CSR報告書2019は、例年通り、創業者である山岡孫吉の「開拓の精神」から始まります。「美しき社会は感謝の心から」と「燃料報国」という二つの言葉は、過去及び未来に通底する貴社のDNAとして、ミッション・ビジョンや行動指針といった現在の理念体系にしっかりと受け継がれているようです。創業の原点に裏打ちされた、特色ある企業理念・文化に繰り返し触れることで、報告書で示される貴社の持続可能な社会の実現に向けた様々な取り組みの意味が、より説得力を増して伝わってきました。
冒頭のトップメッセージでは、パリ協定やSDGsなど、現代のグローバルな社会課題に言及したうえで、貴社が目指す「A SUSTAINABLE FUTURE 」との接続を確認しています。そしてその目指すべき4つの社会を実現する鍵として、海外展開とダイバーシティ、顧客を「ワクワク」させるテクノロジーを特に挙げ、「新しい豊かさ」の実現に向けたメッセージを社長自ら明確に打ち出されている点が印象的です。
報告書の前半の核となる特集部分は、ブランドステートメント「A SUSTAINABLE FUTURE」が掲げる4つの未来像、①省エネルギー、②安心な仕事・生活、③食の安全、④心豊かな社会、ごとに事例が紹介されていますが、昨年度以上に貴社が目指す未来像とSDGsとの関連付けが強く意識されている様子が窺えます。
特に、②のトルコにおける建機のオンラインシェアリングプラットフォーム 事業については、トップメッセージにもある「海外市場での課題解決」の実践例であると共に、従来型の製造販売モデルから踏み出し、今後鍵となるデジタルデータにも着目した新たなビジネスモデルを開拓した点で非常に興味深い事例です。また、③の自動運転などのスマート農業技術と密苗技術の組み合わせは農業事業における弛まぬイノベーションの好事例として、 労働力不足などの社会課題解決に向けた期待感を高めてくれます。
後半のCSR活動報告においては、昨年策定された「環境ビジョン2030」がデザイン面も含めてより分かり易く伝えられているほか、ミッションやグローバル行動基準の浸透活動の継続、2019年1月に新設された働き方改革推進グループを中心とした生産性向上等の取り組みが印象的です。一方で、前半で示された4つの社会を実現する事業戦略との整合性を意識しながら、メリハリをつけてCSR活動を示すことで、貴社の強みや優位性を一層際立たせることができるのではないでしょうか。
今後ですが、4つの社会の実現に向けて、長期の時間軸で事業にインパクトをもたらすリスクと機会を認識し、重要課題に対する取り組みを通じて、貴社の事業が全体としてどのような経済価値・社会価値を生み出すのか、KPIや数値目標も活用しながら、独自の価値創造モデルを提示して頂くなど、報告内容の一段の深化を期待したいと思います。