2022.05.25

持続可能な食の未来に向けて、生産者と生活者とのつながりの探索へ

ヤンマーはブランドステートメントとして掲げる「A SUSTAINABLE FUTURE」の理念のもと、豊かな未来の実現へ向け、企業として、また一人ひとりの社員として、取り組むべきことを日々模索しています。

今回紹介するのは、ヤンマーの社内外のコミュニケーション業務を担う「コミュニケーション部」と食のバリューチェーンのサポートによりお客さまの課題を解決する「食事業推進室」によるプロジェクト。

農業や漁業といった一次産業、食の持続性、環境問題を視野に入れ、生産者と生産者を支援する事業者の課題やビジョンを伺うフィールドワークを実施。現場でしか知りえない課題や思いを吸収したうえで、「持続可能な食の未来をつくるため、生産者とともに何ができるか」、「また、その価値を次世代を担う若者にどのように伝えていくべきか」をテーマに、両部門の新たな取り組みの可能性を探索しました。

これから3本の記事で、その様子と成果をお伝えしていきます。1本目となる本記事では、現在の食や農業・漁業の課題を把握し、本プロジェクトの目的を明らかにしたうえで、これからフィールドワークを迎えるメンバーに、プロジェクトの背景にあるヤンマーの変化や両部門の考え、意気込みを語ってもらいました。

<プロジェクト参加者プロフィール>

(写真左から)野田さん、大久保さん、岸田さん、岡本さん、加藤さん
(写真左から)野田さん、大久保さん、岸田さん、岡本さん、加藤さん

岸田 千里
ヤンマーグローバルエキスパート株式会社 コミュニケーション部課長
ヤンマーのデジタルコミュニケーション領域とヤンマーマルシェ株式会社食事業推進室のコミュニケーションを兼務。

加藤 雄大
ヤンマーグローバルエキスパート株式会社 コミュニケーション部
お問い合わせやFAQなどお客さま窓口周辺のシステムを中心にウェブの保守運用を担当。2022年度から社内広報も担当。

岡本 恵里奈
ヤンマーグローバルエキスパート株式会社 コミュニケーション部
ヤンマーの企業活動を紹介するオウンドメディア「Y media」の記事企画・制作、FacebookTwitterなどヤンマーのSNS運用を担当。

大久保 亜希
ヤンマーホールディングス株式会社 食事業推進室
自社ECサービス「ヤンマーマルシェオンラインショップ」を活用した生産者への販路提案や、生産者の想いを動画制作などで発信する活動など、食事業における新サービスの立ち上げを担当。

野田 修平
ヤンマーホールディングス株式会社 食事業推進室
エンジンの製造を10年経験したのち食事業推進室へ。茨城県河内町でごはんをジュレ状にした「ライスジュレ」をつくるライステクノロジーかわち株式会社で取締役工場長を務める。

はじまりは食の持続可能性にまつわる課題の把握から

プロジェクトは大きく分け、3つのステップで進めました。ここまでに行った[ステップ 1:リサーチ・ディスカッション]から[ステップ 2:問いと仮説の作成]では、「持続可能な食の未来」のためのアクションや課題、先進事例を調査。フードバリューチェーンや生産者・生活者などの軸に沿ってマッピングしたうえで、メンバーの意見交換を重ね、最終的に問いの整理と仮説の設計を行いました。このステップで食の持続可能性にまつわる課題を俯瞰したことにより、課題間の意外な関連性やヤンマーが取り組めていない領域などが可視化され、新たな気づきを得ることができました。ディスカッションを経て作成した仮説は、記事後半で紹介します。

[ステップ 3:フィールドワーク・アウトプット]では、京都府北部のなかでも、日本海に面し豊かな田畑が広がるエリアでフィールドワークを行います。寒暖差が大きく厳しい気候・風土に根ざした農業や、海での水産資源管理に基づく漁業が行われており、若い世代が食品加工事業などによる一次産業の支援にも取り組んでいます。また近年は移住が増加しており、地域コミュニティも活性化していることから、「持続可能な食の未来」へのヒントになり得るエリアとして注目しました。

ステップ1・2を終えて、フィールドワークに出かける前に、「なぜこのプロジェクトに取り組むことになったのか」について、プロジェクトメンバーによる座談会を実施。プロジェクトの背景やメンバーの思いを聞きました。

グリーンな企業へと変革するヤンマー。各部門の事業やあり方も変化している

―― 探索テーマに掲げた「持続可能な食の未来をつくる」というキーワードは、ヤンマーの企業活動とどのようなつながりがあるのでしょうか。

岸田:ヤンマーは、2016年から「”A SUSTAINABLE FUTURE” ーテクノロジーで、新しい豊かさへ。ー」をブランドステートメントに掲げ、テクノロジーを軸に「持続可能な社会」の実現に向けて事業を推進してきました。

