営農情報

2017年7月発行「FREY10号」、2017年11月発行「FREY11号」より転載

創業20年で年商10億円越えを達成した新規参入者

農地保有適格法人(旧名・農業生産法人)の株式会社HATAKEカンパニーはベビーリーフの取扱量が550トンと国内最大級を誇る。自社で8割を生産するほか、フランチャイズ型農業を展開して契約で栽培する会員農家を拡大。生産から調製や袋詰め、物流に至るまでのサプライチェーンを独自に築いている。木村誠社長が一代で創業してから今年で20年目を迎え、年商は10億円を超えるまでに成長した。

株式会社 HATAKEカンパニー

木村 誠 様

茨城県 つくば市

Profile
1966年、東京都板橋区生まれ。早稲田大学理工学部工業経営学科卒業後、塾講師や会計事務所職員を経て、岩石から抽出するミネラル資材を製造・販売する(有)川田研究所(茨城県つくば市)に就職。1998年、夫婦でベビーリーフをつくる木村農園を創業。2006年農業生産法人TKFを設立、2016年現社名に変更。経営面積は120ha。

ベビーリーフとともに成長

茨城県つくば市は田園地帯の一角にぽつんと、大きく、真新しい会社が存在する。100台はゆうに駐車できるスペースを持ち、車が頻繁に出入りしている。HATAKEカンパニーが2016年に建てた新社屋だ。

事務所に併設した出荷場から業務用の車が運んでいくのは、ベビーリーフやパクチーなどの葉物類に加え、ミニサイズのカブやダイコン、ニンジンなどの根菜類。毎日の出荷量はベビーリーフなら1500kg、ホウレンソウなら1000kgにもなる。

取扱高の8割を占める主力商品のベビーリーフといえば、今ではどのスーパーにも置いてある商材だ。レストランでサラダを頼めば、レタスやミズナ、ルッコラやホウレンソウなどの幼葉が色とりどりにちらせてあるのを目にする。食卓に彩りを与えるだけでなく、栄養価も豊富である。発芽直後の新芽は種の栄養素だけで育つため、亜鉛や鉄、カリウムなどのミネラル分が多く含まれている。

HATAKEカンパニーの歴史は、まさにこのベビーリーフの成長とともに歩んできたものといえる。というのも1990年代以前まで国内でサラダの材料といえばレタスとトマトくらい。そんなさみしい日本のサラダ事情を変えたのが、欧米で発祥したベビーリーフだった。業務用野菜の大手卸が主催する海外の視察ツアーに同行した木村さんは、ベビーリーフが日本にも根付くことを確信し、先んじて生産に乗り出していくことを決めた。

張富士夫氏からトヨタ生産方式を直伝

その後の経緯は長くなるので省くが、一つだけ特筆しておきたいことがある。それはトヨタ自動車とともに、農業現場では初めて「トヨタ生産方式」を活用することを模索したことだ。トヨタ生産方式といえば農業現場にも広まりつつある。その先駆けとなったのがHATAKEカンパニーなのは農業関係者ならばよく知るところ。しかもその指導には同社名誉会長である張富士夫氏が当たった。

では、トヨタ生産方式の根本にある「原価の低減」や「無駄の排除」などの考え方は、HATAKEカンパニーではどう実践されたのか。

たとえばほ場の管理について。収穫や液肥をまくためにうね間を空けて栽培していたのを、全面栽培に転換することで、生産量を3割増やせた。通路はハウスの真ん中に30cm幅の一本を設けるだけ。作業をする際には踏圧がかかりにくいスポンジシューズをはき、ほ場にクレーターをつくらないようにした。加えてハウスの両端がデッドスペースになっていたことから、そこを埋めるようにぎりぎりまで種まきをした。

このようにトヨタ自動車からのアドバイスを受けて改善できた事例もあるが、トヨタ生産方式がすべて根付いたかといえば、そうではない。ベビーリーフの市場が急拡大するにつれ、HATAKEカンパニーも経営面積を広げてきたが、その勢いに反するように、栽培技術がうまく浸透していかない。この点は課題として残る。

