営農情報

2015年6月発行「トンボプラス6号」より転載

中小規模のネギ生産者の労力を軽減!

ネギは、全国的に根強い人気のある野菜です(図1)。しかしネギ生産の現場は、家族経営が多いことから、高齢化や後継者不足が特に大きな課題となっています。 そんなネギ生産者が挙げる、辛い作業の代表が収穫作業です。うね崩し→掘取り→集束という3工程の作業は中腰で行うため、腰への負担がどうしても多くなります。

そこでヤンマーでは、この3工程を1工程で行うことにより労力を軽減させ、中小規模の農家にも導入いただきやすい、ねぎ収穫機HL1を開発しました。
開発にあたっては、関東を中心に全国の産地をまわり、約4年間におよぶほ場試験・改良を経て、ついに完成。

今回は、2015年4月、全国販売に先駆けて、国内有数のネギ生産量を誇る産地、埼玉県の本庄市で行われた同機の実演会をレポートします。

また、ネギ収穫機HL1の兄貴分的な存在である、自走式全自動ねぎ収穫機SOFYを開発している小橋工業株式会社さまにも開発秘話をうかがいました。

(図1)秋冬ネギの作付面積・収穫量および出荷量の推移

「ねぎ収穫機HL1」、実演会レポート

導入していただきやすい、ねぎ収穫機HL1登場

実演会当日は好天に恵まれた。しかし生憎、収穫時期まっ最中なうえ、久々の晴れ間であったことから、大勢の参加者とは言えないが、そんな時期でも収穫機に興味を持っておられる方々が足を運んでくれた。

ヤンマーアグリジャパン株式会社・関東甲信越カンパニー本庄支店長の礒部氏による挨拶の後、同社アグリソリューションセンター・アグリサポートグループ専任部長の伊藤芳男氏と同社アグリプロ推進部・アグリサポート部主任の吉田俊則氏による特長説明と続く。

同機の開発当初から関わった伊藤部長は、「ネギの収穫は本当に大変で、30年も前から機械化の要望がありました。その声に最初に耳を傾けたのが、トンボ会メーカーの小橋工業さんでした。そして開発されたのが現在も各地で導入されている「自走式・全自動ねぎ収穫機ソフィ」です。この機械により、多くのネギ農家さんの労力が軽減されました。

ところが購入金額が高額になることや、補助事業の面積条件などの諸事情で、中小規模の農家さんへの普及が進んでいなかったのです。そこで4年の歳月をかけて、ソフィに迫る作業能力を実現しながら、機能を絞り込むことで導入しやすい価格帯の収穫機HL1を開発しました」と、開発の経緯を語ってくれた。

ねぎ収穫機HL1の実演を興味深く見守る。

興味津々の眼差しで、ねぎ収穫機HL1の特長と動きを確認

実演が始まると、参加者の皆さんがHL1のうね崩し部、掘取部、搬送部を一斉に覗き込む。機体前方のうね崩しロータによって両側のうねが崩され、掘取コンベア先端のブレードによって根を掘上げられたネギは、葉と茎の間あたりを搬送ベルトにつかまれ、次から次へと専用コンベアに上がってくる。

「掘取部は動くのか?」「もっと硬いほ場でも大丈夫か?」「ベルトで傷つかないか?」など、質問が飛び交う。ヤンマー社員が個々の質問に対応していく。

まずネギの根元の土を下のロータで粗く崩し、続くコンバインのこぎ胴のような土落としロータで根に付いた土を落とす。今回はネギが太いため掘取りスピードを落としており、また根も長いため土が残ってしまったことから、残土はオペレーターが手で落としつつ、作業台に搬送する。あとは補助者が溜まったネギを紐やネットで束ね、ほ場に置いていくだけだ。

(図2)ねぎ収穫機HL1の作業フロー

機体は先端のゲージ輪が、うねの両サイドをしっかりと保持しているので、うねに追従しながらまっすぐ走行してくれる。作業者は流れてくるネギを束ねて集束するだけ。作業台にネギが溜まったら、機体を止めて集束を行う。
2人作業なら、1人は機械の調子を見ながら根の残土を落とし、もう1人は集束作業に専念する。それで100mのうねを、1人作業なら止めながら90分/100m、2人作業なら止めずに50分~1時間/100m。一度、調整すれば、ほ場が変わっても大丈夫。時期が(長さが)変わらなければ、まず調整はいらないという。

