営農情報

2019年6月発行「トンボプラス14号」より転載

「信頼」で拡大する加工野菜の契約栽培

農業の分野には様々な事情によって異分野から参入された人が少なくない。そんな方々は独自の考えや基準を持っていて、従来の農業者のタブーや常識を軽く飛び越えていく。我々はそんな方々を≪農のサムライ≫と呼びたい。

はくさい収穫機HH1400の第1号機を導入されたマルヤス産業株式会社の代表取締役安田利晴氏も、肥料生産の分野から農業に参入されたサムライのひとりだ。安田氏に、≪お客様との約束を守る≫という信念や、肥料や機械に対する独自の考え方などをうかがった。

代表取締役 安田 利晴様

福島県岩瀬郡
マルヤス産業 株式会社
栽培作物: キャベツ18ha、はくさい6ha、だいこん3ha、ほうれんそう2ha、リーフレタス2ha

「自分の堆肥には自信」。肥料生産の世界から未経験で農業に参入

安田氏はもともと有限会社安田粗飼料を立ち上げ、土木工事の土留め用芝生の堆肥をつくっておられた。ところが公共工事が減ったことから農業用堆肥生産にも参入。

その頃、地元の企業に誘われて≪食品リサイクル≫にも取り組んだ。3年後、その企業から循環型システム構築を示唆され「農業は未経験だったんですが、自分の堆肥には誰にも負けない自信があったので、取り組むことにしました」。それから肥料と農業の両輪でやってこられた。

現在、同社で栽培している作物はキャベツ18ha、はくさい6ha、だいこん3ha、ほうれんそう2ha、リーフレタス2haの合計31ha、すべて加工用野菜で様々な企業へ出荷している。安田氏はにこやかに話すが、そこからも楽な道ではなかった

収穫作業をされるマルヤス産業株式会社の皆さん。

大手との契約を決めるも、未曽有の災害で被災

農業を始めた安田氏は、候補地となるほ場をスコップで掘ってみた。「関東ロームに似た土でしたが『何とかなるかな…』と思ってだいこんを作付けしてみたら上出来で、『えっ、こんなに簡単にできるの?!』という印象でした。

その後、次につくる作物を考えていたところへ『レタスをつくったら?オレが買うよ』という人と出会ってつくってみたんですが、市場出荷で値段が合わなかった」。失望しかけた安田氏が思いついたのが加工用野菜の契約栽培だ。そこで大手外食チェーンに見てもらったところ好評をもらった。

ところがしばらく取引きをした頃、未曽有の災害、東日本大震災が発生。避難指示が出たが、安田氏は農業を続けた。「大災害でも、お客様に迷惑をかけてしまうのでやめられません。そこで福島県、栃木県、茨城県…と土地を探しましたが全滅。ダメもとで宮城県に電話をしたらOKだったんで、結局、去年まで7年間、宮城県川崎町で農業をさせていただいて今年戻ってきました。川崎町までは片道2時間半、経費もかかりますし儲けもほとんど出ませんでしたが、とにかく『お客様との約束を守りたい』との一心でした」。被災しても安田氏は≪お客様との約束を守る≫ことを最も大切にしている。

農業をビジネスと捉えることで、事態が好転

安田氏が農業を続けたのは、自らの思いだけではない。その思いを従業員に伝えたかったからだ。「従業員に『工場が待っているから供給しないといけない』という意識を持ってほしい。ただつくって持っていけば良いんじゃなくて、我々は質の良い野菜の安定供給という約束事のなかで仕事をしていることをわかってほしい。『昨日、身内の用事があって… 、ちょっと飲みすぎて…』は、ビジネスの世界では許されない」。自身の行動で、ビジネスの厳しさを教えているのだ。

震災後は宮城県を拠点とした同社も、福島県でも避難指示が解除されたところから徐々に作付けを再開していたが、原発被害が企業のイメージダウンになるということで、契約を解除されたこともあった。やはり震災によるダメージは大きい。「周りの人は『市場に出しても売れない』と言っていましたが、我々はもう赤字でも良いから野菜をつくれる体制を構築しようということで、品種や面積を増やしていきました」。安田氏のその決断は、正しかった。

(有)安田粗飼料と、農業参入を機に立ち上げた(株)安田農園の2社をまとめ、2018年4月からマルヤス産業(株)としてスタート。

「するとそれまで相手をしてくれなかった銀行から好感触を得るようになり、県からは『≪平成30年度アグリイノベーション活用型営農モデル推進事業≫に取り組んでみませんか?』と状況が一変、取り組みは見事に認められ、ヤンマーさんに機械を入れてもらい、今ここでやっているという状況なんです」。ここへきてようやく事態が好転し始めたのだ。

