営農情報

2022年12月発行「トンボクロス5号」より転載

〈メーカー探訪〉次代に向けて進化しながらお客様のためのものづくりをブレることなく追求 キャニコム

代表取締役社長 包行 良光様

福岡県うきは市
キャニコム

時代を捉えた製品開発で九州から世界へ羽ばたく

今回取材したのは、乗用草刈機などでトップクラスのシェアを誇るキャニコム(以下、同社)だ。福岡県の南東部に位置する人口3万人あまりのうきは市に本社を構え、世界53ヵ国と取り引きをされている。
同社は、1948年に〈包行(かねゆき)農具製作所〉として創業、乗用草刈機や農業用運搬車など時代のニーズに合ったものづくりを行ってこられた。現会長の包行均氏が2代目社長に就任されてからは、「草刈機MASAO」や「芝耕作」といった個性的なネーミングや斬新なデザインを採用し、新製品が開発されるたびに日刊工業新聞社主催の「ネーミング大賞」で大賞を受賞するなど、業界の注目を集めている。
1989年には、九州から世界へ進出するのを機に、コーポレートカラーを青に、社名を〈筑水キャニコム〉へと改め、海外仕様の製品開発を本格始動。以降、北米や欧州を中心にシェアを順調に広げ、当時5%程度だった海外売上高比率は2022年で約60%までに至っている。
2015年からは、海外事業を軌道にのせた包行良光氏(以下、包行氏)が3代目社長に就任。創業当時から徹底して〈お客様のためのものづくり〉を貫いている同社だが、2022年はさらに、経営、営業、製造などあらゆる目線からお客様の困りごとに共感する〈Empathy〉をテーマに、農作業の課題を解決する製品開発を目指している。

最新の設備機器が導入された新工場「演歌の森うきは」。全体の工程を見渡せるレイアウトになったことで、社員間のコミュニケーションが活発化しているという。
海外の展示会でも目を引く同社の製品。昨年はCANYCOM USAが20周年を迎えた。

ただ1人の“ボヤキ”に応え演歌の心でものづくり

同社には〈ものづくりは演歌だ〉というユニークなスローガンがある。「お客様からリクエストをもらって歌う“流し”が演歌の起源。当社のものづくりでも、お客様のご要望(リクエスト)に寄り添って商品開発を行うことを大切にしています」と包行氏。作業現場に行って生の声を聞き、最後にポロッと出た“ボヤキ”を拾って開発に活かすのが何十年も続く同社のスタイルだという。

例えば、2001年からのロングヒット商品である乗用四輪駆動の「草刈機MASAO」は、「もっと安全に、楽に草を刈りたい」というボヤキから生まれた。ペダル式で無段変速、さらにハードな現場でもパワフルに動く四輪駆動という、世界で初めての乗用草刈機だ。現会長から開発の号令がかかった時は、開発部から「無理だ」との声も上がったという。それでもあきらめず難題に挑めたのは、お客様との距離が近い現場主義が息づいているからだ。包行氏は「お客様のボヤキから生まれた製品だから、製品を持っていった時の笑顔が目に浮かぶんです。1台しか売れなくても、その1人のためだけでも、我々はつくりたいですね」と力を込める。

企画会議が盛り上がる自由な発想を生む風通しの良さ

ものづくりにかける社内の熱意も、お話から伝わってくる。新製品が完成した時には、現会長が製品に乗って社屋の前をパレードする「デビューコンサート」をよく行っていたそうだ。
「小さな成功体験を積み重ねてきたので、『できないことでもやってやろう』という気持ちはベテランも若手も非常に強いですね」と包行氏。「いいものづくりはいい人材から生まれる」という考え方をお持ちで、お客様のみならず、社員の“ボヤキ”も大切にしているという。例えば、包行氏自らが現場に出て社員一人ひとりの名前を呼んで話しかけ、コミュニケーションをとるというのだ。約300名いる社員の顔と名前が一致するというのだからすごい。「現場に空調がほしい」など、社員がポロッと漏らしたボヤキは、汲み取ってすぐさまスポットクーラーを設置する。

新しいことに取り組むにも、決定の判断基準は「面白いか面白くないか。思いつきですよ」と明朗だ。そのため、発想が柔軟で企画から実行までが非常にスピーディだ。先日も企画会議で議論が盛り上がり、製品への新技術の導入が一度の会議で決定したという。
日頃のコミュニケーションが、ものを言える関係性を生み、それがユニークな製品を生み出すための発想や努力につながっているのだろう。取材に同席された社員のお2人と交わす冗談からも、風通しの良さはひしひしと伝わってきた。

新製品が誕生するとデビューコンサートを行い、全員で喜びを共有するという。
郷土であるうきは市の活性化を目指し、積極的に地元採用にも取り組んでいる。

新工場「演歌の森うきは」で作業環境をアップデート

2021年8月には、新工場「演歌の森うきは」が始動した。最新の複合加工機や溶接ロボットなどが導入されて働きやすい環境が整い、同社のものづくりの体制は大きな転換点を迎えている。「技術の伝承はなくてもいいと思っています」と言い切る包行氏。「古い工作機械を使うには熟練の技術が必要ですが、それは最新機械で全てフォローできます。昔のやり方はやめて、快適にものづくりができる環境を追求しました」。効率化によって余裕が生まれたことで、これまで以上に社員一人ひとりが自ら考え工夫するようになったという。

「社員が幸せじゃなければ、お客様を幸せにすることもできません」と語る包行氏。「社内には明るく、楽しい雰囲気が漂っていますが、製品に関しては厳しくつくりたい。そのメリハリは妥協したくないですね」。その真剣な表情からは、社員への思いやりの深さはもちろん、ものづくりでお客様の幸せを願う企業としての強い責任感もうかがえる。

スローガンが掲げられたPR看板。

顧客目線を追求した先に農業機械の発展がある

今後のビジョンをお聞きすると、「電動化や水素燃料など、排ガス規制に向けた動きが活発化していますね。でも我々はまず、お客様の作業の省力化に重点を置いて開発を進めていきます」とお答えいただいた。農業が転換期を迎える中で、同社も生産性の向上に向けて舵を切った。一方で、一貫して「誰のための農機か」を追求する姿勢を崩さないのは、その先にこそ農業機械の発展への未来が拓けるという確信をお持ちだからだろう。ものづくりの原点を見失うことなく、「この片田舎に、社員が誰にでも自慢できる会社をつくりあげたい」と、“売上高100億円、100ヵ国取り引き、100年企業”を目指して力強く駆け上がる。

新工場「演歌の森うきは」で世界に羽ばたけ

同社は創業以来、お客様の課題を解決する製品づくりに情熱を傾けてきた。「1人のお客様のためだけでもつくる」というスタンスを貫く同社には根強いファンも多いが、反面、製品は多品種少量生産にならざるを得ず、生産効率が良いとは言えない。それでもお客様の期待に応えるために誕生したのが、迅速な生産を実現する新工場「演歌の森うきは」である。テーマは「鷹の目コミュニケーション」。ここには、鷹が空から地上を見るように、お客様のニーズを俯瞰的に捉えて見逃さない、という同社の意気込みが込められている。新工場を拠点に、鷹になって飛びまわり、世界に羽ばたいていく。

うきは市の豊かな自然を背に、広大な敷地に建設された「演歌の森うきは」。

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