営農情報

2013年6月発行「FREY1号」より転載

畜産と稲作の複合経営だから展開できる本物の循環型農業。昔ながらのやり方と先進技術のコラボで光る経営手腕

環境に優しい循環型農業。これに取り組み、成果をあげているのが、鳥取県米子市の(株)柳谷ファーム代表 柳谷一夫さん。
稲作と畜産の複合経営を行い、「第51回農林水産祭参加の鳥取県主催平成23年度鳥取県優秀経営農林水産業者表彰」で農水大臣や県知事から表彰を受け、県西部を代表する稲作農家と言われるまでに事業を発展させてきた柳谷代表の経営手腕に迫る。

(株)柳谷ファーム

柳谷 一夫 様

鳥取県 米子市

Profile
鳥取県米子市在住。51歳。従業員5名を擁する(株)柳谷ファームの代表。稲作67haを中心に、転作田を活用して牧草(イタリアンライグラス、ソルガム)や白ネギ、黒大豆、春小麦などを10ha栽培。あわせて和牛の繁殖(約30頭)も行う。他に、春と秋の作業も受託する。

農業の基本は土づくり、循環型農業で付加価値を

「よし、今年もいい米ができたぞ」
ライスセンターで次々に袋詰めされていく玄米をチェックしながら、(株)柳谷ファームの柳谷代表は、満足そうにうなずいた。
同社は山陰地方随一の秀峰大山を間近にのぞむ米子市の一角で、稲作67haを中心に、野菜(白ネギ)と和牛繁殖の複合経営を行っている。特徴的なのは、稲作に加えて畜産を営むことによって、環境に優しい「循環型農業」に取り組んでいること。牛の排泄物と寝床に敷く稲ワラや、籾殻等で完熟堆肥をつくり、それを農地に戻す。そして、その農地でつくられた稲ワラを牛が食べ、その排泄物などでつくられた堆肥が再び農地に戻され、次の米や野菜が栽培される。この循環サイクルが1つの経営体の中で繰り返され、天然の資源が無駄なく稲や牛の生育に活用される、という仕組みだ。この自然の摂理にかなった昔ながらのやり方で、高品質でおいしく、安全な米を生産してきて、かれこれ10数年になる。

「循環型農業に取り組もうと考えたのは、異常気象によって米の等級が下がったのがきっかけでした」と柳谷代表は振り返る。米子市の平場では年々夏が暑くなり、つくった米がなかなか一等米になりづらい状況だった。等級では高冷地の米に太刀打ちできない。「市場にアピールするには、何か付加価値をつけることが必要だと考えました。その結果、せっかく牛を飼っているのだから自家製の堆肥を使った土づくりにこだわり、低農薬で化学肥料を可能な限り使わない、安全・安心で、環境にも優しい循環型農業をアピールしようと決めたのです」

元々、柳谷家は祖父の代から3代にわたって『農業の基本は土づくり』と考え、牛を飼いながら土づくりに励んできた。その結果、土地の地力が高まり、おいしく安全な米を栽培してきた。ただ、以前は堆肥用機械を持っていなかったため、堆肥の製造や運搬・散布に苦労し、堆肥の活用は十分ではなかった。そこでホイルローダやマニアスプレッダなど専用機を導入し、良質の堆肥をたくさんつくって農地にたっぷり投入している。

「安全・安心な自前の資源がふんだんに活用できるのは、牛を飼っているからこそ。ただ、住宅地が混在する平場では、家畜のにおいや米の乾燥調製作業時の騒音、ほこりなどで近隣から苦情が来て、循環型農業が成り立ちにくいのが実情です。私は、乾燥施設を住宅地から離したり、牛舎を奥まったところに移したりして、循環型農業を継続してきました。昔は処理に困りがちだった牛の糞尿や敷き材も、現在では余すところなく堆肥に変えられ、においも軽減されました。長年堆肥を入れ続けた農地は地力がより一層上がり、土が肥えて高品質の作物がとれます。等級では高冷地に及ばないかもしれませんが、味では負けないと自負しています」と柳谷代表は力を込める。

完成したライスセンターで機械の稼働状態を確認する柳谷さん。
異物の混入のない玄米。これを低温倉庫で保管し、個人客には籾摺りした直後に精米・無洗米処理して届ける。

米のコンテストで最優秀賞に。味も品質もお墨付き

こうした土づくりが成果を上げ、平成23年2月に行われた「きぬむすめ栽培コンテスト」(鳥取県産米改良協会主催)で柳谷代表は見事、最優秀賞に輝いた。整粒率83.2%(全体69.1%)、食味値83.3(同72.9%)、アミロース18.3%(同19.3%)、たんぱく質7.2%(同7.8%)、総得点166.2点(同142点)。すべての項目で他を引き離す堂々の一位。ちなみに二位の受賞者も畜産を含む複合経営で、土づくりの大切さを関係者に再認識させた。この朗報がクチコミで広がり、商社との契約栽培も増え、米穀店や飲食店、福祉施設、個人消費者などからの注文も伸びている。

