ヤンマーテクニカルレビュー

プレジャーボートにおける快適性向上技術の紹介
~Wakuwaku-boatのテクノロジーについて~

Abstract

The major factors in pleasure boat comfort are auditory, visual, and tactile.

The noise and vibration are the first things people notice when riding in a boat, and there has been ongoing research into how to reduce the level of sound pressure, particularly as the spread of the mobile phone.

Recent years have also seen a rapid increase in the level of market demand for dealing with discomfort arising out of the visual or tactile, meaning the colors and brightness to which the eyes are exposed, and how things feel to the touch. Also in demand are techniques for preventing discomfort due to insufficient air conditionings and the rolling and impact that occur when the boat is in cruising.

This article describes the techniques adopted on the Wakuwaku-Boat in response to these high demands in the level of comfort.

1.はじめに

プレジャーボートに求められるものは、広大な海を豪快に駆け抜ける楽しさ、心地よい至福の時間に包まれる明るく開放的で贅沢な自遊空間、クルージングの喜びを深める快適性である。

本稿では、乗り心地向上技術、魅力的な内装向上技術、心地よい空間を実現させる技術について以下記述する。

供試艇は、プレジャーボートEX33A2をベース船として製作した。

図1

2.課題

2.1.乗り心地向上

ボートは航行中、波浪による大きな衝撃エネルギーを受ける。(図2)

図2
図2

この衝撃は船体を伝わり、乗船者に大きな不快感を与える。また、この衝撃が伝播する時に不快な音(ビビリ、キシミ)が発生し、乗船者を不快にさせる大きな要因となっている。
課題は、衝撃伝播の低減である。

2.2.魅力的な内装

魅力的な内装を実現するには、人がもつ感覚器官のうち、視覚、触覚からくる感覚を変える新しいデザイン技術が必要であり、内装パネルに新技術を導入するため自動車業界の内装デザインを取り入れる必要があった。
課題は、感覚を変えるデザインの実現である。

2.3.心地よい空間

心地よい空間を実現させるためには、快適な空調設計、開放感のある空間造り、やすらぎ間のある空間造りがあげられる。ボートで出航した時、直射日光を避けることは出来ず、熱エネルギーは船のFRP囲壁、及び窓ガラスからキャビン内へ侵入してくる。(図3)
また、暖かい空気は上方に滞留し、空気循環しない時は不快感を助長する。(図4)
課題は、外部からの熱エネルギー侵入の抑制、及び空気循環を効率よく行うための空調設計の最適化、間接照明による演出効果の使い方である。

図3
図4

3.試験研究の取組内容

3.1.乗り心地向上(衝撃伝達の課題に対して

衝撃伝達の低減するためには以下の2点があげられる。

  • 衝撃を発生させない船型の改善
  • 衝撃を伝播させない高剛性ハル

本試験研究では、船型を変えないで衝撃を伝播させない高剛性ハルに取組む事とした。

(1)船体構造

従来の船体積層構成は、図5に示すような単板構造であるが、剛性を高めるために真空成形工法を検証し、サンドイッチ構造(図6)を採用した。
剛性値(EI)は、船体中央横断面において算定した。

(2)衝撃加速度の減衰

図7は、パンチング時の船体への衝撃加速度の変化を示したものである。
青いラインが従来の単板構造艇で、赤ラインが真空成形によるサンドイッチ構造艇である。
従来の単板構造艇に比べ、剛性が大きいため減衰が速いことがわかる。

図7
(3)騒音レベルの低減

船内バース部において、波当たり音による騒音値の低減効果を確認した結果、標準艇は、84.43dB(A)であり、供試艇は、81.19dB(A)であった。

図8
(4)官能評価

航走時の官能評価についは、標準艇を基準値として評価を実施した。

図9
(5)結果

船体構造を変更したことで、船体の剛性値(EI)は20%向上し、加速度の減衰を改善できたことで衝撃伝播を低減することができ、同時に船体質量を150kg低減し、軽量化も達成した。
また、騒音レベルを計測した結果、3.24dBの低減効果があることが確認できた。
官能評価では、標準艇と比較して総合的に38%向上していることを確認した。
結果、高剛性ハルに取り組んだことで、衝撃伝達の低減が出来、乗船者を不快にさせるキシミや、ビビリが抑えられ、航走時の快適性を向上させることができた。

