ヤンマーテクニカルレビュー

HSTの紹介~高容量化を実現させたHSTの紹介~

Abstract

HSTs are installed on a wide variety of agricultural machinery used all over the world, including in US, European, and Asian markets.
This article describes the Kanzaki brand of HSTs.

1.はじめに

HSTとは、Hydro-Static Transmission(静油圧式無段変速機)の略称である。油圧アキシャルピストンポンプと油圧アキシャルピストンモータを組合せた閉回路構成をしており、油圧を介して動力を伝達する装置であり、1本のレバー操作で無段変速と中立・前進・後進の切替えが可能な商品である。

HSTはあらゆる農業機械など(図1)に搭載され、北米・欧州・アジアと世界中で広く使われている。本稿では、神崎高級工機製作所ブランドのHSTについて紹介する。

図1 HST搭載農業機械(例)
図1 HST搭載農業機械(例)

2.HSTの基本

2.1.基本構成

HSTは、エンジンからの動力を伝達する①インプットシャフト、HSTから車両へ動力伝達する②アウトプットシャフト、車両の進行方向及び車速を制御する③コントロールレバー、油圧の動力を伝達する④センターケース、アキシャルピストン式の⑤ポンプ及び⑥モータ、ポンプ吐出量を変更する⑦可変斜板及びモータ部の⑧固定斜板、HSTのメイン回路へ供給される油の圧力を設定する⑨チャージリリーフバルブ、メイン回路を閉回路にするための⑩チェックバルブ、メイン回路の圧力上昇を制限する⑪リリーフバルブ、ポンプ及びモータからの漏れを補充する⑫チャージポンプ、これらの部品を収容と油浴にさせる⑬ハウジングで構成されている。(図2)またHST油圧回路の構成例を記載する。(図3)

図2 HSTの主要構造
図2 HSTの主要構造
図3 HST油圧回路(例)
図3 HST油圧回路(例)

2.2.作動原理

①エンジンからの駆動により、HSTのインプットシャフトが回転し、これに結合されたHSTポンプ部が回転エネルギーを流体エネルギー(流量と圧力)に変換する。②可変斜板の角度を変化させるとこの流体エネルギーがHSTモータ部へ伝達される。③HSTモータ部で流体エネルギーが回転エネルギーに変換され、アウトプットシャフトにて動力が副変速・ギヤT/Mなどに伝達される。④可変斜板の角度を任意に変化させることが可能であり、これにより前後進で無段変速が可能となる。(図4)

図4 HSTの作動原理
図4 HSTの作動原理

3.神崎高級工機製作所HSTシリーズ構成

現在、容量13cm3/rev.~52cm3/rev.のHSTがあり、軽負荷作業用で廉価なシューレスタイプのHSTから、高負荷作業対応のシュータイプのHSTを揃えている。またシュータイプ高容量シリーズにおいては、サーボ式操作や電子制御操作にも対応している。これらのHST仕様一覧から、幅広くお客様のご要望に対応できるシリーズ構成となっている。(表1)

表1 神崎高級工機製作所HSTシリーズ一覧

表1 神崎高級工機製作所HSTシリーズ一覧

4.神崎高級工機製作所の取り組み

4.1.HSTからの展開

神崎高級工機製作所ではHST単体商品だけでなく、HSTとギヤドライブトレインを1つのケースに収めたIHT(Integrated Hydro-static Transaxle)や2つのHSTを利用したヤンマーコンバイン用FDS(Fulltime Drive System:常時駆動方式)トランスミッションやHSTの技術を利用したI-HMT(Integrated Hydro-static Mechanical Transmission)など各作業機毎に最適なシステム商品も開発している。(図5)

図5 HSTからの展開機種(例)
図5 HSTからの展開機種(例)

4.2.HSTの高容量化

神崎高級工機製作所では同サイズでの高容量化を実施し、これにより出力トルクを大幅に増加することができ、既存品・他社と比べて高出力化・軽量化を実現してきた。(図6)

  • 13cm3/rev.シューレス ⇒ 17cm3/rev.シュー:2.2倍
  • 23cm3/rev.シューレス ⇒ 23cm3/rev.シュー:1.4倍
  • 23cm3/rev.シュー   ⇒ 38cm3/rev.シュー:1.4倍
  • 37cm3/rev.シュー   ⇒ 52cm3/rev.シュー:1.4倍

※容量とリリーフ設定圧力より算出(表1参照)

図6 神崎高級工機製作所HSTの高容量化
図6 神崎高級工機製作所HSTの高容量化

5.神崎高級工機製作所HSTの特徴

次に神崎高級工機製作所のコンパクトなサーボ機構の特徴について説明する。本サーボは①サーボピストン、②サーボスプール、③可変斜板、④コントロールレバー部にて構成され、②サーボスプールを①サーボピストン内に構成することでコンパクトなサーボ機構を実現している。(図7)

また神崎高級工機製作所のサーボ部は、④コントロールレバー部をメカニカル仕様仕組から電子制御仕様仕組に交換することで、電子制御操作対応も可能にしている。(図8)

図7 サーボ部構造
図7 サーボ部構造
図8 サーボ部電子制御操作対応
図8 サーボ部電子制御操作対応

次に作動原理について説明する。(図9)

  • (1)外部から④コントロールレバー部を操作。
  • (2)④コントロールレバー部と連結された②サーボスプールが移動し、Aポートに油圧が供給される。
  • (3)Aポートから①サーボピストンの端面に油圧が供給され、①サーボピストンが移動。
  • (4)①サーボピストンの移動により、①サーボピストンと連結された③可変斜板が傾転。
  • (5)③可変斜板の傾転により、HSTポンプ部からHSTモータ部へ油が流れる。
  • (6)①サーボピストンが外部からの④コントロールレバー操作量に合った②サーボスプールの位置まで移動すると、油圧の供給を閉じる状態となり、③可変斜板を任意の位置で保持することができる。
図9 サーボ機構の構造、作動
図9 サーボ機構の構造、作動

6.おわりに

今日まで同サイズでの高容量化を実現し、各作業機の大型化・高出力化に対応してきた。今後は、高機能化・電子制御に対応したHSTをさらに開発し、他の作業機・新規市場に展開していきたい。また今まで蓄積してきたHST技術を活用し、お客様にとっての価値・課題を考え、優れた品質のトランスミッションなどのシステム商品も提案していきたい。

著者

株式会社神崎高級工機製作所 開発部

辻 智之