ヤンマーテクニカルレビュー

高効率GHPの開発
~お客様の省エネルギーな暮らしと安心して仕事・生活ができる社会へ~

Abstract

Improving energy conversion efficiency is an important issue if society is to become more environmentally friendly.
Yanmar Energy System Co., Ltd. has developed an environment-friendly gas heat pump (GHP) air conditioner that improves air conditioning efficiency by 15% and uses 36% less refrigerant than previous models.
The new model is also lighter and has a 20% reduced installation footprint, making it easier for customers to undertake refurbishments, including those involving equipment replacement. The GHP is supported by a remote monitoring system that can also perform software updates. Through these features, Yanmar is helping to build a society in which customers can have peace of mind as they live and work in an energy-efficient manner.

1.はじめに

ガスエンジンを動力源とするガスヒートポンプエアコン(以下GHP)は、電力需要ピーク対策として国が推進する※1ガス冷暖房機器です。お客様にとってのランニングコスト及びイニシャルコスト低減(受電設備等)だけではなく、社会的な役割を担った機器となっています。
こうした背景に加え、近年では温室効果ガスによる地球温暖化を防ぐために、省電力化や脱炭素化、フロン排出抑制が重要視されるようになっています。
ヤンマーエネルギーシステム株式会社は、空調効率向上,冷媒量低減による小型・軽量化及び遠隔機能を強化した新シリーズGHP(L1シリーズ)を開発し、より一層お客様が安心して暮らせる社会へ貢献します。(図1)

  • ※1工場等における電気の需要の平準化に資する措置に関する事業者の指針(平成25年12月27日経済産業省告示271号)
図1.GHP L1シリーズ
図1.GHP L1シリーズ

2.空調効率の向上

2.1.GHP冷媒回路の構成

圧縮機、熱交換器(蒸発機又は凝縮器)を有する冷媒回路から成るヒートポンプ式エアコンにとって熱交換効率は空調効率に大きく影響するものの一つです。図2に示すように、吸熱・放熱の効率が良くなれば圧縮機・ガスエンジンの負荷が軽くなり燃焼消費量低減に繋がります。

図2.GHP冷媒回路
図2.GHP冷媒回路

2.2.マイクロチャネル式熱交換器の採用

新シリーズGHPでは、従来のフィンチューブ式熱交換器(以下FC熱交)を全面的にマイクロチャネル熱交(以下MC熱交)へ一新しました。新しく採用したMC熱交の伝熱管は、薄いアルミ材の中に数十個の毛細管があり、これを数百枚重ねて互いをアルミフィンでろう付けしています。冷媒が接触する表面積と、空気が接触する表面積が相互に増え、伝熱性能を向上させることができます(図3)。また各伝熱管の冷媒の流れを従来の水平から垂直にすることで冷媒の偏流を抑えられるようにしました。冷房時は冷媒流れが鉛直下方向となり、冷媒の凝縮にあわせて重力に逆らうことなく流れます(図4)。

図3.マイクロチャネル熱交換器とフィンチューブ熱交換器の構造比較
図3.マイクロチャネル熱交換器とフィンチューブ熱交換器の構造比較
図4.熱交換器伝熱管の冷媒の流れ
図4.熱交換器伝熱管の冷媒の流れ

これらの技術の採用により伝熱性能の向上を果たし、図5に示すように空調効率の指標APFp※2を従来機Kシリーズ比で最大15%の大幅な効率向上を達成しました。

図5.APFpの従来機比(標準機:リーンバーンエンジン搭載、高効率:ストイキ・リーンバーンエンジン搭載)
図5.APFpの従来機比(標準機:リーンバーンエンジン搭載、高効率:ストイキ・リーンバーンエンジン搭載)
  • ※2期間成績係数(primary annual performance factor)JIS B 8627:2015制定
    冷房総合負荷及び暖房総合負荷を期間エネルギー消費量で除した値。

3.小型化、軽量化

3.1.プロペラファンの大径化

従来機K1シリーズは20馬力以下と25馬力以上で異なる2つの筐体サイズとしていましたが、L1シリーズでは25馬力以上の機種の幅寸法を縮小し、16馬力から30馬力まで全機種同一の外形寸法としました。図6に示すように25馬力以上は従来機種に比べて設置面積を約20%低減しています。また、メンテナンススペースも従来機種より小さくして、設置性を向上させています。

図6.コンパクト化と設置面積低減
図6.コンパクト化と設置面積低減

これら小型化を実現するために、図7に示すようにプロペラファンを大径化し従来3連ファンだった25・30馬力の室外機を2連ファンにしました。電動モータの削減により消費電力も低減、筐体サイズダウンと併せて本体の軽量化も実現しました。

図7.プロペラファン大径化
図7.プロペラファン大径化

3.2.熱交換器の側面配置

更に熱交換器面積(熱交換する容量)を確保するために、図8の通り従来機では前面と背面にしかなかった熱交換器を側面にも配置しました。
これにより、小型化、軽量化だけでなく馬力別で異なった外観デザインの統一性及び部品の兼用性向上を図っています。

図8.熱交換器の側面配置
図8.熱交換器の側面配置

4.遠隔監視システムを活用したソフト書換

ハードウェアによる新たな技術だけではなく、近年ではソフトウェアで機能向上を図るケースが増えています。GHPはお客様に長く安心して使って頂く商品であり、既設物件に対してもソフトのバージョンアップを行う事による耐久性・機能性の向上が求められる機会が増えてきました。
既設物件のソフト書き換えには、移動や作業、準備や片付けといったサービスマンへの負担、作業中のマシンダウンや受入、立会対応といったお客様への負担が掛かっていました。
L1シリーズでは遠隔監視システムにより事務所などの離れた場所から遠隔でソフト書き換えをできるようにしました。これにより図9の通り従来では移動や準備,復旧作業に費やしていた時間を削減でき、物件あたり数時間の負担削減が出来るようになりました。

図9.ソフト書き換え工数の従来比較
図9.ソフト書き換え工数の従来比較

5.おわりに

今回紹介したGHP L1シリーズは従来機Kシリーズよりも最大15%の大幅な高効率化を実現し冷媒量を従来機比36%低減させた環境配慮型製品です。今後も省エネルギー・高効率な製品の技術開発および普及を促進することで、電力やCO2排出量を削減し、お客様の省エネルギーな暮らしと安心して仕事・生活ができる社会の実現へ貢献したいと考えています。

著者

ヤンマーエネルギーシステム株式会社 開発部

阿部 聡

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