ヤンマーテクニカルレビュー

居住性を進化させたΣブーム搭載超小旋回機B7-6型の製品技術紹介

Abstract

The minimal-swing-radius hydraulic excavator (MSRX), which is sold mainly in the Japanese market, has a boom offset mechanism to both sides.
Featuring easy operation and excellent practicality in the confined space of a construction site, the MSRX is commonly used to lay water supply, sewage and gas piping, and communication cables.
YANMAR released its new B7-6 in 2015. The B7-6 has the same SIGMA boom (offset boom) as previous models, which offers excellent performance for deep digging.
A key design concept for the B7-6 was to provide a larger cabin, a feature requested by many users. This article describes the technology adopted to achieve this objective and the other new features on the B7-6.

1.はじめに

超小旋回機(超小旋回形油圧ショベル)は、主に日本国内で販売され、ブームがオフセットする特徴のある作業機を搭載した機械である。ブームをオフセットした側溝掘り(図1)でも、正面を向いた状態で真直ぐ土を掘ることができる作業の容易性と、旋回した時の下部体からの上部体のはみ出し量の少なさにより、道路および住宅密集地での利便性が評価され、上下水道・都市ガス・通信ケーブルの埋設工事などで幅広く使用されている。

今回モデルチェンジを行ったB7は、1999年にヤンマー独創のシグマブーム(以下Σブーム)を搭載して以来、Σブームが持つ優れた深掘り性能が評価されて販売数を増やしてきたが、日本国内排ガス規制のタイミングに合わせてフルモデルチェンジを行い、2015年にB7-6型として商品化を行った(図2)。

フルモデルチェンジにあたっては、作業機は高く評価を頂いているΣブームを使用し、また従来機での改善要望を多数織り込み、お客様目線での使いやすい機械とした。中でも特に改善要望が多かったオペレータスペース拡大による居住性改善ついては、開発コンセプトのひとつに挙げて、大型キャビン搭載により大幅な居住性の向上を図った。

本稿では、大型キャビン搭載のための技術、および今回新規に織込んだ特長とその技術について紹介する。

ブームをオフセットした側溝掘り
図1 ブームをオフセットした側溝掘り
超小旋回機B7-6
図2 超小旋回機B7-6

2.大型キャビン搭載技術

キャビンの大きさは、居住性に直接大きな影響を与える。超小旋回機は、“狭い空間で作業するために作業装置を装備した上部旋回体(作業機のフロント最小旋回半径を含む)が、下部走行体の幅の120%以内で旋回できる油圧ショベル(図3)”とJIS A8308に規定されている。これにより搭載できるキャビンサイズにも限界が生じる。

超小旋回機の規定
図3 超小旋回機の規定

この様な制約の中でも、B7-6型ではキャビンは従来機のものに比べて足元方向を200mm、幅を160mm拡大し(図4)、後方超小旋回機Vio80-1Aで使用している同じサイズの大型キャビンの搭載を実現させた。これにより、キャビン室内容積が40%アップし、ゆとりある室内空間を実現した。

従来キャビンからの拡大量
図4 従来キャビンからの拡大量

この大型キャビンを搭載するにあたり、ブーム支点位置を本機右側へ移動させ、左右のオフセット量を見直す(左オフセット量:増加、右オフセット量:減少)ことによって、作業範囲は従来機と同等の範囲を確保している。

キャビンの大型化と左オフセット量の増加は、バケットとキャビンのクリアランスを縮小する要因である。これに対しては、①ブーム支点位置を前側上方に移動する、②アームの作動範囲に改善を加える(図5)ことで、バケットとキャビンのクリアランスを従来機同等にすると同時に、旋回した場合でも作業機のフロント最小旋回半径(1320mm)が下部走行体幅120%の1/2(1362mm)を超えないことを実現している。