二度刈りで不足分を補填

これに関連して、いかに安定して供給するかについては多くの農業法人と同じく、HATAKEカンパニーにとっても大きな悩みである。

その解消のために独自に取り入れているのは「二度刈り」だ。通常は一度収穫したら、耕うんして更地に戻し、種をまいてつくり直す。もちろん播種から収穫まで時間がかかる。急きょ予定以上の量が必要になっても、早く生育してくれるはずもない。
その調整弁として、いったん収穫したベビーリーフの根は畑に残しておき、そこから新芽が生えてくるのを待つ。必要に応じてこれを再び収穫し、需給調整を図っている。とりわけ冬は需要量が年間平均の倍になるのに、逆に生育に日数がかかるので、二度刈りは欠かせない手段となっている。

県外にも農場を拡大中

とはいえ二度刈りは品質が上がりにくく、最終手段にしておきたいのが本音だ。そこで先ほど述べたように、HATAKEカンパニーは全国規模で農場を拡大している。

岩手県で5haのほか、最近まで大分県でも別の農業法人と10haを共同で経営していた。さらに単独で、今年だけでも愛知県幸田町での4haの農地に加え、埼玉県では40haの農地を借り受ける。ほかにも水戸市で基盤整備が終わったばかりの農地3.5haについてもつくり始める。
加えて栽培の契約先も増やしている。北海道の二つの農地所有適格法人と相互補完契約を結んでいる。要は気候の違いからよく取れる時期がずれることを利用して、ベビーリーフの不足分を補い合っているわけだ。こうして北から南までまんべんなく調達先をつくることで、周年安定供給の確立を目指している。

しかもベビーリーフの需要はまだまだ拡大することが予想される。HATAKEカンパニーでは、現在の市場規模は約50億円。将来的には300~500億円になると見込んでいる。

需要に供給がなかなか追いつかないことから、「農地が足りない」は木村さんの口癖だ。だからHATAKEカンパニーも農地の賃貸借の話については常にアンテナを張って、新たな土地への参入をうかがっている。
そこで課題になるのが、広がる農地をどう管理していくかだ。木村さんが農業をする根幹の思想には「農家がもうかる仕組みをつくる」ことがある。HATAKEカンパニーは全国の農家を会員とし、いわゆるフランチャイズ型農業を築いている。彼らが安心して出荷し、もうけられる仕組みとは何か。次で紹介する。

誰もが農業に参入できる仕組みをつくる

HATAKEカンパニーの木村誠社長が経営の発展とともに目指しているのは、「誰もが農業に参入でき、もうかる仕組みづくり」。そのためベビーリーフをつくる人を研修する制度を整備。さらにはハウスの修理や施工、堆肥の製造などといった農業の関連事業も展開し、新規就農者や契約農家を多方面にわたって支援する仕組みを整えようとしている。

IoTで予実管理

HATAKEカンパニーは拠点の茨城県だけではなく、最近になって岩手県や愛知県にも農場を展開し、いまもなお全国で新たな進出先を探してるところだ。土地が変わればつくり方も変わる。そこで試みているのがIoTによる生産のシミュレーションである。

東京理科大学や農業コンサルタントのアグロポリスとの共同研究で、つくば市の畑にセンサーを設置し、そこから得られる環境のデータを基に収穫時期を予測する試みをしてきた。これまでの試験では、ベビーリーフの種をまいてからの地温の平均を積算した値が一定になると、収穫の適期を迎えることがわかった。
これにより種をまいてからの地温を計測することで、全国どこでも、品種ごとに収穫の適期をかなり正確に予測できるようになる。結果として産地間のリレー出荷を構築し、安定供給につながっていく。新たに進出したい地域については、過去の地温のデータを調べることで、収穫の予測ができ、事前に生産計画を立てられる。

ベビーリーフは人気があるため、生産農家は増えている。生き残っていくのに必要な武器の一つとしてテクノロジーを大事にしている。経験と勘に頼るのではなく、IoTによる予実管理を徹底して、量販店の信頼を勝ち取っていく。

