2009年度のCSR・環境活動ハイライト

ハイライト1 生産価値評価を高める事業モデル
「お客様にとっての製品価値を共に追求し、信頼性を向上するビジネスモデル」

ヤンマー特機エンジン事業本部では、大型船舶の推進用エンジン、発電用エンジンを生産しているが、製品寿命は長く、通常20~25年間使われる。その間、製品の安全性や経済性、環境配慮といった性能を維持し、お客様の信頼を得つづけることが重要である。

そこで、2005年に特機エンジン事業本部が打ち出したのが、「Life Cycle Value(生涯価値評価)」を高める新たなビジネスモデルだ。お客様の協力を得て製品を開発し、製品納入後の長い期間、顧客の価値を共に追求するべく、課題解決や教育などのサービスを行う。まさに「お客様起点の製品・サービスの提供」をめざす取り組みを追った。

世界の海運ビジネスを支える特機エンジン事業本部

ヤンマーの多様な事業の中でも長い歴史を持つ特機エンジン事業本部は、世界の海運ビジネスの成長を背景として業績を大きく伸ばしてきた。 その拠点は尼崎工場。大形ディーゼルエンジンの生産工場として、船舶推進用エンジン(舶用主機)、発電用エンジン(舶用補機)のほか、陸用や一般動力用のディーゼルエンジン、ガスエンジンを量産している。

全体の93%が船舶用で、それも大型外航商船に搭載されるエンジンだ。大型外航商船とは、例えばオーストラリアから石炭を運ぶバルクキャリアー、中東から原油を運ぶタンカーであり、1隻あたり発電用エンジン(180~3,300kW)3~4台が搭載される。

尼崎工場は2009年5月現在、生産部門389人、開発およびスタッフ部門等を入れると800人近くが働く大型工場である。

尼崎工場の外観

尼崎工場

1936年、世界初の小形ディーゼルエンジン生産工場として誕生し、現在は大形ディーゼルエンジンの生産工場として活躍。

JR尼崎駅至近の街中にある都市型工場として、環境保全活動にも力を入れる。2008年度、客先立会いや工場見学、TT(Technical Training)スクール受講などで1,688人が訪れた"開かれた工場"。

お客様の価値を共に追求するLCV(生涯価値評価)

船舶発電用 大形ディーゼルエンジン6EY18形
船舶発電用大形ディーゼルエンジン6EY18形

特機エンジン事業本部が掲げるミッションは、「世界一の製品とサービスの提供」である。このミッションを追求するため、2005年、営業・開発・生産が一体となって構造改革に着手。「Life Cycle Value(生涯価値評価)の向上」をめざす新しいビジネスモデルを打ち出した。

世界の大海原を走り回る大型外航商船の寿命は20~25年。ライフサイクルが他の製品に比べて極めて長いことから考え出されたものだ。当時、営業本部長として改革を推進した現・特機エンジン事業本部長・常務執行役員の井原浩はLCVの定義についてこう語る。

「我々はエンジンを納入する3年前から営業を開始します。お客様の信頼を得てエンジンを納入し、船が竣工する。しかし、お客様である船主さんの目的はそれから20~25年の長期にわたり船を使って利潤を得ることであり、製品が納入されてからが本番です。そのお客様の価値を我々も一緒に追求しようというのが"LCV"の考え方。

25年の間に起きるいろいろな事象にどう付き合っていくかが大事なのです」。

25年もの間、お客様の信頼を得つづけることは容易ではない。信頼関係の維持には、人間関係や環境要因、迅速性、信頼性、情報、サービスなどさまざまなものが関係してくる。LCVの向上は、それらすべてに配慮を重ね、25年後に船が造り替えられる際、「やっぱりヤンマー」と指名してもらうことをめざすものだが、その道のりは長い。

ヤンマー株式会社常務執行役員・特機エンジン事業本部長 井原 浩(いはら ひろし)

ヤンマー株式会社常務執行役員・特機エンジン事業本部長
井原 浩(いはら ひろし)

1977年にヤンマーディーゼル株式会社(現ヤンマー株式会社)入社。
1985年から7年間のシンガポール駐在を経て、 2002年に執行役員エンジン本部特販営業部部長、2004年に執行役員特機エンジン事業本部特販営業部部長およびヤンマーエンジニアリング株式会社社長を兼任。
2008年ヤンマー株式会社執行役員特機エンジン事業本部長となり、 2009年3月から現職。

「品質の事前確立」を可能にした開発プロセスの改善

LCV向上のための開発プロセス
クリーンルーム内での組み立て工程
クリーンルーム内での組み立て工程

"LCV"を旗印に改革をスタートした2005年から2008年までの間に、特機エンジン事業本部の生産台数、経常利益は大きく飛躍した。 改革で何がどう変わったのだろうか。

ひとつは、開発プロセスの改善である。これまでは開発部門主体で製品をつくり、それを営業がお客様に提案。お客様との接点は営業、アフターサービス部門が中心で、開発担当者が直接お客様に会うことはなかった。
お客様のニーズを正しくつかめない状態での開発は、試験をする中で行き詰まったり、出荷後に製品の不具合が生じたりするため、手戻りとしての変更が多くなり、結果としてお客様の信用を失っていくことになる。

