーエネルギーシステム株式会社 営業統括部エンジニアリング部 ソリューション営業推進グループ 専任部長

戸田二郎
ヤンマーエネルギーシステム株式会社 仙台支店営業部 発電システムグループ 部長

※取材者の所属会社・部門・肩書等は取材当時のものです。

持続可能な社会づくりに向けたみやぎ生協の想い

循環型社会へ 廃食油をエネルギーに バイオディーゼル発電の可能性 後編

――みやぎ生協の環境理念には、「メンバー(組合員)と職員の活動や事業における取組みを通して環境負荷の低減と自然との共生に貢献し、持続的に発展する社会づくりに寄与します」と書かれています。このような理念を掲げられた背景から、お話をうかがいます。

私たちの出発点は、まずは身近にある環境問題を組合員のみなさんと一緒に解決していくことでした。限られた資源を上手に活用し、CO2を削減する運動を生協として行ってきました。

ひとつの大きなエポックになったのは、1992年にブラジルのリオデジャネイロで開かれた地球環境サミット(環境と開発に関する国際連合会議)です。私もまた、全国の生協の代表団の一員として参加。世界で環境問題について真剣に考えなければいけないという意識が高まり、「みやぎ環境とくらしネットワーク(MELON)」という環境NGOもつくりました。

2002年にはみやぎ生協 亘理(わたり)店の屋根に太陽光パネルを設置。2005年頃には、全国に先駆けて地域のスーパーとの連携のもとにレジ袋削減にも着手しました。2006年には、みやぎ生協リサイクルセンターを開所して、家庭で廃棄されるペットボトル、牛乳パック、食品トレイなどの店頭回収と、リサイクル・リユースにも取り組んでいます。

循環型社会へ 廃食油をエネルギーに バイオディーゼル発電の可能性 後編
店頭で回収した牛乳パックや食品トレイなどは、みやぎ生協リサイクルセンターで再生紙や再生プラスチック原料に加工されています。
循環型社会へ 廃食油をエネルギーに バイオディーゼル発電の可能性 後編
株式会社サイコーとの提携で実現した「リサイクルポイントシステム」。計量器付きコンテナで古紙を計測し、重さに応じてお店で使えるポイントが付与されます。

――CO2削減という地球規模の大きなテーマを、地域や組合員さんとの関係性に丁寧に落とし込まれたのですね。

環境問題は、個人や地域と全体とのつながりの中で見ていく必要があります。事業体としてのみやぎ生協だけではなく、70万人を超える組合員のみなさんにも環境に対する意識を高めていただくことが、持続可能な地域づくり、社会づくりの大きな力になっていくのだと思います。

――環境、特にエネルギーに関するテーマは強く意識されていますね。

そうですね。東日本大震災では、福島第一原子力発電所の事故によって大きな被害がありました。宮城県でも、放射性物質の飛散や風評被害の問題に直面しました。みやぎ生協として考え方を整理して、原発をなくして再生可能エネルギーによる発電をするべきだと発信し、行動もしてきました。

東北は、自然エネルギーの豊かな地域です。太陽光、風力、バイオマスなど、エネルギーの地産地消を実現する仕組みをたくさんつくり、その電気で暮らしていこうという動きの中で、今回のヤンマーさんとの廃食油を利用した発電への挑戦も始まった、というわけです。

国内初! SVOによる発電を実現した
みやぎ生協とヤンマーのパートナーシップ

循環型社会へ 廃食油をエネルギーに バイオディーゼル発電の可能性 後編
使用済みてんぷら油を回収するボックス「油終の美」。こちらもSVOに精製されて、発電に使用されています。

――再生可能エネルギーといってもさまざまな発電方法がありますが、とりわけバイオディーゼル発電に関心を持たれた理由は?

