ヤンマーテクニカルレビュー

歯車設計における低騒音化技術の紹介

Abstract

This article describes the simulation technology concerning silencing of power transmission gears. Generally, gear noise is unpleasant because of high frequency noise which is generated by the rotational fluctuation (transmission error) which is caused by the tooth flank shape and manufacturing error. In order to reduce the transmission error, it is necessary to determine an appropriate tooth profile in consideration of the influence of multiple factors.

The simulation technology for transmission has been using in product design since 2012. An example that transmission error and gear noise are reduced by optimizing tooth profile using this simulation technology is shown.

1.はじめに

神崎高級工機製作所は、ヤンマーグループにおけるコンポーネント事業として、油圧機器や各種変速機(トランスミッション)を開発・製造・販売している。特にトランスミッション内部の基幹部品である歯車に関しては、設計から製造技術まで多くの経験やノウハウを有している。一方、近年では作業機の高速化と快適性向上に伴い、歯車騒音の低減が強く求められており、従来技術では対応が困難である。本稿では、当社で現在取り組んでいる、歯車騒音の低減を目的とした解析技術について概要を述べる。

2.歯車騒音の分類

一般的にトランスミッションの歯車騒音は、うなり音(Whine noise)と歯打ち音(Rattle noise)に分類される。(表1)うなり音が高い場合は数kHzの高周波音となり、歯車の歯面形状の微小な誤差や歯の剛性が主な原因である。これに対して、歯打ち音は歯面同士が接触する衝撃音であり、歯車に入力される負荷変動や歯面同士の隙間(バックラッシ)が主な原因である。当社で取扱う製品群では、主に歯車のうなり音が問題となる場合が多く、開発設計段階での歯面形状の作りこみや、加工後の品質評価に注力している。

表1 歯車騒音の種類と特徴

表1 歯車騒音の種類と特徴

3.うなり音の発生メカニズム

歯車のうなり音は、歯面形状や製造誤差によって発生する微少な回転変動が起振力となり、歯車軸を支持している軸受を介してハウジングに伝達され、ハウジング表面が振動することにより発生する。(図1)

このような回転変動は、かみ合っている歯車の回転角度に誤差が生じるためであり、これを伝達誤差という。

図1 うなり音の発生メカニズム
図1 うなり音の発生メカニズム

伝達誤差の発生要因をさらに分類すると、幾何学的な要因と歯の剛性による要因に分類される。幾何学的な要因(図2)では、組立誤差や負荷時の軸のたわみなどにより理想的なインボリュートのかみ合いに対する誤差が発生し、従動歯車側の回転角度が増減する。また、歯面上に凹凸形状(誤差)が有る場合は、回転角度が変動する。

図2 伝達誤差の幾何学的な要因
図2 伝達誤差の幾何学的な要因

歯の剛性による要因(図3)では、同時にかみ合う歯の枚数が変動することにより、かみ合い剛性が変化するため、従動側の歯車回転角度に変動が発生する。

以上のように幾何学的な要因と、歯の剛性による要因が複合的に作用することで、伝達誤差が変動し起振力となる。したがって、騒音の少ない適切な歯車を設計する上ではこれらを考慮し、歯面形状を決める必要がある。

図3 伝達誤差の歯剛性の要因
図3 伝達誤差の歯剛性の要因

4.伝達誤差の低減方法

歯車の伝達誤差を低減するためには、前述の通りに複数の要因を考慮する必要がある。
図4では、理想的なインボリュート形状を持つはすば歯車(非修整)と、任意の歯面修整を施したはすば歯車におけるトルクと伝達誤差の関係を示している。ここで示す歯面修整とは、理想的なインボリュート形状に対して、図4右側に示すような意図的な形状誤差を与える所作を言う。負荷トルクの低い領域では、形状誤差の少ない非修整歯車が伝達誤差の変動に対して有利であるが、一定以上の負荷トルク領域では、歯面修整歯車が有利となる。このように、歯車に作用する負荷によって適切な歯面修整を施すことにより、伝達誤差の変動を低減することが可能である。

図4 トルクと伝達誤差の関係
図4 トルクと伝達誤差の関係

歯車がトランスミッション内部で受ける様々な影響を事前に予測し、設計段階に反映させるため、当社では2012年よりトランスミッション解析技術(図5)を構築し、製品設計に利用している。本解析技術では、各種歯車の歯面形状を詳細に入力することが可能であり、歯車軸や軸受等の変形を考慮することで、実使用環境における伝達誤差や強度の評価が可能である。

図5 トランスミッション解析技術
図5 トランスミッション解析技術

5.製品設計の適用例

歯車の伝達誤差を低減した事例として、ユーティリティビークル用減速機の例を紹介する。
このケースでは初期の設計段階におけるかさ歯車の歯面形状に対して、図6に示すように軸や軸受等の各部品の変形による歯面のズレを考慮し、3次元的な歯面修整を検討することで、伝達誤差の低減を目指した。

図6 ユーティリティビークルトランスミッション用かさ歯車の3次元歯面修整
図6 ユーティリティビークルトランスミッション用かさ歯車の3次元歯面修整

改善歯面形状の性能に対する効果を確認するため、現行量産品と改善品の歯面形状と伝達誤差及びかみ合い騒音を測定した。
伝達誤差の測定結果(図7)では、左側の測定値を次数比分析したものを右側に示している。各かみ合い次数比において、改善品では伝達誤差の変動幅が低減していることが確認できた。
かみ合い騒音の測定結果(図8)では、改善品ではかみ合い周波数の2次と3次の周波数において、騒音が大幅に低減していることが確認できた。

図7 現行品と改善品の性能比較(伝達誤差)
図7 現行品と改善品の性能比較(伝達誤差)
図8 現行品と改善品の性能比較(かみ合い騒音)
図8 現行品と改善品の性能比較(かみ合い騒音)

6.おわりに

本報では、当社における歯車の低騒音化に関する解析技術について紹介した。本技術は、新規の各開発プロジェクトにて運用されており、設計段階における性能予測に貢献している。今後は、このような解析技術を応用し、製品のさらなる小形化と高出力化を実現させると共に高い信頼性を担保することで、お客様に喜ばれ信頼される品質のソリューションを提供し続けていきたい。

著者

株式会社神崎高級工機製作所 開発部

橋間 弘明