2024.04.19

地域と共生しながら、子どもたちへの学びと障がいのある人が活躍できる場を創出。「SYMBIOSIS FARM by YANMAR」に込められた想い

2024年1月、地域資源を活用して子どもたちに「ワクワクする体験と学び」を提供する新しいスタイルの観光農園「SYMBIOSIS FARM by YANMAR(シンビオシスファーム バイ ヤンマー)」が滋賀県栗東市にオープンしました。
当施設は、ヤンマーホールディングスのグループ会社であるヤンマーシンビオシス株式会社が運営していた自社農場を、「美味しく遊ぶ!」をコンセプトにリニューアル。今回のY mediaでは、本プロジェクトメンバーであるヤンマーシンビオシスの社員に施設のこだわりやオープンまでの道のりについて話を聞きました。

ヤンマーシンビオシス株式会社
2014年、ヤンマーグループで障がいのある社員が活躍する職場を“より積極的に”創るために設立された特例子会社。シンビオシスという社名は『共生』を意味し、「自然、社会、地域、そして、多様な人々との共生を実現する」という思いが込められています。ヤンマーシンビオシスでは、「農業ソリューション事業」「製造サポート事業」「オフィスサポート事業」の3つの事業を展開しています。

<取材者プロフィール>

白藤 万理子(シラフジ マリコ)写真
ヤンマーシンビオシス株式会社 代表取締役社長。
新規事業へのチャレンジを強く後押し!「共生」への熱い想いを持ちながら、きめ細やかな仕掛けを展開する。

太田 光典(オオタ アキノリ)写真左
ヤンマーシンビオシス株式会社 滋賀事業部長。
他県からの移住をきっかけに、滋賀大好き人間に!シンビオシスファームの開園に向けて、地域の協力を得て奔走する。

※取材者の所属会社・部門・肩書等は取材当時のものです。

目指したのは「共生」の活動拠点となる、新しいスタイルの観光農園

【問】シンビオシスファームを開設した背景を教えてください。

白藤ヤンマーシンビオシスは、もともと自社農場で野菜などを栽培し、ヤンマーが目指す「A SUSTAINABLE FUTURE」のVISION3「食の恵みを安心して享受できる社会」の実現へ向けて取り組んできました。今回、自社農場を観光農園にリニューアルすることで、これまでの目標にプラスして、VISION4「ワクワクできる心豊かな体験に満ちた社会」と、地域課題の解決にも取り組むことを目指しています。

太田:この地で暮らしていると、いろいろな地域の課題が見えてくるんですよ。例えば、就農者の高齢化や減少であったり、地域の活性化や資源の活用方法であったり、加えて、琵琶湖をはじめとする自然環境の保全など、これらは滋賀県だけでなく、未来に向けて日本が抱える課題と感じています。

白藤私たちは「共生(シンビオシス)」という理念のもとに、「これらの課題解決に取り組み、地域の活性化に貢献したい」という想いから、シンビオシスファームの開園を決意しました。この農園を「滋賀の農業や観光、自然の新しい魅力を発信する活動拠点にしよう!」と思ったわけです。

【問】シンビオシスファームは、どんな施設でしょうか?

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<SYMBIOSIS FARM by YANMAR(シンビオシスファーム バイ ヤンマー)>

太田:「美味しく遊ぶ!」をコンセプトに、農作物ができる仕組みを知ったり、収穫を体験したり、スイーツ作りを通して食への関心を深めたり、子どもはもちろん、大人も楽しく遊び、ワクワクする体験が学びにつながる観光農園を目指しました。

白藤シンビオシスファームでは、障がいのある社員がスタッフの一員として働いています。やりがいをもって活躍する機会の創出も、施設の特徴の一つですね。

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<白藤 万理子さん>

滋賀で育まれた資源をふんだんに活用。地域に溶け込んだ施設に

【問】地域資源の活用が積極的になされているそうですが、こだわりのポイントを教えてください。

白藤施設のコンセプトは「美味しく遊ぶ!」なのですが、私たちの事業は「共生」を使命にしています。地域の資源や自然、人とのつながりを感じさせる「地域に溶け込んだ施設にしたい」という思いがありました。そのために「地域の魅力」について、プロジェクトスタッフとともに何度もディスカッションを行いました。
当施設は「いちごエリア」「カフェエリア」「エディブルガーデン」「キッズエリア」で構成されていますが、地元の方々の協力を得て、それぞれに地域の素材や産品を採用しています。その結果、どのエリアでも滋賀の魅力を十分に感じていただける施設になったと思います。

