営農情報

2021年6月発行「トンボクロス2号」より転載

110年以上続く老舗りんご園が、発想の転換で、高収益体質に転換

青森県弘前市のもりやま園株式会社(以下、同園)は、110年以上続く老舗りんご園だ。国内最古のりんご産地に広がる同園は、高い栽培技術を継承する代々の篤農家だが、9.7ha規模での生産管理に限界を感じていた。そこで後継者の森山聡彦氏は、大胆な方法で経営改革を実現した。発想の転換で高収益体質に転換した森山氏に、その詳細をうかがった。

森山 聡彦様

青森県弘前市
もりやま園株式会社 代表取締役

農業分野に〈労働生産性〉の考え方を取り入れ、経営を改革

森山氏は、大学・大学院で果樹園芸を学んだ後、約20年ご両親のもとで就農、作業を手伝いつつ生産管理を担当された。当時の同園は、経験と勘に頼る生産管理で作業効率が悪く、しかも店頭などに並ぶ生果りんごは、年に1度しか収入が入らないことから、雇用も安定しない。そんな現実に問題意識を持っておられた。「このままではダメだ…」。どうすれば高収益体質に転換できるかを考え抜いた結果、2015年に後継者になられたのを機に赤字覚悟で法人化し、生果りんご中心から、徐々に6次産業化、つまり加工品中心の営農スタイルにシフトしていった。

そして、その過程で取り入れたのが、労働生産性の考え方をベースにした生産管理の合理化だ。つまり、りんごの木1本ずつに二次元コードのついたツリータグを付け、品種や園地などのほかに、作業内容や作業時間、作業人数、進捗状況、コストなどの情報をデータ化して、品種別の生産性を見える化。さらにその情報を、独自に開発したスマホアプリを使って、誰でも簡単に登録・閲覧・活用できるようにしたのだ。これにより、経験の浅い人にも作業を任せられるようになり、全体で管理作業の効率化が実現。また作業から手が離れた森山氏は、パソコンに集約された情報を見ながら、りんごの品種や園地を、収益性などの視点から見直して、園地経営の合理化を進めることができた。

ツリータグの二次元コードをスマートフォンで読み込み、作業が記録できるアプリを開発。

6次産業中心の経営にシフトして、事業基盤の強化と通年雇用を実現

一方、生産管理の視点で情報を見たとき、わかってきたのが、りんご栽培作業のムダの多さだ。「1年間のりんご栽培の作業の中で、7割以上の時間を、剪定枝や葉や摘果りんごなどを、捨てる作業に費やしていたんです」。そこで森山氏は、これを有効活用することを考えた。森山氏が目をつけたのは、大量に出る摘果りんごでシードル(りんご酒)をつくることだ。一般的なりんご農家がシードルをつくる場合は、時期的に薬剤が残ってしまう摘果りんごは使わず、生果りんごで出荷できない規格外品を使う。しかし同園では、摘果りんごを収穫することを前提とした防除計画を実用化したことで、7月に摘果した果実はすべてシードルの原料にすることが可能になった。

そして、この摘果りんごを使って、〈テキカカ(商標登録出願中)〉と名付けたシードルを開発。アプリ開発でもそうだが、やり始めるとのめり込むタイプの森山氏は、シードルの製造技術を極め、2017年には専用工場を新設して本格生産。2019年には〈テキカカ〉が〈ジャパンシードルアワード2019〉で最高賞の栄冠に輝いた。これこそ森山氏が提唱している「発想を変えることで、マイナスをプラスに変える」というコンセプトの真骨頂だ。

他にも、シードルの搾りかすと、チップ化した剪定枝を使った、国産キクラゲを生産販売するなど、未利用資源の有効活用で、収益を上げることができた。もちろん、ゼロからの6次化推進は、並大抵のことではできない。森山氏自身、作業をしながらの経営改革は、当初、苦難の連続で、軌道に乗せるまで5年間は赤字、6年目にようやく黒字に転換することができた。そして改革の立役者である〈テキカカ〉は、2020年には2,700万円と、加工品の売上げが全体の68%となり、生果りんごの売上げを超えて、事業基盤の強化と安定した通年雇用を実現した。そして同園は、これらの経営努力が評価され、2020年「第21回全国果樹技術・経営コンクール」で最高賞の農林水産大臣賞を受けている。

草刈り作業省力化の実証に、無人草刈機〈ロボモアMR-300〉を導入

そんな同園では2020年、さらなる効率化、そして労働生産性向上を目指して、草刈り作業をほぼ自動化できる、自律走行無人草刈機ロボモアMR-300を試験導入された。「ウチのアプリと合わせて、国のスマート農業実証事業のテーマを実証するために、メーカーさんや関係団体とプロジェクトを組み、ヤンマーさんの選果機と、和同産業さんのロボモアを導入しました。2020年5月から現在まで、60aの樹園地でずっと使っていますけど、ほとんど手がかからないし、エラー情報や稼働履歴をスマホでチェックできるので、すごく気に入っています!」と、森山氏は目を輝かせた。

ロボモアの魅力は、エリアワイヤーを敷設した範囲内を、天候・場所・時間を問わず自動で動き回り、安全に草を刈り続けてくれることだ。しかし森山氏が期待するのは、草刈りの省力化だけではない。「60aぐらいの草刈りなら、人手を使っても作業できますが、その時間をバイトの管理や経営支援などに使えれば、社員のレベルアップにつながる。それもメリットだと思うんです」。そう語る森山氏の横顔は、会社の未来を見つめる経営者そのものだ。

「ロボモアは愛嬌があるんですよ」と、微笑む森山氏。センサーによって、エリアワイヤーを敷設した範囲内から出ることはない。

マイナスをプラスに変える発想で日本のりんご栽培を面白く

常にりんご園経営に真摯に向き合う森山氏は、同園の将来をどのように考えているのだろう。「まずは地域の活性化から。りんごの販売量を増やすのは、他の農家と競合するから難しい。でも摘果りんごなら、未利用資源なので取り合いにならない。ウチがブランド力をつけて近隣農家の摘果りんごを買い取れる仕組みをつくれば、弘前市のりんご栽培はもっと面白くなる」と、言葉に力がこもる。

さらに「労働生産性を今の3倍にしないと、この産業は持続できない。つまり栽培だけに労力をとられていると、いつまでもそこから抜け出せない。ウチは人材育成や付加価値をつけることに労力を使いたいので、マシンにできる作業は、ロボットや機械に任せていきたい」と、語る。5年間で同園を元気にした森山氏の夢は、さらに広がる。青森県の農業、いや日本の農業は、独自の発想で〈マイナスをプラスに変える〉、〈老舗でありながら新しい〉同園から、大きく変わろうとしている。

営農情報一覧ページに戻る