ヤンマーテクニカルレビュー

トータルエネルギーサービスの提供
~Y-EMSの機能紹介~

2022年9月30日

Abstract

Efforts to reduce energy consumption are critical for achieving ‘Carbon Neutrality’.
Along with gas heat pumps and cogeneration systems, the equipment required to achieve carbon neutrality also includes energy management systems for more efficient operation and energy services for maintenance and energy diagnostics. Through these efforts, Yanmar Energy System Co., Ltd. is operating as a total energy services company.
This article introduces these total energy services together with the functions of the energy management system and example applications of energy diagnostics.

1.はじめに

カーボンニュートラルを達成するためには、GHG排出量を削減するとともに、消費エネルギー量を削減する「省エネルギー」の取組みが重要です。
ヤンマーエネルギーシステム株式会社は、現代社会においては欠くことのできない電気・熱を効率的に提供する設備を製造・販売するとともに、これらの設備を用いたシステム全体の設計・設置・保守・運用サービスまでを行うトータルエネルギーサービス会社です。
ヤンマーのコージェネレーションシステム(以下、コージェネ)、ガスヒートポンプ(以下、GHP)は商用ビル、病院、ホテルなどで数多く導入されており事業者の省エネルギー化に貢献しております。また、カーボンニュートラルなバイオ燃料を用いたコージェネは食品工場、下水処理場などに数多く導入されており、CO2削減に貢献しております。
これら製品は単独でも効率的な運用をできますが、個々に運用するよりも各設備を集約・システム化して運用する方が設備全体として効率化できます。これを実現するシステムとして「エネルギーマネジメントシステム」(以下、Y-EMS)を開発しました。本システムは収集した情報を元に、設備全体として最適な運用を行うためのエネルギー可視化機能、設備の自動制御機能及びデータ管理機能を搭載した製品です。本稿ではY-EMSの特徴を紹介するとともに、Y-EMSを活用したトータルエネルギーサービスについて紹介します。

2.Y-EMS紹介

2.1.特徴

Y-EMSは敷地内、建物内の設備を集約し、運用管理できるエネルギーマネジメントシステムです(図1)。管理対象設備は、ヤンマー製品はもとより、コージェネ、ボイラー、吸収式冷温水機、チラーなどのエネルギー供給設備、ファン、モータ、乾燥機などの負荷設備です。その他、各種センサーに対応していますので、様々な機器をモニターすることができます。以下に、Y-EMSの主な機能を記載します。

① エネルギーの可視化(見える化)

  • 可視化したい様々なデータ(電力、温度、流量、圧力、レベル、運転 / 停止、開 / 閉信号など)をまとめて取得することで、各設備の詳細な動きを見える化できます。
  • 設備管理の各種用途に対応した画面(用途別に情報を集約した画面)としているので、知りたい情報に容易にアクセスできます。

② 設備の自動制御

  • 自動で設備全体としての最適な運転ができます。最適化の対象はコスト、CO2、一次エネルギーから選択できます。
  • デマンド制御を搭載していますので、契約電力の超過を回避できます。
  • カスタマイズ制御を搭載していますので、取り込んだ情報を基に簡単な制御ロジックを組んで機器の制御をすることができます。

③ 設備の一元管理(レポート)

  • 設備全体の稼働データを一括で管理できます。従来、設備毎の稼働データを集計・管理していた作業を削減できます。
図1.Y-EMS対象設備例

2.2.機能概要

Y-EMSに搭載している機能は可視化、自動制御、データ管理(レポート)の3機能に区分されます。主な機能を表1に示します。

表1.主な機能一覧

機能 概要
可視化 ホーム表示
  • 現在の電気・熱エネルギーの負荷 / 供給情報を集約し表示します
    設備全体のエネルギー状態の概要を容易に把握できます
  • 1日のエネルギー消費量について、前日の値と現在の値を比較表示します
    前日と比較することで現在の使用量の多い少ないが一目で判断できます
レイアウト表示
  • 監視対象の設備をレイアウト表示します
    エネルギーの流れ、量を容易に把握できます
アラーム表示
  • 設備、システムの故障状態、故障内容を表示します
    故障設備の特定、故障内容が容易に把握できます
グラフ表示
  • 各設備の電気・熱エネルギー量の時間推移をグラフ化します
    各設備の1日の稼働状態を容易に把握出できます
自動制御 最適化制御
  • 過去の運転データを基に負荷を予測し、負荷に応じた最適な運転を行います
    予測負荷を手動入力して最適な運転をすることもできます
デマンド制御
  • 契約電力を超過しないように、エネルギー供給設備、負荷設備を制御します
カスタマイズ制御
  • 任意のロジックで設備を制御することができます
    監視している情報を基に(例えば温度)、機器(例えばポンプ)を制御できます
スケジュール
  • 各設備を設定したスケジュールで運転します
    負荷に応じたスケジュールで運転することにより、無駄な運転を回避できます
レポート 設備稼働レポート
  • 各設備の電気・熱エネルギー量などの時間推移データを集計します
    本データを基に月間レポートを作成、報告します

① 可視化

可視化は、設備全体のエネルギー負荷 / 供給状態を把握し、分析し、改善につなげる為の重要な機能の一つです。Y-EMSでは設備全体の状態を容易に把握できるように、用途別に情報を集約、区分した画面設計としています。設備管理上使用頻度が高い画面を表1に記載しています。