「LCV向上のため、開発プロセスを改善しました。企画構想の段階からお客様に参画していただき、さまざまな要望の聞き取りを行ったうえで製品の設計に反映。また、試作機をつくる前に、お客様にお願いして実船上で実際の使われ方(例えば低質重油運転など)における先行試験、確認試験を実施しました。

これによって"開発初期での品質の確立"が可能になり、出荷後の変更が低減しました」と話すのは、第一開発部設計第一グループリーダーの泉克典である。

寿命が長い製品の信頼性は工場での陸上試験だけではなかなかわからない。そこで製品開発の早い段階で、お客様の船で試験をさせてもらう。

お客様が快く協力してくださるものかとの疑問もわくが、井原はこう答える。

「船主さんも、その会社の技術者も協力的です。何隻も所有する会社では、他社のエンジンを搭載している場合もありますが、傷む個所は大体同じ。

『じゃあ、一度うちの船にヤンマーのエンジンを積んでみてくれ』ということがよくあります。同じ悩みを抱えているわけで、共に創り上げようと動いてくれますね。お客様との間に共存共栄の関係を構築することも、LCVの向上には欠かせないと考えています」。

この共同作業がお客様と相互関係を築く契機となり、お客様に納得いただける製品づくり、お客様に愛される製品づくりにもつながっている。

お客様を支え、人的交流を広げる「TQP分科会活動」と「TTスクール」

社内向けトレーニング
社内向けトレーニング

LCV向上のもうひとつの方策として、「TQP分科会活動」がある。

お客様の信頼を勝ち取るにはサービスでお客様のLCVを高めることが必要という考えに基づくもので、製品納入後のお客様サービスを徹底する活動である。

「発生する課題を部門横断的に把握し、解決する分科会を設置しました。

分科会内および分科会間で課題解決のための連携を強化することにより、TQP(Tokki Quality Plan:Tokki = 特機)実現のスピードを向上させるものです。これによってクレームが減少し、利益率の向上に寄与しています」と井原は説明する。

また、「船主さんにヤンマーを指定していただくには、技術者の教育も大事」と井原。

尼崎工場では、社員だけでなくお客様である船のオーナーや造船所の国内外の技術者を対象にエンジンのテクノロジーやメンテナンスなどについて研修を行うTT(Technical Training)スクールを併設し、宿泊用ゲストハウスも備えている。

一方、社内的には、今後多くの熟練技術者が定年を迎えるため「技術伝承」も緊急課題のひとつとなっている。TTスクールでは2008年から、OBや中堅技術者による技能伝承委員会を設立して、技能伝承の仕組みを再構築するとともに、階層別フォロー研修を行っている。

お客様と共に創り上げる開発プロセスへの転換、社内のTQP分科会活動、TTスクールの活用といった取り組みによって、当初は想定していなかった効果も表れている。

社内外で人的交流の輪が広がっているのだ。同じ尼崎工場内で働いていても話すことがなかった人たちや、社内外の開発者同士、サービスマン同士の間で、今までにない活発なコミュニケーションが行われている。

質の高いサービスエンジニアリングとネットワークの拡充を

漁船「第八勝栄丸」
漁船「第八勝栄丸」
電気推進システムを搭載した遠洋まぐろ延縄漁船「第八勝栄丸」

特機エンジン事業本部では、海運が抱える課題に環境技術とエンジニアリング力で挑むことも方針のひとつであり、「環境対応」「省人化」「安全対応」をキーワードに、IMO(国際海事機関)のNOx(窒素酸化物)規制に対応する技術、電気推進船の開発などにも取り組んでいる。

井原は特機エンジン事業本部の今後について次のように想いを語る。
「お客様を観客とした舞台劇に例えるならば、我々の"出し物"はエンジンだけではなく、サービス全体であり、LCVを確立することです。寿命が長い製品は巡り巡って動きます。中古船が世界各地に流れて使われることもあり、世界のどこでサービスを求められるかわかりません。自動車のように簡単にエンジンの入れ替えができないため、航海中の船に乗り込んで修理をすることもあります。
世界中のサービス拠点の維持は大変ですが、それだけビジネスチャンスがあるわけで、質の高いサービスエンジニアリングとグローバルネットワークの拡充にも力を入れていきます」。

井原の夢は、ヤンマーのエンジンを積んだ船が今どこを動いているか、世界地図上でリアルタイムに把握できる管制センターをつくり、問題が起きればすぐに駆けつけられる体制を作ること。世界の海原を駆け、世界の都市を結ぶヤンマーエンジン。お客様と共に創り上げる開発、お客様の価値を追求するサービスによって、その信頼性はますます高まることが期待される。

  • 発電機関による電力でモータを回転させプロペラを駆動するシステムを採用。航行推進から船内設備への電力供給まで、船舶に必要なすべての電気エネルギーをまかない、ライフサイクルコスト低減や船内レイアウトの自由度アップ、システムの二重化による安全性の向上などを同時に実現する。さらに、低振動・低騒音なうえにCO2やNOx、SOxの排出量を削減し、人と地球環境にやさしい航行が可能。近年では、各種商船から調査船、漁船にまで用途の広がりを見せている。

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