2024.05.02

フードテックとは?食料問題を解決する企業の事例や今後の課題を解説!

人口増加による食料不足や人手不足、食品ロスの削減など、さまざまな観点から食とテクノロジーを掛け合わせた「フードテック」が注目を集めています。

フードテックの登場によって、私たちの食生活はどのように変化するのでしょうか?

今回のY mediaでは、フードテックの意味や注目される理由、企業の取り組みについてヤンマーの事例を交えながらわかりやすくご紹介します。

フードテックとは?

フードテックについて

フードテックとは、「フード(食品)」と「テクノロジー」を掛け合わせた造語です。

日本では明確な定義はありませんが、食の分野にIoTやAI、ロボティクス、ビッグデータなどの最先端テクノロジーが結びついた商品・サービス・技術の総称として用いられています。

⚫︎フードテックの一例

フードテックの一例

フードテックが注目される理由

持続可能な食料生産に欠かせないフードテック。一体なぜ、注目を集めているのでしょうか?

フードテックが注目される理由|①人口増加による食料不足

日本では少子高齢化が深刻ですが、世界の人口はどんどん増えています。国連の報告書によると、世界人口は2022年に80 億人に到達し、2050年に97 億人に増加すると予測されています。 世界の人口が増えることと、私たちの食生活にはどのような関係があるのでしょうか? 人口増加による課題はさまざまですが、とりわけ懸念されているのが食料不足です。 増え続ける人々の命を支えるためには、当然のことながら膨大な量の食料が必要です。しかし現代は、地球温暖化による異常気象によって、農作物の生産量が大きく減少しています。このままの生産スピードでは、十分な栄養を得ることができない人がどんどん増えてしまうかもしれません。 特に不足が心配されているのが、牛肉や豚肉に代表される「たんぱく質」です。たんぱく質は、私たちの筋肉や体を構成するために欠かせない栄養素です。 中には「今よりもっとたくさんの家畜を育てればいいのでは?」と思った人もいるでしょう。

しかし、成長の過程で多くの飼料を必要とする家畜は、大量の穀物を食べて育ちます。穀物を育てるためには、たくさんの水が必要で、環境省によると牛肉1kg を生産するには、約2万ℓもの水が必要だと言われています。 また、牛のゲップには、「メタン」という地球温暖化の原因となる温室効果ガスが含まれており、メタンの温室効果は二酸化炭素のおよそ25倍にのぼるそうです。 牛をはじめとした家畜の飼育は、私たちの想像以上に環境への負荷が大きいことがわかりますね。

こうした課題を解決する手段としてクローズアップされるようになったのが「培養肉」をはじめとしたフードテックの存在です。培養肉とは、牛や豚などの一部の組織を取り出し、体外で組織培養して作られる人工肉のことを言います。 培養肉については後ほど詳しくご説明しますが、動物細胞を大量に増殖させて生産できるため、水や飼料の利用を減らしたり、ゲップによるメタンガスの発生を抑えたりする効果が期待されています。

フードテックが注目される理由|②多様化する食のニーズ

世界には、宗教上の決まりで肉や魚を食べられない人がいます。 また、環境や動物保護を目的としてあえて動物性の食品を避ける「ヴィーガン」(完全菜食主義者)を選択する人も増えているようです。健康や美容を意識してヴィーガン食をとる人もいるでしょう。 肉や魚を食べないと、たんぱく質が不足し、筋肉量の低下や疲労感など体にさまざまな悪影響が出てしまいます。

そこで注目を集めているのが、大豆や小麦、えんどう豆といった植物性原料を使った「代替肉」の存在です。 スーパーマーケットやレストランでは「大豆ミート」などの名前で販売されているのを見かけたことがある人もいるでしょう。動物性の肉と比較すると、従来の生産方法に比べて環境負荷が少ないこと、また生き物の命を奪うことなく生産が可能になります。 フードテックが普及すれば、ヴィーガンや宗教上の理由で動物性の食事を食べることができない人など、多様化する食のニーズにも対応できるようになると考えられているのです。

フードテックが注目される理由|③人手不足の解消

フードテックは、食品業界の人手不足を解消する手段としても注目されています。食品業界の中でも、とりわけ農業従事者の人手不足は深刻です。また、農作物の生産は熟練者の感覚に頼る面が多く、経験の浅い若手の参入が難しいという課題がありました。

こうした中、注目を集めたのが「スマート農業」と呼ばれる農業分野におけるフードテックです。 スマート農業とは、ロボット技術やICTを活用して省力化・高品質生産を実現する新たな農業のことで、農林水産省も多額の予算を計上して推奨しています。ロボットやドローンなどを積極的に活用し作業を自動化すれば、生産者の負担はぐっと軽くなります。 また、AI解析などを利用して熟練者による暗黙知をデータ化すれば、経験の浅い若手の農業従事者でもより安定した農業経営が可能になるでしょう。 スマート農業の普及は、業界全体の人手不足の解消に大きく貢献するのではないかと期待されています。