図2.ホーム画面

ホーム画面の例を図2に示します。上段、中段、下段の三段構成で、上段、中段はそれぞれ、電気、熱エネルギーの負荷 / 供給状態を表示しています。この中で、円グラフは現在の電気 / 熱負荷に対して電気 / 熱を供給している設備の状態を表示しています。この円グラフにより、負荷設備 / 供給設備の稼働状態を一目で把握できます。また、棒グラフは前日と本日の電気 / 熱の使用量を表示しています。この棒グラフにより、前日に対する本日の使用量の増減が一目で把握できます。下段は各種燃料の使用量、一次エネルギー消費量、CO2排出量を表示しています。棒グラフは上段、中段同様に前日と本日の使用量を表示しており、前日に対する本日の使用量の増減が一目で判断できます。

図3.レイアウト画面(電気機器)

レイアウト画面の例を図3に示します。レイアウト画面ではY-EMSに接続している設備の接続レイアウトを電気 / 熱エネルギー別に表示します。各設備の稼働状態(停止、運転、故障)をアイコンで表示しますので、一目で稼働状態を把握できます。また、各設備の消費量、供給量をアイコン下に表示していますので、各設備の運転状態を容易に把握できます。
その他の画面は表1に記載した用途に応じた画面となっており、設備全体を容易に把握できるようにしています。

② 自動制御

自動制御機能は、各設備を、設備全体の立場から見て効率的に動かすための機能で、最適化制御、デマンド制御、カスタマイズ制御、スケジュールがあります。
最適化制御は負荷需要を過去の実績値より予測し、予測に応じて各設備を最適に運用する制御です。
デマンド制御は、契約電力超過を回避するための制御で、受電電力があらかじめ設定した設定値を超過しそうになった際に、コージェネや負荷装置を制御することで、受電電力を設定値以下に保つ制御です。
カスタマイズ制御は、ユーザー毎に独自の制御ロジックを組むことができる制御です。例えば、温度により、ポンプを運転 / 停止制御したり、バルブを制御したりできます。また、レベル計により、バルブを制御したりもできます。

③ レポート

レポート機能の概要を図4に示します。レポート機能は、従来、設備毎に分散して管理していたデータを、Y-EMSで集約できる機能です。集約作業を自動化することで、データ集計・加工などに要していた工数が不要となり、また、メンテナンス計画、燃料調達計画の作成・検討に要する工数も削減できます。Y-EMSで取得したデータはコンタクトセンターで保管され、お客様のご要望に合わせたフォーマットで、月間レポートを作成、配信します。

図4.レポート機能の概要

2.3.実施例紹介

ユーザー設備毎に独自の制御ロジックを組むことができるカスタマイズ制御についての実例を紹介します。下記実施例のように、カスタマイズ制御では簡単な条件を組み合わせた制御ができます。

(事例)
ある設備で、コージェネの運転と温水ポンプを連動させ、貯湯槽へ温熱を共有する設備がありました(図5)。このようなレイアウトの場合、コージェネの起動時など、コージェネが温まっていない状態で温水ポンプを運転させても、コージェネから熱を送ることができません。そこで、コージェネの冷却水温度と貯槽層の温度をモニターしているので、それらを条件として、温水ポンプの制御を組みました(図5のポンプの運転条件)。結果、コージェネが温まった後に温水ポンプを運転するので、より効率的な運用とすることができました。

図5.カスタマイズ制御例

上記実施例において、負荷の熱量がコージェネの供給熱量に対して大き過ぎる場合、コージェネを増設し、供給能力が負荷熱量を上回るようにしてコージェネを制御した方がより設備全体の効率化が図れる場合があります。Y-EMSで制御できる範囲は設備の仕様の範囲内(下限~上限)となりますので、負荷熱量に対し、供給設備の能力が低過ぎる場合、Y-EMSで制御できる範囲は供給設備の上限までとなり、この範囲内での最適運転しかできないからです。設備全体で考えると供給設備の能力増強をした方がより効率的な運用となる可能性が有る為、Y-EMSで取得したデータを分析し、容量の見直しなどの改善提案を省エネ診断で実施しています。

3.省エネ診断紹介

3.1.特徴

① 分析精度が高い

  • Y-EMSで取得したデータを活用し、時系列的な変化点を追うことができますので、変化内容に対応した分析ができます(設備の老朽化、劣化予測など)。

② 改善手法が豊富

  • ヤンマーがこれまで蓄積した多種多様なデータを活用するので、豊富な適用事例を参照できます(適用事例の照合・展開)。

③ 改善効果の検証が容易

  • 設備改善後もY-EMSで運用・管理できますので、容易に効果を検証できます。

3.2.実施例紹介

Y-EMSで取得したデータを基にした省エネ診断の実施例を紹介します。下記実施例のように、Y-EMSで設備を制御しない場合(モニターのみの場合)においても、取得したデータを活用することで、設備全体の省エネ化が図れます。

(事例)
ある設備において、スケジュールで動かしている空調設備がありました(空調設備の制御は空調設備側で行い、Y-EMSはモニターのみとした運用)。空調設備の運用は余裕をもったものとなっていた為に、実際の負荷よりも少し前から起動する運用となっていました。Y-EMSでデータを取得すると、負荷に対して時間的に充分な余裕があることが分かりました。そこで、空調設備の起動タイミングを少し遅らせることで省エネ化を図りました。

4.おわりに

Y-EMSを上市してから数年経過しましたが、これまでに十数件採用いただき、各々の導入先で省コスト・省エネ・CO2削減に寄与してきました。機器の最適運用と省エネ診断改善により、エネルギー使用量を10%削減した実績があります(図6)。また導入頂いた効果に関する事例をWEBサイト(関連情報)で紹介しております。今後益々重要な課題となるエネルギー問題、温暖化問題に対して、Y-EMS及び診断サービスを定期的にアップデートすることでヤンマーの強みである「トータルエネルギーサービス」を強化し、更に効果的なソリューション提案ができる開発に取り組んでいきます。

図6.エネルギー使用量の削減事例

著者

ヤンマーエネルギーシステム株式会社 開発部

原 章博

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