営農情報

2018年8月取材

耕種・畜産農家が期待を寄せる、国産子実用とうもろこし今後の可能性〈国産子実用とうもろこし現地研修会 in 岡山県レポート〉

減反政策が終わり、水稲+麦、大豆、野菜、飼料稲など、農業経営の形が多様化している。
そんな中、ほ場の排水性改善や土地・機械の有効活用、Non-GMO(非遺伝子組み換え)などの付加価値がある、国産子実用とうもろこしが注目を浴びている。
この追い風に乗って2018年8月30日、岡山県岡山市内で、国産子実用とうもろこしの普及拡大と、国産濃厚飼料生産・利用の推進を目的とした〈国産子実用とうもろこし現地研修会〉が行われた。国産子実用とうもろこしの可能性をみていこう。

国産子実用とうもろこしの普及推進に弾みをつける

福島 英一郎 様

岡山県岡山市
岡山子実とうもろこし生産組合 組合長

今回の研修会の仕掛け人である福島氏は、岡山県玉野市で農機販売に勤しむかたわら、地域農業の振興を目的とした取り組みを行っている。子実用とうもろこしの生産もそのひとつだ。農家が導入しやすく、メリットの多い子実用とうもろこしの生産者を増やすことで、地域農業が持続できるよう、まず自らが組合を立ち上げ、実証を開始した。

今回の研修会は、子実用とうもろこし生産の先駆者や、実需者による講演に加え、自身が実証している子実用とうもろこしの栽培概要紹介と、ほ場での収穫実演などを見てもらうことで、国産子実用とうもろこしの普及拡大に弾みをつけるのが目的だ。会場には農業者だけでなく、国や都道府県、市町村、JA、普及研究機関など、幅広い参加者で熱気に溢れ、子実用とうもろこしへの関心の高さがうかがえた。

子実用とうもろこしの先駆者が講演。コスト比較で注目の情報も

研修会は、午前中に講演、午後から実演という流れだ。1人目の講演者は、日本国内における子実用とうもろこし生産の第一人者といえる、北海道子実コーン組合 組合長 柳原孝二氏による講演『水田における子実とうもろこし生産の現状と課題』だ。

講演1. 水田における子実とうもろこし生産の現状と課題

柳原 孝二 様

北海道長沼町
北海道子実コーン組合 組合長

柳原氏は、国産子実用とうもろこしの現状とメリットを紹介、特に10a当たりの生産コストの比較では、飼料米が労働時間26時間/10aで利益が26,000円なのに対して、子実用とうもろこしの労働時間がなんと1.3時間/10aで利益が35,500円と、注目すべき情報を紹介してくれた(図1)。現時点では販路や貯蔵などの課題もあるが、生産コスト比較を見るかぎりでは、多様化する稲作農家の選択肢のひとつとして期待できる。

子実用とうもろこし コメ 大豆 小麦 飼料米
労働時間/10a 1.3時間 26時間 8時間 5時間 26時間
収穫量/10a 1,000kg 531kg 173kg 371kg 531kg
生産コスト/1kg 34円 163円 260円 126円 124円
販売価格/1kg 35円 214円 132円 37円 13円
交付金合計/10a 35,000円 7,500円 62,000円 76,000円 80,000円
利益/10a 35,500円 34,500円 39,000円 43,000円 26,000円

(図1)生産コスト比較
出典:子実コーン「攻めの農林水産業実現に向けた革新的技術緊急展開事業」経営評価研究 研究成果報告書 その他の品目「経営所得安定対策の概要」「農林統計」

講演2. 国産とうもろこしに架ける夢

小原 利一郎 様

鳥取県八頭郡
有限会社ひよこカンパニー〈大江ノ郷自然牧場〉代表取締役

2人目は実需者であり、現在はご自身でも子実用とうもろこしを生産する、有限会社ひよこカンパニー〈大江ノ郷自然牧場〉代表取締役 小原利一郎氏による『国産とうもろこしに架ける夢』だ。小原氏は、鳥取県八頭郡において、自然の中での平飼い、自家配合天然飼料と地下水など、飼育環境にこだわってつくった1つ100円のブランド卵〈天美卵〉を中心に、第6次産業や飲食業、グリーンツーリズムなどを組み合わせた、複合農業リゾートとも言える新業態を展開している。

講演では、その事業概要を説明し、事業の発展に、国産子実用とうもろこしが不可欠であることを説明。今後の自社のとうもろこし配合量を、2019年は約50%、2020年は100%にすることを目指している。

国産子実用とうもろこしが支える、来場者年間30万人超えの〈大江ノ郷自然牧場〉

食と農を核とした複合事業を展開する〈大江ノ郷自然牧場〉は、後継者である小原氏が、お父様の出身地である大江(旧船岡町)でこだわりの平飼い牧場をはじめたのがルーツだ。自社ブランド卵〈天美卵〉の飼料として、ご自身でも子実用とうもろこしをつくるが、事業拡大にあわせて柳原氏や福島氏からも子実用とうもろこしを仕入れている。

カフェやレストラン、マルシェから宿泊施設まで整備し、10年前には観光客が0人だった大江の地に、今は年間30万人を超えるお客様が来場、今後、年間57万人が集まる観光地を目指すという。
そんな夢を、飼料の面で支えているのが、国産子実用とうもろこしだ。新たな農業のビジネスモデルとして、これからも注目していきたい。

参加者はコンバインの動きに注目。カメラやビデオでも熱心に記録

午後からは、ほ場へ移動して、子実用とうもろこし収穫専用キットを装着したAG1140Rによる収穫実演や展示している播種機、レーザーレベラーなどが紹介された。
しかし、メインイベントはやはり収穫実演だ。参加者は、炎天下にもかかわらず、コンバインの動きに注目した。エンジンがかかると、収穫期を迎えた子実用とうもろこしをコンバインが颯爽と刈っていく。すこぶる快調だ。通った後には細断された茎葉や、果穂(かすい=種のつく部分)などの残さが排出される。その後を追うようにカメラやビデオにおさめる参加者が多く、注目度の高さを感じることができた。

ちなみに排出された残さは、有機物としてすき込むことでほ場に還元され、土壌の物理生改善に役立つという。これも子実用とうもろこし生産のメリットだ。農家や関係者がこれだけ注目する子実用とうもろこしは、これからの農業経営を左右する、選択肢のひとつと言えるだろう。今後の動向に目が離せない。

参加者が注目する中、スムーズに子実用とうもろこしを刈っていく。
収穫後、フレコンに排出された子実の周りに集まり、品質を確かめる参加者。
子実用とうもろこし収穫キット搭載の普通型コンバインによる収穫実演を行った実証ほ場には、関連機器が展示されており、参加者は目的の機械に群がり、質問や写真撮影などを行っていた。

子実用とうもろこしの収穫ができる、普通型コンバイン+収穫キット

お手持ちの汎用コンバインで子実用とうもろこしの収穫ができます。

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