2016.05.18

100年続くヤンマーエンジン 「燃料報国」を目指し続ける

ヤンマーが考える”A SUSTAINABLE FUTURE”実現のために、私たちがどのような取り組みを行なっているかをご紹介する連載「TALK ABOUT “A SUSTAINABLE FUTURE”」。第二回はエンジン事業本部事業本部長・吉川滋さんが登場します。

取材場所となった滋賀県長浜市にあるヤンマーびわ工場は、ヤンマーの創業者・山岡孫吉の生まれ故郷にして、ヤンマーのDNAともいえる小型エンジンの製造拠点。本連載では今後ヤンマーの主要事業を中心に、キーパーソンのインタビューをお届けしていきます。編集部では、初回の山岡社長と佐藤可士和さんの対談に続く事業部第一弾として、この地にてエンジン事業のテーマからはじめたいという思いがありました。

ヤンマーのエンジン事業は大きく2つの事業に分かれています。自社の農機や建機をはじめ、さまざまな作業機に用いられる「小型エンジン」(産業用エンジン)。大型船を中心とした船舶で活躍する「船舶用エンジン」。いずれも創業当時からの主力事業であり、ヤンマーのテクノロジーの礎であり続けています。

吉川さんには二つの事業を代表し、ヤンマーのエンジン事業がA SUSTAINABLE FUTUREの実現に向けてどのように取り組んでいくのかをうかがいました。聞き手はヤンマーホールディングス ブランドコミュニケーション部ゼネラルマネジャーの窪田弘美さん。対談形式のインタビューをご覧ください。

※取材者の所属会社・部門・肩書等は取材当時のものです。

今こそ「燃料報国」へ
100年受け継がれるヤンマーエンジンの技術と理念

“A SUSTAINABLE FUTURE”は、2012年に創業100年を迎えたヤンマーが今、次の100年を見据えて掲げたブランドステートメント。ヤンマーのエンジン事業がこの100年歩んできた道のりは、取り巻く社会、環境に合わせて技術革新を繰り返してきた、まさに持続可能な社会を目指す道のりでした。

窪田弘美(以下、窪田) “A SUSTAINABLE FUTURE”実現の基盤となる「最大の豊かさを、最小の資源で実現する。」というコンセプトは、創業者・山岡孫吉の「燃料報国」、一滴の燃料も無駄にしないという思いからつながっていると思います。創業100年を数える今、ヤンマーの原点であるエンジン事業の責任者として、吉川本部長は今回のブランドステートメントをどのように受け止められましたか?

吉川滋(以下、吉川) 初代社長が提唱した「燃料報国」というのは、100年経った今なお生き続けている言葉です。100年前に“A SUSTAINABLE FUTURE”という言葉はありませんでしたが、「燃料報国」がそれを表していたのではと思います。

一方で時代に合わせて変化している部分もあります。ことエンジンに関しては、初代社長が開発した横水エンジン。これには出力の大きさが求められていた中、爆音と黒煙が「出力が出ていること」の代名詞だったんですね。しかし環境負荷が大きな課題である今、音が出る、煙を吐くというフレーズのエンジンではなかなか世に受け入れられません。今回の「最大の豊かさを、最小の資源で実現する。」という言葉には、こういった時代背景への対応も込められているのではないでしょうか。

世界初の小形横形水冷ディーゼルエンジンHB形

窪田 1933年に世界ではじめてディーゼルエンジンの小型実用化に成功したヤンマーですが(写真:世界初の小形横形水冷ディーゼルエンジンHB形)、エンジンの技術革新も時代とともに、環境に配慮しながら進化してきましたよね。

吉川 環境規制の中で、排ガス内の有害物質を減らすことが義務付けられました。NOx(窒素酸化物)やCO2が代表的ですが、特にNOxは燃費と相反する関係、トレードオフの関係というのがエンジン業界の常識です。NOxを下げようとすると燃費が悪くなる。そこで燃費をいかに悪化させないか、むしろ良くする方法まで考えてきたことが、ヤンマーのエンジン技術革新における、一つの大きなポイントです。

