営農情報

2017年6月発行「トンボプラス10号」より転載

大規模メロン栽培を目指す、〈現代の篤農家〉のチャレンジ!

今も贈答品として人気のメロンだが、国内生産量は減っている。そんななか、土佐の高知で、規模拡大を経営の主軸に置き、頑張っている若きメロン農家がいる。
2016年に〈篤農〉の言葉を社名に冠して法人化。一見穏やかなその表情からは想像がつかないが、一旦語りはじめると、メロン栽培に対する想いは熱く「おいしいメロンを安定生産するために、どんどん規模を拡大したい」と豪語する。
一体どんな想いで、またどんな方法で、今、生産規模を拡大しようというのか。若い農業者らしいその経営手法に迫った。

森岡 健児 氏

高知県香南市
株式会社 篤農
代表取締役

栽培作物: メロン
栽培規模: 7棟(約1ha)

〈篤農〉からは想像できない先進性とビジネス感覚

「パワーポイント(Microsoft社の説明用ソフト)で説明してもいいですか?」。
森岡健児氏はメロンの出荷場施設で、パソコンとプロジェクターを使って農業に対する想いや経営理念、ビジョンを説明しはじめた。
〈CSR〉〈中長期計画〉…。農業者からはあまり聞かない言葉に思わず面食らう。
7棟あるハウスでは、森岡氏とお父様、奥様を含む7名が汗を流すが、その管理方法は独特だ。ハウス内には複数のWebカメラが付けられ、温度・湿度等の内部環境はGHP(ガス・ヒートポンプ)や温水暖房、CO2発生装置などを使い、ハウスに隣接する制御室でパソコンにより自動制御されている。その状況や設備の稼働状況は、いつでもどこでもパソコンやタブレットなどで確認できる。問題が発生すれば森岡氏のスマートフォンにメールが自動送付される。それにしても一般的な篤農という言葉からはイメージできないほど先進性とビジネス感覚が感じられた。
しかし詳しくお話をうかがうと合点がいった。「僕の栽培ポリシーは、データやICT(情報伝達技術)を使いますが、やっぱり農家の3代目なんで、種からいただいた命を育てていく。そして作物は自分の子供のように時には厳しく、時には優しく扱っています」。最新の機器を使っていても気持ちは篤農家だ。

ハウスには制御室が隣接し、ハウス内環境を自動制御。ハウス内環境も各種設備の稼働状況もリアルタイムで確認できる。左が各棟の制御装置。

メロン農家の減少を憂い法人化して規模拡大を目指す

森岡家の農業のルーツは、戦争から戻り、当地でトマト栽培を始められたお爺様まで遡る。お爺様はその後60歳過ぎでメロンに転向され、当時スイカ農家だった森岡氏のお父様もメロンに切換えて共に奮闘された。森岡氏は高校卒業後、一旦農機具会社に就職したが結婚を機に就農。8年間は仕事をしながら釣りに熱中していたが、3人目のお子様が生まれた際にメロン1本でいく覚悟を決められ、1年間休みなしで必死に栽培と経営を勉強。現在の技術やビジネス感覚の基礎を身につけられた。
森岡氏が、就農時から心を痛めていたのは、国内のメロン農家の減少だ。そんな状況を何とかしたいと動き出した。
森岡氏には、篤農家の三代目として代々受け継いだ技術がある。それを活かして、メロンの栽培面積を広げてきた。2010年から現在まで約2倍の規模になり、今後も増やしていくために2016年に法人化した。
「規模拡大は自分たちだけでは限界があるので、条件を整えて従業員を雇い法人化しました。そして自分たちの技術を伝えることで、もっと栽培面積を増やしていきたい。そのために機械化できることは取り入れて、効率化していきたい」。森岡氏に迷いはない。

