営農情報

2018年6月発行「トンボプラス12号」より転載

〈メーカー探訪〉人を想い、人を活かし、独自の発想により地域と共に繁栄 株式会社 スズテック

株式会社スズテックは、水稲育苗用播種機で知られる農業機械、環境機器メーカーだ。
日本初の国産飛行機製造会社、中島飛行機に勤めておられた現社長・鈴木直人氏の曽祖父が、1946年に創業された。戦時中はゼロ戦づくりにも携わられた。
戦後、「これからは人々の役に立つ平和産業を」との想いから、自身の鍛冶(かじ)技術を当時の食料増産の要だった農具製作に活かした、家内制手工業の鈴木農具鍛工所を創設したのがはじまりだ。人々の役に立つという想いは鈴木氏にも継承されている。
そんな同社が重視しているのは、人を大切にすることだ。お客様はもちろん社員、その家族、地域社会も含まれる。

軍需産業への反発から人々の役に立つ平和産業〈農具製作〉で創業

代表取締役 鈴木 直人 様(写真右)
取締役営業部長 平出 武 様(写真左)

栃木県宇都宮市
株式会社 スズテック

最大1年半の育休で女性社員の労働環境を整備。商品開発に女性目線を

同社は〈農家の役に立つもの、求めるものをつくる〉ことを大切にしている。そのために重要になるのが人材だ。そこで同社の人材に対する考え方をうかがった。
まず女性社員の労働環境だ。同社には、なんと最大1年半の育休がある。
休みを取りやすい雰囲気や体制づくりに配慮しているため、卒入学式や運動会などでも有休を取りやすい。そのためか同社は社員の約1割が女性で、総務、経理、工場、設計開発、営業業務などさまざまな現場でキャリアを積まれている方が多い。

同社がさまざまな現場で女性を登用する理由は、農家では大型機械以外は女性が使うことも多いからだ。これにより女性ならではの目線や感覚をモノづくりに活かせる。
「乾燥たまねぎ調製機で、初めてキャラクターを使ったんですが、男性では思いつかないデザインを、開発の女性が表現してくれました」と、鈴木氏は手応えを感じている。

開発設計部門では2人の女性が活躍。商品の機能や外観、重量などに女性目線が活かされる。今後は活躍の場を販売促進などに広げる可能性もあるという。

複数の業務で仕事を俯瞰する〈多能工〉化や〈SSG〉で、人材をフル活用

女性に対する考え方でもお分かりいただけると思うが、同社の人に対する考え方は、とにかく〈活かす〉ことだ。
そのためには、一般的な研修制度はもちろん、独自の制度もある。同社取締役営業部長の平出武氏が製造部長時代から始めた〈多能工〉化制度だ。
これは、生産の閑散期に自分の職場以外の研修を行って、1人が複数の技術を習得。繁忙期にサポートしたり、責任者を入れ替えたりもするという。「さすがに入れ替えると、ラインの流れが一時滞ることもありますが、そこを我慢すれば先で役に立つんです」。平出氏は断言する。「その部分だけでなく、中長期的に見て育てなければ、人も会社も成長できません」と、鈴木氏も口を揃える。
これにより繁忙期の生産の平準化が実現し、社員は仕事をより幅広い視野で見られるようになるという。先に述べた育休なども、この制度をうまく活用することでサポートできる。

そのほかに、SSG(スズテック・サービス・グループ)も興味深い。製造部社員で構成したメンバーが、展示会のサポートを行うのだ。
普段は外に出ない社員が、お客様の声を直接聞いて課題を見つけフィードバックすることもできる。なかにはここに参加することで自分で気づかなかった適性が分かり、製造部から営業部に異動した社員も複数いる。

製造部門では多くの社員が〈多能工〉として働く。複数の技術を身につけることで工程間のサポートをし合い、幅広い視野で全体を見ることができる。
人材の豊かさは、発想の豊かさでもある。同社は農業機械メーカーでありながら、なんと年間70tの豆苗を出荷する、全国一の生食用豆苗生産者という顔も持っている。横浜中華街で使われる豆苗の約50%は、同社の豆苗だという。

3人以上参加の食事会なら費用の半額を会社が負担する〈サークル活動助成金〉

人材をフル活用する同社だが、フォローすることも忘れてはいない。特に面白いのは〈サークル活動助成金〉という制度だ。
社員が3人以上集まって行うサークル活動や親睦会などで、かかった費用の半額を会社が負担するという仕組みだ。会社帰りの飲み会でも構わないという。もちろん上限は決まっているが、社員間のコミュニケーションを大事にすることで、風通しの良い職場環境をつくるという同社らしい取り組みだ。「毎年8月から始まって半年で限度額を超える猛者もいます」と、平出氏は笑う。しかしこれで社員が気持ち良く働ければ、仕事にも良い影響が出る。これは1968年から続いている。『毎日会社に来たくなる雰囲気づくりが必要』という、2代目社長の考えだ。

社内コミュニケーションはさまざまな機会で図られる(写真中央は、2017年の忘年会で社員と共にバイオリンを演奏する鈴木直人社長)。

具体的な地域支援はもちろん自社の社業継続がいちばんの地域貢献

同社は、地域社会のことも大切にしている。本社・工場のある工業団地内の清掃や地域のまつり等への協賛、サッカーチーム栃木SCへの支援などだ。しかしいちばんの地域貢献は、社業継続だと考えておられる。
「私も、現・直人社長も、事あるごとに先代社長からは『社員だけでなく、その向こうにいる家族の生活も考えろ』という話をされてきました」。平出氏の言葉に、頷く鈴木氏。まず地域で暮らす社員やその家族の生活を考えること、それが地域貢献であり、同社のモットー〈お客様に選ばれる商品、お客様に信頼される企業に〉につながる。創業70周年を越え、この先100年企業を目標に、提案型企業を目指す同社は、今後も人を活かし、人と共に繁栄し続けるだろう。

「堅実」「先進」「独創」のもと、社会に貢献。株式会社スズテック

水稲育苗用播種機のパイオニアである同社は、高い播種技術によって農業の省力化や労力軽減に貢献してきた。
創設当時は、農業用刃物や耕うん機用水田車輪などを製造していたが、農業の機械化にともない必要となる、動力田植機用の播種機の研究開発に挑戦。1968年に水稲育苗用播種機を開発した。

そんなチャレンジのよりどころとなる思想が、同社の社是にはある。実践的な研究活動をベースにした「堅実」な技術と、常に自らが進んで行動する「先進」の姿勢で、社員1人ひとりの自由な発想による「独創」的な商品やサービスを開発し、社会に貢献することだ。
その精神は、農業機械の開発だけにとどまらず、豆苗の生産や環境関連商品の取り扱いなど、多様な分野に広がっている。

「これからは水稲育苗用播種で培った播種技術を野菜に活かしたり、ICTを使ったモノづくりなどを通して、農家のお役に立ちたい」。取材を締めくくる鈴木氏の言葉には、強い意志が感じられた。

■社是

「堅実」「先進」「独創」のもと、よりよいものづくりを通して社会に貢献します。

本社・工場は、1965年に宇都宮市平出工業団地が完成した翌年に、同団地へ移転。当時は大きな建物がなく宇都宮駅から本社が見えたという。

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