営農情報

2016年3月発行「FREY6号」より転載

<アグリ・ブレイクスルー>野菜生産を拡大する稲作経営法人。収益アップにつなげるための要件とは?

農業ジャーナリスト

青山 浩子(取材・文)

Profile
1963年愛知県生まれ。1986年京都外国語大学英米語学科卒業。日本交通公社(JTB)勤務を経て、1990年から1年間、韓国延世大学に留学。帰国後、韓国系商社であるハンファジャパン、船井総合研究所に勤務。1999年より、農業関係のジャーナリストとして活動中。1年の半分を農村での取材にあて、奮闘する農家の姿を紹介している。農業関連の月刊誌、新聞などに連載。著書に「強い農業をつくる」「『農』が変える食ビジネス」(日本経済新聞出版社)「農産物のダイレクト販売」(共著、ベネット)などがある。

米価下落対応として野菜生産

米価が下落を続けるなか、水田を活用して野菜を生産する生産者が増えている。農水省によると水田の総面積(2014年度で232万ha)のうち、米や麦、大豆、飼料作物、不作付地などを除き、「野菜等」として利用されている面積は21.8万ha。2011年の21.9万haと比べてほぼ変化はないが、生産現場を取材する限り、取り組む農家が増えている印象は強い。最近では稲作主体の集落営農組織のなかでも、野菜づくりを始めたところが多い。きっかけを尋ねると「2014年産米価の大幅な値下げがきっかけ。何かしなければ」と野菜に活路を見出したという声を聞く。

水田を活用した野菜生産を始める際、まず野菜に適したほ場環境づくりが第一の関門となる。基盤整備されているか、排水性のよい水田など場所を選ぶ、あるいは排水性を高めるためのさまざまな技術を活用する必要がある。在庫ができる米と違い、大半の野菜は長期保存ができないことも留意しなければならない。販売先が確保されていなければ大量のロスを抱えることになり、経営全般にも響く。米づくりのように機械化体系も整っておらず、人の手に頼る作業が多い。労働力を多く必要とするが、思うに任せて人を使えばコストが膨らむ。

それでも、生産から販売までの仕組みがうまく構築できれば、稲作部門を支える新たな経営の柱となる。5年前から野菜生産を本格化してきた滋賀県の稲作主体の法人に、野菜づくりを始めたきっかけ、現状、経営全般における野菜の位置づけについて聞いた。

品目を絞り込んだ生産

滋賀県の農業生産法人(有)フクハラファーム(彦根市)は、米麦が中心で150haを超える大規模経営体だ。野菜生産を本格的に始めたのは2011年から。福原悠平常務取締役(31)は「米価が年々下がる中、米だけに依存した経営では安定しないという判断から野菜を加えるようになった」と話す。選んだ品目はキャベツ。野菜本作のために新たに雇用した社員がキャベツ栽培の経験を持っていたこと、水稲後で生産が可能であること、設備投資があまりかからないことなどを考慮して決めた。

同ファームは琵琶湖の東側にあり平坦地が多く、大規模稲作には恵まれている。基盤整備もほぼ終わり、暗渠も整備されている。しかし管理する水田の6割が湿田で、野菜生産には適しているとはいえない。キャベツの作付にあたり、レーザーレベラーで傾斜をつけて排水路側へ流れやすくならないか試してみたこともあったという。「この点はいまでも課題です」と福原常務は言うが、できるだけ水はけのいい砂地のほ場を選び、サブソイラーで弾丸暗渠を施工するなど排水をよくするための基本的な技術の実践で対応している。

有限会社 フクハラファーム 常務取締役 福原 悠平 様

作付を始めた当初は卸売市場に出荷していたが、現在は加工・業務向けの生産に集中させ、福原昭一社長の人脈で開拓した卸業者に一括出荷している。サイズごとの選別作業などは省き、コンテナやダンボールに入れて出荷し、卸業者から先はカット業者などに向けられる。価格は出荷前に協議する。面積は年々増え、8haまで拡大。キャベツの他にはブロッコリー(1ha)、さらに育苗ハウスを使って大根、カブをつくっている。同ファームの戦略は、作付品目も販売先もある程度絞り込み、その分生産性をあげながら面積を広げていくというもの。野菜生産も同様の戦略にもとづいている。