コープ埼玉で、ヤンマーさんがBDF(Bio Diesel Fuel。バイオ燃料、FAMEの一種)に対応したバイオディーゼルコージェネの実証実験を行っているとうかがった時に、SVOでの発電も可能かもしれないという話を聞いて理事長に相談しました。

みやぎ生協では、廃食油の利用方法を以前から検討していたんです。そんな中で、化学反応を起こして精製するBDFではなく、不純物を取り除いただけのSVOで発電できるのはすごくいいと思いました。導入までは、トントン拍子で話が決まっていきましたね。

循環型社会へ 廃食油をエネルギーに バイオディーゼル発電の可能性 後編
魚箱や個人宅配の発泡スチロール箱など、リサイクルセンターで再生される資源は多様です。これらの作業に使用される電力の大半を、バイオディーゼルコージェネで発電した電気が担っています。

2015年の1月頃に、アポイントを取りました。当時、リサイクルセンターの電気使用料が月100万円くらいかかっていたのですが、バイオディーゼルコージェネを導入すると約70万円削減できるという目処が立ったんです。

環境への取り組みとはいえ投資ですから、費用対効果の面をクリアにすることは重要なポイントです。みやぎ生協の事業から出る廃食油、組合員の家庭から出る廃食油を燃料として使用でき、なおかつ採算がとれるのであれば、優先的にやってもいいだろうと、理事長からゴーサインをいただいたのが3月頃。約半年後の2015年の9月には、バイオディーゼルコージェネをリサイクルセンターに設置できました。

良い取り組みであればあるほど、早くやるほうが良いですよ。しかも、国内初の事例ですから、みやぎ生協の環境への取り組みを広く社会に知ってもらう機会づくりにもなると。

一番の魅力は、廃食油を電気に変えられるという点。これまでも廃食油をBDFにすることに取り組んできましたが、燃料に比べれば電気の方がはるかに用途の幅も広がります。また、太陽光や風力のように天候などに左右されることもなく、恒常的に発電できる点もバイオディーゼルコージェネの大きな魅力でした。

国内初の廃食油によるSVO発電機
稼働からの1年半を振り返る

循環型社会へ 廃食油をエネルギーに バイオディーゼル発電の可能性 後編

――技術面についてうかがいます。ヤンマーは、その時点ではすでにSVOで発電する技術は持っていたのですか?

エンジンは熱量があれば回りますから、SVOでも駆動することはわかっていました。ただ、お話をいただいた当時はまだ「4000時間の発電に耐えうるか」というレベルで、エンジンの耐久性に関する実績はありませんでした。

当然、導入にはリスクもともないます。それでも踏み切れたのは、万が一のために予備機を用意してくれたからです。その代わり、ヤンマーさんからは「できるだけ悪い条件で運転して、データをとりたい」と要望されました。フィルタの交換時間を延長したり、オイル交換時期を既定値よりも延ばしてみたりと、過酷な環境下でのエンジンの状態を見てみたいから、と。

ヤンマーには発電機の実証機があり、廃食油を回収して活用しようとするユーザー様がいて、また廃食油からSVOを精製するプラントもある。つまり、発電機メーカー、ユーザー様、油精製プラントの3社の組み合わせがうまく合致するという、非常に好条件が揃ったことにより、ひとつの事業としてスタートできたのです。

――導入にあたって課題になったこと、苦労したことはありましたか?

導入までに関しては非常にスムーズでしたが、稼働してからは多少の調整は必要になりましたね。当初は、燃料フィルタの目詰まり。冬場の気温の低下時は、燃料の加温が不足したり、逆に加温しすぎたりもしました。そこで、燃料タンクの油の酸化劣化を防ぐために夜中に動かす循環ろ過装置のフィルタを取り付けるなど、システム改善を順次行っていきました。

本来なら商品は熟成した段階でお客様にお渡ししますが、今回のケースではお渡ししてから徐々に熟成させていくイメージで進みました。

――稼働後の現場の声はいかがでしたか?

わざと悪い条件で動かしている期間を除いては、現場から苦情らしい苦情は上がっていません。数値も目標にしていた電気料金70%削減を実現できていますから、計画通りと言ってよいと思います。

新しい発電機からはじまる循環型社会への道のりは?