12月から3月まで、冬の4か月間の仕事を確保するために導入した白ネギも、堆肥の効いた畑で栽培されるため、「甘く、みずみずしくておいしい」と取引のある飲食店などの間で高評価を得ている。

ライスセンター導入で高品質と規模拡大を両立

平成23年2月、柳谷代表は経営を安定させ自信を持って後継者に託せることができる経営体を目指そうと、法人化に踏み切った。それを機に、大型機械や設備を次々に導入。その一環として今年4月、前出のライスセンターを新設した。狙いの1つは高品質な米づくりだ。「乾燥調製作業は米づくりの最後の仕上げだから手が抜けません。乾燥調製のやり方次第で、商品価値が大きく左右されますからね」と柳谷代表。
そこで、ライスセンターには主に遠赤外線乾燥機を導入。また、サイロで初夏から夏場に籾で貯蔵する米は、自然の風でゆっくり乾燥させる昔ながらの累積混合撹拌乾燥機を今も使用して、おいしい今摺り米を個人客に提供する。また、調製作業では、色彩選別機によって乳白米やカメムシなどによる被害粒、砂などを除去し、見た目にもきれいで高品質な米に仕上げる。
「『安心して子供たちに食べさせられます。今年から給食に玄米食を出すので、仕入れたい』と市内の幼稚園から注文が来ました」と笑顔で話す柳谷代表。
ライスセンター導入のもう1つの狙いが、大規模化。そのために50~55石の乾燥機などを多数増設し、400トンの処理能力を有す施設に拡張した。「この3年間、毎年5haずつ経営面積が増え、全面委託や請負も年々増加しています。今秋の収穫時期は作業受託も入れると100ha近い作業が集中しそうです。新しい施設ができて大幅な省力化や時間短縮が図れるので、今秋は今まで以上に高品質に仕上がった米をスムーズに供給していけるでしょう」と、柳谷代表は自信を見せる。

先進的な取り組みを行政も注目。多方面からの商談も増加

柳谷代表は高品質な米づくりの他にも、様々な挑戦を行っている。例えば、畜産では、飼料を全量自家産で賄うために転作田を活用して牧草を栽培し、その一角で和牛の放牧を行う。「給餌や牛舎の清掃にかかる労力やコストが削減できるうえ、牛のストレスが軽減され、繁殖率も向上します」と柳谷代表。また、社屋の屋根を使って太陽光発電を導入したり、軽トラックも電気自動車に転換。さらに社員に対しては、社会保険への加入や休暇制度など、福利厚生を充実させた。

こうした先進的な農業経営が高く評価され、「第51回農林水産祭参加の鳥取県主催平成23年度鳥取県優秀経営農林水産業者等表彰」で、農林水産大臣賞と鳥取県知事表彰を受けた。
「励みになります。当面の目標は米の直販率を上げること。紹介やクチコミなども効果を上げてきているので、保育園や福祉施設などへの納入を増やすとともに、Webを活用して一般消費者への宅配も伸ばしていきたいですね」
紹介やクチコミと言えば、地元産で安全・安心な良質の大山小麦を使ったパンや菓子を県内に広め、全国にも発信しようという「鳥取県大山小麦プロジェクト」を行っている、米子市内のベーカリー「麦ノ屋」から柳谷代表に声がかかり、春小麦の契約出荷の商談がまとまった。

このプロジェクトは、県内の中小企業者と農林水産業者が連携し、双方の経営資源を有効に活用して行う事業活動に対して、鳥取県産業振興機構が支援する「ファンド事業」の1つとして認定を受けている。経営改善を図るための各種支援も用意されているそうだ。また、まだ構想段階ではあるが、中国の準富裕者層に向けて米を販売してみないかという話も、舞い込んでいる。全国に、さらに世界にまで視野が広がる夢のある計画に胸を高鳴らせながら、柳谷代表の挑戦はまだまだ続く。

笑顔が明るい柳谷さん。
700m2のライスセンター内部。収穫時期、多数の乾燥調製機械の前を籾を満載したトラックが出入りし、フレコンバッグを載せたフォークリフトが行き来しても、余裕のあるスペースを確保。手前は、鉄コーティング種子を使って米の直播を行う無人ヘリ。省力化のために導入を検討するため、昨年に引き続いて今年も試験を実施する予定。
牛の糞尿に牛舎の床に敷いたワラや籾殻を混ぜて堆肥をつくる。
ビニールハウスの中ですくすくと育苗中の白ネギ。

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