ヤンマーテクニカルレビュー

業界初 電気・ガス一体型ハイブリッド空調システムの開発~電力・ガス自由化時代に合わせた新コンセプト空調システムの提案~

Abstract

With Japan having begun liberalizing its electricity and gas markets in 2017, there is demand from customers for systems that are able to switch between different energy sources. In response to this market demand, Yanmar has launched a new hybrid air conditioning system that incorporates both an electric motor driven compressor and gas engine driven compressor. This all-in-one structure is the only one of its type on the market.

1.はじめに

東日本大震災以降の電力需給逼迫問題を受け、GHPの節電に対する有効性が評価され、又公立学校冷房化の広がりや更新需要の顕在化とも相まって、GHPの販売台数は好調を維持している。一方で電気、ガスの本格的な自由化によりエネルギーコストへの関心も高まっている。このような状況下、さらなるGHP販売拡大に向けてガスと電気の双方のエネルギーを選択できる新しいコンセプト商品「ハイブリッド空調システム」を開発した。本稿では本システムについて紹介を行う。

図1 製品外観
図1 製品外観

2.開発の背景

近年、国内のエネルギー環境は大きく変化しており、2016年には電力小売の完全自由化、2017年からは都市ガスの自由化が始まり、お客様が自由にエネルギー購入先を選択できる時代となった。その結果、様々なエネルギー料金体系やお客様のデマンド状況に応じて、柔軟にエネルギー源を選択できる機器へのニーズが高まりつつある。こういったお客様のニーズに応えるべく、当社はガスと電気という2つのエネルギー源のいずれか、もしくは両方を使用して駆動するハイブリッド空調システムを開発した。

3.製品の概要

ハイブリッドといえば一般的に自動車のハイブリッドカーを連想する方が大半であるだろうが、これはガソリンエンジンとバッテリー駆動の電気モータの組合せであり、運転状態によって双方が自動的に切り替わるシステムが一般的である。一方、ハイブリッド空調システムとは、コンプレッサの駆動源にガスエンジンと電気モータの双方を組合せたシステムのことである。

ハイブリッド空調システムの構成は表1のように分類することができる。当社のハイブリッド空調システムは一体型を採用している一方で、GHP他社ハイブリッドシステムでは室外機分離型、いわゆる室外マルチ方式が採用されている。なお、一体型ハイブリッド空調システムを商品化したのは当社が業界初であり、オンリーワン商品である。

表1 ハイブリッド空調システムの構成分類

ヤンマー GHP他社
室外機構成 一体型 分離型
概念図
機能説明 ガスエンジンで駆動するコンプレッサと同一の冷凍サイクルに電気モータ一体型コンプレッサを搭載する。電気モータ一体型コンプレッサは商用電力で駆動する。
一つの室外機に駆動源の異なる双方のコンプレッサを搭載する。
ガスエンジンで駆動するコンプレッサと同一の冷凍サイクルに電気モータ一体型コンプレッサを搭載する。電気モータ一体型コンプレッサは商用電力で駆動する。
ガスエンジンで駆動するコンプレッサと電気モータで駆動するコンプレッサはそれぞれ別の室外機に搭載され、冷媒配管で室外機間を接続する。

4.製品の特徴

当社のハイブリッド空調システムは85kWの空調能力を有しており、その内訳はガスエンジン駆動コンプレッサ能力が62kW、電気駆動コンプレッサ能力が23kWである。想定される代表的な運転パターンとしては、以下の通りである。

①早朝、夜間など空調負荷が低く、電力デマンドに余裕のある条件では低負荷時に効率の良い運転ができる電気駆動コンプレッサのみで運転

②空調負荷が高く、電力デマンドが逼迫する日中にはガスエンジン駆動コンプレッサを主に活用して、ピーク負荷時のみ電動コンプレッサを援用するデマンド抑制を重視した運転

また、ハイブリッド空調システムは遠隔監視アダプタを活用して、お客様毎に異なるエネルギー料金やデマンド情報に応じた運転制御をすることで、お客様毎に最適な省コスト、省エネ運転を実現できる。

ハイブリッドシステムの機器構成
図2 ハイブリッドシステムの機器構成

(1)一体型システムの実現

一体型ハイブリッドシステムのメリットとして、設置スペースのコンパクト化、設置工事の工数低減、複数台設置時の景観統一などが挙げられる。

システム一体型によるメリット
図3 システム一体型によるメリット

また、一体型システムでは空調負荷が低く、電気モータかガスエンジンのどちらか単独運転をする場合も室外熱交換器の全面を有効利用することができる一方で、他社が採用している室外マルチ方式では駆動源が片側の場合、非駆動源の室外機は停止するため使用可能な熱交換器容量は低減する。このように一体型システムでは性能面でもメリットがあり、負荷の小さい領域では室外マルチ方式に比べて約15%熱交換器性能の向上を見込むことができる。