3.2.魅力的な内装(感覚を変えるデザインの実現

(1)デザインの構想

自動車業界で内装を手掛けるメーカーと共同研究に取り組み、外観向上、すっきりした空間、心地よい空間をキーワードにキャビン天井及びバース壁面のデザインを考案した。

(2)デザインの実現

供試艇でそのデザインを実現させた。標準艇と供試艇の比較を図10に示す。
使った素材は、軽量でありながら、しっかりとした剛性を持ったGF/PP基材(ガラス繊維とポリプロピレンの複合素材)であり、表皮をアレンジしてキャビン天井部とバース部で印象及び質感に変化を持たせている。
また、GF/PP基材は、クッション性を持った柔らかい素材で触り心地がやさしいものとなった。

標準艇(キャビン天井)
供試艇(キャビン天井)
標準艇(バース)
供試艇(バース)

図10

(3)官能評価

バース空間、キャビン空間について官能評価を実施した。

図11
図12
(4)結果

バース空間については37%のイメージ向上、キャビンについては27%のイメージ向上を図ることができた。
結果、すっきりとした落ち着いた魅力ある内装を実現させることができ、感覚を変えるデザインを実現した。

3.3.心地よい空間

(1)断熱キャビン

数年前からキャビンの開放感、視界性向上から、ガラス窓の面積に占める割合が大きくなってきた。その分、窓ガラスから侵入する赤外線量が増え、快適な空調を実現させる必要性が高まり、断熱キャビンに取り組んだ。
キャビンルーフ、およびキャビン側面のFRP囲壁部は、空気層を作ることができる3次元中空構造ガラス繊維の採用検討、ガラス窓には赤外線をカットできる遮熱フィルムの採用を検討した。

図13

(a)断熱性能

図14は、標準艇のキャビン囲壁の断面である。図15は3次元連続中空連続ガラス繊維を採用したキャビン囲壁断面である。

図14
図15

熱伝導を計測し、熱抵抗値から断熱性を比較した結果、約2倍の断熱効果があることを確認した。

表1

試験片 厚み 熱伝導率 熱抵抗値 断熱性比較
名称 構成 mm W/mK R値
標準艇 MMMRM+MMM 6.5 0.14 46.4 標準艇:供試艇
1:2.1
供試艇 MM+PG/5+MM 10.0 0.10 100.0

(b)遮熱による温度差測定

遮熱フィルム(A)の効果として、透明ガラスと遮熱フィルムにおいて300秒後の温度差が7.9℃であることを確認した。

図16

(c)断熱キャビンとしての能力

総合的に断熱キャビンでは、必要冷房能力が22%低減させることができ、エアコンのダウンサイジングが可能であることを確認した。

  • 要求冷房能力計算値
    標準仕様=4,514kcal/h(5.248kW)
    断熱仕様=3,678kcal/h(4.277kW)
(2)空気循環の向上

従来の小型ボートでは空調の吹き出し位置を上部にすることはスペースの兼ね合いから困難であった。今回、自動車用の内装研究を実施し薄型の天井ダクトを考案したことで天井部に空調の吹き出し口を設けることが可能となった。
これにより、還流効果に加え、直接風を受けにくい心地よい空間を実現した。

図17
(3)間接照明による演出効果の向上

やすらぎ感を向上させるために、キャビン天井部とバース部の壁面へLEDの間接照明の採用を検討した。このふんわりとしたやさしい光による遊び心に加え、リラックスできる空間を実現した。

図18

4.採用の可否

航走時の不快感解消を実現させる為の高剛性ハルは、2016年にプレジャーボートFM28Bで量産展開しており、2017年新規開発艇EX34では、高剛性ハルに加え、魅力ある内装についてもバース部に採用し量産を開始する。ただし、心地よい空間技術に関しては、量産採用時コスト検討が必要である。

5.最後に

Wakuwaku boatは、2015年に設計検討・試作製造を行い2016年に試験・評価が完了した。
現在(2017年)は、究極の乗り心地を追求するWakuwaku Ⅱを推進しており試作製造中である。今後とも、市場の要求の高まりに対応出来る様に、又、お客様の期待を超える価値提供をめざし日々取り組んで行きたい。

2017年新規開発艇 EX34
wakuwaku技術の織り込み
サスペンションボート
Wakuwaku Ⅱの推進

図19

著者

ヤンマー造船株式会社 商品統括部

木村 行彦

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