営農情報

2013年10月発行「FREY2号」より転載

科学的知見に裏付けられた有機農業を確立。地域を越えた資源循環型農業にも挑戦

「土壌分析や肥料設計に基づいた有機農業で栄養価の高い農産物づくり」をモットーに、生産組織と販売組織を束ねる斉藤公雄氏。農薬や化学肥料の使用量を半分以下に抑えた特別栽培以上の基準の農産物流通と、農産物から出る生ゴミを肥料化し、農業に生かす資源循環システムを構築し、事業の両輪となっている。
東日本大震災の影響を乗り越え、時代を先取りしたビジネスモデルづくりに情熱を燃やす。

農業法人 (有)アグリクリエイト

斉藤 公雄 様

茨城県 稲敷市

Profile
1953年生まれ。1989年に生産組織、有機栽培あゆみの会を結成。
1995年に農産物販売を主とするアグリクリエイトを設立。会員農家約120名の農産物のほか、全国の提携産地の米、野菜、果物を宅配業者、百貨店、生協等に販売。売上約13億円、社員約40名。

有機農業に科学を持ち込む

有機農業は、化学肥料や化学農薬を前提とする近代農業へのアンチテーゼとして生まれた。自然の影響を受けやすい有機農業に果敢に挑戦する農業者は全国各地にいる。
そのなかで有機栽培あゆみの会・アグリクリエイトの両代表をつとめる斉藤公雄さんは異彩を放つ人物のひとりだ。有機農業に科学的知見を持ち込んだ人物である。

化学肥料を使う場合、肥料の三要素である窒素(N)、リン酸(P)、カリウム(K)の割合は商品に明記されている。農家は土壌分析に基づき、必要な成分を足すことができ、肥料設計もしやすい。

一方、化学肥料を使わない有機農業の場合、農家自らが畜糞や落ち葉などを集めてつくる堆肥が主な栄養分だ。堆肥は農家によって原料もつくり方も異なる。そこに斉藤さんは着目した。「堆肥は入れれば入れるほどいいと言う農家もいるが、窒素が多すぎて土壌中の硝酸値が高くなったり、未完熟堆肥を使って虫が発生するという問題も起きやすい。有機農業も科学的根拠に基づいたやり方が必要だと思った」
19歳で父を亡くし、後を継いで就農した。稲作とライスセンターの運営を引き継いだが、農業だけでは生きていけなかった。農閑期に農業機械メーカーに勤め、支店で一番の成績を上げるほどになった。体調を崩して道半ばで退職した後も土木会社、肥料会社と農業と関係の深い会社で経験を積んだ。

1989年、斉藤さんは2人の稲作農家と生産組織、有機栽培あゆみの会を立ち上げた。有機との出会いは肥料会社での経験がきっかけだ。「発酵の世界に魅せられ、ものすごく研究をした。土を丈夫にするには有機質資材を原料とする堆肥を入れる。よい堆肥をつくるカギは発酵だ。発酵抜きで有機を語るべからずという基本をこの時に体感した」。そのことを実証するためにも、有機栽培あゆみの会を立ち上げ、自ら有機栽培に挑戦した。

当時、有機米をつくるというだけで周りから「変わり者」と見られた。さらに当時は食管法(食糧管理法の略。1942~1995年)があり、農家が自由に売ることができず、有機米もいまのように評価を受けていなかった。地団駄を踏んでいたところに食材宅配業者の大手、『らでぃっしゅぼーや』との出会いが生まれ、米の取引が始まった。すると「コメだけではなく、野菜もほしい」と言われ、農家仲間を増やしていった。デパートや生協など取引先が増えたこともあり、有限会社アグリクリエイトを1995年に設立。農薬や化学肥料を減らした特別栽培以上の農産物を販売するほか、会員農家への栽培指導、資材販売を行う。

自社農場では有機肥料を使って米やバジルを栽培する。バジルは人気シェフの監修を受けバジルソースとしても販売。
会員農家には土壌分析結果に沿って、必要な資材を安価で販売する。

有機から資源循環へと事業領域を広げる

同社が扱う農産物は、会員農家がつくる商品のほか、40haある自社農場で生産した商品も扱う。また、提携関係にある全国各地から集めた商品を低温倉庫で保管・選別・流通させるという産地卸の機能も担っている。
会員農家は、同社への出荷に先だって半年に一度土を持ち込み、事務所内の分析室で土壌分析を依頼する。同社では作物ごとにどんな養分が不足しているのか、あるいは過剰かを判断し、肥料設計を行い、必要な資材を販売する。現在、2名の専任職員を抱え、年間1,000検体を超える土壌を分析する。

相当のコストをかけて行う業務だが、会員農家であれば1検体あたり500円の低価格で分析を請け負う。「資材の販売とセットになっているから成り立つ面もあるが、農産物の品質が上がるのが最大のメリット」と斉藤さんは言う。
同社が行う肥料設計は肥料三大要素に加え、ミネラルなどの微量要素や腐食に至るまで細かく設計する。これらの栄養バランスがとれた時、食味のよい野菜ができ、病気にもかかりにくくなるという。単なる販売会社でなく、土壌分析や栽培指導に踏み込むことで、農家は高品質な農産物が生産でき、アグリクリエイトも売り先にPRできる。まさにwin-winの関係だ。

