ヤンマーテクニカルレビュー

新型キャリアC30R-3の製品技術紹介~2ポンプ2モータシステム採用による進化した操作性と作業能力~

Abstract

A crawler carrier is a construction machine with crawler tracks and a dump vessel for carrying loads. It is used to carry sand or other construction materials to sites that are difficult to access by a dump truck or conventional truck due to rough ground condition. The C30R described in this article has long been a top seller in the YCE (Yanmar Construction Equipment Co., Ltd.) product range with 60% of the Japanese market.

The complete new model incorporates many improvement requests and makes the machine easy for customers to use while still retaining the durability and driving performance that have been so well regarded on previous models.

This article describes the new carrier and the features and technologies of its new hydraulic system that has been significantly upgraded compared to the previous model in order to satisfy the design concept.

1.はじめに

クローラキャリア(Crawler carrier)とは荷台に積荷を積んで運搬作業を行うクローラ式の建設機械であり、日本の法令では不整地運搬車に分類され、ダンプトラックやトラックが容易に入ることが出来ない軟弱地盤,不整地の作業場で建設資材や土砂などの運搬作業に幅広く使用されている。特に小型のクローラキャリアは狭所作業が求められる山岳地帯での作業や河川の改修工事などで多く使用されている。

本稿で紹介するC30Rは小型クローラキャリアとして1991年の初代発売開始以降、その耐久性と走破性が評価され、国内シェアトップの60%以上を誇るマーケットリーダーとして長年に渡り販売されている。

今回、国内外の排ガス規制のタイミングに合わせて10年ぶりにフルモデルチェンジを行い、2017年に商品化を行った。フルモデルチェンジでは、従来機で評価をいただいていた耐久性と走破性を継承しつつ、従来機での改善要望を多数織り込み、時代の先端を走る革新的な機械とした。中でも特に改善要望の多かった操作性の向上と海外市場への適用を開発コンセプトに掲げ、商品化に取り組んだ。

本稿では、新型C30R-3の商品概要と開発コンセプトを達成する為に従来機から大幅に変更した新油圧システムの特徴と適用技術について紹介する。

2.商品概要

新型C30R-3(図1)は特定特殊自動車排ガス2014年規制に適応したDPF付電子制御コモンレール式の高出力エンジンと新油圧システムの採用により、環境への適応と作業性能向上の両立を実現した。また、海外市場に適用する為に欧州需要の8割を占める旋回ベッセル仕様を新規に設定した。

標準仕様
標準仕様
旋回ベッセル仕様
旋回ベッセル仕様

図1.新型クローラキャリア(C30R-3)

3.本機の特徴

従来機の1ポンプ1モータ+トランスミッションから走行系油圧システムを大幅に変更し、小型クローラキャリアでは国内で初めて1レバー操作方式による2ポンプ2モータシステムを採用した。(図2)その新油圧システムの特徴を操作性,快適性,経済性の3項目に分けて紹介する。

2ポンプ2モータシステム概要
図2.2ポンプ2モータシステム概要

3.1.操作性

2ポンプ2モータシステムの採用により左右のクローラを独立して制御できるようになった為、従来機では出来なかったスピンターンと緩旋回が可能になりステアリング操作の自由度が大幅に向上した。スピンターンが可能になったことで、最小旋回半径が小さくなり、狭所での作業性はさらに向上した。(図3)

旋回半径の比較
図3.旋回半径の比較

また、従来機では強制かつON-OFF的に片側のクローラをブレーキで止めることによりステアリングしていた為、断続的でショックが大きかったが、新型機では左右の走行モータに流れる流量を制御することでステアリングする為、スムーズでなめらかなステアリングが可能となった。

3.2.快適性

レバー1本で直進,ピボットターン,スピンターン,緩旋回の操作が可能なリストコントロールレバーによる1レバー操作方式を国内の小型クローラキャリアで初めて採用した。(図4)リストコントロールレバーの角度に応じてポンプに比例制御信号を入力する事により、レバーを倒した方向に本機が動作し、倒す量に応じて加減速ができる為、直感的で快適な操作が行える。

操作方式
図4.操作方式

3.3.経済性

高負荷時は走行モータが低速側に切り替わる自動変速機構を有効に用い、油圧ロスが無い最適な速度を自動で選択する制御とエコモードの採用により、従来機からの燃費低減を図った。自社評価パターンで測定した結果、従来機から13%の燃費低減を達成した。

また、トランスミッションを廃止したことで、300時間毎に必要だった摩擦板の交換が不要になり、ランニングコストの低減も図っている。

4.適用技術

操作性向上を達成する為に2ポンプ2モータシステムを採用した事に伴う新たな課題への適用技術について紹介する。

4.1.作業能力とトルクマッチングの両立

2ポンプ2モータシステムの採用により、片輪駆動時の油圧トルクは両輪駆動時の半分となり、従来機同等の作業能力を確保する為には従来機を大幅に超える油圧トルクの設定が必要になる。この油圧トルクアップに対し、エンジンのサイズアップを図った場合はコストアップや燃費悪化に繋がり、従来機並のエンジンサイズで作業能力を確保しようとすると、高負荷作業時にエンストが発生する。(図5)

従来機並のエンジンサイズで作業能力とエンスト防止を両立させる為に、エンジン回転のダウン量に応じてポンプの吐出流量を減らす油圧スピードセンシング制御(図6)を採用した。

最大負荷時の油圧トルク比較
図5.最大負荷時の油圧トルク比較
油圧スピードセンシング制御の概要
図6.油圧スピードセンシング制御の概要

油圧スピードセンシング制御の採用により最適なトルク設定が可能となり、自社評価パターンで作業能力を測定した結果、従来機を30%上回り、作業能力とエンスト防止の両立を達成した。また、油圧スピードセンシング制御は、電子制御を必要とせず、コントローラが不要な為、コストの抑制も図っている。

4.2.坂道の駐車性能の確保

小型クローラキャリアは山岳地帯で多く使われる為、坂道での駐車性能が求められる。2ポンプ2モータシステムを採用すると従来機からポンプとモータの数が倍になる為、油圧システムのモレ量が多くなり、坂道停止時に本機が自重で自然降下する速度は速くなる。

坂道停止時の駐車性能を確保する為に停止時は自動で走行モータの容積を低速側に切り替えるシフトダウン制御(図7)を採用した。

シフトダウン制御の概要
図7.シフトダウン制御の概要

シフトダウン制御の採用により、自社評価パターンで測定した際の自然降下速度は従来機から30%低減された。また、発進時は常に低速発進となる為、操作レバーを急操作した際でも、なめらかな発進が可能となった。

5.おわりに

新型C30R-3は従来機の慢性的な改善要望の織り込みと海外市場への適用を両立させるという高いハードルを達成する為に従来機から大幅にシステムを変更し、商品開発を進めてきた。特にヤンマー建機としても初の試みとなる1レバー操作方式による2ポンプ2モータシステムの開発には、企画段階では想定もしていないような多くの困難があった。それらの困難を1つずつ解決し商品化にたどり着いた新型C30R-3は、多くのお客様により良い価値をご提供できる商品であると確信している。

今後もお客様の声を収集し、お客様目線の企画を行い、お客様に満足していただける商品開発を継続していきたい。

著者

ヤンマー建機株式会社 開発部

小野 純弥