ヤンマーの創業者・山岡孫吉は農家出身で、「農作業の負担を機械化によって軽減したい」という思いから、1933年に世界で初めて小型ディーゼルエンジンの実用化に成功。その後は、優れたディーゼルエンジンの製造を基盤に、農機や船舶、建設機械など、さまざまな産業機械を製造し、農業や漁業の生産者の方たちと協業するかたちで事業を展開してきたという歴史があります。こうした経緯から、ヤンマーにとって日本の「食料生産」を担っている一次産業に携わる方々は、つながりが深くとても大切なんですね。

ところが、現在の日本における一次産業の現場は、農業・漁業ともに高齢化と就業者の減少が進み、収益が安定しないなど多くの課題を抱えています。加えて、地球環境の問題など新たに対応しなければいけないミッションも増えています。こうした課題は、従来の機械やサービスの提供だけでは解決できないため、ヤンマーはディーゼルエンジンをコアとする「ものづくり企業」から、「顧客価値創造企業」へと変革していこうとしています。環境対応についても、CO2排出削減やリサイクル資源の有効活用など、具体的な目標を定めてさまざまな取り組みをはじめています。

それらの事業活動に携わるなかでコミュニケーション部、食事業推進室がどうあるべきか。今回のプロジェクトは、そういったところも考えていく一助になるのではと思っています。

―― コミュニケーション部が今回のプロジェクトに取り組む意義は、具体的にどのようなところにあるのでしょうか?

岸田:コミュニケーション部は、ヤンマーのブランド認知を高めるとともに、企業価値を社内外の方々に深く理解いただくような活動を担当する部署です。いまは企業の社会的意義が強く問われる時代です。私たちとしても、ヤンマーの事業活動にある社会的側面について広く知っていただきたいと考えているので、今回のプロジェクトで得たものをコミュニケーションのあり方に反映させていければと考えています。

いまの若い世代は、社会課題に関心をもつ方が多いのですが、一次産業については「日本の農業や漁業が衰退している」という情報は知っていても、具体的な状況や食料生産の価値まではなかなか伝わっていません。これがまさに食の現場で起きている課題の一つなので、若い世代の方々にわかりやすく理解されるかたちで伝えていきたいと思っています。

ーー 食事業推進室についてはいかがですか。

岸田:食事業推進室は、新規事業としてはじまり、2020年夏に事業会社を設立して本格的にビジネスを始めました。生産および流通や加工の支援など、これまでと異なる関わり方で生産者の課題解決にあたっています。

大久保:立ち上げからまだ数年の事業ですが、どの生産者も課題を抱えていらっしゃることを痛いほど感じます。一次産業そのものが危機的な状況にあるため、業界の課題解決というマクロな視点も持ちながら、生産者一人ひとりの課題に取り組む意義も大きいと思っています。
例えば、こだわりをもって生産されたお野菜を買い取り、販売するECサービスを提供していますが、生産者に向けた支援と、購入者への価値提供を両立させ、なおかつ事業として成立させることの難しさを感じています。

野田:生産者とその現場に大きな接点を持っていることは、ヤンマーのアドバンテージだと思いますが、これまでは食品を扱っていなかったため、フードバリューチェーンの出口である「販売」については引き続き模索が必要です。このプロジェクトでは生産者や事業者の方々に実情を伺えるので、新しい出口を見つけるヒントにできればと期待しています。

岸田:普段の業務では事業をする前提で生産者の方と接点を持つことがほとんどです。今回まったく新しい視点で、自分たちのビジネスのお客さまにあたる方たちが実際にどのような課題を持っているのかを知ることは、ひとつの解決策になるんじゃないかと思っています。そういったつながりを持つと何が起きるのか試してみたいというのも正直なところです。

生産者、生活者と、ヤンマーはこれからどんな関わり方ができるのだろう

[ステップ2:問いと仮説の作成]で立てた仮説
[ステップ2:問いと仮説の作成]で立てた仮説

ーー ここまでプロジェクトの背景や取り組む意義について伺いましたが、リサーチ・ディスカッションを経て作成した仮説や、フィールドワークで特に注目したい点について考えを聞かせてください。

岡本:私は仮説1「食料生産に関わる方の『必要だと感じているが、すぐさま対処することが難しい長期的な課題』」に、後継者不足や若い世代への就農・就漁支援ができていないという点が含まれているのではないかと考えています。
就農・就漁支援の方法はさまざまですが、その解決策のひとつとして考えたのが情報発信です。若い世代が農業や漁業と接点を持つためには、まず認知され、興味をもってもらうことが必要です。農業や漁業の魅力を発信することで、その接点を増やすことができれば課題解決の一助になるのではと思いました。生産者の方々が若い世代により関心を持ってもらうために何が必要と考えていらっしゃるのかを伺い、生産者の立場に立った情報発信につなげていきたいです。

