営農情報

2017年6月発行「トンボプラス10号」より転載

光センサを使った果実全体計測で、糖度10以上のトマトを安定出荷

さまざまな調査で、日本人の好きな野菜ランキングのトップを飾っているトマトだが、甘味や酸味のバランスが取れたおいしいトマトを安定的につくるのは難しい。
ところが宮城県大崎市のマルセンファームでは、糖度10以上というデリシャストマトをはじめ、年間に大玉を8t、中玉を5~6tを生産し、消費者に直売。生産量は今年さらに増えるという。そのおいしさへのこだわりや、最近導入して、今後の品質保証への貢献が期待されるヤンマー透過型光センサ搭載連続選果機〈ひかり庵〉の、導入効果などをうかがってきた。

千葉 卓也 氏

宮城県大崎市
有限会社 マルセンファーム
代表取締役

栽培作物(栽培規模): トマト(1.5ha/大玉70a・中玉80a)、ホウレンソウ(40a)、キク(1ha)、水稲(受託含む約35ha)

常に消費者の方を向いて節水栽培でおいしさを追求

大規模でトマトをつくる場合は水耕栽培が多い。しかしマルセンファームでは土耕栽培を採用している。作物残さやもみ殻、稲わら、米ぬかなどを使ったこだわりの土づくりで〈おいしい農産物づくり〉をポリシーにしている。土耕栽培では水耕栽培より生産量は落ちるが、量より質の考え方で、高糖度という付加価値のある販売を行っている。

「マルセンファームのマル=○は、喜びや感動、つながり、広がり、和を。そしてマルセンのセンは、選抜の選や洗練の洗、鮮度の鮮、そして千葉の千を象徴しているんです。消費者の皆さんに食べていただいて、いつも感動を呼ぶような、農産物のおいしさを伝えたいという考え方です。まぁ、後付けですけどね(笑)。もともと父親が千葉園芸の名前で、丸に千のマークを使っていたんですが、もっとトータルにということでマルセンファームにしました」と、説明してくれた。ハウスの屋根や地域の山々と作物のカラーを象徴したマークも可愛い。取材中も、お客様がひっきりなしにやってきて、まさにコンセプト通りの賑わいだ。ここまで企業イメージにこだわる農業者は珍しい。それは同社が常に消費者の方を向いているからだろう。

同社のトマトは、節水栽培で糖度を上げている。そうすることで収量は落ちるが、その分、付加価値が上がる。一般的なトマトは糖度が4~5度だが、マルセンファームのトマトは糖度が10度以上のものもある。その味は糖度と酸味のバランスが絶妙で濃厚だ。

トマトの赤、キクの黄、ホウレンソウの緑と、一般のお客様にも親しんでいただけるよう、シンボルマークも可愛くデザインされている。

土耕、水耕にこだわらず消費者の気持ちにこだわる

そんな同社のポリシーに大きく影響しているのが、千葉氏独自の考え方だ。
「現在は土づくりにこだわっています。ただ、今のおいしさが水耕栽培や新しい技術でも実現できるのであれば、その技術に変えます」と、あっさり。千葉氏は、常に最適な栽培技術〈おいしさの伝え方〉を考えている。要は食べる人の気持ちにこだわっているのだ。

生産量は例年大玉が8t/年、中玉が5~6t/年ほどだが、栽培技術や環境制御の向上などで収量が上がっているため、今年は増収を見込んでいる。
同社では節水栽培でトマトの糖度を上げているが、ただ単純に水を減らしているわけではない。「環境制御や水分管理、糖度の上げ方も、樹や葉を見ながらやっている状態です。糖度は土やハウス、ハウス内での移植位置などによっても管理の仕方が違う。だから今経験を積み、データをとりながら、今後どうすれば機械化できるかを検討していきたい」と、栽培の難しさを語ってくれた。コンスタントにこの糖度を出しながらも、まだ未知の部分を追求している。就農21年目で「失敗ばかりしてきました」と、謙遜されるが、失敗から多くを学び、現在の安定経営につながっている。

