YESSA 一般社団法人ヤンマー資源循環支援機構

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助成事業

審査・選考のポイント(選考委員インタビュー)
横井 修司 大阪公立大学 教授

所属機関:大阪府立大学 生命環境科学研究科
     植物育種繁殖学研究室 教授 農学博士(3月31日まで)
     (4月1日より)大阪公立大学 大学院 農学研究科 植物育種学研究室
専門分野:植物育種学

横井教授の研究活動についてうかがいました

Q1:経歴をお聞かせください。

岩手大学農学部を卒業後、東北大学大学院農学研究科に進学し博士課程を修了しました。修了後はポストドクター(博士研究員)で日本学術振興会の特別研究員として1年間東北大学の育種学研究室に残り、翌年アメリカのインディアナ州にあるパデュー大学(Purdue University)にポストドクターで移籍しました。ちょうど、シロイヌナズナの全ゲノム解析が完了しようする前年の移籍でした。理由は、遺伝子操作を用いた研究をするためです。
帰国後、奈良先端科学技術大学院大学(以下奈良先端科技大)で4年間イネの研究をした後、岩手大学に准教授として採用されて戻りました。岩手大学には9年間在籍しましたが、大阪府立大学の育種学研究室で教授を探しているのを偶然見つけ応募すると、当時まだ44歳という若年にもかかわらず採用していただき現在に至っております。

オンラインインタビューの様子。
ご自身も産学連携でのプロジェクトに挑戦中とのことです。
Q2:これまで取り組んでこられた研究の中で、思い出深い、あるいは研究者としてターニングポイントとなった研究テーマについてお聞かせください。
奈良先端科技大に来た時に「イネはどうやって花を咲かせる時期を知るのか」というテーマをいただきました。 今から約90年前1937年にソ連のチャイラヒャン(Chailakhyan)という科学者が、日長を葉で感知し、葉でフロリゲン(花成ホルモン)が生成され、茎頂へ運ばれて花芽形成を促すというフロリゲン説を提唱したのですが、長い間そのフロリゲンが特定されずにいました。
2005年にはシロイヌナズナで花芽形成を促す役割を果たす可能性の高い遺伝子が発見され、花芽形成機構が明らかになっていましたが、イネは研究が遅れていました。
そこで、シロイヌナズナの研究を進めるドイツのクープランド(Coupland)博士のグループと連携をとりながらイネの研究を進めました。最終的にドイツのグループは、花を咲かせることができない突然変異体に対して、花を咲かせるには特定の遺伝子・ネットワークが必要だと解明しました。

一方のイネでは、遺伝子・ネットワークが動いている様子を茎頂付近で詳細にモニタリングすることができました。シロイヌナズナは長日植物でイネは短日植物なので、現象としては真逆なことが起きているのですが、関わっている遺伝子はシロイヌナズナもイネも全く同じ3種で、この3種の遺伝子間の伝達が、シロイヌナズナとイネでは逆の指令になっていることが解明できました。この違いで長日植物と短日植物は、花を咲かせる時期が違ってくるわけです。
この研究結果が、私が奈良先端科技大に赴任して2年目にNATURE誌に掲載され、またフロリゲンというたんぱく質が動くという機能を証明する研究を同時に進行させていて、その研究結果がNATURE誌掲載の数年後にSCIENCE誌に掲載されたんです。

この経験が私の研究者としての大きなターニングポイントとなりました。奈良先端科技大の在籍4年間でNATURE、SCIENCEという世界最高峰の学術雑誌に掲載される2本の論文に関われたことが自分自身にとって衝撃的な出来事だったのと同時に、もっと現場に近いところで直接世の中の役に立つような研究をやりたい、育種の原点に戻って研究をやってみようという想いが湧いてきました。それで岩手大学へ移りました。
Q3:大阪府立大学へは若くして教授として赴任されましたが、どういった研究に取り組んでおられますか?
大阪では米作農家が減ってきているので、イネの代わりに最近健康食品として換金性の高いアワ、ヒエといった雑穀の研究に着手しました。アワの有用な品種を見つけたり、放射線育種で新しい品種をつくったり品種を増やす取り組みを行ってきました。
アワは食べられる部分が少なく残渣物が多く出るので、その残渣物をエネルギーに変換する取り組みも行ってきました。
アワは夏作なので、冬作用の作物にカメリナという抗酸化作用のあるω-3(オメガ3)脂肪酸がとれる植物を選定しました。
食用作物、つまり食べ物と競合せずにエネルギー回収ができる作物をハウスではなく畑で栽培しハウスではトマトやイチゴ・ナスといった単価の高い園芸作物を栽培し、回収したエネルギーをハウスに利用するというような研究を行っています。

