ヤンマーテクニカルレビュー

未利用熱エネルギーからの発電技術
~スターリングエンジン~

Abstract

In order to enable the reduction of CO2 emission, Yanmar has been developing power generation systems that uses exhaust heat generated from various industries. Yanmar E-Stir Co., Ltd. focuses on technology of generating electricity from unused heat energy, developing Stirling engines that will contribute to the reduction of CO2 emissions. The potential of unused heat energy in Japan will be described, and waste heat power generation technologies of Yanmar E-Stir and future expectation will also be discussed.

1.はじめに

カーボンニュートラル実現に向けて、CO2排出量削減やこれに寄与する省エネルギー技術の早期社会実装が求められています。省エネルギー化の推進には未利用熱エネルギーの有効活用が必要です(1)
わが国では、一次エネルギーの約6割が有効利用されずに排熱(未利用熱)として排出されているのですが、こうした未利用熱エネルギーの多くは小規模で、かつ、分散しているため、その活用は困難です。
ヤンマーeスター株式会社は、この課題の解決技術の一つとして、未利用熱エネルギーを電力へ変換するスターリングエンジン発電設備の開発を進めています。このスターリングエンジン発電設備の導入を推進し、適用範囲を拡大するために、新たな高温熱源や、腐食性の高い過酷な環境への適用が課題です。本稿では、このスターリングエンジンの動作原理と理論を解説し、ヤンマーeスターが取組むスターリングエンジン発電設備と、その将来展望について述べます。

2.スターリングエンジン

2.1.スターリングエンジンの特長

スターリングエンジンは、外燃機関の一種であり、外から熱エネルギーを得ることで動作します。表1に示すように、一般のガソリンエンジンは、エンジン内部でガソリンを燃焼させ燃焼ガスの膨張によって動力を発生させます。スターリングエンジンは、ヒータ(熱交換器)を介して外部から熱エネルギーを取り込んで作動流体を膨張させます。スターリングエンジンは圧縮比を高くできないため、同じサイズのガソリンエンジンと比較すると出力は低くなりますが、外部の多種多様な熱源から動力を生み出せるという特長があります。そのため、スターリングエンジンと発電機を併用すれば、様々な未利用熱エネルギーを電力に変換できます。また、スターリングエンジンは蒸気を発生させる蒸発器やタービンが不要なため、比較的小形化しやすく、小規模の熱源にも適用できるという長所があります。これらのことから、私たちは、産業分野の小規模で分散する未利用熱エネルギーを活用する技術として、スターリングエンジンが有効であると考えています。

表1 ガソリンエンジンとスターリングエンジンの比較

ガソリンエンジン
(内燃機関)
スターリングエンジン
(外燃機関)
圧縮比 κ 高い 低い
出力
同一エンジンサイズ
大きい 小さい
熱源 ガソリンのみ 多様な熱源が可能

2.2.スターリングエンジンの構造

図1に、スターリングエンジンの構造を示します。スターリングエンジンのシリンダ内には、ディスプレーサピストンとパワーピストンが内蔵されています。これら2つのピストンは、90°の位相差をつけてクランク軸に連結されています。
また、シリンダ内には作動ガスが密閉されています。ディスプレーサピストンは、この作動ガスを高温の空間(高温室)と低温の空間(低温室)とに区分けしています。さらに、高温室と低温室はガス通路で連通されており、ガス通路を移動するガスはヒータ・再生器・クーラによって加熱/冷却されます。
ディスプレーサピストンが往復運動すると、高温室と低温室の容積割合が変化するため、作動ガスは、ガス通路を移動して、加熱/冷却されます。これにより、作動ガスは膨張/収縮します。
パワーピストンは、作動ガスから力を受けます。パワーピストンが力を受けて往復運動すると、クランク軸にトルクとして伝わり、エンジンの出力となります。

図1 スターリングエンジンの構造

2.3.スターリングエンジンの動作原理

図2に、スターリングエンジンの動作原理を示します。この図に示すように、スターリングエンジンは、『①加熱→②膨張→③冷却→④圧縮』の4行程を経て動作します。これにより、エンジン外部から取り込まれた熱がクランクの回転トルクに変換され、エンジンの出力として取り出せます。