パッケージには光センサで選別したことを表示。「糖度規格」も記載されるため、お客様に安心して食べていただける。
奥が見えないほど広いハウスは1棟が1ha(100m×100m)。トマトはうねを立てずに栽培されている。

市場から直販にシフトして法人化&規模拡大

同社のトマトの流通は、ほとんどが消費者への直販だ。「直売所や道の駅から百貨店、レストラン関係。あと一度食べていただいた人からの地方発送やネット販売なども多いですね」。当初は市場出荷が多かったが価格が下落。一方、当時直売所の人気が出だしたころで、同社もそちらにシフトした。その後、転機が訪れる。
「直売所に品物を出すうちに、だんだん生産量が追い付かなくなってきたんです。で、当時ちょうど宮城県で雇用促進と1億円企業をつくるという名目で補助金が出たんです。でも農家にとって億単位のお金を借りるのは大変だし、1億円の売上も簡単じゃないので、半年ほど悩みました。でもいろんな方のすすめがあって法人化しました」。これにより、当時4000坪あったハウスを2倍に増やして、トマトとキクの生産を拡大した。
ところが規模拡大することで、新たな課題が見えてきた。以前はほぼ1人で目視選別していたが、生産量が増えたことでそれが難しくなるうえ選別要素も増える。「目視だと体調にもよりますし個人差も出ます。それに従業員にすれば、難しい判断が長時間続くのでストレスにもなります。それで機械化しました」。

同社は糖度センサを導入し、さらに大玉トマトに糖度基準を設定。これにより以前はスーパーデリシャスとデリシャスの2種類だった品揃えに、樹上で完熟させた〈極上〉デリシャストマトを加えることができた。
ところが喜びもつかの間。当時のセンサが片側だけしか検出できない反射式で、糖度ムラが出たのと、検出時間が長かったのだ。そんな悩みを解消したのがヤンマー透過型光センサ搭載連続選果機〈ひかり庵〉だ。

レストランからの引き合いが多い〈極上〉デリシャストマト。
ひかり庵の導入で、果実全体の内部情報が計測でき、選果作業も大幅に効率化した。

1日の仕事が約3時間で終了、精度面での信頼も

千葉氏とひかり庵との出会いは展示会だ。「会場の端っこに展示してあったのを(笑)たまたま見つけたんです。その後もいくつかの展示会で説明を聞いたり、他社機と見比べたりして、内部全体の情報を検出できるのと、効率が良かったので決めました。光センサって大きな選果場にしか入ってなくて、個人では難しい。それで手頃な機械を探していました。まぁ、価格はコンバイン並みでしたけど、年間稼働時間は選果機が圧倒的に長い(笑)」。
そして、その導入効果は大きかった。「選別時間が大幅に短縮しました。1日以上かかっていた選別作業が、3時間ほどで終わるから、その分ほかの仕事ができる。例えば以前は朝の接客準備に時間がかかっていたのが、ひかり庵を使うと早く終わるから、前日の午後から準備できるんで、お客様をお待たせせず新鮮なまま売れる。あと、精度面でも〈信頼〉というメリットが得られるんです」。一般のトマトより価格が高いので、品質維持や保証をしっかりしておかないと、高いだけが話題になってしまう。でも光センサはトマト全体を検出してくれるので、私たちでも『これは糖度10度以上のトマトです』と自信を持って言えるし、お客様にも安心して食べていただける」。

収穫したトマトを手前のレーンに置くと、左奥のセンサを通過する際に糖度・酸度などを検出。奥のレーンでは流れてきたトマトを糖度の高いものから落としていく。

ひかり庵の導入による選別精度の向上と効率アップを実現したことで、今後の営農についてうかがってみたが「後々の規模拡大も視野に入れながらですけど、今はそれよりも環境制御の方に力を入れて、現状の規模で、質の良いトマトの生産量を上げていきたい」。生産量を増やすのも、おいしさ優先を忘れない千葉氏だ。

確かな品質を食卓へ!1台で糖度・サイズを計測、選別

透過型光センサ搭載連続選果機 ひかり庵

  • 小型選果機で初めて透過型光センサによる連続選別を実現!!
  • 処理能力は、最大10,800個/時
  • オプション専用カメラ設置で、果実色による選別も可能!

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