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<いちごエリア>

太田:「いちごエリア」では、「あきひめ」と「みおしずく」を栽培していて、滋賀県初のオリジナルブランド「みおしずく」はとても貴重な品種です。初めてのいちご栽培は苦労の連続で、生産担当の社員たちは試行錯誤を重ね、「自信を持ってお客様に提供できる」という品質に仕上げるのに2年を要しました。また、2023年度に本格生産がはじまったばかりの「みおしずく」は、生産ノウハウも発展途上のさなか、一つひとつ手探りで知見を深めている状態です。
ワクワクする体験と学びを提供するために、さまざまな工夫を行っており、1棟貸切りハウス内にあるミツバチの巣箱がそのひとつです。目の前でミツバチの様子を観察することで、子どもたちが「こうやっていちごが実るんだね」と、受粉を担うミツバチの役割や結実の仕組みを知ることができます。

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<エディブルガーデン>

白藤「食の多様性への気づきになって欲しい」という思いをカタチにしたのが「エディブルガーデン」です。「エディブルガーデン」の「エディブル」とは、英語の「食べられる」という意味で、植物のなかには、葉や実だけでなく、花も食べられるものがあります。
このエリアでは、ハーブや果物、エディブルフラワーが栽培されていて、ハーブは食べる分だけ収穫することができます。ハーブは、地元の井入農園さんに協力いただき、珍しい南国のフルーツや植物は、兵庫県立淡路夢舞台公苑温室さんに監修いただきました。多種多様な植物の維持管理はとても大変なのですが、色とりどりに咲く花や実は、当施設の大きな魅力につながっています。

太田:もちろん、食べておいしいのも魅力ですよ。僕のおすすめは、月桃というハーブを収穫して、ハーブティーに追加する「追いハーブ」です。それはもうおいしくて、ぜひ試してみてほしいです。

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<カフェエリア>

白藤収穫したいちごやハーブは「カフェエリア」で、スイーツを作ったり、ドリンクに入れてみたり、自由に楽しむことができます。「カフェエリア」は、サステナブルな建築を数多く手がける芦澤竜一さんに監修いただきました。
特にこだわったのはカフェの建材や工法。琵琶湖のヨシや木材、竹、土など、地元の自然素材を使用しています。カフェ内は、琵琶湖をモチーフにした木のテーブルや、土を使った「版築」と呼ばれる伝統的工法で作られたカウンターなど、地域の資源を使い、自然素材ならではの質感にもこだわっています。カフェの空間に居るだけで「自然のなかで、ゆったりと過ごしている」と感じてもらえたらうれしいですね。

<琵琶湖をモチーフにした木のテーブル>

太田:生産者や伝統工法を行っている工房の方など、多くの方々に私たちの想いを伝え、ひとつひとつカタチにしていきました。地道な作業でしたが、とても楽しかったです。「まだまだこんなにも滋賀の魅力があるんだ」と気づかされました。

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<左上・右上:スイーツ作りの様子、左下:シンビオシスブレンド、右下:いちごタルト>

白藤「カフェエリア」で体験できるスイーツ作りは、子どもたちの「食育」につながると考えています。人気のいちごタルト作りは、地元の洋菓子店palette(パレット)さんより、タルト生地を提供いただきました。ほかにも、米安珈琲焙煎所さんの「シンビオシスブレンド」をはじめ、かたぎ古香園さんの朝宮茶、井入農園さんのハーブティーなど、地元の企業や生産者に協力いただきました。
今回のプロジェクトを通して、地元の方の「滋賀への想い」「安心・安全な、食のこだわり」に触れ、とても勇気づけられました。

