ヤンマーテクニカルレビュー

大容量・高効率チラーの開発~世界最大容量GHPチラー~

Abstract

Gas heat pump (GHP) air conditioners help reduce electricity usage by running on natural gas. Yanmar Energy System has expanded its range of GHP chillers in response to strong market demand for larger capacity. The new GHP chiller launched last year is the largest GHP in the world in terms of capacity, and features superior efficiency compared to the previous model. The new GHP chiller also features design changes and a system controller to improve serviceability.

1.はじめに

ガスヒートポンプエアコン(以降GHP)はクリーンな都市ガスを燃料とし、節電に貢献できる空調機である。本稿で説明するGHPチラーはGHPの特徴をそのままに、産業用あるいは一般のセントラル空調として使用される冷温水を作る熱源機器となっており、冷温水熱交換器をシステムに内蔵したことで、冷媒配管工事不要の簡単施工に対応したオールインワンパッケージ型のシステムとなっている。

2014年からGHPチラーを販売開始し、導入数の拡大が続いている。一方でラインナップは71kW仕様(対人用空調)のみであったため、多様な用途に対応できるようにラインナップ拡充が求められるようになってきた。

2018年3月に発売した本稿の製品は、GHPおよびGHPチラーとして世界最大容量となる118kWクラスのGHPチラー(製品外観を図1に示す)であり、冷温水空調市場で要求の大きい大容量ゾーンにおけるラインナップ拡充と、従来機からの更なる高効率化を実現した製品である。本稿ではその製品概要について説明する。

図1 製品外観

2.製品の特長

(1)導入コストの低減

①大容量化(71kW⇒118kW)により、容量あたりの導入コストを低減した。
②冷温水熱交換器を室外ユニット内に配置したオールインワンパッケージ(図2)を採用し、冷温水配管を接続するのみの簡単施工に対応した。

図2 冷温水熱交換器内蔵構造

(2)高効率化によるランニングコストの低減

定格能力をガス消費量で割った成績係数(COPg)は従来機比25%向上した。

(3)ガス空調による省電力化(デマンド電力抑制による電力基本料金の低減)

電力基本料金は過去1年間の最大需要電力(デマンド)により決定される。

電気式ヒーポンチラーを設置の場合、夏場のピーク電力が大きくなり、電力の契約基本料金が大きくなる(図3)。GHPチラーは、電気式チラーと比較して大幅な節電効果(図4)があり、導入することで電力基本料金の低減が可能となる。

図3 最大電力比較例
図4 受電電力比較(夏場のオフィスビルの例)

(4)吸収式冷温水機からのリニューアル効果(省スペース化)

ガスを使用したセントラル空調設備の熱電機器には吸収式冷温水機があり、一般的にクーリングタワーなどの附属機器が必要となる。同容量のGHPチラーと比較(図5)するとGHPチラーは附属機器が不要でかつコンパクト設計であり、大幅な設置スペースの低減が可能となる。そのほか、吸収式冷温水機からのリニューアルによるメリットとして、既設の冷温水配管を利用することによる施工費用の抑制や、本機以外にクーリングタワーなどメンテを要する機器のメンテ費用低減も可能となる。

図5 設置イメージ例(700kW相当比較)

(5)多様な用途に対応

①容量ラインナップの拡充

従来の71kW仕様に加えて、118kW級クラスでは高効率タイプ/高出力タイプの2機種(表1)をラインナップ追加した。

表1 主要目比較
②リモコン対応の追加

・見える化が可能となるタッチパネル式リモコンを新規設定(図6)した。
(スケジュール管理の他、トレンドによる能力・運転容量などの見える化が可能)

図6 リモコン外観、トレンド表示画面

・リモコンタイプについてはリモコンレスシステム、標準リモコンシステム、高機能リモコンシステムの3通りに対応し、用途に応じた選択を可能とした。

特に高機能リモコン仕様(図7)においては、オプション設定のPLCコントローラを介すことで、タッチパネル式リモコン、遠隔操作PC、BACnet接続、外部信号など多彩な機器との連携を可能としたシステムとなる。

図7 高機能リモコン仕様の接続イメージ
③冷温水配管の側面接続への対応機能拡張

冷温水配管取出しについては従来からの背面側取り出しに加えて左面側からの取出しに対応する構造を採用し、図8で例示するような2方向での冷温水配管レイアウトを可能とした。

