2010年度のCSR・環境活動特集

特集3 海洋での挑戦
「海洋資源を守るため「獲る」から「つくり、育てる」漁業へ」

四方を海に囲まれたわが国にとって、海は食用魚介類の重要な供給源です。近年は「食」の安全性に対する意識が高まり、また水産資源の自給率向上が叫ばれるようになって、国内沿岸域における漁業や養殖事業が注目を集めるようになりました。

それは従来の「獲る」を基本とした漁業から、人の手で「つくり、育てる」漁業への移行という時代の変化を反映しています。

ヤンマーが「つくり、育てる」漁業のあり方を考え、専門研究施設であるヤンマーマリンファームを設立したのは1988年。それ以来蓄積した豊富なノウハウを生かし、いま"Solutioneering"の視点から海洋資源の安定確保と新しいビジネスモデルの創出へ向けた取り組みを展開しています。

これからの水産業のニーズを受け止め新しい養殖事業を展開

ヤンマーは省エネ・高出力の船舶用エンジンや漁労機器資材などを通じて、漁業の近代化に取り組んできました。しかしながら、天然資源の枯渇問題や世界的な水産物需要の増加という現実は、これまでの「獲る」ことを中心とした漁業を大きく変えるものとなっています。

こうした動きを早くから受け止め、これからの日本の漁業のあり方も含めた水産業のニーズに対応するため、ヤンマーは、1988年に民間企業としては異例ともいえる飼育研究施設ヤンマーマリンファーム(大分県東国東郡武蔵町)を設立し、ここを拠点に「つくり、育てる」漁業の可能性を探る本格的な活動を開始しました。

ヤンマーマリンファームでは有用な水産生物の養殖システムの開発、種苗(栽培漁業で稚魚・稚貝のこと)生産、種苗に不可欠な藻類の培養を一体として取り組むことで、養殖事業の拡大をめざしています。また、藻類を活用してCO2を削減する環境保全技術についても研究を進めており、食糧と環境をキーワードとした研究と開発を推進しています。これまでの事業活動の蓄積を生かし、2003年には国内最大級の餌料工場を開設し、水産業の発展に貢献できる体制を整えました。

たとえば、アワビの種苗生産に欠かせない付着珪藻(プランクトン)を効率的に培養するシステムは、養殖現場の省力化と生産性の向上を実現しています。また、アカウニやアカガイなどが必要とする浮遊藻類を生産する高密度培養システムを商品化することで、餌料の増産に寄与しました。

こうしたヤンマーマリンファームの保有技術を全面展開した"Solutioneering"が、国内産二枚貝復活へ向けた養殖プロジェクトです。

ヤンマーマリンファームの沿革

1988年 ヤンマーマリンファーム設立
1989年 活魚流通用コンテナ開発に着手
1994年 二枚貝餌料培養システム開発に着手
1996年 栽培漁業センター施設設計・施工事業開始
2002年 藻類光環境制御技術の研究開発に着手
2003年 餌料工場建設、餌料販売事業開始
2006年 循環式陸上養殖システムの研究開発に着手
マリンファーム施設概要

担当者の声
陸上養殖は環境に優しい技術。
ここには次代の水産業の新しいヒントがあります。

ヤンマーマリンファーム 松本 拓郎

ヤンマーマリンファーム
松本 拓郎

私が取り組んでいるのは海洋ではなく陸上養殖プラントの開発です。魚や餌から出る排泄物を適切に管理することで海洋汚染の防止、消費地に近い場所で環境に配慮した魚介類の生産方法を確立することがテーマです。

いまは小規模な試験装置で魚の飼育を行い、浄化システムや多様な魚種に適応できる設計技術の確立をめざしていますが、お客様のフィールドで開発の成果を早く実証したい気持ちでいっぱいです。それが日本の漁業を応援することにつながると考えています。

高付加価値を生み出す二枚貝モデル事業によって海域に対応した種苗生産の可能性に挑む

プロジェクトの舞台となったのは愛媛県宇和島。この地は真珠(アコヤガイ)養殖に100年以上の歴史がありますが、景気の悪化で真珠の需要が激減したために漁協では生産者の廃業が相次ぎ、地域経済に深刻な影響を及ぼしています。

