ヤンマーテクニカルレビュー

SMARTASSISTによる新しいサービスシステム基盤の構築

Abstract

This article explains the development history of the remote information system of Yanmar ICT/M2M, and newly developed SMARTASSIST. The radio communication terminal provides excellent environmental resistance feature and the information network employs a high versatile network system in consideration of services in global area and had acquired certification for radio terminals from more than 50 countries. It works with the service tools that are linked to the internal system. And finally, an explanation is given about the future direction.

1.はじめに

ヤンマーの遠隔情報システムの歴史は28年前1987年のディーゼル・ガス発電機を対象としたRemote Energy Support System (RESS)の運用に始まり、その後ガスヒートポンプエアコン・マイクロコージェネといったエネルギーシステム、鉄道輸送における冷凍コンテナシステム、大型船舶搭載の発電機システムへの展開を経て、本稿で紹介する農業機械、建設機械、マリンボートなどの移動機械を対象としたSMARTASSISTシステムの運用へと繋がっている。本稿では、SMARTASSISTシステムの技術開発的側面と主要機能について紹介する。

ヤンマーにおける遠隔情報システムの展開と通信環境の変遷
図1 ヤンマーにおける遠隔情報システムの展開と通信環境の変遷

2.SMARTASSISTシステムの概要

SMARTASSISTシステムは「いつもお客様を見守る」SMARTASSIST-Remoteと「現場でお客様へサービスを提供する」SMARTASSIST-Directの大きく2つのシステムから構成される。本章ではそれぞれのシステム概要について述べる。

SMARTASSISTシステム
図2 SMARTASSISTシステム

2.1.SMARTASSIST-Remote

SMARTASSIST-Remoteは、お客様の作業機械の稼働状況や異常発生等の情報をヤンマーリモートサポートセンターが中心となり、お客様とサービスマンで迅速に共有可能な仕組みを提供する。

(1)情報収集ネットワーク

本システムは、開発当初より国内/国外のお客様への対応を念頭に、図3に示すネットワークを構築しグローバルな展開を推進している。

本ネットワークは、利用地域や国における各種規制、ネットワーク環境に対応した構成となっており、今後の展開エリア拡大にも柔軟に対応できるよう考慮している。

情報収集ネットワーク構成
図3 情報収集ネットワーク構成

SMARTASSIST-Remoteは、お客様の作業機械の稼働状況や異常発生等の情報をヤンマーリモートサポートセンターが中心となり、お客様とサービスマンで迅速に共有可能な仕組みを提供する。

(2)通信端末

(1)で述べた情報収集ネットワークを利用してお客様の作業機械から情報を収集するためには、作業機械の情報を逐次監視し必要に応じて情報収集ネットワークへ接続、ヤンマーリモートサポートセンターへデータを転送する通信端末が必須となる。

本端末は、作業機械の制御用コントローラから情報収集を行うCAN通信、作業機の位置情報を取得するGNSS機能、携帯電話網を使った無線通信機能を標準搭載しており、耐環境性レベルにおいても、ヤンマーの様々な事業体への展開を想定し各事業体の要求スペックをクリアしたハードウェア性能を有している。

無線機器として求められる各国の無線認証については、北米、欧州をはじめとしアジア各国、計50か国以上の認証を取得済みとなっている。

表1 通信端末スペック表

通信端末スペック表
通信端末外観
図4 通信端末外観

2.2.SMARTASSIST-Direct

SMARTASSIST-Directは、ヤンマーのサービスマンが作業機械の定期メンテナンスの実施や不調となった作業機械の診断を行う仕組みを提供している。

(1)作業機械との通信

サービスマンが作業機械のメンテナンスや故障診断を行うには、作業機械の制御用コントローラより各種情報を収集する必要がある。本ツールではこれらの情報を取集するために、図5に示すインターフェースボックスを使用する。ツールとインターフェースボックス間はSAE J2534、インターフェースボックスと制御用コントローラ間はISO14229、ISO14230、SAE J1929などのサービスツール標準のプロトコルに対応している。

作業機械との通信
図5 作業機械との通信
(2)社内システムとの連携

現場でのメンテナンスや故障診断に必要なサービスマニュアル、ソフトウェア、機種情報などは、本ツールにより社内システムから入手可能となっている。また、現場での作業情報についてもサービスマンが拠点のネットワークへ接続する事により自動的に社内システムへアップロードされる仕組みを構築している。

社内システムとの連携
図6 社内システムとの連携

3.主要機能紹介

3.1.SMARTASSIST-Remote ~ いつもお客様を見守る ~

SMARTASSIST-Remoteの代表的な機能について述べる。

(1)イベント通知

作業機械に何らかのエラーが発生した際、制御コントローラがそのエラーコードをCAN上に通知しそれを検知した端末は発生した前後のデータを編集しセンターに発報する。作業機械のサービス担当者はそれらのデータを活用することによって、いつ・どこで・どのようなエラーが発生し・どのような状態であるかを把握することができ、マシンダウンタイムを抑えるための迅速なアフターサービスが可能となる。

(2)作業時間・エリア監視からの盗難抑止

作業する時間や地域を予め設定しておき、予定外の時間やエリアでの機械の稼動を発見すると、メールによって機械のオーナーへ盗難の危険があることを通知する。この機能によって、実際に農機の盗難を防ぐことができた事件も数例あったと報告がある。

(3)稼働トレンド通知

上記のような異常を検知することだけでなく、日々の作業機械の稼動状況を把握することも適切なメンテナンスをする上で重要である。機械が稼動を始めてから停止するまでの情報を、1分間間隔のトレンドデータに集計しセンターに通知する機能を有する。

3.2.SMARTASSIST-Direct ~ 現場でお客様へサービスを提供 ~

SMARTASSIST-Directの代表的な機能について述べる。

(1)整備検査

各種メンテナンスサービス実施後などに、作業機生産工場における機種ごとの出荷検査基準をベースとし各種機能の動作が正常状態にあるかを判断する事によりメンテナンス作業のミスや機能異常の見落としによる作業機のダウンタイム発生を防止。これによりお客様の手を止めないサービスを支援する。

(2)故障診断

作業機械が不調となった場合に、現在の動作状態、これまでのエラー発生状況や稼働状態、及びメンテナンス履歴などから、問題を抱えていると思われる部位を特定し適切なメンテナンス作業を実施。このようなデータに基づいたコミュニケーションによりお客様とのより深いリレーションシップの構築を支援する。

(3)ソフトウェアリプログラミング

作業機械の制御用コントローラのハードウェア故障などによりソフトウェア書き換えや更新が必要となった場合、現場での迅速なリプログラミング作業を支援。2.2節で述べた通り、これらの作業内容については自動的に社内システムと連携し、お客様の作業機毎の履歴情報として管理される。

4.おわりに

ヤンマーの遠隔情報システムは大型の発電機から始まり、GHPやマイクロコージェネといったより小形な定置式機械に採用することでその有効性が認知され、ICTの普及の潮流もあいまって現在ではヤンマーグループのすべての商品に展開できるまでに成長してきている。全商品に展開できたことによって見えてくる課題もあり、今後は更なる技術革新に追従しICTをうまく活用して、お客様に先進的なサービスが提案できるシステムを目指し発展させなければならないと考える。お客様目線に立った機能やサービスにより価値を向上し、最適なソリューションが提供できるよう推進していきたい。

著者

坂本 博文

研究開発ユニット 中央研究所

坂本 博文

佐竹 学

研究開発ユニット 中央研究所

佐竹 学

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