大久保:私もじっくり腰を据えて生産者の方々と対話して、より具体的なキーワードを聞き出したいです。また、仮説2にある「『持続可能な食の未来』に向けた生産者の取り組み」を発信することは非常に大切だと思っています。生産者や生活者の垣根を超えてディスカッションするなかで、ヤンマーとしてどんな関わり合い方ができるか、少しでもヒントを得られればと思います。
私はヤンマーに入社して初めて田植えと稲刈りを経験し、「お米はこんなに苦労してつくられているのか」と実感すると同時に、現代社会では食料生産という尊い営みが非常に軽視されているのではないかという違和感を持ちました。高度成長期の大量生産・大量消費の時代に忘れられてきた食料生産という仕事の尊さを、いまの時代にもう一度伝え直していくこともヤンマーの役割ではないかと考えています。

野田:私は多様な生産者や地域の事業者と話ができること自体への期待があります。一次産業の収益底上げのためには大量につくって安く売るのではなく、適正価格で販売して生産者にも地域にもお金を回していかないといけない。ヤンマーという会社の規模やつながりを生かして、価値を付与したり規模を拡大するお手伝いができるといいのではないでしょうか。
そして、ヤンマーはそういう支援がやりたい会社だと食事業として謳えると、共感して一緒にやりたいという若い世代が出てくる可能性があると考えています。

岸田:一次産業の活性化や環境負荷の低減は、企業活動との両立やバランスが難しいと感じていましたが、ワークショップを通じて、組織力、人材、ものづくりの力がある企業だからこそできることがあるのではないかと思いました。

加藤:ワークショップを通して「なぜ、自分は就農や就漁を考えなかったんだろう」と改めて考え、都会で生まれ育つと就職の選択肢に一次産業が入らないことに気づきました。そもそも現在の日本の仕組みや考え方が、一次産業の方を向いていないのではないかと思います。いますぐ仕組みを変えることは難しくても、一人ひとりが思いを変えていくことはできると思うので、今回のプロジェクトを通じて気づいたことを発信して、多くの人に届けたいと思っています。

探索を通して変化しはじめたプロジェクトメンバーの視点

ーー 探索のステップ1・2を終えて、感想はいかがですか。

岡本:いろんな視点をもつメンバーが集まっているのは面白いなと思いました。生産者と関わりながら仕事をされている食事業推進室と違い、私たちコミュニケーション部は、社内で取り組んでいる活動を外部に発信していく仕事です。そのため、生活者から見える範囲の課題の方が、自分ごととして馴染みがあります。同じ社内のメンバーでも、課題を見る視点が違う点が印象的でした。

加藤:私も、食事業推進室のメンバーと話していくなかで、生産者側の立場で考える視点が生まれました。特に、茨城県河内町で地域の方々と関わりながら仕事をされている野田さんと話をするなかで、「直接的な一次産業の支援だけでなく、地域を盛り上げて人を集めることが重要」だと感じるようになりました。フィールドワークでは、現場にとって何が本当の課題なのかを聞いたうえで、「自分に何ができるのか、ヤンマーとして何ができるのか」と発想を広げていきたいです。

野田:異なる部門のメンバーと一つのテーマについて考えるのはすごく新鮮でしたし、視点がミックスするのは面白いと感じました。プロジェクトをはじめて、食産業の販売の部分についても皆さんと考えてみたいと思うようになりました。

大久保:事業として活動していくなかにおいては、達成しなければいけない数値目標があったり、活動の成果をわかりやすく示す必要があったりと、もやもやした状態を続けるわけにはいきません。このプロジェクトで、拙速に解を出すのではなく、いったん立ち止まって、もやもやすることも大切にしながら長期的な視点で考え続けるプロセスがとても大切で貴重なことだと感じました。今回得たヒントを、事業にもフィードバックしていかなければと考えています。

岸田:これまでは、企業なのに正解が出せないこと、迷っていることはダメなことだと考えられていました。しかし、いまは正解がわからない時代だと言われるなかで、プロジェクトメンバーと一緒に問いを探索していく議論ができたのは良かったと思います。フィールドワークでは、それぞれに心の芯から感じる気づきを持ち帰って、次のアクションにつなげていきたいですね。

 

部門を超えて、お互いの意見に耳を傾ける。ここまでのプロセスを経て、すでにプロジェクトメンバーの中に、異なる角度からテーマを見つめる視点が生まれています。

これから向かう京都府北部エリアの生産者や事業者の方々との対話からは、どのような気づきや発想の広がりが得られるのでしょうか。フィールドワークの様子は、後日レポート記事にてお伝えします。

 

関連情報

地域の生産者から学んだ、持続可能な食の未来のためにできることとは?(前編)

地域の生産者から学んだ、持続可能な食の未来のためにできることとは?(後編)