ヤンマーテクニカルレビュー

中国市場向けコ-ン収穫機用HMTユニットの製品技術紹介
~最終商品の性能を左右する縁の下の力持ち~

Abstract

A hydraulic-mechanical transmission (HMT) combines planetary gears with a hydrostatic transmission (HST). Yanmar has now developed a new product that integrates these into a single unit.

Called the HMT unit, it is designed to fit in existing transmissions without significant changes to the drive train layout.

The HMT unit improves the operation, performance, and efficiency of the machinery in which it is installed, and it has been fitted in wheat and corn harvesters launched on the Chinese market in 2018.

Yanmar is currently awaiting user feedback.

1.はじめに

中国農村経済体制の改革が進むにつれ、中国の農業は機械化を主導とする時代に入った。

農業機械が徐々に生産に取り入れられ、農業生産の主力となりつつある。又、その一方で農業の効率化(省力化や低コスト化)を展開する傾向も強まっている。

これまで、水稲用クロ-ラ式収穫機に主力を置き機械化、油圧無段変速化を推進してきたが、畑作用自走式収穫機にも油圧無段変速化のニ-ズが高まってきたため、小麦・トウモロコシ収穫機用として油圧-機械式変速機HMTユニットを開発したのでここに紹介する。

2.中国畑作市場

中国は1990年代後半から始まった大規模な都市化により、農業の人手不足を解消するため農業政策を実施し、農業の機械化を加速させてきた。収穫機械では水稲用クロ-ラ式収穫機を中心に油圧無段変速化を展開しているが、2012年以降、トウモロコシ市場が飛躍的に伸び、水稲市場に匹敵する市場規模となっている。2017年は備蓄在庫量適正化のため生産調整が行われたが、政府の農村振興政策の実施により市場は回復すると予想される(図1)。

図1 中国三大収穫機販売状況統計 出展:中国農業機械工業協会
図1 中国三大収穫機販売状況統計
出展:中国農業機械工業協会

3.HMT概要

油圧を利用した無段変速機には、油圧ポンプと油圧モータをオイルラインのみでつなぐ油圧式無段変速機(HST:Hydraulic Static Transmission)と、油圧ポンプの駆動力を出力軸で回収する油圧-機械式変速機 (HMT:Hydraulic Mechanical Transmission)がある。一般にHSTはあらゆる速度域で最適な変速比を得られる一方、油圧だけで動力を伝えるため漏れの影響により伝達効率がよくない。しかし出力軸を自由に配置することで、全体を小型にまとめられることができるため、建設機械、農業機械などに広く使われている。一方、HMT(油圧-機械式変速機)は、ポンプを駆動するトルクが油圧モータの駆動するトルクに加算される。このため、HMTはHSTより高い伝達効率と大出力の伝達が期待できる。HMTの市場への導入は1995年から大型トラクタに採用され、ヤンマ-では国内はもとより海外にHMTを採用した農業機械を販売している。技術的には成熟していると考えられるが、普遍的HMT形態というのは未だ確率されていない状況にある。

4.HMTユニット構成

今回開発したHMTユニットは、油圧駆動部のHSTと動力分割部の遊星歯車を一体構造とし、ユニット化することで多種多様な機械式トランスミッション(以下T/M)への搭載を可能とした(図2)。

T/Mは、そのほとんどの部品を機械式CVTと兼用でき、駆動系のコストメリットを生み出している。本機への搭載も従来のT/Mと同じ取り付け方法を有するため、量産機への換装を容易にしている(図3)。

図2 HMT UNIT
図2 HMT UNIT
図3 HMT UNIT搭載図
図3 HMT UNIT搭載図

5.HMTユニット構造

HMTは、先に述べた様にポンプを駆動するトルクが油圧モータの駆動するトルクに加算されることにあるが、その方法には入力分割、出力分割と各ギヤの組合せによって全12通りがある。今回採用した構造を図4を参考に説明していく。

図4 詳細構造
図4 詳細構造

エンジンからの動力は、入力軸に伝達され①インプットギヤで機械式動力伝達(遊星ギヤ)と油圧式動力伝達(HSTポンプ)に分割される。

機械式動力伝達経路は、①インプットギヤから遊星部の②インタ-ナルギヤに伝達された動力はピニオンギヤを介し④キャリアから出力される。

油圧式動力伝達経路は、HSTポンプからHSTモータで油圧動力に変換され、③サンギヤへと伝わる。その後、遊星部を介して出力される。

総出力は機械式動力伝達と油圧式動力伝達の合成になり、高い伝達効率と大出力の伝達が可能となる。本構造は、下表1のHMT出力分割方式の6Aに相当する。

表1 出力分割分類(6通り)

表1  出力分割分類(6通り)

6Aの採用に対しては、T/Mの減速比を考慮し、出力分割方式6通りの入出力回転速度および入出力トルクを比較し、要求仕様を満足するために最適な方式を選定している(図5,6)。

図5 回転速度比較
図5 回転速度比較
図6 トルク比較
図6 トルク比較

6.性能評価

52ccHSTをHMT化することで、ユニット単体の最大出力は出力マップ(図7)からHST単体性能の約4倍の大出力を発生する。又、全効率は79%、弊社HST全効率70%と比較しても高効率であるといえる(図8)。

図7 出力マップ
図7 出力マップ
図8 全効率比較
図8 全効率比較

本ユニットの性能をもって本機に搭載した場合、駆動系で100PS相当の出力に相当し、本機重量6800kgでのアスファルトおよび圃場での実測牽引力に対し、約1.3倍の余裕をもつ結果となり、最大9000kgの本機に搭載可能であることを確認できた(図9)。

図9 牽引力-車速性能線図
図9 牽引力-車速性能線図

7.おわりに

本商品は2018年2月に量産を開始し、麦・トウモロコシ収穫機として中国市場に投入された。現在お客様の評価を待つ状況にあるが、好評価の情報も入っており今後の増産・拡販に期待がもたれる。

開発した商品は、遊星歯車とHSTとの既存技術の組合せをユニット化したものであるが、それをT/Mと結合し、本機へ搭載して実際に作業をすると、本商品の果している役割や、その良さが見えてくる。コンポ-ネントは決して表舞台に上がることはない商品ではあるが、最終商品の性能を左右する役割を担っている。ゆえに油圧・T/M技術を向上することはもちろんのこと、最終商品である本機の姿を見ながら、お客様の要望を理解し提案を行える商品の開発をおこなっていきたい

参考文献

日本工業出版(株)油空圧技術2001.3 筆者 長友邦泰
日本機械学会関東支部・精密工学会山梨講演論文集
著者:増澤紘一(東京工科大 大学院)、一柳健 (東京工科大)
巨明GIMIG Home page(http://www.sdjuming.com/)

著者

株式会社神崎高級工機製作所 開発部

東泊 良隆

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