2023.09.28

女性による女性のための農業支援プロジェクト 「ヤンマーアグリガールズ」の活動を紹介

現在、日本の農業は、就労者の高齢化や人口減少、担い手不足などさまざまな課題を抱えています。

農業従事者は年々減少傾向が続いており、2020年は136万3000人と、5年前から22%減少。2035年には64万人程度まで減少すると予想されています。

このような状況の中で、「私たちの食=農業」を守っていくひとつの解決策として、これまで以上に女性農業者の活躍の幅を広げ、そのチカラを発揮していけるようにすることが重要です。

そのような日本の農業の未来を支える女性農業者をサポートしているのが、ヤンマーアグリジャパン北海道支社の女性社員で構成された「ヤンマーアグリガールズ」です。
女性のみを対象とした農業機械研修「アグリトレーニング」など、さまざまな活動を通じて感じる女性就農の可能性と課題についてインタビューしました。

<ヤンマーアグリガールズ>

鹿間 桃香(しかま ももか)写真左
ヤンマーアグリジャパン株式会社 北海道支社 サービス事業推進部 新潟県出身。

遠藤 みのり(えんどう みのり)写真左から2番目
ヤンマーアグリジャパン株式会社 北海道支社 アグリサポート部(国産トラクター担当) 北海道出身。

工藤 千佳(くどう ちか) 写真中央
ヤンマーアグリジャパン株式会社 北海道支社 アグリサポート部(野菜移植・播種機担当) 北海道出身。

柳田 梨帆(やなぎだ りほ)写真右から2番目
ヤンマーアグリジャパン株式会社 北海道支社 アグリサポート部(田植え機担当) 北海道出身。

荒木 瑞香(あらき みずか)写真右
ヤンマーアグリジャパン株式会社 北海道支社 アグリサポート部(輸入機械担当) 北海道出身

※取材者の所属会社・部門・肩書等は取材当時のものです。

ヤンマー女子が農業女子を支援するプロジェクト

──「ヤンマーアグリガールズ」が発足した経緯を教えてください。

工藤:「ヤンマーアグリガールズ」は、ヤンマーアグリジャパン北海道支社で立ち上がった、女性農業従事者支援プロジェクトです。

日本の農業の96%は家族経営 です。その一方で規模や面積はどんどん拡大していくと予想されています。農業に従事されるご家族それぞれの作業負担が大きくなる中で、安定した農業経営を持続していくには、女性の活躍が欠かせません。そこで、女性が農業に参加するには、作業の効率化や働きやすい環境づくりが重要と考え、それらを可能とする最新農業機械に触れていただこうという目的でプロジェクトが発足しました。

<工藤 千佳さん>
<工藤 千佳さん>

柳田:かつては、田植えや収穫といった農繁期には、「出面(でめん)さん」と呼ばれる農作業をお手伝いしてくれる女性アルバイトがたくさん集まりました。そのため家族経営でも成り立っていたのですが、現在はほとんど人が集まらないようです。その理由は、女性が担う農作業は体力を使う昔ながらの手作業がほとんどで、その作業に見合った時給ではないからです。私たちも、会社が所有する約2haの圃場で小麦やスイートコーン、サツマイモなどの栽培を行なっていますが、人力での農作業は本当に大変。思わず弱音がこぼれるほどです。

工藤:出面さんは集まらない。規模や面積はどんどん大きくなっていく。ご家族の負担を少しでも軽くしたいと、奥様が農業機械の操作方法をご主人に教えてほしいと頼んでも、農作業で忙しく時間がないので、なかなか教えてもらえない…。そのような声を聞いて、ならば、ヤンマーの女性社員が講師となって女性農業者の皆さんに農業機械の操作方法を指導さするのが良いのではないかということになり、「ヤンマーアグリガールズ」が誕生したのです。

──そこで農業機械の実演や修理対応などを行なう部署に所属されている皆さんがメンバーとして抜擢されたんですね。

工藤:そうです。ですが、入社前はほぼ全員、農業や機械についてまったくの初心者でした。トラクターなどの機械を扱う部署に配属となったものの、機械のことも知らなければ、大きな農業機械に乗ることも怖かったくらいです。それでも、やるしかないと心を決め、学びながらここまで来たという感じです。今ではみんな、お客様の前でちょっと得意げな顔をして操作できるまでになりました(笑)。

荒木:私は実家が農業を営んでいて、現在も休日は農作業を手伝っているのですが、本格的に農業機械を使って作業することはなかったんですね。ですが、アグリサポート部に配属になり、さまざまな農業機械の操作を覚えたら、すっかり父に頼られるようになりました(笑)。近々、コンバインで小麦の収穫を手伝う予定です。

鹿間:私が所属しているサービス事業推進部はメンテナンスを担当している部署で、主に安全装置や日常点検などについて指導させていただいています。ヤンマーアグリガールズの活動で農業や機械に興味のある女性の方々とお会いすることで、お客様の明るくて前向きな様子に元気をいただいています。そのような方々のお悩みを解決したいとやりがいも感じています。

農業機械研修と交流を楽しめる女性だけの集い

──活動内容について教えてください。

工藤:講師も参加者も女性のみの農業機械研修会「アグリトレーニング」を定期的に開催しています。トラクターをはじめ田植え機などの農業機械、GPS操舵システムの使い方、さらにはメンバー全員、ドローンの操縦資格と指導者資格を取得しているので、ドローンの操縦方法もレクチャーしています。

新型コロナウイルス感染症の影響により、開催を見合わせた時期もありましたが、年に約10回ペースで実施し、累計100名前後の方々にご参加いただいております。これまでの参加者は、すべて農家さんの奥様です。