窪田 2000年以降、国際的な環境規制は厳しくなっていく一方です。2013年に制定されたEPA(Environmental Protection Agency:米国連邦政府環境保護庁)が適用している第4次排出ガス規制、いわゆるTier4は特に厳しい規制でしたが、ヤンマーは業界に先駆けて世界で初めてTier4規制クリアの認証を取得しています。

吉川 NOxやNMHC(非メタン炭化水素)の削減も厳しいものでしたが、黒煙物質、PM(排気微粒子)を第3次排ガス規制と比較して10分の1に下げることが技術面に突きつけられた非常に厳しい課題でした。Tier4規制適合エンジンではディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)という、エンジンから出てくる微粒子をフィルターに捉え、排ガス自体がクリーンになる仕組みを使用しています。ここがもうひとつ、ヤンマーの技術革新のポイントといえます。

DPFは使い続ければ当然、微粒子が溜まっていきますので、定期的に綺麗にしなければなりません。DPFに詰まったPMは高温状態で燃えるため、高負荷で稼働中は自然に除去できるのですが、エンジンの負荷が低い低温時にはなかなか除去できず、溜まる一方に。そこで一旦作業を中断し、PMを燃やすために燃料を投入してエンジンを高温状態にする作業が必要になります。それが一般的なDPF付きのエンジンでしたが、ヤンマーは低温時でもDPFの中に溜まったPMを燃やす技術を作りました。これによりお客様が作業の手を止めずに、追加の燃料も使わずに作業が進められる。環境面でも、省力面にも役立つ、当社の優れた技術だと思います。

Tie4規制適合エンジンについて詳しくはこちら

大型エンジン分野での持続可能な社会に欠かせない
製品にとどまらない総合力

ヤンマーのエンジン事業では、お客様の「Life Cycle Value(生涯価値評価) の向上」も大きなテーマに掲げています。それが端的に現れているのが船舶などで使用される大型エンジンです。燃費や環境への配慮はもちろん、何十年もご使用いただくことが前提ですので、単なる製品・サービスの提供にとどまらない、お客様が長期間にわたり安心してお使いいただけるような深い関係性を築いてきました。

窪田 ヤンマーのエンジンは小型の産業用エンジンだけではなく、船舶などで利用される大型エンジンでも同様に技術革新を促進してきたと思います。世界でもトップクラスのシェアを誇る船舶エンジン部門では、営業・開発・生産・サービスが一体となり、「Life Cycle Valueの向上」に取り組んでいます。

吉川 かつて船舶エンジンでのヤンマーといえば、営業部隊、それからサービス品質保証部隊がエンジンにトラブルがあった際にも、即応体制で現場に駆けつけることがいちばんの売りでした。今でもその精神は受け継いでいますが、10年ほど前に「故障が少なく耐久性の高い、より生涯価値向上を実感していただける商品を作ろう」と開発したのが最新鋭のエンジン、EY18です。

大量の燃料を使用する大型船舶では、価格面からも、量が多く確保できる面でも、C重油といわれる低質燃料が選ばれます。C重油は常温時、ドロドロしたコールタールのような性状をしており、エンジンに溜まりやすい性質を持っています。そのため利用する中で、エンジン内の排気弁などの摺動部品を磨耗させたり、最悪の場合は過給機を壊すことも。EY18ではこのC重油を使っても、燃料室の中に残渣物や悪いものが溜まらないようにしました。結果、耐久性が大幅に向上し、部品寿命が倍近くになりました。従来のサービス面に加え、品質へも信頼いただくことでエンジンの販売台数も大きく伸びました。

窪田 ひとたび航海に出ると、何ヶ月も寄港しないケースも多いと聞きます。エンジンの耐久性を高めることはとても重要ですし、メンテナンスインターバルの長期化も欠かせませんね。

吉川 はい。ヤンマーでは実機による実習を含めディーゼルエンジンの理論から実践まで幅広い研修プログラムを提供する自社独自の、「TTスクール」を運営しています。国内では我々の生産工場がある兵庫県の尼崎と塚口の二箇所、海外では中国の大連とフィリピンのクラーク、インドのムンバイにも展開中です。ブラジルとミャンマーでも現地の方と共同運営していますので、トータルで7箇所になりますね。

