ヤンマーテクニカルレビュー

オート田植機 YR8D,Aの紹介
~密苗との組み合わせで、さらなる軽労化の実現~

Abstract

Achieving straight rows when operating a rice transplanter depends on the skills and experience of the operator. Similarly, achieving equally spaced rows also requires high levels of concentration and can be fatiguing over long periods of operation.

Auto-rice transplanters use automatic steering to help keep the transplanter in a straight line during planting. By eliminating a task that would otherwise demand a high level of concentration, auto-rice transplanters both reduce fatigue and allow less experienced operators to plant seedlings at the same level as a skilled operator.

Moreover, even greater labor savings can be made when auto-rice transplanters are used together with Yanmar's high-density seedlings. Yanmar has been working on such developments in order to provide ever more customer satisfaction.

This report describes the features and technologies built into the YR8D, A auto-rice transplanter.

1.はじめに

農業従事者の不足が顕著になる中、誰が使っても熟練者並みの作業ができる農業機械が求められている。長時間作業の疲労軽減、高能率作業を望まれる大規模稲作経営者や規模拡大をめざす農業者や、経験によらず熟練の作業を求めている作業者の田植え作業への展開を行う。

ヤンマーの「SMART PILOT(ヤンマーの自動運転技術を搭載したシリーズのブランド名)」シリーズで「ROBOT TRACTOR」(以下「ロボトラ」という)に続く第2弾としてオート田植機の商品化を行った。ロボトラで培った技術を田植機に展開し、ヤンマーの「密苗」技術と組み合わせることでさらなる省力・高能率化を実現しお客様に喜んでいただけるような開発を進めてきた。その内容について紹介する。

2.商品概要

ヤンマーのオート田植機(図1)はYR8Dのシリーズ展開として設定し、ロボトラ(図2)で実装した独自開発のGNSS(Global Navigation Satellite System)ユニットを搭載し、精度の高いRTK(Real Time Kinematic)方式を採用している。ロボトラが搭載している装備類と制御アルゴリズムを基本として、田植機に向けにチューニングを行う。ユーザインターフェイス部分もタブレット(図3)による操作でロボトラが直感的にわかりやすい操作性の実現を目指したことを踏襲し、統一感のある操作の実現を行う。田植機作業特有の表示部分は田植機用として専用開発を行い、お客様によりわかりやすい表示にしている。

車両の操舵を行うアクチュエータはフル電動(乗用車で主流)の「電動パワーステアリング」(以下「EPS」という)を新規採用したことで精度の高い制御が可能になり「自動直進」はもちろんのこと「自動旋回」も行う。

オート田植機は有人運転で変速操作はオペレータが行い、オート機能(オペレータが搭乗した状態での自動運転機能)と通常の手動運転での植付作業が可能である。

自動直進には「直進モード」と「オートモード」の2種類があり、圃場条件や好みに合わせて選択方式になっている。

図1
図2
図3 タブレットによる操作

3.特徴

3.1.自動操舵モード

(1)直進モード

直進モードとは2点(A点、B点)を登録し2点間を通る線を生成し、基準線から平行に自動操舵する機能である。(図4)

次行程の走行経路は基準線から一定のオフセットした距離(オート田植機は8条植えで条間30cm仕様ならば30cm×8条=2.4m、33cm仕様ならば33cm×8条=2.64m)にパス(次行程を走行する線)を生成し、その線に沿って自動操舵を行う。旋回は手動操作で行う。田植機の走行経路と車両位置はタブレットでリアルタイムに表示される。更に、植付作業を行ったところは塗りつぶしされるのでオペレータの熟練度に関わらす視覚的にわかりやすい。(図5)

オート田植機は直線モードでも基準線に対してオフセットした複数のパスをあらかじめ生成していて、登録した基準線が時間経過による劣化がし難いRTK測位方式を採用しているため隣接条との距離を一定に保った植付作業が可能になり、安定した生育が見込まれ、収量アップに貢献できる。

また、圃場の状態により一時的に隣接条間を変更したい場面では「経路シフト」機能により任意の位置からの自動操舵作業が開始できる機能も備えている。(図6)

図4 直進モードイメージ
図5 直進モードタブレット画面
図6 経路シフト機能画面
(2)オートモード

オートモードは「直進」と「旋回」を自動で行い操作中はステアリングを手動操作不要で隣接条合わせも自動で行える機能である。(図7)