フードテックの現状と市場規模

フードテックの現状と市場規模

フードテックが注目を集めるようになったのは、2010年代の半ばごろ。フードテック分野のスタートアップ企業に、ビル・ゲイツ氏をはじめとした実業家が多額の投資をしたことで話題になりました。

農林水産省のホームページによると、世界のフードテック分野への投資額は年間2兆円を超えており、今後も急速に成長していくと予測されています。

 2020年4月には、農林水産省の主導によって「フードテック研究会」が発足。

新たな市場の開発に向けて、代替肉や必要な栄養素をバランスよく配合した完全栄養食のパン、人手不足に対応する調理ロボットなど、多くの企業がフードテックに関する事業展開や研究開発を進めています。

フードテックが導入されている分野

フードテックが導入されて

ここでは、どんな分野でフードテックが活用されているのか、その事例を見ていきましょう。

フードテックが導入されている分野|①第一次産業

農業、林業、漁業の分野でもフードテックの波が押し寄せています。先ほどご紹介したスマート農業に加えて、人工的な海水を循環させることで海水魚を陸上で養殖する「陸上養殖」、IoT技術によって漁師が海に出ることなく遠隔操作でエサやりができる新たなシステムも登場しています。

フードテックが導入されている分野|②食品メーカー

買い付けた原料を加工し、新たな食品を生産・開発する食品メーカーでは、健康や栄養に配慮した完全栄養食の開発、環境負荷を抑えながらたんぱく質がとれる培養肉や代替肉の研究が進められています。 また、新しい栄養源として「ミドリムシ」や「コオロギ」を使った健康食やお菓子にも注目が集まっています。

フードテックが導入されている分野|③飲食店

新型コロナウイルス以降、外食産業における人手不足が一層深刻になる中、生産性を向上させるために、飲食店におけるフードテックの役割は今後もますます大きくなっていくと言われています。 既に世界中の多くの飲食店では、調理をこなす「調理ロボット」、できあがった料理を客席まで運ぶ「配膳ロボット」の導入が進められています。 他にもコロナ禍で普及したキャッシュレス決済、モバイルオーダー、デリバリーサービスなどもフードテックの一例です。

フードテックが導入されている分野|④小売店

スーパーマーケットやコンビニエンスストアをはじめとした小売店でも、フードテックの導入が進んでいます。 その中でも注目を集めているのが、深刻化する食品ロスの削減に向けた冷凍技術です。 都内のコンビニエンスストアでは、従来の常温弁当の販売を中止し、冷凍弁当と店内厨房で作る弁当のみを販売することで「弁当廃棄ゼロ」を目指すサステナブルな店舗も登場しています。

フードテックのテクノロジー例

フードテックのテクノロジー例

食と最先端テクノロジーを掛け合わせたフードテックには、さまざまな種類があります。ここでは代表的な例をいくつかご紹介します。

フードテックのテクノロジー例|①培養肉

フードテックの中でも特に注目を浴びているのが、先ほど記事の冒頭でご紹介した培養肉です。 培養肉は、牛や豚から細胞の一部を取り出して、体外で組織培養をして作られる人工肉のことを言います。必要に応じて脂肪やコラーゲンなどを加えて、ハンバーガー用のパティやチキンナゲットなどに加工します。まるで映画の世界のようですが、既に研究は進んでおり、世界では60社を超える培養肉のスタートアップ企業が誕生しています。 日本でも大手食品メーカーの日清食品ホールディングスが、東京大学の竹内研究室と共同で培養ステーキ肉の開発を進め、大きな話題を呼びました。 私たちの食卓に培養肉が並ぶ日も、そう遠くないかもしれません。

フードテックのテクノロジー例|②代替肉(植物肉)

培養肉と並んで注目を集めているのが、植物由来の代替肉です。 代替肉については明確な定義はありませんが、大豆や小麦、えんどう豆といった植物性のたんぱく質を使って、従来の肉に味や見た目を似せたものを広く代替肉と呼んでいます。 先ほどご紹介した培養肉が実際に流通しているのは、世界でもごく一部の国だけですが、代替肉は既に日本のスーパーマーケットやレストランでも流通しています。 地球環境に優しく、健康的で体に良いとされる代替肉。「さらなるおいしさの追求」と「コスト削減」に向けて現在も研究が進められています。