メロンの品質を高めるため実を徐々に減らし、最終的には1株に1玉しかつくらない。

目標はマスクメロンで日本一6次産業化や海外展開も

規模拡大を実現するために森岡氏は「マスクメロンで日本一の農業生産法人になりたい。お金だけでなく、“仕事への情熱と誇り”を持って働ける環境をつくり、生産量NO.1、品質NO.1そして経常利益NO.1になりたい」と、力説する。計画も、「今年(2017年)の売上目標が1億円で5年後には2倍、10年後には3倍と強気だ。これをどうやって実現していくかを常に考えています。今年の目標はG-GAPを取ること。すごくお金がかかりますけど(笑)」。

さらなる規模拡大に向けての取り組みはまだまだある。奥様が経営するフレッシュジュース販売店の〈ベジフルッタ〉で6次産業を実践。これは同社のメロンの知名度アップと、味は良いが形の悪いメロンを活かすための取り組みで、野菜ソムリエの資格を持つ奥様による同社のメロンの糖度チェックも兼ねている。またハウスの解体業などもこなすが、これは従業員に、栽培だけでなくさまざまなことを学習してもらうため。取り組み実践することで人材育成を行い、目標達成を目指す。

  • G-GAPとは?Global Good Agricultural Practiceの略で、世界100カ国以上で実践されている世界基準の適正農業規範のことです。
形は悪いが糖度が高いメロンを使ったジュースやアイスクリームが、奥様が経営するお店「ベジフルッタ」で販売されている。

売上増でコストが下がるなら迷わず機械や設備を選ぶ!

そんな同社に喜ばれているのが、有光工業(株)(本社/大阪府大阪市)の静電ノズルとヤンマーのGHPだ。
ハウス内での防除は大変な重労働で、それを軽減するのが効率アップのポイントだ。
「静電ノズルは良いですよ。薬剤の葉裏への入り方が全然違う。なにより作業が楽になった。ウチはもっとラクしたいから少し改良しながら使っています。もうひとつの魅力は、特別な操作技術がいらないから、従業員にも任せられるという点ですね。あと農薬の量も2割ほど減りましたよ」。防除が楽になれば、ほかの作業もはかどる。「見てください、ウチのメロンに病気はないでしょう?有光さんのお陰ですよ(笑)」。森岡氏の表情は自信に満ちている。

静電ノズルは、静電気を利用して、薬剤を楽に簡単に、しっかりと、葉の裏まで付着させることができる。写真はカート式タイプ。

もうひとつの助っ人がGHPだ。従来のハウスは温水管での暖房だが、同社の最新のハウスには温水管を補助暖房にし、GHPをメインで冷暖房に使っている。これが燃料代の大幅なコストダウンにつながった。さらに2016年の夏、GHPのお陰で危機を乗り切ったことがあった。「夏場のすごく暑い時期、ちょうどメロンにネットができる時期に台風が来たんです。通常はハウスを開けて熱を下げるから、そのときに台風が来たら風が強いため開けることができないので終わりなんです。でもウチは逆に夜ハウスを閉めて、GHPを冷房にし、温水ボイラーを暖房にすることで相対湿度を下げるというテクニックを使い重要な時期を乗り切れました」。GHPが危機を救ったエピソードだ。

室内機は、機体の影を減らし、噴き出す風の影響を抑えるために12ヶ所に分散設置。
室外機は効率を考え2棟の間に設置している。

このように森岡氏は、機械や設備を駆使することでリスクを回避し増収につなげている。「良いメロンが取れたら、売上げが上がって固定比率と経費率全般を下げることにつながります。良いものをたくさんつくってなおかつ経費率を下げられるんであれば、僕は迷うことなくその機械なり設備を選びます」と、明言する。
祖父の代から受け継がれた勘や技術を大事にしながら、ICTや最新機器、設備、ビジネス思考も駆使する森岡氏は〈現代の篤農家〉と言えるのではないだろうか。
森岡氏の迷いのない表情が印象に残る取材だった。

葉のオモテにも裏にも静電効果でしっかり散布。少量の薬剤で防除効果がアップ!

静電ノズル フロリアシリーズ

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  • ご希望の頭口数に対応できますので、お近くのヤンマー取扱店までおたずねください。
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