営農情報

2013年7月発行「トンボプラス2号」より転載

ミニライスセンターを軸にした、稲作ビジネス高付加価値のポイント

稲作で収益を上げるためには規模拡大、低コスト化とともに、商品価値を高めなければなりません。そこで重要なポイントになるのが機械化やシステム化による省力化、そしてなにより作物の高付加価値化です。

そこで兵庫県篠山市の農事組合法人“丹波たぶち農場”で、こだわりの米づくりとミニライスセンターの活用による高付加価値化のポイントについてうかがいました。

田渕 泰久 様

兵庫県篠山市
農事組合法人 丹波たぶち農場
専務理事

ミニライスセンターで作物の付加価値を高める

丹波篠山で稲作を中心に複合経営、70haを自社で乾燥・調製し、ネット直販も

農事組合法人丹波たぶち農場(以下、同法人)は、兵庫県篠山市で水稲70ha(受託40ha含む)、大豆、黒大豆、野菜、稲WCSなどで10ha強を栽培。そのほかに篠山の地域特産品の加工販売、イチゴ狩り、農作業請負い、貸し農園などを幅広く営む複合農家だ。2002年の法人化を機に、収量重視から食味重視に転向。現在は、さまざまな分野の販路開拓も進めている。

同法人ではこのほか、地元小・中学校の生徒を招いての農業体験や、一般参加の各種イベント開催、また、従来の作物だけでなく、2013年からは、途絶えつつある篠山地域特産の“山の芋”の栽培にも挑戦するなど、地域社会との共生を目的とした活動も行っている。

そんな同法人が最も力を入れているのが“米の高付加価値化”だ。
現在は、請負分のほかに自社で2種類の特別栽培米(コシヒカリの無農薬と減農薬)を栽培し、インターネットや電話で消費者に直販するほか、契約企業や大手米店などへも販売している。

そして、お父様の時代から米にこだわり、自社で乾燥・調製作業をしており、いま使っている乾燥機も、内4台は20数年前から継続して使われている。

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インターネットで農産物を販売。

粗選機と色彩選別機をそれぞれ2台導入、玄米段階、白米段階でダブルチェック

同法人のシステム構成と工程をご紹介しよう。
乾燥機は45石の遠赤外線乾燥機が2台と45石の熱風式乾燥機が2台、同33石が2台、同80石が1台の合計7台が稼働。乾燥機のほかに放冷タンク、石抜機、粒選別機、粗選機、籾すり機、色彩選別機がシステムとして組み込まれている。個別処理方式なのでお客様ごとに乾燥するが、45石の遠赤外線乾燥機を優先的に使い、水分量25%程度で入ってきた玄米を、15%程度まで落としている。

興味深いのが、粗選機と色彩選別機がそれぞれダブルチェックになっている点だ(下図)。社長の田渕真也氏は「最近の施設なら珍しくないでしょう(笑)」と謙遜されるが、一般的にみてまだ多くはない。

ズラリと並ぶ乾燥機

たぶち農場の乾燥・調製システムフロー

粗選機と色彩選別機を2台ずつ入れた、たぶち農場の乾燥・調製システムフロー。

色彩選別機①
籾すり後は、玄米段階で色彩選別機①を通してチェック(作業中の泰久氏)。
色彩選別機②
隣接する精米ブランドで精米し、白米用色彩選別機②で再度チェック(中央が白米用色彩選別機)。

穀物登録検査機関の資格を取得、水分調整のひと手間で品質をランクアップ

また、米づくりの重要なポイントとなる乾燥・調製作業を、10年以上前から担当されている専務理事の田渕泰久氏に、そのこだわりについて聞いてみると「特に無いですが、しいて言えば水分ですかね。籾の水分調整は基本的に機械に任せていて、もちろんそれで十分なんですが、ウチの場合、最後の1%ぐらいは自分で水分を計って調整しています」。このひと手間が、米の付加価値をワンランク高めるポイントなのかもしれない。

