ヤンマーテクニカルレビュー

プレミアムデザインを採用した新型トラクタYT4/5シリーズの製品技術紹介

2016年10月27日

Abstract

A large-scale tractor was developed to be YT4/5 series in the spring of 2015 and it restyled it according to the timing of domestic and foreign exhaust emissions regulations. The medium-scale and large-scale rice farming and plowing a field are mainly used for the tractor of this class by farmers and the customer of the farming group. The YT4/5 series has advanced commercialization as it hangs to have the mission to propose new agriculture as Yanmar by the premium design, and to improve work, the comfort, and operation to the concept.

Moreover, this series reviewed the lineup from the small-scale to large-scale by the Yanmar tractor, aimed at sharing of parts and modules, and took the thought that improved the commercialization efficiency that both tied to the quality improvement.

In this text, it introduces the technology and the feature to make the concept an embodiment.

1.はじめに

2015年春より大型トラクタをYT4/5シリーズとして国内外の排ガス規制のタイミングに合わせてフルモデルチェンジを行った。このクラスのトラクタの主要ユーザは担い手農家、営農集団のお客様で中大規模稲作、畑作を中心に使用されている。YT4/5シリーズはプレミアムデザインということでヤンマーとして新しい農業を提案する使命を持ち、作業性、快適性、操作性を向上することをコンセプトに掲げて、商品化を進めてきた。

また本シリーズはヤンマートラクタの小型から大型までのラインナップを見直し、部品やモジュールの共用化を図り、商品化効率を高めるともに品質向上につなげる思想を取り入れた。

本稿では、コンセプトを具現化するための技術及び特徴について紹介する。

2.商品概要

2.1.外観

ホイル仕様
ホイル仕様
デルタ仕様
デルタ仕様
ロプス仕様
ロプス仕様
フルクローラ仕様
フルクローラ仕様

図1 外観

2.2.シリーズ構成

63PS~113PSの5型式でモジュール設計を行い、トランスミッション、キャビン、足廻りの違いの組合せで19仕様を実現した。

表1 仕様一覧

表1 仕様一覧

3.プレミアムデザイン

乗ること、所有することに誇りが持てるように洗練されたYTシリーズの統一したデザインを採用した。ヘッドライトは、ハイビームとロービームを上下に分けた4灯式とLED装飾灯を装備した。

限られた空間の中でデザインと機能性能を両立させるために、ベンチ試験とシミュレーションを行った。トラクタを含む農業機械は、走行速度が遅いため自動車と違い走行風による冷却効果は少ない。そのために冷却ファンを回すことになるが、ファン回転が早過ぎると、ロス馬力、ファン騒音増加につながる。そのためボンネット開口面積、各部品のレイアウト、各部温度、エアコン性能等をバランスさせながら性能を満足させた。

図2 フロントデザイン
図2 フロントデザイン
図3 風の流れシミュレーションイメージ
図3 風の流れシミュレーションイメージ

4.快適性

このクラストラクタを所有するお客様は1日中作業することもあり、運転席の快適性も重要な要素である。快適性を評価する指標として振動・騒音、空間、視界性に焦点をあてた。

4.1.エンジン防振フレーム構造

振動・騒音の起心源の多くはエンジンである。従来機種はエンジンとトランスミッションをボルト締結で構成しており、エンジンの振動・騒音がトランスミッションを通じて直接運転席に入ってきていた。YT4/5シリーズではトランスミッションを左右の大型フレームで挟み込み、その間に防振ゴムを介してエンジンを支える防振フレーム構造を採用することで振動・騒音を大幅に低減することに成功した。

図4 エンジン防振フレーム構造
図4 エンジン防振フレーム構造

4.2.大容量キャビン

運転席の空間については従来機種より左右幅で185mm、前後長さを60mm、上下高さを60mm拡大し、キャビン室内容積が25%アップすることで圧迫感を少なくし、快適な作業空間を実現した。

図5 キャビンサイズ
図5 キャビンサイズ

4.3. 330度視界

運転席の空間を広げるとともにフロントガラス、サイドドアガラスに継ぎ目のない大判の一枚ガラスを採用することで、広い視界性を実現した。また高輝度LEDワークランプの採用や、リヤガラスにはデフォッガを装備することで、夜間等でも視界を確保し、作業状態をよく確認できストレスなく作業ができる。

図6 キャビン視界
図6 キャビン視界

5.操作性

従来、運転席には多くの操作レバー、操作スイッチがあり、煩雑で使いにくいところがあったが、操作の優先順位をつけ、頻度の多いものは座席の近くで手が届くところにレバーレイアウトを見直した。特に操作類を集約したアームレスト一体型レバーは、あまり腕を動かすことなく手首、指で軽く操作できるため、操作しやすく、またシート位置にも影響を受けない。

図7 操作廻り
図7 操作廻り

大型トラクタは、多種多様な作業機を装着し、圃場や作物条件に応じて、作業状態を調整する。操作はオペレータの技量によるところが多い。そういう中でトラクタの状態をオペレータに知らせたり、作業速度、作業機を上下動させる反応速度等の細やかな設定ができるようにダッシュボードには大型メータパネル、右側にはカラーモニタを装備した。従来あったダイヤルやスイッチの機能をカラーモニタに集約することで、わかりやすく設定操作が可能となった。

メータパネル、カラーモニタ画面1
メータパネル、カラーモニタ画面2
メータパネル、カラーモニタ画面3
メータパネル、カラーモニタ画面4
メータパネル、カラーモニタ画面5
メータパネル、カラーモニタ画面6

図8 メータパネル、カラーモニタ画面

6.作業性

ヤンマー独自のI-HMTを搭載した無段変速トランスミッションをYT4/5シリーズのフルクローラを含めた全型式にラインナップした。ショックなく、スムーズな変速ができる電子制御無段変速のメリットを活かすことで、エンジンに加わる負荷に応じて、自動的にエンジン回転や速度変更することで作業性向上させるとともにエンストによる作業の中断を防ぐ。また作業速度と旋回速度の2種類の速度をワンタッチで切り換える機能も充実させ、操作性も向上した。

図9 I-HMTと動力伝達イメージ
図9 I-HMTと動力伝達イメージ

7.おわりに

今回、大型トラクタの数年ぶりのフルモデルチェンジで、開発初期段階からお客様の課題を解決し、良いものを提供することを念頭において商品化を進めてきた。排ガス規制、フレーム構造、プレミアムデザイン、モジュール化と多くの技術課題があったが、同時期に商品化プロセスを改革していこうと社内機運もあり、生産、販売、サービス、開発が一体となり、課題をクリアしていくことができた。今後もお客様の意見や要望を反映するため商品開発を継続していき、さらに良い商品を提供できるようにしていきたい。

著者

アグリ事業本部 開発統括部

石橋 文雄

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