2000年前後から事業はさらに拡大した。農産物から出る生ゴミを回収するリサイクルシステムをつくり、農産物販売との相乗効果で業績が伸び、年間15億円を売り上げる企業まで成長した。
リサイクルシステムはきわめてシンプルだ。スーパーやレストラン、一般家庭などから出る生ゴミを市販の処理機で乾燥・減量化し、宅配便で同社指定の肥料工場に送ってもらう。工場ではカルシウムやミネラルなど栄養素を加えて良質な有機肥料に仕上げ、会員農家に使ってもらう。つくられた農産物は生ゴミを排出したスーパーやレストラン、家庭で使ってもらう。

この仕組みは「いかにして土壌を健康な状態に保ち、栄養価の高い農産物をつくるか」という原点をつきつめる過程で、生まれた発想だ。「収奪した養分を土にもどすのが有機農業だが、産地だけでは完結しない。消費者の協力も不可欠だ。地球と人間は同じ。地球だけをゴミのたまり場にし、人間だけがきれいな生活をするなんてことが続くわけはない」と斉藤さんは言いきる。多くの方がこの考え方に賛同した。その結果、生ゴミ処理機を導入し、資源循環に乗り出す企業、自治体は全国に100カ所を超えるまでになった。

資源循環社会の実現に向け冷めぬ情熱

その後、予期せぬ事態に見舞われた。東日本大震災にともなう福島第一原子力発電所の放射能漏れ事故で、農産物販売とリサイクル事業の両方が打撃を受け、売上も若干減少した。同社が強みにしている有機・無農薬栽培農産物は、食の安全に気遣う消費者に支えられてきた。そういう人ほど、福島県から近い関東圏産の購入をためらいがちだ。同社にも取引先からの注文がなくなったわけではないが、消費者は多くの選択肢を持っており、より安全な地域の農作物に注文が移ってしまう。とりわけ米の注文が影響を受けた。
事態に対応するため、有機栽培から慣行栽培に切り替える農家も出てきた。同社も他県産を含め、慣行栽培農産物の扱いを増やしている。「それでも、有機や無農薬にこだわる本流を変えるつもりはない」と斉藤さんはきっぱり言う。
リサイクル事業も痛手を受けた。ユーザーから「電気を節約すべき時代に、電気で生ゴミを処理するとはいかがなものか」という声も聞かれるという。

それでも斉藤さんは資源循環のシステムづくりに手を緩めず、むしろ拡大に力を入れる。イトーヨーカ堂が(株)セブンファームを設立し、農業生産に参入している。そのひとつであるセブンファームつくばに同社も出資し、実質的な農業生産を担っている。セブンファームつくばではイトーヨーカ堂から出る食品残渣を原料にした肥料が使われている。肥料工場の建設には斉藤さんが蓄積してきたノウハウが存分に生かされている。

これまでの活動が土台となって新たな事業も生まれつつある。リサイクルシステムに対する消費者の理解を深めようと、東京・銀座に位置する同社の東京支社が中心となって、食や農に関する勉強会を開いてきた。勉強会がきっかけとなり、銀座の飲食店関係者やまちおこしの専門家とのつながりが生まれ、2006年から銀座でミツバチを飼育する「銀座ミツバチプロジェクト」が動き出した。その立ち上げ時には同社が事務局を担った。現在はNPO法人銀座ミツバチプロジェクトが運営している。

同社が管理する自社農場でも、米や野菜生産に加え日本ミツバチの飼育を始めた。ミツバチが元気に生息できる環境づくりを進め、自社農場が生産した米は「みつばちの里の米」として販売され、米粉とハチミツを原料にしたお菓子「はにポン」も商品開発した。
都会に暮らしながら農業に関心を持つ消費者が増えてきたことを受け、オフィスビルの屋上などでの農園運営事業という新事業も生まれた。現在都内の6カ所の農園管理をまかされ、あゆみの会の会員農家が各農園に出向き、栽培指導にあたっている。

自社農園で栽培したバジルを素材に、イタリアンシェフとコラボレーションしてつくった濃厚なバジルソース。米粉のお菓子「はにポン」は、米粉・ハチミツともに茨木県産を使用。軽い口当たりで、優しく、懐かしい味わいが特長です。
銀座ミツバチプロジェクトからつくった高品質なハチミツです。

斉藤さんの目標は、リサイクルの仕組みそのものを輸出することだという。すでにベトナムやマレーシアでのリサーチも行っている。「そのためにも、国内で経済的にも成り立つリサイクシステムを広げることが大事。そのカギを握るのは消費者」と言う。「生ゴミ堆肥からつくった農産物を一定量は消費者が買うようにする法律をつくってでも、消費者の意識を変えたい。資源を大切にする農業と、そうした農業から生まれた農産物を積極的に買い支える仕組みが確立すれば、日本は世界から尊敬される」と斉藤さんは話す。
有機農業に科学的知見を加え、さらに資源循環社会のシステム化へと視野を広げるなど常に時代の一歩先を読み解き、仕組みをつくってきた。農業界に少ない人材。それゆえ必要な人材である。

ミツバチが生息できる環境づくりをめざし自社農場では日本ミツバチを飼育。蜜の量の多い西洋ミツバチではなく、あえて土着の日本ミツバチにこだわる。自社農場はアグリクリエイト振興部の社員5人で主に管理する。
屋上農園
三越銀座店(東京)の屋上にある「銀座三越テラスファーム」は、アグリクリエイトが管理する屋上農園のひとつ。80平米の農園には野菜やハーブが植えられ、地元小学校の農業体験の場としても活用されている。

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