ヤンマーテクニカルレビュー

より快適な"音"環境を求めて

Abstract

Recently, the demand for a low noise environment in vessels has increased. Cabin noise typically arises from a number of different noise sources, including the engine, exhaust, fans, and pumps. In most cases, the primary source of noise is the engine.
Vibration isolating mount systems are usually effective at reducing structure-borne noise, especially in medium- and high-speed engines. This article describes the techniques Yanmar adopted in collaboration with a ship builder to reduce cabin noise in a well-known sight-seeing ship.

1.はじめに

従来、ホテルや病院などの陸用建物における居住環境に対する要求レベルは高く、特に建物内に設置される発電機関からの振動騒音対策は機関本体だけでなく、機関につながる配管の防振支持や低騒音型給換気ファンの採用など建屋全体にわたって施されている。

一方、舶用業界においては豪華客船や官公庁の調査船など一部の船種ではすでに低騒音化が図られているが、機関室やエンジンケーシングに隣接して乗客室があるなど構造的な要因で低騒音化が困難である船種も多い。なお2014年7月からはIMO船内騒音規制が施行され、国際総トン数に応じて厳しい騒音規制が一般商船にも適用されることになるため、今後舶用業界でも低騒音化の要求レベルが高度化する可能性がある。

以上の現況に鑑みて、本稿では一般的な低騒音化手法と中高速機関を搭載した観光遊覧船における低騒音化対策の実施例を紹介する。

2.船内の騒音源

2.1.騒音源の種類

船内騒音源の種類は伝達経路の違いにより、大きく2つに分類できる。1つは機関や換気ファンなどの振動が船体構造物を介して壁や床などに伝わり放射される固体伝播音、もう1つは騒音源から放射された騒音が空気中を伝わってくる空気伝播音である。さらに空気伝播音は機関室隔壁などの船体構造物を透過してくる透過音と騒音源から直接伝わってくる直接音とに分類できる。

したがって、船内騒音を効率良く低減するためには、船体構造特性などを考慮した上で騒音に対する寄与の大きい騒音源(機器)を特定し、その特性に合わせた対策が必要である。

騒音源の種類
図1 騒音源の種類

2.2.騒音源の大きさと対策

船内では居住区暴露甲板等の直接音の影響が大きい場所を除き、居室と騒音源の間には隔壁があり、騒音(空気伝播音)は透過音となって居室に伝わる。このとき隔壁の透過損失(図2参照)分だけ低減されるため、一般的に居室の騒音レベルに対する透過音の寄与は大きくない。言い換えれば、目標騒音レベルにもよるが、居室の騒音対策としては機関などの騒音源からの放射音低減だけでは効果的でない場合が多い。

鉄板の透過損失
図2 鉄板の透過損失

経験的に船内居室騒音レベルに対する寄与が最も大きいのは、固体伝播音である。固体伝播音は、機器の振動が伝播して発生する騒音であるため、対策は機器からの振動減衰となる。代表的な低減手法として、機器の防振支持と制振処理および振動伝達経路の変更がある。防振支持による振動減衰特性のイメージを図3に示す。

また中高速機関は低速機関よりも機関回転数が高いため、防振ゴム防振装置の剛体モード周波数を機関の主要起振力成分よりも低く設定しやすい。 したがって、ほとんどの船で防振支持が有効であり、船内騒音低減策として機関の防振支持ができることは中高速機関の特長である。

防振支持による振動減衰(イメージ図)
図3 防振支持による振動減衰(イメージ図)

3.船内騒音低減の実施例

3.1.対象船

船内騒音低減の対象船は、2013年3月に就航した芦ノ湖の箱根海賊船【ロワイヤルⅡ】である。

船 主:
箱根観光船会社
造船所:
ジャパンマリンユナイテッド株式会社
エンジン:
ヤンマー株式会社
主機(防振):6HYP-WET,主発(防振):6HAL2-WT
船体:
全長35m,全幅10m
ロワイヤルⅡ全景
図4 ロワイヤルⅡ全景

3.2.対策内容

主たる対策内容は以下のとおりであり、ジャパンマリンユナイテッド㈱様による徹底的な施工により、当初予測とおりの騒音低減効果が得られた。

  1. 中高速主機関および主発電機関の防振支持
  2. 排気管の防振支持
  3. 発電機主ケーブルの防振支持
  4. 機関室壁への制振鋼板貼付
鉄板の透過損失
図5 防振支持施工状況

3.3騒音低減効果

箱根海賊船シリーズのうち、【ロワイヤルⅡ】とほぼ同型船で主機関を直据付している船と同じ位置(機関室直上のロビー)で騒音比較した結果、航行中で約10dBの騒音低減効果を確認した。

騒音スペクトルの比較 (航行中)
図6 騒音スペクトルの比較 (航行中)

「ロワイヤルⅡ」とほぼ同型船の振動騒音の詳細計測データと過去の知見を基に、主機関の防振支持を含めた今回実施予定の対策による騒音低減効果について、予測計算を試みた。その結果、表1のとおり、実測値との誤差は1dB以内に収まり、良い一致をみた。

表1 騒音対策効果の予測

騒音対策効果の予測

4.おわりに

本稿の掲載に際しては、箱根観光船株式会社様とジャパンマリンユナイテッド株式会社様の寛大なるご対応とご指導により、実現できましたことを厚く御礼申し上げる。

居住空間における振動騒音問題は、古くて新しい環境問題であり、次々と新しい計測器や対策品が市場に導入されている一方で、対策の基本となる解析手法や問題解決のアプローチに大きな変化は見られない。

今後、舶用市場で低騒音化の要求が顕在化してくるのに合わせて、解析手法や予測手法の大きな進歩が見込まれる。さらに並行して低振動低騒音のノウハウの蓄積も進められるであろう。引き続き対応を続けたい。

著者

特機エンジン事業本部 開発部

冨田 展久

ジャパンマリンユナイテッド株式会社

小柳 雅史