実は、同法人がこれほどまでに品質にこだわることができるのには理由がある。
穀物登録検査機関の資格を取得しているので、米の品質基準を熟知しているのだ。また同法人では、食品を扱う観点から施設内を衛生的に管理。さらにかなり前から周辺環境や従業員のことを考えて乾燥・調製施設の裏に集塵施設を設置しており、同法人の意識の高さがうかがえる。

ここで、同法人のレベルの高さがわかるエピソードをご紹介しておこう。

現在、同法人では2種類の特別栽培米を生産販売しているが、そのことについてうかがうと「特別栽培米の基準は後からできたんです。ウチがその基準に合わせたのではありません。元々、自分たちが安全でおいしいお米を食べてほしいという思いから無農薬や減農薬でつくっていただけで、それがたまたま特別栽培米という規格に合致しただけなんです」と、事無げに語る真也氏。さすが篤農家。

信念をもって粛々とやってきたことが、世の中で先端事例になっているところが、同法人のすごいところだ。

インターネットで変える特別栽培米。

各ラインのシステム構築で省力化を推進、ビジネス面でのメリットも

同法人のもうひとつの特徴が、品質にかかわる工程で妥協しない分、システムの自動化によって効率化を図っていることだ。 「自動化のきっかけは台風でした。台風の直撃で玄米に石が混ざり、籾すり機がよく止まったんです。そこで粗選機の導入と同時にシステム化しました。その結果、流れが改善され、籾すり機本来の能力が発揮されるようになりました」と泰久氏。
すべてシステム化し、自動運転しているので、籾すり機、粗選機が処理能力を超えたときにはラインが自動的に停止。これにより効率良く作業ができるようにしている。

同法人では8月下旬~10月初旬まで、1シーズン約50日で10,000袋を調製。朝の7時から、遅いときは夜の10時~11時頃まで、1人または2人でフル稼働状態が続く。
だからこそシステム化のメリットを十分に感じておられる。「以前はラインが止まると急いで駆けつけないといけないので、電話でお客様との商談中に会話を中断してしまうことがよくあったんですが、システム化後はそれがなくなりました」と、ビジネス面でのメリットを語ってくれた。

市場開拓で変わる栽培と乾燥・調製、垣間見る新たな稲作のビジネスモデル

最後に、栽培技術や乾燥・調製技術によって、稲作を儲かるビジネスにしていこうと頑張る真也社長に、今後の同法人のビジョンをうかがった。

「請負いや個人向けの販売も増えるでしょうから、それはそれで増強しなければなりません。でもここ最近は、酒を造るときに必要な掛け米やおかきの原料など、加工用米の需要がすごく高まっているので、これも今後の大きな柱にしていきたいと思います。そのときには、乾燥・調製施設も増強しなければならないでしょうね。そうすれば大量ロットで品質を均一化させるということもできる。もちろんお米のランクは下げずに。効率も上がるしコストダウンも可能になって経営も安定してきます」。

実は現在も、1社では対応できない大量の注文を受けるために、同法人を含む兵庫県内の農業法人20数社で“株式会社兵庫大地の会”という会社を立ち上げており、そこで白鶴酒造、植垣米菓など大手からの注文を一括して取りまとめ、地域の農家に助けてもらいながら対応するという動きをスタートしている。

「これからも米へのこだわりには変わりは無いものの、これまでのように売れ筋品種一辺倒ではなく、目的やニーズ、価格などに合わせて、栽培方法や乾燥・調製の考え方も変えていくようになるのではないか」と、これからの営農ビジョンのひとコマを語ってくれた。これこそ、ビジネスの発想だ。米のつくり方や、乾燥・調製の考え方が変われば、従来の施設の増設だけでなく、販路や量によっては、より効率的な大規模個別処理施設、というような選択肢も見えてくる。

稲作を儲かるビジネスにするためにどうすればいいか?お二人のお話から、その道筋のひとつが見えてきた。

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