Vol.5 肥沃な土壌とは(CECと塩基飽和度)

Vol.4では粘土の持つ養分吸着機能である「陽イオン交換反応」について解説しました。今回は、陽イオンを吸着・保持する能力の大きさを示すCEC(陽イオン交換容量)と、そこに吸着している養分量を示す塩基飽和度の関係、そして肥沃な土壌づくりのポイントを解説します。

CECと塩基飽和度の関係

土壌を人間の身体に例えると、CECは胃袋の大きさ、つまり養分を蓄えられる量。塩基飽和度は満腹度合、すなわち養分の充填度と考える事ができます。

CECの大きさは、粘土の種類によって異なります(表1)。1:1型のカオリナイトやハロイサイトと比較し、2:1型のスメクタイトやモンモリロナイトの方が陽イオンを多く保持できます。

(表1)粘土の種類とCEC

粘土の種類 CEC(meq/100g)
カオリナイト(1:1型) 3~15
ハロイサイト(1:1型) 10~40
スメクタイト(2:1型) 80~150
モンモリロナイト(2:1型) 80~150
アロフェン 30~200
腐植 30~280
(図1)CECの概念図

(図1)はCECの大きさを比較した概念図です。左がCECの大きい粘土で、右が小さい粘土を示します。
CECの大きさは、乾土100グラム当りに保持することのできる陽イオンの数で示され、その単位はmeq/100g(ミリグラム当量・ミリエクイバレント)で表されます。

塩基飽和度は保持された塩基の割合

塩基飽和度はCECに対し、どのくらいの割合で塩基(陽イオン)が保持されているかを示したものです。
一般の土壌診断では塩基飽和度はカリウム(K+)とマグネシウム(Mg2+)とカルシウム(Ca2+)の割合の合計で示され、水素イオン(H+)やナトリウム(Na+)などは除きます(図2)。
一般的に適正な塩基飽和度は壌土では70~80%とされますが、CECの低い砂土では塩基類の絶対量が不足するので100%を保つよう追肥が必要とされています。

(図2)塩基飽和度

塩基飽和度とpHの関係

塩基飽和度とpH(土壌の酸性度)は(図3)に示すような相関があり、pHが高いほど塩基飽和度も高い値を示し、pHが低いほど塩基飽和度が低くなります。

作物は根から養分である陽イオンを吸収する際に、根から水素イオン(H+)を放出します。その結果、土壌中の水素イオン濃度が増加し、酸性化します(図4)。土壌分析でpHから養分の吸着割合が推定できるのはこのためです。

しかし、ハウス土壌などでは、土壌pHが塩基飽和度を反映しない場合もあり、EC(電気伝導度)も測定し、併せて判断しなければなりません。

(図3)pHと塩基飽和度の関係
(図4)水素イオンと養分

低CEC土壌に有効な堆肥の施用

砂丘で有名な鳥取県のラッキョウや長芋などの作物は、生育中に数回にわたる追肥を欠かすことができません。これは、砂丘土壌は粘土が少なくCECが低いので作物によって吸収されて無くなった養分を随時補給する必要があるからです。

CECを超えて肥料を投入した場合、粘土が養分を保持できず、過剰な養分は流亡します。特に、窒素成分は微生物の働きで有機物が分解され、たんぱく質、アミノ酸を経てアンモニア態窒素、硝酸態窒素となり植物に吸収されます。
アンモニア態窒素(NH4+)はプラスに帯電して粘土に吸着しますが、硝酸態窒素(NO3-)はマイナスに帯電しCECの陰イオンと反発し粘土に吸着されません。

過剰な窒素成分の投入は、農業生産のコストを圧迫し、地下水汚染などの原因ともなります。土壌診断に基づき適正に施肥しなければなりません。

堆肥の効用

低CEC土壌で養分を流出させず作物に供給するには、堆肥の施用が効果的だとわかりました。(表3)に堆肥の種類とC/N比、無機化率を示しました。最もC/N比の高いバーク堆肥の無機化率は年間7%程度で肥効が穏やかなことがわかります。堆肥は緩やかに分解され徐々に無機化した養分を放出するので、適量の施用は流亡もなく植物に必要な栄養を供給することができるのです。
一方、発酵鶏ふんは無機化スピードが早く、化学肥料と同等の即効性が期待できます。肥料は含まれる炭素量(C/N比)が少なくなるほど肥効が早くなるので、C/N比や含まれる養分量を考慮し最適なものを選びましょう。

(表3)堆肥の種類とC/N比・無機化率

発酵
鶏ふん
堆肥
鶏ふん
もみ殻
堆肥
バーク
堆肥
C/N比 7 15 21
1年目 無機化割合(%) 54.6 38.0 7.4
2年目 無機化割合(%) 19.2 17.5 13.5
3年合計 無機化量(g/m3 7.38 5.55 2.09
割合(%) 73.8 55.5 20.9

CECを高める腐植の効果

(図5)50年間の長期連用三要素試験で行われた
試験区のCECと腐植との関係(兵庫県の例)

堆肥には粘土のCECと同様の機能があります。また、堆肥成分のうち一部は腐植として永くCECを形成します。

(図5)は土壌の腐植量とCECを示したグラフです。土壌中の腐植が1%増えると、CECは約2meq/100g 大きくなることがわかります。グラフから、この土壌は腐植が無いと仮定した場合のCECは5.4、しかし土壌のCECは約9、つまり4割が腐植によるものと考えられ、腐植の養分保持機能が大きいことが分かります。

しかし腐植も有機質なのでいずれ分解されます。そこで腐植を維持するため堆肥を毎年1~2t/10a施用し、土壌中に腐植の元を補う必要があります。
腐植の生成には長い年月を必要とします。Vol.6では、この腐植について、その生成過程や構造、効果について詳しく解説します。

阿江 教治(あえ のりはる)

1975年 京都大学大学院農学研究科博士課程修了。
1975年 農林水産省入省。土壌と作物・肥料を専門に国内、インド、ブラジルなど、各国にて研究を行う。その後、農業環境技術研究所を経て、2004年神戸大学大学院農学研究科教授(土壌学担当)。
2010年退職。現在、酪農学園大学大学院酪農学研究科特任教授、ヤンマー営農技術アドバイザーをつとめる。

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