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<HANASAKAルーム>

太田:最後の「キッズエリア」は、「HANASAKAルーム」と呼んでいます。このエリアは、子どもたちに、遊びながら環境について学んでもらうエリアです。中央にある木製の棚は、杭や金属を使わない三方格子(みかたこうし)の構造で、自然への学びや五感を刺激してくれる絵本を収納しています。三方格子の組み立ては、環境を学んでいる滋賀県立大学の学生たちに協力いただきました。
木のおままごとセットは当施設オリジナルで、手ざわりや色味など、とことんこだわっています。木のぬくもりにあふれたお部屋に仕上がっているので、その魅力を肌で感じていただけたら嬉しいです。

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<アクアポニックス>

白藤中心にある水槽は、琵琶湖で生息しているビワマス・ホンモロコ・ニゴロブナが泳いでいて、魚と植物が共生できるアクアポニックスというシステムになっています。

太田:琵琶湖を有する、滋賀の自然を表現することを目指しました。アクアポニックスは、魚のフンをバクテリアが分解し、その分解物を栄養源にして植物が育ち、水をきれいにします。このシステムは、自然の循環システムを再現していて、新しい農業のカタチとして注目されています。実は、この水槽でもワサビを育てています。

【問】シンビオシスファームでは、ヤンマーシンビオシスの社員が活躍されているそうですね

太田:シンビオシスファームは、社員のチャレンジなくして実現できませんでした。いちご栽培ははじめてのことでしたし、「みおしずく」は生産ノウハウも手探りの状態。社員たちは、一つずつ課題をクリアして、現在は立派な生産者として活躍してくれています。

<シンビオシスファーム いちご生産担当者のコメント>

来園者に気持ちよく、おいしく、いちご狩りを楽しんでいただくためには、きめ細やかな作業が不可欠です。おいしいいちごを作るためには、ハウスの温度であったり、水の量であったり、さまざまな管理が必要です。同時に、いちごの生育状態も把握しなければなりません。それらを一つひとつ確認しながら、ランナー摘みやわき芽かきなど、その状態に応じた対処を全て手作業で行なっています。
生産量を増やすことはもちろん大切ですが、私たちの心にあるのは「おいしいと喜んでもらいたい」という想いです。また、観光農園ですので、お客様が収穫した後の枝を摘み取ってきれいにしたり、状態の悪いいちごを摘み取ったり、「気持ちよく、いちご狩りを楽しんでもらえる」ことにも注力しています。

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<ヤンマーシンビオシスの社員の皆さん>

観光・農業の活性化に貢献し、地域と共生できる施設として

【問】今後の展望について教えてくだい

太田:「未来の就農者を増やしたい」という思いがあります。今回のプロジェクトは「農業の楽しさ、食の大切さ」を伝える拠点づくりでもあるので、次は実際に農業を体験できるような事業にもチャレンジしたいです。観光農園で農業の楽しさを知り、実際に農業を体験する。そういった経験から就農者になるきっかけを作っていきたいと思っています。
また、地域資源との共生という意味で、「馬のまち・栗東」ならではの馬糞堆肥を生かした農作物の栽培などにもチャレンジしていきたいですね。

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<太田 光典さん>

白藤観光農園がゴールではなく、施設での「体験や学び」を通して、農業に触れていただきながら、農業に興味をもってもらいたいと思っています。
こういった当社の取り組みについて「障がい者雇用を行う特例子会社で、こんな事業をやっているところは見たことがない」とお話しをいただくことがあります。私自身は「ヤンマーグループとして、ヤンマーのビジョンに貢献できる会社でありたい」と思っていますし、社員と新しいことに挑戦したいと思っています。やりがいだったり、生きがいだったり、社員一人ひとりが成長を感じ、夢を持って活躍できる会社にしていくことが目標です。

<施設情報>

SYMBIOSIS FARM by YANMAR(シンビオシスファーム バイ ヤンマー)

住所:滋賀県栗東市上砥山218

営業日:3月〜5月:火曜日〜日曜日・祝日 ※月曜定休日

営業時間:9:00~17:00

土、日曜・祝日:3部制(9:00/12:30/15:00)

平日:2部制(9:30/13:00)

料金:1組5名様までは22,000円(税込)

追加の場合は、1名につき+3,300円(税込)最大3名様まで。

※ 3歳未満のお子様はご利用人数には含まれません。

※当施設は完全予約制です。事前にご予約のうえご来園ください。

https://www.yanmar.com/jp/symbiosisfarm/