加工・組み立てから市場に出て行くところまで、一連の作業を熟知したベテランが講師を務めます。内容はエンジンの分解・組み立て、それから診断装置を使った故障予知など。ヤンマーエンジンの製品、サービスを一連の流れで深く理解していただくことにより、あらためてファンになっていただく方も多いですね。国内外の海運会社や官庁、船級協会など、若い頃にトレーニングを受けられて、後々管理する側になってもヤンマー製品をご愛用いただくケースもあります。

お客様にとっては簡単なトラブルであればご自身ですぐに対処できるようになり、船を止めなくてすみます。我々にとっては、TTスクールで学ばれたお客様にファンになっていただくというのが一番ですよね。

TTスクールについて詳しくはこちら

社員が100年先をしっかり意識して
社会と関わりながらエンジン業界をリードする

社会のすみずみで活躍する作業機ひとつひとつを動かすところから、産業全体の、文字通りエンジンとなるために。エンジン事業が社会に与える影響は少なくありません。対談の最後に、ブランドステートメントを実践していくうえでの心構えが語られました。

窪田 エンジンはものづくりの中でも、物を動かす力、パワーソースの中心です。技術によりエンジンの効率を上げ、環境面での改善をしていくことは、産業界や社会全体に大きく貢献していくことなのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

吉川 当社のディーゼルエンジンは、農業機械、建設機械、発電機、ガスヒートポンプ、コージェネレーションシステム、船舶では船の動力源あるいは船内電源用の発電機などと、用途が非常に多岐に渡ります。大地・海・都市、それも農業や漁業といった命の根幹に関わるところで使われる製品に利用されており、重要な役割を果たしていると思います。

窪田 事業そのものが“A SUSTAINABLE FUTURE”の実現にコミットしていくことともいえますよね。その中で、社内での啓蒙はどのように行われているのでしょうか?

吉川 ブランドステートメントにあるように次の100年と考えると、まだかなり先の話だと考えられがちです。しかし今の新入社員が定年退職し、それからまだ老後の生活を送る、これが大体85歳だとすると、新入社員からすればもう60何年後という話なのです。そう考えると100年先の社会というのは、若い人から見たら、自分たちの将来を支える100年だと感じられると思うのです。日々の業務がおのずと100年後の持続可能な社会へとつながっている。日ごろからそのように意識してくれると、自然とつながるのではないかと。

窪田 山岡社長と佐藤可士和さんの対談でもありましたが、理想の社会の実現に向けては事業部だけではなく、社内外でネットワークを持つことによってより大きく発展していくものでもあります。

吉川 たとえばTier4規制対応エンジンの開発では、さまざまな事情から開発開始が他社より大きく遅れてのスタートとなりました。この遅れを取り戻すため、現社長をはじめ会社全体で一丸となって動き、まったく新しい技術に取り組みながら挽回することができました。社外でも、開発段階でドイツのコンサルティングメーカーから技術取得の面で協力いただきましたし、お客様である完成品メーカー様からも、実際に完成した我々のエンジンを搭載してから、結果として改善につながる評価をいただきました。一流の企業様から厳しいながらも期待に満ちた指摘や評価をいただくことが、エンジンの完成度を高めるうえでなくてはならないものだったと思います。

窪田 お客様との関係性の中でも技術革新が生まれているんですね。新しい技術が市場を刺激すれば、ヤンマーの技術で業界全体をリードすることにつながります。

吉川 そうですね。お取引先は本当に多岐にわたりますので、周辺の企業様にも御紹介いただける機会があります。低燃費で自然にも負荷をかけない。作業効率が上がることでより早く、少ない負荷と時間で同じ結果が出せるようになれば、その時間をまた自分の生活を豊かにすることに使えますよね。技術革新が目指すところ自体が“A SUSTAINABLE FUTURE”そのものなので、当社の技術がそれをリードすることになればいいなと考えています。

 


 

創業から104年。次なる100年に向けて掲げたブランドステートメントを創業者の掲げた「燃料報国」になぞらえてお話いただいた吉川さんの言葉からは、エンジン事業がヤンマーの原点であることをあらためて物語っていたように思います。

ヤンマーのエンジンは時代の要請に応えながら、さらなる未来の技術革新のため、日夜研究を続けています。”A SUSTAINABLE FUTURE”の実現に向けたその歩みを、Y MEDIAでも引き続き、追っていきます。