売上全体の1割を占めるまでに

稲作との決定的な違いは「機械化体系が整っていない点」と福原常務。機械への助成制度も稲作に比べると未熟で、国が実施する事業もほとんどないという。「作業する人間への肉体的負担は大きいですが、野菜はできるだけ設備投資を抑えたつくり方をしようという方針でやっている」と福原常務。それでも基本的な管理機、半自動の移植機などを導入し、省力化を図ってきた。面積拡大に従って収穫後のキャベツを運搬するクローラ型運搬車などを取り入れている。

キャベツ生産に取り組んで4年目に、野菜部門単体で黒字転換を果たした。生産性が上がったことが大きい。10a当たりの収穫量は当初の2トンから6トンに増えた。同ファーム全体の売上高2億円強(2014年)のうち、野菜が約2000万円(同)と1割を占めるまでになった。2015年産米は夏の長雨続きなど天候不良で収量減となったため、キャベツの売上が占める割合はさらに高まるとの見方もしている。

野菜に取り組んだ成果として「コメ以外に経営の柱ができたこと。冬の仕事が増えたこともよかった。これまでは機械のメンテナンスや農業土木がメインだったが、野菜の仕事が加わったことも大きい」と福原常務は言う。新たに野菜生産をやろうと検討中の稲作農家に対し、福原常務は「つくる前にいかに販路を確保するかに尽きる」と言う。同ファームも価格変動がある市場出荷では収益面で苦い経験を味わったそうだ。とりあえずつくるのではなく、売り先を確保した上で品目や面積を決めていくというステップは不可欠といえる。

福原常務は「野菜の重要度は今後ますます増していく。主食用米の需要が減り続けているし、TPPが米にどう影響するかという不安もある」と話す。いたずらに規模を増やすのではなく、面積あたりの生産性を高め、稲作部門を支える部門として、土台を厚くしていくことが同ファームの野菜生産への考え方だ。

直売所開設をきっかけに始めた野菜生産

同じく滋賀県には、消費者に直接販売する野菜生産に力を入れる法人もある。るシオールファーム(甲賀市)は、102haの経営規模を持つ大規模農業法人で、メインは稲作である。敷地内には40m2ほどのこじんまりした直売所がある。ここで売られる米や野菜は自社生産したものばかり。口コミで評価が高まり、県外から訪れる顧客も増えている。

直売所は2008年、今井敏さんが2代目社長に就任してすぐに開設した。今井社長は、るシオールファームのほかに、農家仲間で立ち上げた(有)共同ファームの代表もつとめる。共同ファームは構成メンバーから転作を専門に請け負う法人で、180haの期間借地で麦・大豆をつくり、作業請負の面積も420haと大きい。「共同ファームは大型機械でほ場からほ場を飛び回るような農業で、収穫物は全量JA出荷。それとは違う農業をるシオールではやりたかった」と語る。

有限会社 るシオールファーム 代表取締役 今井 敏 様

とはいえ、商品が米ばかりの直売所は少々さびしい。そこで野菜の生産を始めることにした。今井社長は共同ファームでも加工向けのキャベツづくり経験があったが、「野菜に長けたスタッフがいたほうがいい」と、経験のある若者を新規で雇用し、副社長の福永克哉さんとともに作付品目の選定から作付計画、作業調整などをしてもらっている。野菜の面積は延べ5ha。直売所で販売するために葉物から果菜、根菜、果物、花き類まで少量多品目で生産する。また、たまねぎ、キャベツ、白ネギ、白菜はまとまった面積で生産し、卸売業者、漬物業者、JAなどに出荷する。