もうひとつは都市農業システムの開発をヤンマーホールディングス株式会社(以下YHD)と一緒に取り組んでいます。都市部の住民は、近郊農家あるいは農村部に食糧供給の面で完全に依存しています。また災害発生時に供給路が遮断されてしまった場合、都市部での食料が枯渇したりする危険性をはらんでいるので、都市部でも少量でもいいので栽培供給できるようにするべきだと考えます。
それは、ひいては輸送にかかるエネルギーの節約になります。また都市部での空洞化が進行しており、住人が居なくなった住宅地や団地、廃校になった学校の跡地やその建物をグリーンハウスに転用して野菜を栽培するという構想です。
このグリーンハウスにはYHDが開発しているスマートグリーンハウスが利用できます。このハウスでは栽培だけでなく、そこから出る残渣物からエネルギーをつくって再利用すれば、平常時は近隣住民で栽培した作物を消費し、災害時はここでつくられるエネルギーを非常用電源として活用することができます。

このスマートグリーンハウスは、ハウス内に設置したセンサーで生育状態等をモニタリングしてクラウドで情報管理し、必要なときに水や栄養液の自動供給が可能で手間がほとんどかからないんです。またYHDはスマートグラスという作物の熟度や病気かどうかがひと目でわかる眼鏡を開発していて、誰でも収穫の最適時期や作物の診断ができます。
そうなると誰でも農業に携われることができるようになります。またハウス内の地面はコンクリート舗装で平坦なので車椅子の人でも働けます。
大阪府に農業大学校があるのですが、そこの職員の方に農業指導者として参加してもらう計画です。
このプロジェクトに多くの在阪企業が参加表明してくれています。まだまだこれからですが、そういう都市農業システムを提案して大阪府で挑戦し、成功すれば他府県に広げられるだろうし、もしかすると海外でも展開できるかもしれません。

審査・選考のポイントについてうかがいました

Q4:申請テーマを審査する上で留意されていることは?
育種に携わっている研究者としては「多様性」を重視しています。どういうことかというと、例えばバナナですが、世界に多くの品種が存在しているように思えますが、実は世界に数種しかありません。1990年に新パナマ病という病気が東南アジアで蔓延して多くの農園が全滅し、バナナがこの世から無くなる危機に瀕しました。
これを回避するためにも多様な品種を確保しておく必要があるのです。たくさんの人がいろいろな品種を栽培している状態が肝要で、売れるから、美味しいからという理由で一つの品種に集中するのは良くないのです。
経済活動ももちろん重要ですが、求めている人がいるからということや、栽培することが何かの保険になるかもしれない、私は研究活動においてもそういう目で見ています。
またこれまでコツコツ取り組んできた方法や考えを信じて積み重ねていく事は大事ですし、時間は多少かかりますが最後に大きな成果を上げるのはそういう人かもしれません。そんなコツコツ地道に努力されている人をきちんと見ている評価者でありたいと常に思っています。

そして、学生時代に貴機構に助成してもらった研究の継続テーマという申請は評価してます。当時の研究結果から課題が明らかになり、その課題解決の研究を再申請してくる人にはおそらく将来像が見えているんだと思います。そういったことが申請書から読み取れると評価が高くなります。
育種では将来を見越して品種をつくっておかなければなりません。たくさん実がなるのがいいのか、実の数はそれほどもないが病気に強い品種がいいのか、あるいは食味を重要視するのか、将来的にどれがいいのかはその時点で誰にもわかりません。しかし多くの研究者が多種多様なものをつくって用意しておいて、どれかが上手くいく。そういう状態でないと将来全部だめになるかもしれません。
私は大きいビジョンに向かってコツコツやっていて、道半ばだけど頑張っている研究者を応援したくなります。
Q6:ご自身の専門分野の応募テーマを評価するポイントは?
専門分野は当然申請書の内容がよくわかりますし、取り組んでいる姿まで想像できます。その申請者が本当に結果を出せるか否かまで考えてしまい、評価は少々厳しくなっていると思います。
ただ、厳しくはなるのですが、その人の人となりとか身を置く環境や人間関係まで見えてしまうこともあるので、評価を下すのに複雑な心境になったりしますね。頑張れ!みたい応援する気持ちも出てきて感情移入してしまうこともあります。
Q7:専門外の応募テーマについてはどういった視点で評価されてますか?
専門外の人に理解してもらえるように簡潔に理解しやすく書かれているか、自分の専門分野の知識をひけらかすことなく丁寧にまとめている申請書は高く評価します。
それから参考資料に申請研究に関連する新聞記事を添付されていると、取材を受けているということは、それなりに世間から注目され取り上げられている証拠なので、そういった判断が追加されます。また、新聞記事は一般の読者に向けてわかりやすく記載されているので審査の助けになります。
Q8:これから申請される方へ、ひと言お願いします。
長期間でものを考える努力をして欲しいですね。日本の科学研究費のプロジェクトは長くても5年、短くて3年、ひどいのは1年という期間で、その中で結果を求められてしまうので、どうしても目先の成果に注力しがちです。せめて民間の助成金のときぐらいは大きな夢を語って欲しいと思います。その大きな夢を実現するための、第一歩を助けて欲しい。そういう考えを持った研究者が多く申請してきて欲しいです。例えば将来宇宙で農業をやるための第一歩とか、ある意味チャレンジングなテーマで挑戦してきて欲しいですね。
横井教授、ありがとうございました。
2022年2月21日取材

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