営農情報

2017年6月発行「トンボプラス10号」より転載

先進の機械とGPSによる精密農業で輸入野菜を相手に、究極のコストダウン

ここは北海道か?!と見間違うほど広大な農地が広がるのは、岡山県笠岡市南部に立地する笠岡干拓地。
8年前、この干拓地への入植者を全国的に募集した際、三重県から移って来られたのが、現在約70haの農地でたまねぎ、キャベツ、かぼちゃを生産する、有限会社エーアンドエス代表取締役の山本晃氏だ。山本氏の情報の質と量、ビジネス感覚には圧倒される。目指すのは精密農業によるコストダウンだ。
山本氏は、効率に期待を寄せて訓子府機械工業(株)(本社/北海道常呂郡)のオニオンピッカーKTP-1200を導入された。「まっすぐ!」にこだわった同社が展開する、先進機械と精密農業の現場から、その思いをお伝えする。

代表取締役 山本 晃 氏(左)
専務取締役 大平 貴之 氏(右)

岡山県笠岡市
農業生産法人 有限会社エーアンドエス

栽培作物: たまねぎ(約20ha)、キャベツ(約40ha)、かぼちゃ(約10ha)

幅広い知識と貪欲な姿勢で国内外で必要な機械を購入

取材開始早々に、山本氏の機械に対する幅広い知識と、必要な機械を求める貪欲な姿勢に圧倒され、そのままGPSのレクチャーまでしていただいた。山本氏は、国産メーカーは開発もGPSへの取り組みも、もっとスピード感と現場感を持って欲しいと要望する。このことは取材当日、終始言っておられた。
ところで、ここまで山本氏が機械にこだわるには理由がある。コストダウンにつながる精密農業を目指しているからだ。「戦後、日本にマッカーサーが来たとき、米軍払下げのバックホーを買った人がいて、周りの人が人力で土を掘っていたのを横目に、100倍ぐらい儲けたらしい」と、逸話を紹介してくれた。とにかく精密農業実践のためには、国内外に限らず機械を求めるという。

〈まっすぐ〉にこだわりコストダウンを極める

同社のほ場は、条の長辺が200mから500mと、北海道並みだ。一見するとまっすぐに見えるが「これはまだ50cmは誤差がある」と、謙遜される。理想は誤差が1~2cmだという。
「条をまっすぐにする意味はいろいろあって、うね間や条間が揃うと光や風の当たり方が揃う。すると生育が揃う。収量予測が立てやすい。均一で質の高い作物ができるから、良いものをたくさん売ることができるんです」。同社専務取締役の大平氏が説明してくれた。そしてもうひとつ、まっすぐに移植ができると、施肥も防除や除草・収穫も効率が上がり、コストダウンにつながる。だから、まっすぐにこだわっているのだ。

「有機農業や少量多品種栽培は、いかに単価を上げて売るかを考えるんですよ。僕らはそれができないからコストダウンです。ウチのたまねぎは50円/kg以上なら良いんです。で、よそが100円/kgだったらウチのを買ってくれるんですよ。それが企業努力です」と、山本氏が熱く語ると「それもそうですけど、要はまっすぐ走ってくれたら、誰もが同じように作業できるということ。そして人と機械の仕事を比べてどっちが得かを考える。それを徹底しています」と、大平氏も力説する。もちろんどちらも正解だ。同社のコストダウンは、国産野菜の機械化によるコストダウンの指標づくりのため、研究機関がデータを取り、日本の平均生産コストの1/2~1/3という素晴らしいデータが出ている。

笠岡干拓地に広がる、同社のたまねぎほ場は1うね4条の平うね栽培。まっすぐ続く200mのうねは、50cmも誤差があるようには見えない素晴らしい仕上がり。

新規導入のオニオンピッカー今シーズンの活躍に期待!