大型キャビン搭載による変更箇所
図5 大型キャビン搭載による変更箇所

なお、オフセット量の変更は、作業機やフレームへの負荷が増える場合があるため、FEM解析(図6)及びベンチ試験にて強度確認を実施し、弊社の強度基準を確保した。

ブームFEM解析
図6 ブームFEM解析

3.本機の特長と織込み技術

次にB7-6型に織込んだ新たな特長を、「環境性」、「快適性」、「安全性」、「整備性」、「クレーン作業性」の5つに分類して紹介する。

3.1.環境性

エンジンは、特定特殊自動車排ガス2014年基準をクリアした、クリーンなヤンマーDPF付電子制御コモンレールエンジン(図7)を搭載している。DPF付きエンジンは、DPFに溜まった煤を焼く“再生”を行う必要がある。ヤンマーでは独自の再生ステップ(3ステップ)(図8)を採用しており、第1・第2ステップの再生は通常作業中に自動で行われるため、作業を止める必要がない。また、一定量の煤が堆積した場合に作業を止めて行う第3ステップの手動再生であっても、DPFの高い再生能力により短時間で再生が終了する。これにより、無駄な燃料消費を減らすことが可能であり、排気ガスの総排出量を抑えることができる。

搭載エンジン
図7 搭載エンジン
ヤンマー独自のDPF3ステップ再生
図8 ヤンマー独自のDPF3ステップ再生

また、エンジン回転をハイアイドル回転からワンタッチで200min-1下げることができる「ECOモード」を選択使用することで、約9%の燃費低減が可能である。4秒以上操作しない場合に、エンジン回転を自動でローアイドルまで下げる「オートデセルモード」を選択使用することで、更なる燃料消費を抑えることができる。

3.2.快適性

今回搭載した大型キャビンは、液体封入防振マウントで支持し(図9)、防振マウントには硬さが異なる2種類のものを、その防振効果が最大となるように使い分けている。それにより、振動伝播によるキャビン内騒音が大幅に低減され、キャビン内騒音は73dB(A)となり、静かな室内を実現した。さらに振動低減による乗り心地アップによってオペレータの疲労軽減を図っている。

キャビンの防振支持
図9 キャビンの防振支持

またエアコン性能については、エアコンシステムの変更と風の流れに改善を加えて、冷房性能を大幅に改善した。これにより、夏場に熱くなったキャビン室内に乗り込む場合でも、キャビン室内を一気に冷却できるため、短時間で快適な作業空間を作ることができる。(図10)

キャビン室内冷却イメージ
図10 キャビン室内冷却イメージ

3.3.安全性

キャビンは、本機が転倒した場合でもシートベルトを着用したオペレータを保護するROPS規格と、落下物からオペレータを保護するFOPS規格に準拠した、国際規格を満足した安全性の高いキャビンを搭載した。

3.4.整備性

B7-6型は、GPSと通信端末を活用して本機の稼動状況や機械のコンディションを離れた場所からでも確認することができる、「スマートアシスト」を標準装備している。これにより、本機の稼動時間に応じて、ユーザーへのメンテナンス提案とその実施が容易になり、メンテナンス不足による故障を未然に回避することで、ライフサイクルコストの低減を図ることができる。また、万一機械にエラーが発生した場合でも、エラー発生と同時にその内容と本機の位置把握ができるため、対応部品等を持って素早く現場へ駆けつけることができるようになり、機械のダウンタイムを最小に抑えることができる。(図11)

スマートアシストの活用
図11 スマートアシストの活用

3.5.クレーン作業性

従来機において、クレーン仕様機は工場出荷機の9割以上を占めている。クレーン吊り能力はお客様の主要評価ポイントであり、B7-6型では従来機と同等の吊り能力2.5トンを確保している。

また今回のフルモデルチェンジでは、クレーン仕様機において、JCA(日本クレーン協会)規格で定められている、荷を吊った状態で走行をするための要件を織込み、「つり荷走行モード」を搭載し、荷を吊った状態で走行ができるようにしている。

「定置つりモード」と「つり荷走行モード」の切り替えは、大型液晶モニター下側のスイッチで簡単に行なえるが、モードの切り替えを忘れて走行してしまった場合でも、自動で「つり荷走行モード」となるようにし、安全性を高めている。

4.おわりに

今回、モデルチェンジの課題の一つであった大型キャビンの搭載は、超小旋回機の規定の遵守、バケットとキャビンのクリアランス確保や、縮小したブーム収納スペース部へのブームと油圧ホースの収納等の技術課題も多かったが、機構シミュレーションやFEM解析を行うことで課題の解決を図った。

この大型キャビン搭載による居住性の改善は、主要販売地域の日本のみならず、欧州の大柄な人達にも十分喜んで頂けるものとなり、今後の拡販が期待される。

今後もお客様の意見や要望を十分に取り入れた商品開発を行い、お客様に満足していただける製品の開発を行っていきたい。

著者

ヤンマー建機株式会社 開発部

宮崎 美弘

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