図2 スターリングエンジンの動作原理

2.4.熱効率

スターリングエンジンの理想的なサイクルは、等温膨張、等容冷却、等温圧縮、等容加熱の4つの過程を含むサイクルです。このサイクルの理論熱効率は、サイクルの低温側温度と高温側温度の温度比によって表されるカルノー効率と等しくなります。カルノー効率とは、あらゆる熱機関の中で最も高い熱効率を持つカルノーサイクルの熱効率のことです。実際のスターリングエンジンの熱効率は、式(1)に示すように、カルノー効率係数をカルノー効率に掛けた形となります。このカルノー効率係数は実際のスターリングエンジンの熱効率とカルノー効率の比です。

式(1)に示されるように、低温側温度を高温側温度で除した温度比が小さいほど効率は高くなります。そのため、高い効率で熱から仕事を取出すには、スターリングエンジンに取り込む熱の温度はできるだけ高くする必要があります。ただし、温度は、ヒータなどの高温部に使用する材料の高温強度や高温腐食により制約を受けます。

3.スターリングエンジン発電設備

3.1.主要仕様

表2に開発したスターリングエンジン発電設備の主要仕様を示します。熱源温度範囲は500~800℃で、最大発電出力は9.9kWです。交流の3相200Vで系統連系します。熱源の状態を検出し、エンジンの起動・発電・停止及び熱量に適した発電量を制御コントローラにて自動制御しています(図3)。

表2 主要仕様(2)

名称 10kW 排熱利用スターリングエンジン発電設備
形式 SE220-100C(直接対流式)/ SE220-100R(輻射式)
設置方式 屋内設置型
発電方式 スターリングエンジン駆動永久磁石式発電機方式
出力 発電出力 9.9kW
周波数 50/60Hz
相数・電圧 3相 / 220V
エンジン 使用ガス ヘリウム
ディスプレーサ行程容積 2850cc
パワーピストン行程容積 2470cc
定格回転数 800min-1(800rpm)
熱源温度範囲 500~800℃
定格作動ガス圧力(絶対圧) 2.8MPa
発電機 形式 永久磁石式発電機
定格出力 11.0kW
相数 3相
定格電圧 AC220V
発電効率(発電機出力 / エンジン取り込み熱量) 25%(750℃、1000Nm3/ h)
冷却水量 25L / min(1.5m3/ h)
外形寸法(制御盤除く) 幅1364mm×奥行2147mm×高さ761mm
図3 発電システムの概要(2)

本誌2017年冬号(3)で紹介したように、排熱から熱を取込むヒータは、熱源の腐食性によって適した仕様を選択できます。熱源が腐食性の低い排気ガスと、腐食性が高い焼却炉の場合を例に解説します。
表3の上段は腐食性の低い工業炉の排気ガス用のヒータ例です。高温の排気ガスとヒータを直接接触させることを想定しています。表3の下段は腐食性の高い焼却炉用のヒータ例です。ヒータ管の腐食や目詰まりによる問題を回避するために、ヒータ管を保護カバーで覆う手段をとっています。この場合のヒータ管への伝熱形態は保護カバーからの輻射熱伝達となります。

表3 伝熱形態とヒータ例(4)

3.2.設置例

先ず、工業炉にスターリングエンジンのヒータを設置し、腐食性の低い排ガスから熱回収を行う例を紹介します。工業炉とスターリングエンジンを組み合わせることで、排熱を利用した発電機能を有する工業炉が実現できます。セラミックの製品を焼成するバッチ式の工業炉への設置例を図4に示します。バッチ式の炉は、製品をかごなどに入れて熱処理を行い、熱処理が終わると蓋を開けて製品を取り出します。熱処理のたびに製品を出し入れするため炉内の温度変動が大きく、それに伴い排気ガスの温度変動も大きくなります。開発したスターリングエンジンは、エンジンの回転数が排ガス温度に適した値に自動で調整され、幅広い温度帯で発電を維持できます。このため、温度の変動が大きい熱源でも発電時間を長くでき、回収する電力量の増加につながります。

図4 工業炉(バッチ式)への設置例(2)