まず圃場形状を認識させるために田植機で圃場の外周を走行し作業領域を設定する。(これは圃場の形状が変わらなければ次年度からの作業時には不要である。)(図8)圃場の形状が登録されたら四辺から直進する線を選択、スタート位置を決めると作業領域内の走行経路パスが自動で生成され走行する全経路がタブレット上に表示される。スタート位置まで田植機を移動させて植付作業を開始すると、パス上の自動操舵を行う。(図9)すこやかターン(旋回前の植付終点位置と旋回後の植付開始位置を自動で揃える機能)と組み合わせれば、オペレータは変速操作(ペダル操作)だけであとは手放しで植付を行うことが出来る。直進モード同様、車両位置はタブレットでリアルタイムに確認することが出来て、熟練していないオペレータでもプロ並みの田植え作業が可能になる。

マーカ跡が見えないような水の多い圃場でも正確な条間を保って植付作業が可能になるため疲労軽減に繋がり、植付状態や肥料・薬剤の状況チェックに注力を注ぐことが出来て手間を軽減することが出来る。

図7 オートモードイメージ
図8 圃場登録画面
図9 経路生成画面

3.2.自動操舵システム支援

オート田植機では自動操舵を行うアクチュエータとしてEPSを採用した。その理由は以下のとおりである。

  • 自動操舵制御が容易(外部環境の影響を受けにくい)
  • 直進精度の安定(応答性の良さ)
  • アクチュエータだけで旋回するパワーが必要
  • ステアリング、操作パネルのレイアウトが変わらない。
  • 既存部品の流用が多い(変更部品が少ない)

現在のYRD田植機のパワーステアリング機構としてはミッションケース内にステアリング減速機構の上流側にトルクジェネレータ(油圧でステアリングアシスト)を配置している(図10)が、これを置き換える形でEPSを配置(図11)した。この構造を採用することにより既存部品の共用率を高めることが出来た。また、ステアリング操作周りレイアウトは変わらないので、パネル上のスイッチ操作やステアリング手動でのフィーリングは今まで通りにすることが出来た。(図12)

EPSを採用したことでステアリングアシスト力アップを行い、操作力の低減や車速とステアリング入力トルクから最適なアシスト量を出力する速度感応型可変アシスト機能を織り込むなど自動直進制御以外の手動操作でもフィーリング向上を実現した。(図13)

図10 YRDミッション周辺構成
図11 オート田植機ミッション周辺構成
図12 オート田植機ステアリング周り
図13 アシスト力比較(手動操作)

3.3.密苗との組み合わせによる自動運転のメリット

植付作業時の「密苗」の最大の効果は苗つぎ回数の削減にある。苗つぎであぜ際に停車する回数が減れば苗つぎによる疲労軽減はもちろんのこと、作業時間を大幅に短縮される。

「すこやかターン」+「密苗」を組み合わせることで30a無補給作業(図14)が出来て、「自動運転」と組み合わせることでステアリング操作が不要。かつ、自動旋回機能のある「オートモード」を選択することで自動作業領域は連続的につながり、圃場で連続運転領域が集約されること(図15)で作業者の更なる疲労軽減、作業時間の短縮に繋がる。

水稲栽培における春作業(耕起・整地、育苗、田植え)の割合は約40%を占め、作業が集中する繁忙期において、効率よく作業を進めていきたい。「密苗」+「自動運転」は能率アップと疲労軽減を提案できるソリューションである。

図14 植付作業イメージ(オートモード)
図15 オートモードの連続自動運転

4.おわりに

ヤンマーの「密苗」技術で省力化を実現し、更なる省力化、高能率化を実現するためにロボトラで培った自動運転技術を田植機に展開し開発してきた。今後、田植機においてこの2つの技術は標準的になっていくものと考えている。

一方で自動運転の技術は人工衛星からの位置情報が基になっており、現在のところ補正情報の取得にはさまざまな方式が存在し、インフラ環境も過渡期である。今後インフラ整備はさらに進んでいき進化・集約されると思われ、どのような方式が主流になるか注視しておく必要がある。

お客様の自動運転に対するニーズもさまざま(高精度・高能率重視か価格重視)になっていくと思われるので、ニーズに合った最適なソリューションを提供していき、お客様に喜んでいただきたいと考えている。

著者

ヤンマーアグリ株式会社 開発統括部 先行開発部

黒田 智之