そして、まっすぐを実現するのがGPSや同社が導入している省力化機械群だ。
まずはGPS。実は山本氏は大学や、民間の研究者の方々から指導を受け、試行錯誤を繰り返しながら独自でGPSを手づくり。すでに実証段階に入っているという。
「僕はトラクターのYT357を自動操舵でまっすぐ走らせたい。そしたら後ろの作業機を替えるだけで移植機も収穫機もうまくいく。まぁ、今日発注かけたから、今月中にはカタチになるかな…」。

そして実際のほ場で活躍する農業機械についてだが、山本氏は導入した機械の能力について多くを語らない。それは山本氏が常に先を見て機械を決めているため、各機械を導入した時点で、すでにその機械の能力に納得しておられるからだ。「僕は、この機械が働かなくなることを目標にしてるんです…いや、誤解しないでくださいね。もちろん良い機械なんで使いますよ(笑)。何が言いたいかというと、将来的に作業工程自体が減ればもっと省力になるという意味です。あくまでも目標ですから(笑)」。大の機械好きだが、機械に執着していない。

アンテナ(写真右上)と本体(写真右下)を組み合わせた、手づくりのGPSシステム。先日このシステムで、肥料をまいたという。

山本氏は、ヤンマーや協力企業の機械を多く導入されている。自走式オニオンピッカーKTP-1200もそのひとつだ。昨シーズン使ってみて、気に入っていただいている。
「オニオンピッカーは昨年にデモ機を使いました。精度も能率も良いですよ!以前の機械が悪いのではなく、ヤンマー特販店(株)櫛田農機商会 櫛田𣳾治社長やヤンマーさんの、普段からの対応もあっての選択です」。今シーズンの収穫への期待が高まるが、最後には「あれももっと高精度な自動操舵を付けてくれたらええんやけどなぁ…(笑)」。常に先を見てより精密に、より効率的にという思いは忘れていない。

「まっすぐ植えることでさまざまなメリットが生まれる」と、熱く語る山本氏。
栽培管理分野を取仕切る大平氏は、医学・化学・バイオなどの専門家。山本氏との強力なタッグで同社の課題をガンガン解決していく。

農家と競合しない3品目は連作障害回避にも有効

コストダウンや精密農業とは言っても、同社のモットーはほかの農家に迷惑をかけないことだ。
「なぜウチがたまねぎ・キャベツ・かぼちゃをつくるかわかりますか?いま岡山県のトマトの年間生産量は大体4,000tぐらい。で、仮に法人がハウスでトマトを年間に3,800tつくるとすると、トマトの値段が下がって、一般のトマト農家は困るでしょう?だからウチではトマトはつくらない。でも、たまねぎなら大丈夫。僕らが来年、たまねぎを2倍つくっても誰も困らない。実は日本がいちばん多く輸入している野菜はたまねぎなんです。輸入量は年間約30万t。その輸入野菜を国産化するだけなんですよ。キャベツとかぼちゃも同じです。ウチはどことも競争しない。だからいくらつくっても構わない。それに出荷先は100%JAです。組織とも競争しない。逆に僕らが努力をすることで、既存の組織に元気になってもらうことができる」。さらにこれは食糧自給率向上にも寄与する。

お気に入りの乗用全自動野菜移植機は、2台導入いただいている。

また同社がこの3種にこだわるのには、もうひとつの理由がある。
「キャベツはアブラナ科、たまねぎはヒガンバナ科、かぼちゃはウリ科と、科の違う植物をローテーションすることで連作障害を回避しているんです」と、大平氏。それでも完璧とは言えないため、合わせて追肥や追肥時の土の攪拌などの対策もしている。
「この5年ほどで日本の農業はガラっと変わる!ヤンマーさんが、自動操舵はいつ頃にできますよって言ってくれたら、銀行さんに話しておきますから(笑)」。山本氏はいたずらっぽい笑顔で締めくくってくれた。

1.2mの掘取幅で、たまねぎ収穫作業を効率化!※平うね仕様

自走式オニオンピッカー KTP-1200

  • 独立したコンベアでたまねぎをやさしく、そして幅広の選別台でより確かな選別と無理のない搬送を実現します。
  • 収穫走行時に手放しでもうねに追従して走行。ワンマンオペレーションを実現します。※一部仕様を除く

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