一方、重要な水産資源である二枚貝の中でもとくに需要が多いアサリは、外国産の輸入や巻貝による捕食被害などで国内産が減少傾向にあり、安心・安全で品質の良いアサリ生産を確保することが急務となっていました。

これらの問題解決の道筋を探る過程で、ヤンマーはアコヤガイとアサリは同じ二枚貝で栽培品種として転換が容易なこと、生産者は海面養殖技術の経験があり、養殖器材もほとんど活用できることに着目。二枚貝の種苗に欠かせない初期餌料である浮遊藻類(キートセロスグラシリス)を大量に、しかも安定的に供給できるヤンマーマリンファームの保有技術を漁協の経営資源に結びつけることで、海域やニーズに対応した種苗生産を可能にしました。

このプロジェクトの展開によって、生産者には持続可能な二枚貝養殖事業を、地元には新たな起業による地域経済の活性化という複合するニーズに応え、その実現へ確実な一歩をしるすことになり、これまでにない高付加価値を生み出す二枚貝養殖モデル事業への参入を果たすことになりました。

現在、宇和島ではアサリ約20万個が海面養殖されていますが、同じような二枚貝養殖のトライアル事業は、地元漁協の協力を得てその他地域でも実施しています。いずれも種苗の生育は順調で、2010年秋には出荷が可能となる大きさにまで成長する見込みです。

愛媛県宇和島
愛媛県宇和島
藻類培養
藻類培養
環境保全型複合エコ養殖構想イメージ図

ヤンマーと地元生産者とのコラボレーションで完全管理型養殖と新たなビジネスモデルの構築をめざす

プロジェクトがめざしているのは単に国内産二枚貝を復活させるだけではありません。完全管理型養殖事業による新しいビジネスモデルの構築も視野に入っています。

食に関わる生産と流通には、生産者や生産過程などに関する履歴を追跡できるトレーサビリティが重要となりますが、プロジェクトではお客様の海域に生息している国内産二枚貝の母貝から種苗の生産と出荷にいたるまで、その全情報が把握できる稚貝の提供を可能にしています。これにより産地偽装品や外国産との識別が可能となりました。

また、二枚貝のブランド化や販路マッチングを支援することで市場を確保し、事業の継続と安定化に取り組むこともプロジェクトの重要なテーマです。さらには太陽エネルギーと海面のプランクトンを活用した二枚貝養殖と、近隣の漁場養殖から排出されるCO2やN(窒素)、P(リン)などの有機物を生かして海藻を養殖し、アワビやナマコの生産へと連動させる環境保全型複合エコ養殖構想へとつながっていきます。

今後は生態系への負荷が少なく、持続可能な形で養殖された水産物であることを証明するASC(Aquaculture Stewardship Council水産養殖管理協議会)の認証取得を目指して、環境保全と水産資源の効率的管理を両立させた、まったく新しいビジネスモデルを提案し、これまでになかった産業分野への挑戦を具体化させていく予定です。

今回の国内産二枚貝復活プロジェクトは、ヤンマーと地域の漁協とのコラボレーションから生まれました。ヤンマーではこれからもさまざまな保有技術とノウハウ、研究開発体制を生かし、持続可能な海洋利用を見つめた"Solutioneering"事業に取り組んでいきます。

アサリ垂下養殖試験
アサリ垂下養殖試験
アサリ稚貝選別作業
アサリ稚貝選別作業

担当者の声
二枚貝の人工種苗生産技術を通じて日本の漁村にかつての活気を取り戻したい。

ヤンマーマリンファーム 寺井 しま

ヤンマーマリンファーム
寺井 しま

カキを対象として始まった、二枚貝種苗生産技術ですが、その対象はアサリ、ハマグリなどに広がりました。二枚貝種苗を大量生産する技術に一定の目途が立った現在、これからは人工種苗を用いた貝類養殖 という新しい段階へ進むことになると思います。

水揚げの減少、魚価の低迷など漁業をされている方には厳しい状況ですが、私たちが取り組んでいる二枚貝種苗の生産技術が多様な二枚貝養殖へ発展し、多くの漁村がかつてのような活気を取り戻すきっかけになれば嬉しいです。

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