ヤンマーテクニカルレビュー

クラストップレベルの高効率ガスコージェネの開発

Abstract

The EP800G is a high-efficiency co-generation system with low environmental impact, featuring power generation efficiency of 41.2% and NOx emissions of less than 200 ppm.

The EP800G is designed with consideration for transportation and installation, with a per-kW installation footprint 19% smaller than the current model. It has an open skid design that can be separated into three pieces for on-site transportation, making it suitable for installation in buildings.

In developing the control system for the EP800G, Yanmar targeted standardization and flexibility, providing the following features.

(1) Robust operation (system does not shut down easily in the event of major failure)

(2) Lower costs (including installation costs)

はじめに

天然ガスを燃料とするガスエンジンコージェネレーションシステムは、エネルギー有効利用、CO2の削減、経済性向上の観点から導入が進み、近年では、震災など非常時の電源としての電源セキュリティ向上ニーズの高まりからその導入が急増している。また、政府のエネルギー基本計画(2014年)の中でも、コージェネレーションの導入促進を図るため、コージェネレーションにより発電される電気の取引の円滑化や、導入支援策の推進をするとの方向性が示されている(1)。そのような市場環境に対応すべく実施した800kW高効率ガスエンジンコージェネレーションシステムEP800G(60Hz)の開発について報告する。

開発の経緯

ヤンマーエネルギーシステム(株)は、表1に示すように中型クラス(300kW以上)のガスコージェネとして、50Hz地区向けのEP370G、EP700G、60Hz地区向けのEP400Gを既に発売しており、100kW以上1,000kW未満のガスエンジンコージェネレーションにおいて約60%(H25年度 台数ベース)と高いシェアを誇っている(2)。EP800Gは60Hz地区のラインアップ拡大と、事業継続計画(BCP)への要望に応える為、開発を開始するに至った。性能については、天然ガスの高度利用の為に高発電効率を目指すと共に、環境負荷低減にも寄与することを目指した。又、既設機のリニューアル及び既設物件への設置が今後増加することが見込まれたことより、狭小な搬入経路にも対応出来るシステムを開発している。さらに、電源セキュリティの向上の為に、システムダウン回数の低減により安定した電源供給を行なう為、容易に停止しないシステムを目指した。

表1 ガスエンジン中型コージェネラインナップ(2015年4月現在)

ガスエンジン中型コージェネラインナップ(2015年4月現在)

コージェネレーションシステムとは

コージェネレーションシステムの概要を図1に示す。コージェネレーションシステムとは、天然ガス、石油、LPガス等を燃料としてエンジン、タービン、燃料電池等の方式により発電し、その際に生じる廃熱も同時に回収する熱電供給システムである。(3)需要地にコージェネレーションを設置することで、電力と廃熱の両方を有効利用することが可能であり、燃料が本来持っているエネルギーの約70%~80%(総合効率)を回収することができる。これにより、省エネルギーによる経済性向上、CO2排出量の削減が可能である。また、商用系統の停電時に防災兼用機として利用することができ、非常時にも電力や熱を安定供給が可能である。

コージェネレーションシステムの概要(ヤンマーHPより)
図1 コージェネレーションシステムの概要(ヤンマーHPより)

EP800Gはガスエンジンを原動機としたガスエンジンコージェネレーションシステムであり、次項よりその概要、特徴を述べる。

開発の内容(製品の特徴)

1.EP800G外観、主要目

図2にEP800Gの外観、図3に内部レイアウトを表2にEP800Gの主要目を示す。EP800Gはガスエンジンで発電機を駆動させることによって電気を発生させている。その時の排気ガス及び、エンジン冷却水の熱エネルギーを回収することで高い総合効率を実現している。機器構成として、ガスエンジン、発電機、冷却水などのポンプ、ヒータ、換気用のファン、それらを制御する制御盤があり、パッケージ内に配置されている。

EP800G 外観(写真は蒸気ボイラ仕様)
図2 EP800G 外観(写真は蒸気ボイラ仕様)
EP800G 発電装置ユニット内部レイアウト
図3 EP800G 発電装置ユニット内部レイアウト

表2 EP800G主要目

EP800G主要目

2. 高効率及び環境負荷低減

EP800Gは実績豊富で信頼性の高いヤンマー株式会社特機エンジン事業本部の直列6気筒エンジンAYG20L-SEをベースにしたV型12気筒エンジン AYG40L-SEを搭載している。本開発で燃料ガスインジェクションによる気筒別制御やミラーサイクルなどの技術に加え、高効率過給機の採用、及び副室式希薄燃焼の最適化を行なった事により図4に示すように、EP800Gはミラーサイクルガスエンジンにおいてクラストップレベルの発電効率41.2%を達成している。また、副室希薄燃焼の最適化により負荷投入率の向上を図り、負荷投入率40%を達成している。

環境性能は、同クラスでは排出基準値を守るためにNOXを取り除くための脱硝装置が標準装備されている機種が多い中、脱硝装置無しでも都市部での排出基準値であるNOX 200ppm(O2=0%換算)以下を実現している。