循環型社会へ 廃食油をエネルギーに バイオディーゼル発電の可能性 後編

――リサイクルセンターでの成果を踏まえて、今後の展開について教えてください。

現在は自家消費ですが、今後は株式会社地球クラブ(日本生協連が設立した新電力会社)への売電も視野に入れて台数を増やしていく予定です。今年は本部と東配送センターに導入し、来年度は、さらに2機増設も検討しています。

――実際に一年半の稼働を経て、バイオディーゼルコージェネの機能面について期待されることはありますか?

組合員に向けて“見える化”する機能、たとえば「今、どのくらい発電しているのか」を表示するモニターがあるとうれしいですね。技術的な面でいうと、人によっては廃食油の匂いが気になることもあるようです。個人の感覚の違いもあるところではありますが、内部での調整を行いつつ検討していかなければいけないと考えています。

こうして、生のお声をいただけることは大変ありがたいです。リサイクルセンターでのトラブル事例も、製品に反映することでシステムをブラッシュアップできました。今お話いただいたことも、宿題としていただいており、社内でも検討を進めております。

我々は発電機メーカーですから、化石燃料による発電に劣らない、環境に優しい発電機をどんどん普及させていくという形での貢献になるでしょうか。液体だけでなく、木質の乾留ガスを使った発電機なども開発しています。「バイオマス系の発電機ならヤンマー」と言ってもらえるメーカーになりたいと思っています。

――再生エネルギーへの期待が時代の要請とも捉えられるように広がりを見せる中で、今回の取り組みは社会にとっても大きな一歩となりそうですね。

私たちも生協だけでなく、組合員のみなさんや地域のみなさんと一緒に変わっていく必要性を感じています。一緒にCO2の排出を抑え、原発に頼らなくても済むエネルギー循環をつくり、地球環境を守る。宮城だけでなく、コープ東北全体でそれぞれの生協と話し合っているところです。

また「環境問題を解決する」ことと事業性の両立も重要なポイントだと考えています。無理のないやり方を考えておかないと、取り組みそのものの持続性が危うくなってしまうからです。今後は広く深く、いろんな企業のみなさん、行政や大学など研究機関とも連携して考えていきたいですね。

ヤンマーの創業者・山岡孫吉の哲学は“燃料報国”。この言葉には「一滴の燃料も無駄にしない」という意味も込められていますが、これを今の時代に置き換えれば「環境を大事にして持続可能性のある社会をつくる」となるはずなんですよ。ヤンマーエネルギーシステムは、空調と発電のふたつのフィールドで社会に貢献する企業です。再生可能エネルギーを利用した発電の実現は、私どもの会社の使命ではないかと思っています。

 


循環型社会へ 廃食油をエネルギーに バイオディーゼル発電の可能性 後編
環境管理室。ここで使用される電気も8分の1はバイオディーゼルコージェネが発電したものです。

みやぎ生協の25年以上にわたる環境問題への取り組みと、ヤンマーの100年前から受け継がれてきた「燃料報国」の思いが重なり合ったところに生まれた、「廃食油による発電」国内初事例。双方が持つ、持続可能な循環型社会への明確なビジョンを共有できたことが、異例のスピードでのバイオディーゼルコージェネ導入を実現させたのだと思います。

どの家庭でも出る「使用済み天ぷら油」。廃食油から電気をつくる、身近な循環型の仕組みから地球規模の持続可能な社会へ。Y MEDIAでは、企業、個人の枠組みを超えた社会的な取り組みに、今後も注目していきます。

関連情報

ヤンマーバイオディーゼルコージェネレーション製品ページ

ヤンマーバイオディーゼルコージェネレーションの製品概要や導入事例を紹介しています。

ヤンマー公式サイト エネルギー事業ページ

ヤンマーのエネルギー事業についてはこちらをご覧ください。

エネルギーマネジメントシステム

最先端のICTを駆使し、各地に配置されたコージェネレーションシステムをネットワーク化。エネルギーを最適に配分することで、エネルギーロスを最少化します。

ゼロエミッション

ヤンマー本社ビルでは、太陽熱集熱器をはじめ、太陽光発電、ガスヒートポンプエアコン、ガスコージェネレーションシステムなど多様なCO2削減の取り組みと、CO2の積極的な利・活用を通して、CO2排出量ゼロの「ゼロ CO2エミッション ビル」の実現を目指しています。