営農情報

2019年6月発行「トンボプラス14号」より転載

〈メーカー探訪〉チャレンジ精神を武器に創業110周年へ向かって新しい道を歩む 株式会社 タカキタ

株式会社 タカキタは、1912年に高北新治郎氏が農具製作を創業したことから始まる歴史ある企業だ。最初に発明したのは牛馬に引かせるスキで、地域によって土質や農法が違うことから、高度な鍛冶の技術と木製部分の加工技術が必要だったという。「一寸一石」(一寸深く土地を耕すと、お米の収量が一石上がる)という先人の言葉を大切にしながら、農業の近代化を実現する農具を開発し、100年というものづくりの歴史を刻んできた。

現在は畜産農家を主体に「ロールベーラ」や「ラッピングマシン」などを製造する農業機械事業と、風力発電や新幹線でも用いられる軸受事業の2つの柱がある。伝統と歴史を守りながらも、新規事業にチャレンジする創業者のマインドは脈々と受け継がれているのだ。

「一寸一石」という先人の言葉を大切に受け継ぐ100年企業

代表取締役社長 松本 充生様(写真中央)
営業本部 本州営業部 部長 藤澤 龍也様(写真右)
営業本部 本州営業部 CS推進課 課長 中谷 昌稔様(写真左)

三重県名張市
株式会社 タカキタ

社長考案の改善制度で常にチャレンジする姿勢を忘れない

歴史ある同社がいつまでもアグレッシブな企業姿勢を保つ秘訣には、独自の改善制度がある。これは管理職以外の全職員から毎月、自分ができる業務改善のアイデアを募るという制度だ。アイデア1件につき社員には報奨金(300円~)が、必ず支払われる。提案数の上限もなく、アイデアの提出率は現在100%だという。

自ら考案したスキを持つ創業者の高北新治郎像。

具体的には、事務方の仕事で用紙削減のアイデアや、他部署の業務を効率化したアイデアなど多岐にわたる。システム改善や通信費改善だと数十万~200万円の大きな効果を上げているという。「改善の改善もあるためすべてとは言い切れませんが、700~1000万円/年の貢献をしてくれていると思います。自分の仕事や職場を自発的に改善することで、仕事をスムーズに進めるモチベーションの向上になり、働き方改革につながっていると思います」と語るのは、同制度の考案者である現社長の松本氏だ。

この改善制度は1998年4月から始まり、なんと20年も続いている。当時、企画部(現在の経営企画室)の係長だった松本氏は、総務部が管理していた中部総友会という改善報告制度の講習会に参加する機会を得た。そこで改善前と後の報告を3行でまとめ、その効果を報告する「3行革命」に出会ったという。これなら取り組みやすく、小さな取り組みも大きな効果を生むだろうと実感した松本氏は、当時の経営幹部に提案し、自ら事務局を運営して制度のルールづくりや評価方法を策定した。

以来、20年間、改善委員会を毎月開いてるという。「素晴らしいアイデアは全事業所で共有したいので、“KAIZENかわら版”を発行してます。もちろん、私も毎月、全ての改善アイデアに目を通しておりますよ」と笑顔で語ってくれた。

事務所以外での、女性社員の活躍も増えてきている。
農機工場では、牧草やトウモロコシ、稲わらなど粗飼料の収穫や梱包などを行う「ロールベーラ」や「ラッピングマシン」などの作業機を生産している(中央は組立て中のSMR1020)。

文部科学大臣表彰 創意工夫功労者賞を5年連続で受賞!

社内の雰囲気についてうかがうと、「改善制度に見られるように、年齢や役職に関係なく誰でも意見を言いやすい、風通しの良い職場ができていると思います。これは長い目で見た場合の人材育成にも寄与すると考えます。10年後、20年後に幹部になるような社員を育てるためにも、我々が思いつかないようなアイデアを出してもらいたいと思っています。過去を踏襲するだけでは企業は続きません。企業の活力が湧いてきませんから」と松本氏。

近年、タカキタの活力が具体化した例といえば、文部科学大臣表彰 創意工夫功労者賞を5年連続で受賞していることだろう。「2019年は7件応募して、2件受賞しました。この受賞も長年続いてきた改善制度が下地になっていると思います」と手応えを感じられている様子がうかがえた。

平成31年度の文部科学大臣表彰 創意工夫功労者賞を受けた機械係の北出さん(写真左)と塗装係の高島さん(写真右)。バックは改善委員会でAランクの評価を得たアイデアをまとめた社内報「KAIZENかわら版」。

社会貢献とは私たちの製品で農業を支えること

社会貢献に対する考えをうかがってみた。「私たちの製品が、お客様の農業を効率化したり負担の軽減を通じて社会に役立つことが社会貢献だと考えています。売上げ増によって雇用や設備投資、地域の税収の向上に寄与したい。企業として成り立たないと、アフターサービスや次の製品開発・改良ができない事態にもなります」と語る松本氏からは、質実剛健と言うか、本筋ど真ん中を行くような経営哲学を感じた。

そんな松本氏は、2018年度からトンボ会の会長に就任された。最後に抱負をうかがうと「AIやICTの活用について言われますが、ハイテクを担保するのはローテクだと思います。最先端の技術を支えている、農業機械メーカーとして農業に関わる人達を支え、若い人達に魅力ある農業をアピールしたいと思います。トンボ会の会員メーカーさんも同じような問題意識を持っておられると思うので、ヤンマーさんを中心として力になりたいと思っています」と力強く語ってくれた。トンボ会でのご活躍に大いに期待したい。

グローバルニッチに攻めの姿勢で取り組む農業機械メーカー 株式会社タカキタ

スキの開発から始まったタカキタは、今や成長著しいアジア市場から成熟市場の欧州まで、機動的なニッチ戦略でビジネス展開を行い、各国の農業の発展と食料事情の改善に貢献している。正面玄関に威風堂々と立つ、スキを操る高北新治郎像を見て、創業者のマインドは目には見えないが、今も確かに息づいていると感じることができた。

そして、現在のタカキタの躍進を支えているのが、改善制度をベースにしたチャレンジ精神だ。それは中期経営計画のスローガン「限りなき挑戦、強固な基盤、未来をかたちにOffensive110」にも表れている。社員自らが考え、挑戦することで、全社が未来に向けてアグレッシブに動き出す。

松本氏は同社をけん引する農業機械事業はもちろん、もうひとつの柱である軸受事業にも期待を寄せている。「売上げに占める割合は10%ほどですが、約300名の社員の内50名が従事しています。今後は、50年間で培ってきたノウハウと技術を他の商材や市場に展開していきたいと考えています」。そう語る松本氏は、すでに3年後の110周年を見据えておられる。

取材にうかがったタカキタ本社の建物。2019年4月からスタートした中期経営計画『Offensive110』のスローガンが掲示されている。

■中期経営計画『Offensive110』Third Stageのスローガン

限りなき挑戦 強固な基盤
未来をかたちに Offensive110

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