次に、焼却炉煙道内部にスターリングエンジンのヒータを設置し、高温で腐食性の高い燃焼ガスから熱回収を行う例を紹介します。自治体が家庭や事業者から回収したごみを焼却する一般廃棄物処理施設への設置事例と、その写真を図5および図6に示します。焼却炉では、炉内温度が800~1000℃の高温でごみが焼却されていて、炉内の燃焼ガスに含まれる腐食性のダスト成分が含まれます。高温で腐食性の高い燃焼ガスからスターリングエンジンのヒータを保護するために、円筒形状の保護カバーを設置しています。炉内側壁の耐熱煉瓦にヒータ部の設置孔を設け、ヒータを挿入することで、スターリングエンジンの炉壁への施工ができます。焼却炉側壁、天井部、炉出口煙道等の高温部の空スペースに設置でき、複数のスターリングエンジンの設置も可能です。

図5 一般廃棄物処理施設(焼却炉)への設置例(4)
図6 炉壁に設置したエンジンの写真(4)

3.3.環境性

スターリングエンジン発電設備により、購入する電力が削減でき、例えば電力会社A社の場合では、年間34tのCO2排出を削減することができます。

図7 スターリングエンジン発電設備によるCO2排出削減量(6)

4.将来展望

ヤンマーeスターのスターリングエンジンは、発電機とセットのシステムとしてお客様に提供しており、ヒータ部を熱源に接触させるだけで動力を得ることができ、設置のためのスペースが小さく、施工も簡単です。多様な熱形態(対流、輻射、伝導)に適用可能であり、様々な産業分野への導入実績があります(4)(5)。しかしながら、工場などの高温排気の多くは常温空気で冷却し、低温にしてから大気中に放出しているのが現状です(表4 A-①、B-①)。なお、表4 Bの連続炉は、タイルなどの焼成に使われる炉で、ベルトコンベアーなどの上をタイルなどが流れ、その製品が炉の中を通過しながら加熱されています。一方で、スターリングエンジンは、2章で述べたように、取り込む熱源が高温であるほど効率が上がります。そのため、工場の高温排気部にスターリングエンジンを設置し、スターリングエンジンに熱を取り込むことで、排気や製品の温度を下げるだけでなく、その熱を電気に変え、有効活用する方法などを提案していく必要があります(表4 A- ②、B- ② 適用・提案例)。さらなるスターリングエンジンの普及を図るには、新たな高温熱源や、現状導入に向かない過酷な環境への適用が課題となります。したがって、今後、炉体などの高温素材といった放熱源に対しても適応を進めていきます(表4 C- ②)。また、粉塵や腐食物質などが含まれた熱源にも適用できるよう、熱源に接触するヒータ部が汚染されないような構造の検討も行っていきます(表4 D- ③、E- ③)。

表4 産業分野の排熱の現行例とスターリングエンジンの導入案および過酷な環境への適用案

5.おわりに

本稿では、未利用熱エネルギーを電力に変換する技術として、スターリングエンジン特長や原理と、ヤンマーeスターの取り組みを紹介しました。ヤンマーeスターは、スターリングエンジンの研究開発によって、産業分野の未利用熱エネルギーの活用を推進しています。現在は、このスターリングエンジン導入を推進し、適用範囲を拡大するために、新たな高温熱源や、腐食性の高い過酷な環境への適用に取り組んでいます。今後も、CO2排出量の削減と、脱炭素社会の実現に貢献していきます。

参考文献

  • (1)未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発 NEDO 2022年
    https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100097.html
  • (2)ヤンマーeスター カタログ(スターリングエンジン発電設備)
    https://www.yanmar.com/jp/about/company/e-stir/business.html
  • (3)北崎ら, “ゼロ・エミッション発電システムの開発~スターリングエンジン~”
    ヤンマーテクニカルレビュー, 2017年1月27日
    https://www.yanmar.com/jp/about/technology/technical_review/2017/0127_5.html
  • (4)赤澤 ら, “スターリングエンジンによる排熱発電の今” 電気学会誌 136巻9号
    2016年 p.601-607
    https://doi.org/10.1541/ieejjournal.136.601
  • (5)赤澤, “排熱利用スターリングエンジン発電システムと実証例-未利用熱の活用について”日本マリンエンジニアリング学会誌 51巻1号2016年 p.102-109
    https://doi.org/10.5988/jime.51.102
  • (6)電気事業者別排出係数 環境省・経済産業省公表 令和4年
    https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/files/calc/r04_coefficient_rev2.pdf

著者

ヤンマーeスター株式会社 技術グループ

田原 妙子

ヤンマーeスター株式会社 代表取締役

赤澤 輝行

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