自社で物流やたい肥製造などの事業を持つ

HATAKEカンパニーは農業生産を助ける関連事業を興していっている。

一つは物流事業。取引先や市場へのベビーリーフの配送を合理化するため、既存の運送業者に委託するのを止めて、2015年に自社でその会社を創業した。現在は6台のトラックと1台のバンを毎日走らせ、ベビーリーフだけで年間550トンにもなる出荷分すべてをまかなっている。
これまでは専門の運送業者に任せていた。といってトラック1台を借り切っていたわけではない。トラックが別の荷物を運ぶ際、ついでに集荷場に寄ってもらい、荷台の空きスペースを埋める格好でベビーリーフなどを積んでもらっていた。ただ、燃油が高騰したことで、運送業者は次第にHATAKEカンパニーの注文を受けることをしぶるようになる。なかには料金の増額を要求してきた運送業者もある。

一方、増え続ける取引先に安定供給する責任も出てきた。物量を踏まえても自社で物流事業を興しても採算は取れると見込んだことから、その決断に踏み切ったのだ。

2015年にはたい肥の製造業にも乗り出す。製造施設を建設し、近隣の畜産農家から集めた家畜ふん尿でたい肥を造っている。出来上がったたい肥はすべて自社の畑にまいている。

事業でほかに計画しているのは農業用ハウスの施工やメンテナンス。農場を広げる中でハウスの施工面積も増えていく。新規施工やメンテナンスする必要が生じた場合、既存の事業者に任せていては、時間がかかってしまう。いずれの事業も自社の仕事だけを請け負えば赤字である。だから他社の仕事も引き受けるつもりだ。

たとえば運送業者に関しては、トラックの荷台が空いた時には近隣の農家の荷物も有料で積載する。たい肥も自社の畑で必要とする量以上をつくれそうなので、ほかの農家に販売する。ハウスの施工やメンテナンスの事業も同様である。

生産性の向上へハーベスターを試験中

経営面積を広げるにつれ、生産性の向上や人材の獲得は不可欠である。とくにベビーリーフは生産にしろ選別や調製にしろ、機械化が十分に進んでいないので、いまだに大勢の人手が欠かせない。そこでHATAKEカンパニーは外国製の収穫機を導入し、試している。

現状はエンジン式のいわゆる「バリカン茶摘機」を使っている。作業者二人は、バリカンの刃が付いたこの機具をうねの左右でそれぞれ持ち、ベビーリーフに刃を当てて前に進んでいく。バリカンの刃の後方には細かい目の網袋が取り付けてあるので、刈るたびにどんどんベビーリーフがおさまっていく。

ただし性能上の問題で、刈っても網袋に収まらずに地面に落ちたり、うねの際まで刈り取れなかったりするため、とにかくロスが多い。おまけに中腰で刈っていくため、肉体的負担が大きいうえ、作業の速度も遅い。

そこで車輪の付いたハーベスターを試している。人は立ったまま押していくだけなので、腰をかがめる必要はない。ロスが少ないようだったら、実用化する。

人材定着のため社員食堂や託児所を用意

人材の獲得ではインターン制度を用意。入社前に就職希望者の適性を判断して、離職率を減らそうとしている。
従業員が働きやすい環境づくりにも力を入れる。いったん雇い入れた人材の定着を図るため、予定しているのが社員食堂と託児所の運営だ。一番の目的は、貴重な働き手である、子どもを抱えた母親に長く働いてもらうこと。
もうひとつの目的は地域の人が気軽に来られる場所をつくること。そこで社員食堂も託児所も、直売所やレストランを併設することで、地域の住民が自由に来られる場所にする。休日は地域の児童や生徒が勉強するスペースにして、HATAKEカンパニーの社員が暇なときに教えることも考えている。

HATAKEカンパニーは全国に契約農家を抱えている。そこで彼らが農繁期を迎えたときの労働力を補完するため、人材派遣事業を興すことも検討している。とりわけ人材で注目しているのはスポーツ選手のOB。木村社長は「体力のあるスポーツ選手のセカンドキャリアとして農業の場を提供できるようになれば」と話している。

一連の事業はHATAKEカンパニーで修行して、新たに農業を始める人を支援するためでもある。木村社長は「僕は農業を一から始めて、本当に苦労しましたから。そんな思いをほかの子にはさせたくない。誰もが農業に参加できるよう、さまざまな支援体制をつくっていきたいと思っています」と語っている。

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