図8 冷温水配管レイアウト例

3.開発のポイント

大容量化に加え高効率化を図るために導入した技術概要を図9に示す。

図9 大容量化・高効率化の技術概要

(1)高効率化(従来機比25%改善)

冷温水空調市場で要求の大きい高出力運転における効率向上のため、凝縮性能の向上、低圧圧損の低減を実施した。

①凝縮能力の向上

従来のフィンチューブ型熱交換器と比較して熱伝達率の大きいマイクロチャネル(※1)型オールアルミ熱交換器(以下、マイクロチャネル)をGHPとしては初めて採用し、伝熱面積あたりの熱交換性能の向上を図った。

なお、マイクロチャネルを蒸発器として使用する場合は除霜し難いという弱点があるため、マイクロチャネルは凝縮器専用として活用する図10のような冷媒回路構成とした。加熱運転時においてはマイクロチャンネル熱交換機が補助レシーバー(冷媒液溜め)としても機能し、加熱運転での冷媒過多による性能低下を抑制する効果も兼用させている。

また、室外ファン数を増加させるとともに、高出力のファンモータを採用して室外熱交換器への通過風速を増加させることで更なる凝縮能力の向上を図っている。

  • ※1:微細加工技術などを使って加工した狭隘な流路のこと(出典:日本冷凍空調学会HP)
図10 室外熱交換器周辺の冷媒回路
②低圧側圧力損失の低減

冷却運転時の冷媒回路圧損の改善として、四方弁およびアキュームレータをバイパスする弁を搭載するとともに、搭載している2台のコンプレッサの吸入管を個別化(管径アップ)することで更に低圧側圧力損失を低減した。

(2)大容量化(118kW化)

①エンジンの高出力化

従来GHPで実績があるガスエンジン(2.2L)より更に高出力のガスエンジン(3.3L)を新規採用した。

今回採用するエンジンは発電機システム(マイクロコージェネレーション:CP25D1)で使用実績があるが、GHP向けに以下の技術開発を行なった。

1)空調能力制御に合わせたエンジン可変速対応
空調制御においては細かな能力調整が必要となる。エンジン調速性を改善するため、ミキサについても追従性の高い電制スロットル仕様を採用した。

2)低負荷~高負荷運転までの広範囲運転への対応
燃料の仕様流量範囲拡大に対応するため、ゼロガバナの個数を増加させ低流量から高流量までの広い流量範囲をカバーし広範囲での運転を可能とした。

3)排気エミッション抑制
エンジン高出力化に伴いエンジン排気エミッションの上昇が懸念される。冷却運転時の凝縮器性能(ファン、熱交換機)の改善によるエンジン負荷の低減に加えて、最適空燃比制御(A/Fセンサによる最適制御)を行いう事で、排気エミッションの抑制を行った。

4)エンジン高出力対応に向けた最適化
エンジンの高出力化に伴い従来機以上の振動・騒音レベルの低減に向けた構成部品の最適設計を実施。

②コンプレッサの大容量化

従来コンプレッサと同等寸法の大容量コンプレッサを新規開発(従来機比で容量を1.3倍)、省スペースでの大容量化を実現した。

(3)多様な用途への対応

多様な空調能力や現地制御盤との接続への要求が大きい冷温水空調市場に対応したシステム制御について説明する。大容量GHPチラーは最大16台まで室外ユニットの並列接続が可能であり、1系統の冷温水配管で1,800kW相当までの空調能力に対応する。

図11 複数台設置物件(71kW仕様30台物件:高知県立春野総合運動公園さま)

複数台接続時(図12)の運転台数制御にあたっては、設定したマスター機が以下①~③で示すような最適制御を実施する。

台数制御:システム全体で効率が良い運転条件となるよう負荷に応じた台数運転をコントロール
ローテーション制御:各ユニットの運転時間が平準化されるように稼動ユニットを選択
デフロスト制御:除霜運転は能力を最大限確保するように順次デフロストを実施

図12 複数台接続イメージ

4.おわりに

GHPチラーは、高効率化による省エネ性を追求しGHPとしては世界初の118kWクラスまでの大容量化を達成したスマートかつインパクトのある新製品であり、今後冷温水空調市場において節電に貢献できる省電力機器として期待する。今後もお客様を起点として考えの下、様々な価値を提案できるよう開発を行っていきたい。

著者

ヤンマーエネルギーシステム株式会社 開発部

鬼原 宏年

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