営農情報

2013年10月発行「FREY2号」より転載

新たな時代の農村ビジネスを創ろう

農業ジャーナリストとして、農にまつわる様々なテーマを扱う青山浩子。
主なテーマは「農業と食に関するビジネス」「直売所ビジネス」「企業の農業新規参入」「地方の村興し」「女性の起業」「食品マーケティング」などが挙げられる。
1年の半分ちかくを現場に赴き取材を重ね、ビジネスの視点から綴られる彼女の言葉は、今まで見えていなかった農業の側面を突く、するどい文章として定評を呼んでいる。

農業ジャーナリスト

青山 浩子

Profile
1963年愛知県生まれ。
1986年京都外国語大学卒業。JTB勤務を経て1年間、韓国延世大学に留学。帰国後、韓国系商社、船井総合研究所に勤務。1999年より農業関係のジャーナリストとして活動中。1年の半分を農村での取材にあて、奮闘する農家の姿を紹介している。農業関連の月刊誌、新聞などに連載。著書に「強い農業をつくる」「『農』が変える食ビジネス」(いずれも日本経済新聞出版社)など。

都市と農村が近い国、日本

仕事柄1年の半分は農村に出向く。そのたびに思う。「日本という国はなんてすばらしい国なのか」と。都心から一時間も電車に乗れば緑豊かな風景が広がる。あちこちに農産物直売所があって旬の野菜、果物を買うことができる。加工品コーナーの充実ぶりには胸が躍る。手づくりのお寿司、漬物、和洋菓子など素朴でおいしい、しかもお買い得。気づけば買い物かごがいっぱいになっていることが何度あったかわからない。直売所を出ると横には農家レストランがあり、田舎料理や郷土料理が手頃な価格で楽しめる。

取材で出会う農家もまた農村の暮らしに満足している。「買い物など不便はないか」と聞くと「全然。だって30分も車を走らせればどんな店もあるよ」と答える。そして逆に言われる。「田舎はいいでしょ?あなたも住めば?」
日本は国土が狭いが地方都市が発達しており、都会と農村の距離が近い。2010年農業センサスによると、日本にある集落の7割近くは商店や住宅地がある人口集中地区(平成17年国勢調査の人口集中地区)まで30分以内で行くことができるという。

海外では、郊外に住み都心に働きにいく考え方が主流だ。それが最も恵まれたライフスタイルといわれている。日本はその逆だ。しかし、これほどまでに都市と農村が近い国なのだから、あえて忙しない都市に住む必要なんてないのでは、としばしば思う。

農業ビジネスは今後も続くのか

都会から農村を訪れる人は今後も減らないだろう。めまぐるしい生活の疲れを癒やすには農村は一番だ。だがここに大きな落とし穴がある。私たちの心と食欲を満たしてくれる農産物直売所も農産加工品もこのままでは途絶えてしまうかもしれない。

盛りだくさんの農産物が並ぶ直売所の責任者に「課題は何か」と聞くと「後継者不足」「出荷農家の減少」と答える。直売所で売られる野菜は80円とか100円が多いが、農業で生計を立てている若い農家、プロ農家は「100円では生計が成り立たない」とむしろ卸売市場やスーパーとの取引に力を入れ、直売所への出荷にはあまり熱心でない。今の高齢農家がリタイアすれば直売所に出荷する農家はいなくなってしまうかもしれない。

直売所の人気コーナーの一つは、手づくり総菜や加工品売り場だ。並ぶ瞬間から飛ぶように売れていく。加工場をみせてもらうと働くのは大半が高齢の女性たち。「時給は安いけど、おしゃべりしながら仕事ができて楽しい」と笑顔いっぱいで話してくれる。それでも悩みのタネは後継者不足。「商品価格を少し高くすれば、利益が増えて若い人を雇用できるのでは?」と提案するが「田舎では安くないと売れないからね」といわれる。

これまでの農村ビジネスは、豊かだった日本経済の遺産の上に成り立っている。年金で支えられている高齢農家、複数の収入がある兼業農家がいるから直売所も加工品も存在している。だがこれからはそうはいかない。日本にも日本人にも余裕がなくなっている。年齢が若くなるにつれ、年金にも預金にも頼れないというのは農家であれ、サラリーマンであれ同じ。ぎりぎりの収入で生活をしていかなければならない。豊かさを前提にした農村ビジネスはどこかで限界が来る。

新しい農村ビジネスを模索する

せっかく育ってきた農村ビジネスを絶やさないためには、過去の遺産に頼る農業から脱し、新たな農村ビジネスを創りあげるしかない。直売所は「安くて新鮮」が売り物だが、品種や品質にさらにこだわりスーパーや量販店と明確な差別化を図って「ちょっと高いけど行きたい」店に変えていく。

農産加工品も一工夫必要だ。今はジャムやドレッシングなど、どこも似たり寄ったりの商品をつくり、地域性が上手に活かされていない。それより商品力に長けた地元企業と連携したり、専門家の意見を取り入れて「うちしかない」というオリジナル性の高い加工品に仕上げる。オンリーワンであれば高くても売れることが可能だ。そんな商品ができれば若い人たちを雇っても人件費をまかなえる。

6次産業化の重要性がいわれているが、新たに加工品をつくることばかりが6次化ではない。今までにある商品や販売方法を見直し、農村ビジネスに携わることで生計が成り立つ形に組み替えていくことも6次化に含まれる。

ここで欠かせないのは農業、農村への消費者の理解を得ること。直売所の価格が安いのは豊かだった日本経済が前提にあること、農村ビジネスが時代の転換点にさしかかっていること、新たな農村ビジネスが成功するかどうかは美しい日本を守ることにもつながることを知ってもらう作業も6次化の一環だ。生産者と消費者の距離が近い日本なのだから、心の距離もぐっと埋めたい。

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