作業者は、流れてくるネギを束ねて集束するだけ。集束作業に集中できる。
操作レバーが集中配置されているため、操作もしやすい。

機械化で3工程を1工程に、労力軽減などのメリットを実現

地域によって多少は違うが、慣行のネギ収穫作業は次のような作業体系だ。

  1. 管理機やトラクターの掘取機で、うねの片側面を削る。
  2. 人手でネギを抜くか倒し、ほ場に並べる。
  3. 並べたネギを集めて集束する。という3工程。

特に(2)(3)の作業が腰が痛くて重労働となる。

HL1は、この3つの工程を、1工程ですませることができる。
うね崩し・堀取り、根の粗土落としを機械がやってくれるのだ。しかも腰を曲げない立ち姿勢で作業ができる。これらの労力軽減に加えて、作業時間の短縮、それに伴うコストダウンと、多くのメリットを生む。

トラクター用掘取機でうねを切る慣行収穫作業(左)と、左右のロータでうねを崩しつつ、搬送ベルトで引き抜くねぎ収穫機HL1。

収穫が変われば調製も効率化、出荷量を増やすことも可能

この辺りでは、ネギの収穫は1日に1~2条程度しか行わない。もちろん重労働だからというのも大きな要因だが、収穫後に調製・箱詰め・出荷作業があるからだ。
無理してたくさん収穫しても後作業の時間がない。しかしこの、ねぎ収穫機HL1を使えば、楽に機械収穫ができるうえ、作業スピードが速いから後作業の時間にも余裕が生まれる。つまり機械を導入して収穫作業を省力化すれば、調製作業も変わるのだ。

相場が高いときは、多めに収穫して出荷すれば増収につながるし、無理せず収穫するなら余った時間は、ほかの作業に使うのも良し、体を休めるも良し、それぞれの自由に使うことができる。これも大きなメリットだ。これらの夢が叶うHL1は、まさにネギ農家の救世主と言っても過言ではないだろう。

参加者は、皆、満足そうな表情で会場を後にした。

お客様の声

レポート1. 直進性を保てるし操作も簡単、これなら1人でもできる!

細野 弘氏

埼玉県本庄市

今回の実演会にほ場をご提供いただいた細野弘さんは、ご夫婦で米麦4ha、露地野菜2.5haに加え、90aのネギを栽培しておられる。当日は、実演前の機械の調整作業からご覧いただいたのだが、実はその調整に手間取ったことから、細野さんは少し心配をしておられた。

機械の調整後、実演会が始まる前に、実際にHL1に乗って作業を体験していただいた。うねの途中から、吉田主任と2人組で、ネギをどんどん収穫していく。一度止められて「いや~、早いのは良いけど、ちょっと忙しいなぁ…」と、細野さん。そのスピードに戸惑われたご様子。

伊藤部長が「HL1はクラッチで簡単に動かしたり止めたりしながら、ご自分のペースで作業をしていただけるんです。もちろん2人でやれば、1人が掘取りの調子を見ながらネギを作業台に送り、もう1人は集束作業に専念できます」と説明。 その後、今度は機械を止めながら再挑戦。細野さんの表情に笑みが戻った。

「いちばん良いのは直進性が保てるところだね!向こうを気にしなくても手元だけ見てればいいんだもん。操作も簡単でいい。多少慣れはいるけど、これなら1人でもできる(笑)うまくいって良かった(笑)」と、試乗の後は、安心した表情を見せてくれた。
もちろんスピードの調整後は、問題なく作業を進めることができた。
まだまだお元気な細野さんだが、合間でお話をうかがうと「ウチ夫婦らはもう歳だから…」と謙遜される。HL1があれば楽に仕事ができますよと水を向けると「そうなればいいなぁ…」とまんざらでもないご様子。実演会後、ネギを山積みにした軽トラックの前で雑談をされる細野さんの、満足そうな表情が忘れられない。

これなら1人でもできると、満足そうな表情の細野さん。

レポート2. もっと土の硬いところでも実演をしてほしい。

高橋 光雄氏

埼玉県本庄市

1.7haのネギを栽培しておられる高橋光雄さんに、実演会後、少しお話をうかがった。
現在の収穫作業は、トラクターにアタッチメントを着けてうねを崩し、その後、手作業で掘取り・集束するスタイルで、通常は奥様とお2人だが、繁忙期には3名のパートさんに来てもらって、1日に130~140箱を出荷しているという。

機械をご覧いただいた感想をうかがうと、開口一番「性能はいいけど、もっと硬いほ場で使えるかどうかだね」というお返事。うかがうと、高橋さんのほ場がある小和瀬という地区は、この辺りでもいちばん硬いといわれている土地だという。

