ヤンマーテクニカルレビュー

中央研究所バイオイノベーションセンター倉敷ラボの紹介

2019年4月3日

1.はじめに

2016年8月、ヤンマーは植物関連分野における知識・情報の集積を行う研究・開発拠点として「バイオイノベーションセンター倉敷ラボ(以下、倉敷ラボ)」を設立しました。農業機械などの開発で培ってきたハード分野の技術に、農作物に関する知識・情報といったソフト技術を加え、新たな研究開発・ソリューションの創出に取り組むことで、ブランドステートメントである”A SUSTAINABLE FUTURE”に向けて、資源循環型の食料生産を実現する技術開発を目指します。

施設外観
施設外観

2.倉敷ラボの施設

倉敷ラボでは、ヤンマーが培ってきた農業関連技術・商品やエネルギー関連技術を融合させ、食料生産の一貫体系を構築し、さらなる効率化、付加価値向上を目指して研究を行っています。例えば、ハウスや栽培システムはYGS(ヤンマーグリーンシステム株式会社)の商品、ハウス内の空調にはYES(ヤンマーエネルギーシステム株式会社)のGHP(ガスヒートポンプエアコン)、潅水システムはYAJ(ヤンマーアグリジャパン株式会社)の商材を導入し、収穫後にはYGSの分光計測を用いた非破壊式の選果システムで、サイズや糖度ごとに作物の選別を行うとともに、栽培中・収穫後のデータを詳細に解析しています。

特に、イチゴ栽培に用いているYGSの高密植移動栽培装置は栽培棚が動き、作業が終わると次の栽培棚が目の前に来るという仕組みなので、農作業者が一か所にとどまり栽培管理を行うことができます。そのため、作業者が通るための通路が不要で、ハウス1棟当たりの収穫量を増やすことができるだけでなく、下半身が不自由な方やご高齢の方の身体への負担を和らげることができます。こうした施設を実際にお客様に見学していただくことで、実際に導入するとどうなるか、イメージしていただきやすくなっています。
また、ヤンマーシンビオシス株式会社の倉敷センターも当研究所内にあり、障がいのある方にも栽培管理等を行ってもらっています。私たちは、このような新しい栽培方法が作物に及ぼす影響を、収穫量から遺伝子まで解析することで、植物に関するデータを集積しています。

昨年度は約1,700名、現在までで約3,000名の方に研究所内を見学いただきました。他研究機関の方から生産者の方々まで、多様な所属の方に見学いただき、意見交換を行っています。今後もオープンイノベーションの場として、様々な研究機関や企業と共に研究を進めて行きたいと考えております。

高密植移動栽培装置を用いたイチゴ栽培
高密植移動栽培装置を用いたイチゴ栽培

3.倉敷ラボの取り組み

倉敷ラボでは以下の図に示すような、資源循環型の食料のサプライチェーンの構築を目指しています。特に重点領域として研究を進めている3点について紹介させていただきます。

3.1.遺伝・育種領域の研究(重点領域01)

本研究領域では、農作物が有する遺伝情報を明らかにし、育種や細胞培養、接木などの技術を用いて、価値がある新しい品種を開発すると共に、関連する基盤技術を構築します。優れた「品種」を開発することで、生産者には栽培のし易さ、消費者には美味しく安全な食料を提供することを目指します。

近年生命科学の進展により、これまで未解明であった農作物の形や機能を決める遺伝情報が急速に解き明かされています。遺伝情報は生命の設計図といえます。実は農耕が始まったころから、人類は農作物を利用しやすいように改良を加えてきました。しかし、設計図がわかっていなかったため改良には長い時間がかかり、農作物の潜在能力の一部しか利用できていませんでした。「遺伝情報を知り、利用すること」とは、設計図を手に入れ、短期間で農作物が潜在的に持つ力を最大限に引き出すことです。私たちはこうした情報を取り入れつつ、開発した品種とそれを扱うハード技術の両方を通じて生産者・消費者をはじめとするお客様の課題を解決したいと考えています。

様々な形態をもつイネの穂
様々な形態をもつイネの穂

3.2.栽培・環境の見える化(重点領域02)

本研究領域では、栽培過程における生育データ・環境データを取得しそれらを解析することで、環境の見える化、栽培の効率化を目指しています。これまで、ベテラン農家さんしかできなかった経験と勘に基づく栽培管理の理論を紐解き、誰もが農業に取り組める環境を整え、効果的な栽培管理法を確立したいと考えています。特に、栽培時に重要なハウス内の大気環境を見える化する時には、エンジンの研究開発で培ってきた、流体解析の技術が活かされています。

トマトは背を伸ばしながら(栄養成長)、花を咲かせ実を成らせる(生殖成長)ことを繰り返すので、そのバランスを潅水と空調で制御することにより、安定した品質での周年栽培を可能としています。植物生理学と栽培管理や環境制御とを結びつけ、そこで得られた知見を活かした技術を確立することが今後の栽培管理において重要となります。これらの技術の確立が新たなソリューション提供につながると信じて日々試験研究を行っています。

トマトの栽培風景
トマトの栽培風景

3.3.微生物の有効活用(重点領域03)

本研究領域では、微生物を活用し、栽培中に発生する残渣を分解処理し、土壌改良剤や堆肥として利用するための研究を実施しています。一般的に、短時間で分解処理した栽培残渣を直接圃場に撒くと、有機酸などにより土壌や植物の生育に悪影響が出る場合がありますが、微生物により適切に分解処理を行うと、それらの悪影響が抑制できることがわかりつつあります。このような資源の再利用により、生産性・経済性を保つことが、化学肥料に頼らない資源循環型の食料生産につながると考えています。

また、他の病原菌の蔓延を防ぐ、あるいは、植物そのものの病気やストレスに対する耐性を高める機能がある、といった植物にとって有益な微生物を、土壌や植物に接種することで、化学農薬に頼らない食料生産を実現したいと考えています。

栽培残渣の分解と分析
栽培残渣の分解と分析

4.おわりに

持続可能な食料生産のため、ヤンマーでは最大の豊かさを最少の資源で実現する技術創出を掲げています。今後も倉敷ラボではお客様の課題を解決し未来につながる社会とより豊かな暮らしを実現するために、ソフトとハードを融合させた技術開発に取り組んで参ります。

著者

中央研究所バイオイノベーションセンター倉敷ラボ

池本 麻衣