野菜を直売所で販売するようになって農産加工へも事業の幅が広がった。サイズの小さいたまねぎは出荷してもお金にならないが、無駄にはしたくない。考えた末、たどり着いたのはたまねぎドレッシングの商品化。普及指導員に紹介してもらった愛知県のしょうゆメーカーに委託して、つくってもらっている。市販のドレッシングに比べ、たまねぎの含有量が多いことから人気となり、2か月で1800本が売れるほど。食品や飲料など技術水準の高い商品が認証される「モンドセレクション」にも入賞を果たした。

直売所横には自社の加工施設もあり、漬物や寿司、和菓子などを同社の女性スタッフが丁寧に手づくりし、できたてを販売する。完熟のイチゴやイチジクは店舗での売れ筋商品で、これらの果実を自家製のもち米からつくる餅でつつんだイチゴ大福、イチジク大福などはあっという間に売り切れるほどだ。

品目が増えて、ファンが増えた

直売所の一日あたりの売上は15万円ほど。年間にすると約4500万円になる。今井さんが初代社長から経営を受け継いだ当時、売上は約1億円だったがいまは約2億円まで増えた。売上の1/4を直売所が稼ぎだしていることになる。「稲作依存の経営のままだったら、逆に5000万円ほどに減っていたかもしれない。直売所運営や野菜生産は米価下落を十分補ってくれている」と今井社長は手ごたえを感じている。
成果はこれだけではない。「野菜を売ることで、お客さんの反応がリアルに伝わる。『この前のトマトはすごくおいしかった』など。これも我々生産者にとっては大きな励みになる」と今井社長。

完熟の果物や加工品を買いに来てくれるファンができたことも大きいという。たとえば、手づくりのイチゴ大福は1日に20~30個しかつくれず、売上への貢献はさほど大きくはないが「こういう人たちが農場を助けてくれると思うと、お金では計れない価値がある」と今井社長。直売所で築いてきた実績を生かし、農家レストランをオープンさせる計画を立てている。「60代の女性がターゲット。10年後、この年代の人口はさらに増えますから」と高齢化をチャンスととらえた事業を構想する。すでに、喫茶店経営の経験がある女性をスタッフとして雇用し、パン用小麦「ミナミノカオリ」を使ったパンの試作にも余念がない。

「農家の経営を判断する単位といえばこれまでヘクタール、アールでしたが、これからはファンの数、集客力が単位になる」と今井社長。つまりどれだけ消費者に魅力を打ち出せるかが尺度になると考えている。今後も稲作を中心に据えながら、野菜や加工品を組み合わせ、地域で求められ、喜ばれるビジネスを展開していく考え方だ。

販路確保が最優先課題

2法人とも、米価下落傾向に危機感を抱き、稲作とは別の経営の柱を築いておきたいという思いから野菜生産に乗り出した。また即戦力として野菜生産の経験を持つスタッフを雇った点も共通している。決めた以上、スピード感をもってやりたいという経営者の判断なのだろう。

販売戦略は対照的で、フクハラファームは品目を絞り込んで集中的に生産し、販売も卸業者に一手に任せるスタイル。一方、るシオールファームは直売所を開設し、末端の消費者に販売しながらファンづくりにつとめている。るシオールファームの本社は、車の通行が多い道路に面している。こうした立地条件に恵まれたことも直売所開設につながったのだろう。しかし、5haでつくる野菜をすべて直売所で売るのではなく、加工業者向けの野菜をまとまった面積でつくるなど販売を複合化させている。

本格的に野菜をつくるようになってから両法人とも5年ほどだが、すでに経営を支える重要な部門として確立されている。当初の狙いどおり「稲作依存型の経営からの脱却」という目標は達成できたといえる。その背景には、生産した野菜を安定的に出荷する先が確保されていたことが大きい。フクハラファームの福原常務が「すでにブランドを確立しているような大産地や野菜と卸売市場で戦っても勝ち目がない。どんなルートならばコストに見あった収益を出せるか。そこを中心に考えてから生産に踏み出すほうがいい」と最後に語ってくれた。野菜生産を考えるすべての農業者に共通していえることだろう。

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