当社は上記の一体型ハイブリッドシステムを、

①豊富なガスエンジンラインナップを有するエンジンメーカならではのエンジンダウンサイジング

②オイルセパレータ共用形冷凍サイクルの開発
により実現した。特にオイルセパレータ共用形冷凍サイクルを実現するための技術開発において、当社は複数の特許を取得した。

(2)高効率化

電気駆動コンプレッサ単独で運転するEHPもしくはガスエンジン単独で運転するGHPでは、効率の低い運転領域が存在する。一方、ハイブリッド空調システムでは空調負荷に応じて効率の良い駆動源を用いることで、幅広い運転範囲の効率アップを可能とした。

駆動源別機器効率
図4 駆動源別機器効率

(3)ガス・電気比率の最適運転制御

ハイブリッド空調システムではお客様の要望に応じて「省コストモード」「省エネモード」の2種類の運転モードを選択できるようにした。

「省コストモード」はガス・電気の従量料金が小さくなるように、「省エネモード」はシステムの一次エネルギー消費量が小さくなるように遠隔監視アダプタ内部で演算し、運転を制御する。具体的には、各時間帯の空調負荷に対して、A)電気駆動コンプレッサを優先的に運転した場合B)ガスエンジン駆動コンプレッサを優先的に運転した場合の各エネルギー消費量を予測する。「省エネモード」では、A)B)それぞれについてエネルギー消費量を予測し、消費量がより小さくなる運転モードを選択する。「省コストモード」では、A)B)各場合のエネルギー消費量予測結果にガス・電気の従量料金を掛けることでランニングコストを算出し、ランニングコストを低く抑えられる運転モードを選択する。

例として図5の①で示す夜間は、空調負荷が低く電力の従量料金も低い条件である。図4の機器効率で示すように、空調負荷の低い運転では電気駆動コンプレッサの方がガスエンジン駆動コンプレッサよりも高い効率で運転ができる。また夜間は電力の従量料金も低いため、電気駆動コンプレッサを優先的に運転した方が省コストの運転ができる。図5の②で示す昼間は、空調負荷が高く、電力の従量料金も高い条件である。この場合、消費電力量を抑えた方が省コストで運転ができるため、ガスエンジンを優先する運転を指示する。

このように、ハイブリッドシステムではエネルギー単価を考慮した運転切替を行うため、エネルギー価格の変動や料金体系の変化があっても、状況に応じた省コスト運転を実現することができる。

時間帯別最適運転例
図5 時間帯別最適運転例

(4)デマンドカット機能

遠隔監視アダプタはデマンドカット機能を有しており、契約電力に応じた目標デマンドを設定すれば、建物全体の受電電力量をパルス入力することで目標デマンドを超過しない運転制御を行う。この機能により建物全体の最大デマンド値を抑え、お客様の契約電力料金の低減を支援することができる。なお、ハイブリッド空調システムでは、電力デマンドが逼迫しているときでも、電気モータの運転を抑制しながらガスエンジンを用いた運転で空調能力を高いレベルで維持することができる。空調犠牲の抑制と電力デマンドカットの両立が可能な運転はハイブリッド空調システムならではの特徴である。

電力デマンドカットイメージ
図6 電力デマンドカットイメージ

(5)運転状態の見える化

省エネ効果の確認やムダ運転の抽出に対応するため、お客様のパソコンからインターネットを経由して、ハイブリッド空調システムの運転状態を閲覧可能とした。遠隔監視センターにストックされている30分毎の運転データを活用して、1日、1ヶ月、1年単位の運転トレンドグラフ表示やEHP(モデルケース)とのランニングコスト比較表示に対応している。

運転状態の見える化画面(例)
図7 運転状態の見える化画面(例)

5.おわりに

今回紹介したハイブリッド空調システムはエネルギー動向に左右されにくい最も先進的な空調システムである。国内外にかかわらず、エネルギー供給状況の変化に柔軟かつ安定的に対応する空調システムとして、多くの人々にメリットを実感していただくことができるものと確信している。

著者

ヤンマーエネルギーシステム株式会社 開発部

奥田 憲弘

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