SOLUTION 02 / Robotics ロボット化

安全な自動着桟・
自動航行の実現で
人々の負担軽減と
安心・安全な未来の創造を

中央研究所
いままでユーザーのストレスとなっていた着桟操作を自動化し、誤差数十cm以内の安全な着桟を実現。自動航行と組み合わせることで、マリンプレジャー事業への貢献はもちろん、漁業や海洋事業などの従事者の負担を軽減し、洋上作業の代替・省人化を目指します。

ISSUE

ユーザーの負担を軽減し安心して
仕事ができる社会を創る新たな挑戦

ヤンマーの強みのひとつであるマリンプレジャー事業。新たな着眼点から生まれたさまざまな製品やサービスで、洋上で作業をする人々を支え続けてきました。そんなヤンマーは、操船においてある程度のスキルが必要で、ユーザーの大きなストレスとなっていた「着桟※」に着目。煩わしい操作を行うことなく、スムーズかつ安全に着桟するための「自動航行・着桟システム」と、洋上で安全な航路を自動で判断・生成し、航行する「自動航行システム」の開発をスタートさせました。これらのシステムの開発はマリンプレジャー事業のみならず、従事者人口の減少・養殖の需要拡大が進む漁業の市場環境や、危険な作業を伴う海洋事業のフィールドにも大きなメリットとなります。洋上作業の代替・省人化によって漁業や海洋事業従事者などの負担を軽減することも視野に入れながら、2017年から開発を進めてきました。

当初は、世の中でよく使われている1軸1舵の船舶(自動車と同じようにアクセル1軸と操舵1軸の操作軸をもった船舶)をターゲットとして技術開発を目指していました。しかし、風や潮の流れによりその位置を一定に保つことすら難しい船舶にとって、真横方向に力を直接作用させる自由度を持たない1軸1舵船の着桟制御は難しく、技術構築まで多大な開発工数が必要なことがプロジェクトを推進する中で徐々にわかってきました。世の中へいち早く製品を届けたいとの想いから、ターゲットを複数の推進器を搭載した2軸2舵船に切り替え、その開発に向けて開発工数を集約することを決断。船舶をどの方向にも動かせる推力配分機を搭載し、度重なる苦労の末確立した制御システムのノウハウと2015年に実用化した自社技術の定点保持システムを応用することで、2018年には自動航行・着桟システムと自動航行システムの基礎技術を完成させました。※洋上の桟橋や筏、岸などに船を着けること。

SOLUTION

周囲の環境を認識し経路を自動生成。ストレスなく安全な着桟を実現

操船の自動化のカギを握るのは、船舶の位置を割り出す「自己位置推定」。GPSを含む一般的なGNSSでは数m単位でズレが生じてしまいますが、ヤンマーの自動航行・着桟システムでは誤差を数十cm以内まで小さくすることを目指しました。開発初期には、農業分野で活躍中のヤンマーのロボットトラクターにも活用されているRTK(Real time kinematic)を採用。港湾側に基地局を設置し、精度を上げるために補正信号を出す設備を利用したシステムを開発しました。ですが、このシステムでは基地局が設置された特定の港湾でしか使用できないほか、周囲の実環境を認識するセンサがないことから安全性にも課題がありました。そのため、次の段階として周囲の環境を認識するセンサである3D-LIDARを船舶に搭載し、周囲物体の計測情報をもとに高精度で自己位置を推定するシステムの実現に着手しました。

その結果、基地局なしでも自己位置推定誤差を数十cm以内にすることに成功し、さらには、着桟したい位置を指定するだけで周囲の実環境を考慮した航路および航法を自動生成することが可能となり、開発初期には4分程かかっていた自動着桟を実用レベルである2分半程に短縮させることができました。沖合での航行では、レーダーで広域な荒い地図を作り、航行経路を設定。その経路に沿って実際に航行しながら3D-LIDARで周囲の環境を細かく探索し、近距離の障害物を検知する仕組みを採用しています。また、狭い港湾内での航行・着桟には、3D-LIDARを用いて高解像度な地図を生成。衝突などのリスクが少ない安全な航路を選択し、航行から着桟までを自動で行います。「ユーザーが安全に航行でき、自由な位置に、ストレスなく船舶を停められるシステムを作りたい」という開発チームの揺るぎない想いが、この結果につながったのです。

船首の3D-LIDARで高精度に周囲環境を把握。

沖合いでは広域の地図を作成し、航路を設定。

狭い港湾内や着桟には高解像度な地図を生成。

RESULT & FUTURE

さまざまなフィールドへの
技術応用を目指して

試行錯誤しながらの開発。本当に安全でスムーズな航行が可能かどうかは、実環境で検討する以外に方法がありません。国内におけるテストフィールドは皆無と言って良く、実環境の選定は苦難を極めました。最終的にはヤンマーが運営するマリーナの協力のもと、市や県などの行政と漁協など周辺住民の皆様から許可を頂き、実海域を模擬した環境を設計・建設することから取り組みました。1か月半かけて模擬した環境での評価を十分に行うことができた他、雨や雪、強風下など様々な気象条件での試験も行うことができました。

このような実機評価を行ってみないとわからなかったことは多く、本システムにおいてもレーダーで観測した時のブイや筏の見え方が予想とは異なっていました。またブイは避けられても、ブイと碇をつないでいるロープに接触する危険があることや、日々変動する気象条件により、これらの位置が一定ではないことなどが分かってきました。設計・構築時の環境情報を航路計画に反映させ、また複数のセンサを組み合わせることにより検知率を向上させるなどの対策を講じ、より確かな安全航行を実現しつつあります。さらなる安全性への配慮においては、悪天候への対策に関しても取り組みを行っています。風に対しては、風速7m/sの中の航行でも誤差50cm程の制御精度を達成しています。

このように、絶えずより安全で精度の高いシステムの確立を目指すヤンマー。今後はさまざまなフィールドへの技術応用を目標に、研究・開発を続けていきます。

ヤンマーマリーナでの着桟テスト。

ブイや筏の回避テスト。

(2分17秒)

INTERVIEW人と自然の豊かさを追求し
“使われ続けるロボティクス技術”を
確立するために

開発の進む「自動航行・着桟システム」には、すでに企業さまや官公庁から多数のお声がけをいただいています。ヤンマーなら船舶に関しても、エンジンからシステム、船体まで一貫した基礎研究・開発・生産が可能。ものづくり全てに責任を持ち、カスタマイズにも柔軟に対応できることが私たちヤンマーの強みです。こうして自動航行・自動着桟が実際の現場に広まることで、過酷な環境下にある漁業や海洋事業の従事者が「きつい仕事から解放され、安心・安全に仕事ができる」ことにつながります。

制御系の技術を担当する原は、「今回開発している技術は入口に過ぎません。現在は港湾内など限られた環境条件でしか使えない部分が多いですが、養殖業や海上作業に従事する人に貢献するため、より実用的な環境で使えるシステムを提供したいです」と目標を語りました。また、自動操船技術の研究開発を担当する福川は、「真の安心という領域にむけて、人の心理や感性的な部分へのアプローチも含めてお客様が心から安心できる技術の探求を行っていきたいです」。そして認識系の技術を担当する嵩も「ただ技術を市場に投下するのではなく、使われ続けるロボティクス技術を確立していきたいです」と想いを語ります。こうしてお客様の課題を解決し、未来につながる社会とより豊かな暮らしを実現するために私たちの挑戦は続きます。