越年はくさいの機械収穫適応性を試すため、わざわざ残したはくさいほ場

ヤンマーと協力メーカーが、機械の現地確認を実施

取材当日、同社のほ場では、導入3年目となるキャベツ収穫機HC1400と、昨年11月末に導入されたはくさい収穫機HH1400について、実作業をしながら機械の状態を確認するため、ヤンマーからは技術サービス担当や、地元である須賀川支店の江藤友和支店長はじめ数名の拠点スタッフ、また協力メーカーのオサダ農機株式会社(本社/北海道富良野市)からは、長田秀治会長・鎌田和晃社長が集結。ほぼ1日かけて現地調整を行った。

HC1400は普段通り作業を始め、調子良く動いていたが、オペレータからの相談に応え、うねへの追従性をより高めるためにゲージ輪の左右を振り替えたり、キャベツの汁がかかる切断部下のフレームの錆を落として手入れ法などをレクチャーした。午後からは、短時間ながらHH1400を動かしたが、はくさいの大きさのバラつきによって搬送時に姿勢が傾くとの声を聞いた長田会長は、挟持ベルトと下部搬送ベルトの速度の調節方法をアドバイス。

「通常サイズでは問題はないんですが、はくさいは縦に長い形状なので生育状況によっては、搬送部上のステーに当たって傾くことがあるんです。ウチのはくさいは加工用で、生食用よりかなり大きいから仕方がないんですが、これから調整してもらってもっと活用したい」と、どこまでも前向きな安田氏だ。

はくさい収穫機HH1400を調整するヤンマー関係者とオサダ農機(株)の長田会長と鎌田社長。
機械のオペレータとして働く、同社課長の大宮亘平氏。

堆肥や微量要素を使い、標高差を利用し計画出荷

これまで同社は、同郡天栄村を中心に1時間圏内で標高の違う土地を借り、その標高差を利用して計画出荷をしていた。ただ冬場は雪で出荷量の確保が難しいため、昨年から浜通りの暖かいほ場を借りて試験的に作付けを始めた。「この土地は昨年ヤンマーさんの紹介で借りたんですよ。砂地だし前作もわからなかったので、とりあえず土壌分析をして、足りない栄養素などを足して様子を見ています」。作物は上出来で、すでに計画出荷をカバーしている。さすが肥料のプロだ。

そんな同社のはくさいの一部は、テレビCMで知られるキムチの素材としても使われている。安田氏によると「堆肥も重要ですが、今はほ場全体に微量要素が不足していて、連作障害はそれが原因のひとつになっている。理論はかなり勉強しましたよ(笑)」。つまり堆肥以外にも、微量要素を加える施肥設計にしているのだ。

「ウチが考える堆肥は、微生物を入れるということなんです。畜産農家は糞を発酵させて利用しますけど、我々は土壌や植物に対してホルモン作用を促す有効菌を使ったり、酵母菌と組み合わせて丈夫で味の良い作物をつくる微生物を使うんです」と、少しだけ種明かしをしてくれた。その後、肥料や野菜の栄養分の話は、機能性野菜からGAPにまで及んだ。

機械をフル活用して、将来へのレールを敷く

安田氏には、機械の使い方にも一家言がある。機械のメリットを引き出すために、労力軽減だけでなく、もっとうまく活用してほしいというのだ。「これまでパートさん6~8人ほどでやっていた収穫作業が、HH1400だと後部の調製作業に2人、オペレータ1人の計3人で済みます。でもそれで『ラクだし早く済んで良かったね~』ではだめ。残りの人と収穫作業が早く終わった人には、まだ機械化されていない作物の作業をしてもらう。それにHH1400を半日使ってはくさいの在庫を持っておけば週末は休める。これこそ働き方改革ですよね(笑)。そういうことを多くの農業者がわかっていないんですよ」。

同社が取り組む事業計画では、現在作付けしているほ場を、今後2~3年の間に現在の31haから、全体で50haくらいにする予定だという。それを見込んで、昨年試乗して気に入られただいこん収穫機を、この夏に導入する予定だ。着実に規模拡大を進める安田氏に、今後のビジョンを教えていただいた。

「私は今お話をした規模まで増やしてレールを敷くだけ。あとはそのレールに若い人たちが乗っかって、ウチの野菜づくりが確立されれば、そのときには彼らはサラリーマン以上の収入になります。私はそれを実現してやりたいんです」。にこやかにほほ笑む安田氏には、そのときの皆さんの笑顔が見えているようだ。

ひとつのほ場にキャベツ収穫機HC1400(写真奥)と、はくさい収穫機HH1400(写真手前)が同時に動く珍しいシーン。

関連情報

はくさい収穫機HH1400

収穫作業の乗用化により、補助者はコンテナ台に乗ったままで、腰を曲げずにラクに作業ができます。

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