このようにEP800Gは、高効率と環境負荷低減という相反する性能を両立させている。

船舶からの環境負荷物質・GHG削減スケジュール
図4 コージェネレーション発電効率俯瞰図(4)
(※国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構HP資料を加工)

3. 設置面積の省スペース化、搬入性の向上

都市部へのコージェネレーション設備導入においては、設置面積が小さいことが望まれる。図5にEP800Gのパッケージ仕様及び、オープン仕様の外形図、表3にEP400Gとの設置面積比較を示す。EP400Gの発電装置ユニット部設置面積が2台で22.0m2(パッケージ仕様、オープン仕様とも)に対し、EP800Gの発電装置ユニット部設置面積は17.9m2(パッケージ仕様)、及び13.1m2(オープン仕様)で、出力1kWあたりの設置面積をそれぞれ19%、及び41%削減し、省スペース化を図っている。

パッケージ仕様(左)とオープン仕様(右)外形図
図5 パッケージ仕様(左)とオープン仕様(右)外形図

表3 設置面積比較(EP400G比)

設置面積比較(EP400G比)

また、既設ビルへの導入ではその搬入経路が狭小な場合があり、機器を分割搬入しなければならないことも多い。その際は容易に分割出来ることが搬入コストを低減する上で非常に重要である。EP800Gでは図6に示すように発電装置ユニット部を3分割することが可能な仕様も用意しており、最も長い部分で4mと搬入しやすい構造となっている。

発電装置ユニット3分割構造(オープン仕様)
図6 発電装置ユニット3分割構造(オープン仕様)

4. 制御システムの高機能化

制御システムの高信頼性とエンジニアリング対応力強化の両立を図る為に、制御システムを自社開発している。従来、制御システムの開発は制御盤メーカに委託しており、旧機種のEP350Gでは仕様の標準化を行なうことで、信頼性の高い制御システムを構築していた。しかし、仕様を標準化することにより、様々な顧客要望に対応することが難しい面があり、商品価値を高めることの壁となっていた。そこで制御システムを自社開発することで、信頼性を保つ為の「標準化」と、現地エンジニアリング要望に対する対応力強化という「柔軟性」の両立を図ることが可能となった。

EP800G制御システム基本コンセプト
図7 EP800G制御システム基本コンセプト
(1)出力制限による重故障の回避

発電出力が大出力化するに伴い、想定外のシステム停止により契約電力を超過した場合のペナルティ発生リスクが高くなる。EP800Gでは、従来の重故障停止項目を見直し、すぐに重故障停止するのではなく機関に影響の無い範囲で継続運転を可能とする制御システムを採用した。図8にその制御を模擬した試験結果を示す。例えば夏場に外気温が高温になった際、一時的に部品温度等が上昇してしまう場合があるとする。このような場合に従来は重故障停止していたが、本制御システムでは一部の項目に対し、重故障させずに一時的に出力を低減することで機関への影響を回避し、温度の低下を確認したら徐々に出力を回復させる制御を行なう。これによりシステムの計画外停止の減少が期待できる。

重故障回避レートダウン制御 イメージ
図8 重故障回避レートダウン制御 イメージ
(2)現地エンジニアリング対応強化

図9に客先受電設備と発電設備の模式図を示す。客先受電設備の構成は千差万別であり、標準品のみで対応することは困難である。そこで、支社支店のエンジニアリング部門が顧客に合わせてインターフェイス盤を個別設計することで発電設備と客先受電設備との取合差異を吸収している。また、客先の要望(オプション)に応じて機器を増設し、その対応をしなければならない。制御システムの自主開発により支社支店エンジニアリングにて対応していた付帯設備機能の一部を標準化して発電機盤内に取り込むことで、個別設計対応負担の軽減化、配線の簡素・省略化、現地機器機能をEP800G制御盤にて兼用化することが可能となり、施工までを含めたトータルコストの低減が可能となっている。

受電設備と発電設備
図9 受電設備と発電設備
(3)市場サービス対応支援

市場サービス対応として、カスタマーサポート部員が現地でシステムの計測値モニター、記録を行えるツールを開発した。図10に画面サンプルを示す。これにより現地での故障診断、制御系動作の確認が可能となり、より良い客先対応が可能となっている。

現地パソコンツール画面サンプル
図10 現地パソコンツール画面サンプル

おわりに

これまで述べてきたように、EP800Gはコージェネレーションシステムとして、省エネルギー、CO2削減、電源セキュリティの向上等、お客様の価値(LCV:ライフサイクルバリュー)の創出に繋がる機器である。このようなコージェネレーションの普及によってミッションステートメントにある、お客様の課題を解決し未来につながる社会と豊かな暮らしを実現することの一端を担うことができると信じている。

参考文献

  • (1)エネルギー基本計画 2014年4月11日公表
  • (2)一般社団法人 日本内燃力発電設備協会
    H25年度 常用自家発電設備設置データベース
  • (3)資源エネルギー庁 熱電供給(コジェネ)推進室資料集
  • (4)「国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構HP」
    http://www.nedo.go.jp/activities/ZZ_00337.html
    2015/04/28アクセス

著者

ヤンマーエネルギーシステム株式会社 開発部

小田 裕輔

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