フードテックのテクノロジー例|③スマート調理機器

数あるフードテックの中でも、最も私たちの食卓に近い存在がスマート調理機器です。 調理器具とIHヒーターがスマートフォンと繋がり、専用のアプリを通して火加減や加熱時間を自動で調整してくれます。 フードテックを活用した調理機器が普及すれば、忙しい人や料理が苦手な人はもちろん、病気などで手が思うように動かせない人でも、お家で手軽にお店のような本格的な料理が作れるようになるかもしれません。

フードテックの課題

フードテックの課題

最先端テクノロジーの力で食の課題を解決するフードテック。世界ではアメリカを中心に市場が拡大する一方、日本はやや遅れをとっている印象です。フードテックの普及は、なぜ難しいのでしょうか?その課題を確認していきましょう。

フードテックの課題|①コスト

新しい技術や商品を開発するためには、たくさんの時間とお金が必要です。海外ではフードテック分野におけるスタートアップ企業が多額の融資を受けていますが、日本のスタートアップ企業への投資額は海外に比べるとそう多くはありません。 実際に日本でフードテック分野に参入しているのは、研究や開発に必要な初期費用をクリアできる大企業が中心です。とはいえ、大企業の参入にはメリットもあります。意欲的な大企業が多数参入すれば、日本のフードテック業界は一層盛り上がります。 国内のフードテック業界に火がつけば、フードテック関連の事業に取り組む企業を後押しする政策が打ち出されるかもしれません。スタートアップ企業への投資も自ずと増えていくはずです。 コストの課題がクリアされれば、日本でもフードテック分野で活躍する企業が次々と誕生するかもしれません。

フードテックの課題|②おいしさ・心理的ハードル

フードテックが注目を集める中、次々と新しい商品が登場しています。しかし、「環境に優しい」「健康に良い」だけでは、食品を手に取る人は決して多くありません。 購入の決め手は、やはり、食べた時の味わいや見た目の良さがカギとなるでしょう。特に、培養肉や昆虫食などこれまでになかった新しい食品に関しては、心理的なハードルを感じる人も少なくないようです。 「何となく食べにくい」というイメージをいかになくすか、新しい食品に対してポジティブなイメージをどう与えていくかも今後の課題の1つと言えるでしょう。

フードテックの今後と解決できる問題

フードテックの課題

フードテックは、世界人口の増加による食料不足だけではなく、多様化する食のニーズへの対応や一次産業や飲食店の人手不足などの解決策として期待されています。 ここからは、フードテックがどういった未来をもたらすのか、フードテックの今後について考えていきましょう。

スマートタグの登場で冷蔵庫内の消費期限切れをゼロに

「後で食べよう」と思って冷蔵庫にしまっていた食材。うっかり消費期限を切らしてしまった経験はありませんか? こうした家庭での食品ロスを解決する存在として注目を集めているのが、スマートタグを活用したアイデア製品です。

アメリカでは、シカゴのスタートアップ「Ovie」が、食品の消費期限を管理するスマートタグ付き食品保存容器「Ovie Smartware」を開発し、話題を呼びました。使い方は、専用のスマートタグを付属の食品保存容器に付けて冷蔵庫で保管するだけ。スマートタグに搭載されたLEDランプが青色から黄色、赤色へと変化することで、消費期限を知らせてくれる画期的な製品です。

スマートフォンのアプリと連携すれば、消費期限が近い食材を使ったレシピや冷蔵庫の中身を一覧で確認できる便利な機能付き。日本での販売は未定ですが、外出先から冷蔵庫の中身を確認できるようになれば、消費期限切れや食品の無駄買いが減り、家庭での食品ロス削減に大きく貢献できるのではないかと期待が集まっています。

3Dフードプリンターで介護食の未来が変わる

少子高齢化が進む日本では、介護職における3Dフードプリンターの研究に注目が集まっています。3Dフードプリンターとは、ペースト状にした食材などを使って食品を立体的に造形することができる機械のことです。 高齢になると噛む力が弱くなり、食べられない食品も多くなります。 そのため、介護の現場では、刻み食やとろみ食など、飲み込みやすい食事が提供されています。

しかし、こうした食事は見た目や食感が悪く、高齢者が食事に楽しさを見出しにくいという課題がありました。 フードテックの普及により3Dフードプリンターが実用化されれば、より本物に近い食感や見た目を再現できるようになります。 たとえば、かぼちゃの煮物を作る場合、かぼちゃの実はより食べやすいように柔らかく、かぼちゃの皮は色を変えて少し硬く仕上げることで見栄えと食感を高めることができます。にんじんを使った副菜は、ペースト状ではなく輪切りのような美しい見た目に仕上げることも可能です。