高橋さんに、今後のことをうかがうと「規模拡大は考えていない。でも収穫作業は楽にしたい」と、実感がこもる。それではと導入の可能性について質問をすると「小和瀬でも、ぜひ実演をしてほしいね(笑)」とのこと。 実は、去年から娘さんの御主人が農業を始められたという。終始笑顔で話していただけたのは、そのあたりに理由があるのかもしれない。ぜひ、小和瀬でも実演をしていきたい。

「収穫作業は楽にしたい」と高橋さん。

メーカー訪問

ネギを楽にソフトに収穫する自走式全自動ねぎ収穫機

森岡 良友氏

小橋工業株式会社 営業管理部 係長

今から約20年前、ネギ栽培のリサーチから開発を始めたのが、SOFY(ソフィ)の愛称で知られる、小橋工業株式会社(本社/岡山県)の自走式・全自動ねぎ収穫機HG100MAだ。現在、全国のネギ生産の現場で稼働している。ソフィはヤンマーHL1のデラックス版といった位置付けで、兄貴分的な存在の機械だ。

事業理念のもと労力軽減を目指す、トラックに試作機を積んで試験ほ場探し

ネギの作業の中で、最も辛いのが収穫作業。時間的には多くないが重労働や人手不足という現状から、機械化のニーズが高い。
「そもそも弊社は『農家の手仕事を機械に置き換える』のが事業理念なので、やはりネギ農家さんに楽をさせてあげたい、という気持ちからのスタートですね」と、開発のきっかけを語ってくれたのは、同社営業管理部・係長の森岡氏だ(2015年6月現在)。 また食糧自給率向上やセーフガードなど農政の動きへの対応も、開発の追い風となった。

当時は、まだ誰も機械でネギが収穫できると思っていなかったため、試験ほ場の確保から苦労したという。「トラックに試作機を積んでネギ畑を探し回り、見つけるとその場で農家さんにネギ全量を買い取る交渉をしました。当時は領収書を持ってまわっていたようです(笑)」森岡氏は、伝え聞くエピソードを語ってくれた。
買取契約ができても、苦労してつくったネギが潰されるのを見ると「やっぱり止めてくれ!」と言う農家さんもあったという。

慣行の収穫体系を研究し「手で抜く」ことの大切さを知る

いちばん苦労したのは、掘取部だ。
元々、同社のイモ掘取機ポティをベースにして開発を始めたが、ネギは葉も商品になるため全体を傷つけずに収穫しなければならない。
そこで、どうすればキレイに収穫ができるかを知るために、慣行の収穫作業を研究した結果「手に代わるものとして、ベルトに行きつきました」と森岡氏。手でつかむ強さと弾力を再現するのに、ベルトを何種類も試したという。「ソフィ」の愛称は「ソフトに収穫する」というコンセプトを表現している。

調製作業も含めて効率良くシステム化、相場の高いときに出荷量増も

掘取機構を追求したことで、うれしい誤算もあった。収穫したネギは、保存が難しいうえ調製作業に手間がかかるため、出荷量が増やせない。慣行作業では、うねを崩しネギを倒すときに葉が折れたり、土が付いたりで、歩留まりが良くない。しかしソフィがあれば、1名でも簡単に機械各部の調整や操作ができることから、奥様が1人でほ場へ行き、収穫と作業場への搬送を担当することができる。残りの人員で手間のかかる調製作業をこなせるので、効率的なシステムが組め、相場の高いときに出荷量を増やすことができる。

また2人以上なら、ソフィと運搬車や軽トラックを伴走させることで、ネギをほ場に直置きしなくてすむため、調製時に土を処理する手間を減らすこともできる。雨後に収穫する際も安心できる。
労力軽減が最大の魅力だが、「後作業の効率が良くなった」「ネギの傷みが少ない」という喜びの声も多いという。

準産地の産地化で貢献。「農林水産技術会議会長賞」を受賞

開発当時、セーフガードで国内産地を強化するため「準産地の産地化」という動きがあり、ソフィはそれに貢献することができた。実際に導入産地では、出荷ケース数が1割~2割上がった所もあるという。
これらの実績が認められ、2010年度に「農林水産技術会議会長賞」を受賞している。これからも大規模農家は兄貴分のソフィ、中小規模農家は弟分のヤンマーHL1と、兄弟でネギ農家の労力軽減に貢献していただきたい。

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