<アグリトレーニングの様子1>

遠藤:アグリトレーニングは、まず座学による農作業安全講習から始まります。研修中の事故防止はもちろん、学んでいただいたことをご家族へお伝えいただき、安全啓発していただくという目的も兼ねています。

農作業安全講習が終わると、屋外にて農業機械の操作を体験していただきます。最初は「怖い、難しい」と、恐る恐る農業機械に触れている様子ですが、最近の農業機械は経験値を問わず、誰でも楽に操作できる機能が搭載されています。しかも使いやすいので、徐々に慣れていき、研修が終わるころには、しっかりスピードを出せるようになる方も少なくありません。笑顔で「意外に簡単だね」というご感想をいただいたときは、こちらも嬉しくなります。

<アグリトレーニングの様子2>

工藤:特にトラクターはキャビンが付いていて、エアコンで涼しくなった車内で作業できるので、皆さん口を揃えて、「外で作業するなら絶対トラクターに乗りたい!」とおっしゃいます。

何よりもトラクターの運転は楽しい。タイヤが自分の身長ぐらいある大きな乗り物を運転することなんて、普段の生活の中ではまったくないですから、乗車されること自体を楽しまれる方もいらっしゃいます。

柳田:そして、もっとも盛り上がるのが、研修会後のランチ付き座談会です。農家さんの場合、女性だけで集まる機会がないということもあり、まさに女子会さながら。農業も機械も関係ない、プライベートな話で持ちきりになります。帰るころにはすっかり打ち解けた様子で、ご家庭とは違う雰囲気の中でおしゃべりを楽しめる、よいリフレッシュの場になっているのかなと感じています。

<柳田 梨帆さん>
<柳田 梨帆さん>

女性だから理解できる、女性農業者の悩み

──活動を通じて女性が就農する大変さはどこにあると感じていますか?

工藤:家事や子育てとの両立は、農業業界でも大変と常々感じています。一見、農家さんは親子二世代・三世代で生活されていることもあるので、家事や子育てとの両立がしやすいように思えますが、現実は違います。とにかく農業は人手が足りません。終日、おじいちゃんもおばあちゃんも外に出て、家族総出で働いているので、家事と子育ては奥様が一手に引き受けている状態。その合間に農作業も行なうわけですから、農繁期は息をつく暇もない忙しさになります。体力的にも奥様の農業機械活用は必須だと感じています。

荒木:ほかにも腕力の問題があります。女性だけで農業が完結するような体制にしたいという声も聞くのですが、トラクターで作業をする際は、後ろに作業機を取り付ける必要があって、とても大きなものになると女性の腕力だけでは厳しいです。

その課題解決に向けて、各メーカーから作業機をワンタッチで取り付けられる製品がリリースされていますが、まだ開発途上といったところです。

<荒木 瑞香さん>
<荒木 瑞香さん>

遠藤:すべてを機械で、というのは現状では難しいですよね。例えば、圃場に肥料を撒くとき、まずは散布機に肥料を入れないといけません。肥料は1袋20kgで、これを何袋も入れるんです。機械を使う前に手作業でやらないといけないことがあって、そこが女性には過酷だなと、自社圃場での栽培を通じて痛感しています。

鹿間:あと、よく聞くのはUV対策ですよね。

柳田:そうそう、トラクターのキャビンにUVカットガラスを入れてほしいとおっしゃっていた奥様がいました。屋外作業が多い私たちも望んでいることなので、とても共感しました。

工藤:手作業の大変さ、作業機を取り付けるときの苦労や失敗、そして紫外線の怖さ(笑)など、ヤンマーアグリガールズのメンバー全員が体験しています。だからこそ、女性農業者の気持ちがわかりますし、これから農業を始めたいと考えている女性たちに発信していくこともできます。

農業機械の指導だけでなく、課題解決のために、まずは課題そのものを知っていただくことにも使命感をもって取り組んでいます。

業務の様子

女性の就農につながる活動をし続けていきたい

──ヤンマーアグリガールズの今後の展望を聞かせてください。

工藤:現在、北海道庁とのタイアップによるアグリトレーニングを開催しています。ここで初めてGPS自動操舵といったスマート農業に触れる方も多く、農業のイメージががらりと変わる方もいらっしゃいます。このような機会を今後も増やしていき、ヤンマーアグリガールズの知名度を上げたいと考えています。

荒木:特に、最先端技術を取り入れた機械を実際にご覧いただいたら新鮮な驚きがあると思います。農業の分野を超えて活躍している農業機械があることも、たくさんの方に知っていただきたいです。

また、ヤンマーアグリソリューションセンター北海道(江別市光栄町10-6)の1階にショールームがあるので、こちらの見学もおすすめです。

遠藤:予約していただければ、私たちのアテンドでトラクターの運転もできますので、きっと楽しいと思いますよ。

<遠藤 みのりさん>

鹿間:アグリトレーニングに参加される方から「女性に特化した農業イベントって少ないよね」という声を聞くので、ヤンマーアグリガールズ主催の女性用農業アイテムを揃えた展示イベントも開催してみたいですね。
ちなみに私は、腕力や握力が弱い女性でも使える工具を展示してほしいです。

<鹿間 桃香さん>

柳田:それこそ日焼け対策グッズはマストですよね。

工藤:自営農業に従事している就農人口の約4割が女性で、今後の農業の発展に欠かせない重要な担い手です。そのような農業の未来を支える女性農業者の皆さんが、働きやすくかつ「農業は面白い!」と改めて感じていただけるよう、これからも積極的に活動していき、私たちも楽しみながらサポートしていきたいと考えています。