介護施設で一人ひとりに合った硬さの介護職を作るのは非常に大変な作業ですが、3Dフードプリンターなら、一人ひとりの咀嚼力や嗜好をデータで管理することで、その人にぴったりの介護職をスムーズに提供できるようになるでしょう。 近い将来、3Dフードプリンターをはじめとしたフードテックが、介護食の未来を大きく変えるかもしれません。

フードテックの企業事例

フードテックの企業事例

「A SUSTAINABLE FUTURE」をブランドステートメントに掲げるヤンマーグループでは、「食の恵みを安心して享受できる社会」を目指して、さまざまな活動に取り組んでいます。

ここでは、ヤンマーの事例と共にフードテックに関する企業の取り組みをご紹介します。

フードテックの企業事例|①食品廃棄物を有効活用する「バイオコンポスター」

YC100

世界では食料不足が問題になる一方で、たくさんの食べ物が捨てられています。

まだ食べられるのに廃棄されてしまう食べ物のことを「食品ロス」、食品加工の際に生じるものや飲食店などで発生する調理くずや食べ残しのことを「食品残さ」と言い、その数は日本だけでも年間523万トン※に上ります。

食品廃棄物には、たくさんの水分が含まれており、焼却時には多くのCO2を排出します。

こうした課題を受けてヤンマーでは、年々増え続ける食品廃棄物を独自の技術で効率よく分解するバイオコンポスター「YC100」を開発しました。

「YC100」は、ごみの減量化はもちろん、処理後に残った堆肥を作物の栽培に再利用し、「資源循環の仕組み」を構築します。

※参考:食品ロスについて知る・学ぶ – 消費者庁より

未来へつながる資源循環モデル例

今後は、次のような流れを作り出し、資源循環サイクルの実現を目指します。

資源循環サイクルの実現フロー

YC100出展

食品廃棄物を減量・減容し、地球環境に優しい資源循環サイクルを実現する「YC100」は、2022年3月に開催された「第1回フードテックジャパン大阪」に出展されました。

Y mediaでは、展示会の様子やお客様の声をご紹介。食品廃棄物を有効活用して持続可能な未来をつくるヤンマーの取り組みをぜひご覧ください。

 

フードテックの企業事例|②生産者の負担を減らした新しい農業のカタチ「スマートグリーンハウス」

日本の農業は、例年の異常気象によって農作物がうまく育たず、収益の見通しがつきにくい状況です。

また、先ほどもお伝えしたように、農作物の栽培は熟練者の感覚に頼る面が多く、新規就農者の参入が難しい現実もあります。

こうした課題に対し、ヤンマーでは農作物の栽培を効率化・最適化する「スマートグリーンハウス」の開発プロジェクトがスタートしました。

Iot Smart

「スマートグリーンハウス」では、ハウス内での温度・湿度・水やりの量などの環境条件を、作物や品種ごとに定義された”栽培のレシピ”の中からユーザが遠隔で選択することで、自動制御が可能に。

また、ベテランの農業熟練者の暗黙知をデータ化し蓄積することで、新規就農者でも見通しのつく農業経営を実現します。

⚫︎この取り組みをもっと詳しく見てみよう!

「スマートグリーンハウス」の詳細はこちら

フードテックの力で「A SUSTAINABLE FUTURE」を実現する|まとめ

A SUSTAINABLE FUTURE」を実現する

人口増加による食料不足をはじめ、多様化する食のニーズや人手不足への対応、食品ロスの削減など、さまざまな観点から注目を集めるフードテック。

ここまで読んでいただいた方は既にお気付きかもしれませんが、フードテックの活用は、実はSDGsの達成にも深く関連しています。

たとえば、培養肉や代替肉など新しい食品の登場は、SDGsの目標2「飢餓をゼロに」に繋がっています。また、生産の過程で環境負荷が少ないことから目標13「気候変動に具体的な対策を」にも関連していることがわかります。

ヤンマーの事例で紹介したバイオコンポスターも、深刻化する食品ロス問題や気候変動の課題解決に直結しています。

目標12「つくる責任 つかう責任」や目標13「気候変動に具体的な対策を」の達成に大きく貢献することでしょう。また、「スマートグリーンハウス」をはじめとしたスマート農業は、目標13「気候変動に具体的な対策を」、目標15「陸の豊かさも守ろう」などに関連しています。

テクノロジーを活用すれば、水や化学肥料を使いすぎることなく、持続可能な農業経営が実現できるはずです。

「A SUSTAINABLE FUTURE」をブランドステートメントに掲げるヤンマーでは、

人が、いつまでも豊かに暮らせること。
自然が、いつまでも豊かであり続けること。

この2つが両立した持続可能な社会のために、これからもテクノロジーで“新しい豊かさ”を切り拓き続けます。