ヤンマーテクニカルレビュー

資源循環型の食料生産を実現するコンポスタ※1 YC100

Abstract

Yanmar’s YC100 composter was developed to facilitate recycling in food production. Its features include stirring claws, the Air Direct Injection system, and weight measurement for use in operational control. Turning food waste into compost and supplying it to farms also helps to reduce dependence on chemical fertilizers.
This article gives examples of some of the possibilities for using the composter. In one, at a nursery school, it is helping to educate children about food and the environment. Another example from Hamada City in Shimane Prefecture takes advantage of the unique characteristics of the region to recycle marine waste for use on farms.
The YC100 has the potential to assist not only with solving the problem of waste disposal, but also with achieving the SDGs, including by reducing environmental impacts. Yanmar is also seeking to build a sustainable and future-oriented society through a model for regional revitalization that features the resource recycling and encompasses the different places on land, sea, or city where Yanmar conducts its business.

  • ※1生ゴミ等の有機物を堆肥化する装置

1. はじめに

1-1. SDGsとA Sustainable Future

ヤンマーグループは、ブランドステートメントである「A Sustainable Future」の下、資源循環型の食料生産システムの構築を目指しています。これは、SDGsにおいて、「飢餓を0に(目標2)」、「つくる責任使う責任(目標12)」、「気候変動に具体的な対策を(目標13)」、「陸の豊かさも守ろう(目標15)」に関わる取り組みです。

1-2. 食料廃棄

食料は作物や魚、肉等からなりますが、その生産、加工、消費の過程で、非可食部や消費期限が切れた食品自体が廃棄されています。世界では食料生産量の17%にあたる9億3千万tonが廃棄され(2019, UNEP)、日本では2,372万tonが廃棄されています(2020, 農林水産省)。

1-3. コンポスタによる社会課題の解決

食料を廃棄しないようにすることは当然重要ですが、やむを得ず廃棄された食料は、コンポスタによって堆肥化すれば、作物栽培に活用できます。このような資源循環によって海外依存度が高く、近年、価格高騰が顕著な化学肥料の使用量を減らすことができれば、生産者のコスト削減にも寄与できると考えています。
本稿では、コンポスタYC100の紹介をします。YC100は、まとまった量の廃棄物が発生しているので回収はできていたものの、発生量が日々変動し、中身が均質でないために再利用が難しかった、スーパーや食品加工会社での廃棄物処理を想定し、生ゴミを1日に100kg処理できるように設計し、商品化しました。3章に導入事例を紹介していますが、YC100は、商品化当初には想定されなかった、さまざまな用途や新たな利用先での活用が始まっています。

2. コンポスタ処理方式とその特徴

コンポスタには大きく水流型と堆肥型の二つのタイプがあります。ヤンマーは食料廃棄物を資源循環させるために、堆肥型のコンポスタを開発しました。

2-1. 処理物を主に下水に流す水流型

水流型は、投入された廃棄物に水を加えながら撹拌させ、撹拌槽から処理水を排出する仕組みのため、減量率、減容率が高く、処理残渣の定期取出し頻度が少ないのが特徴です。一方、食料廃棄物に含まれる肥料成分の多くを処理水として外部に排出します。表1は、水流型コンポスタ処理を模して、各種堆肥を水で洗った時のECの変化を示しています。ECは電気伝導率で、土壌や堆肥に含まれる肥料成分量の目安として用いられます。1回の洗浄によって、堆肥に含まれる肥料成分が3~4割程度、流亡することがわかりました。この処理水をそのまま流すと富栄養化や赤潮発生につながる可能性があるため、浄化槽などでの後処理が必要です。また、堆肥自体の量やそこに残る肥料成分が減少すると、効果的な資源循環ができなくなってしまいます。

2-2. 処理物を取り出す堆肥型

YC100は堆肥型のコンポスタで、槽内にあらかじめ微生物を含む資材を入れておき、そこに食料廃棄物を投入します。撹拌爪でこれらを混ぜ合わせると同時に、槽内に加温した空気を入れ、乾燥を促します。また、内容物の温度を上げ、微生物が動きやすい環境にして、廃棄物の分解を促進します。処理の過程で加水はなく、処理水も発生しないことから、食料廃棄物に含まれる肥料成分が流れ出ることがありません。もちろん、処理水の浄化装置も不要です。外部への排水がないことで周辺環境に与える影響が少なく、水流型に比べ肥料成分が多く残った堆肥原料が得られます。

表1. 水流型コンポスタ処理を模した水洗前後の堆肥ECの変化

堆肥種類 電気伝導率:EC(mS/cm) 流亡率(%)
現物 水洗後
バーク堆肥 0.57 0.42 26
鶏糞堆肥 6.1 4.0 34
牛糞堆肥 4.7 2.9 38

各種市販堆肥(=現物)と、それを3倍量の水に懸濁させ撹拌した後、網で濾して網上に残留したもの(=水洗後)のECを、電気伝導率計(HORIBA,Ltd., LAQUAtwin, EC-33B)を用いて計測しました。ECは肥料成分含量の目安となります。

2-3. YC100の特徴

2-3-1. 撹拌効率の高い爪形状

ヤンマーが長年培ってきたトラクタのロータリ技術を応用した撹拌効率の良い爪形状により、投入された食料廃棄物が素早く細断されます。また、図1に示すように、この爪形状により、爪の回転方向の後ろ側上方(右図の赤点線で囲った部分)の粒子数を多くすることが確認できました。これは、この爪形状によって、槽底にある内容物を表面まで大きく撹拌できることを示しています。大きく撹拌することで乾燥時間が短縮されるだけでなく、空気に触れにくい箇所を減らすことで、強い臭気を発生させる嫌気発酵を抑制します。

図1. 爪の攪拌効率が悪い場合(左)と良い場合(右)を示すシミュレーション
図1. 爪の攪拌効率が悪い場合(左)と良い場合(右)を示すシミュレーション

また、独自の撹拌爪配列により槽の内容物が一箇所に偏ることなく、安定したトルクで動かすことが可能になりました。これにより、撹拌軸にかかるピークトルクを約20%低減することに成功しました(図2)。ピークトルクを低減することで機械動作が安定するため、機械の寿命が長くなります。

図2. YC100槽内の爪配列(左)と爪配列改善前後のトルクの経時変化比較(右)
図2. YC100槽内の爪配列(左)と爪配列改善前後のトルクの経時変化比較(右)
2-3-2. コンポスタ槽内への空気圧送方式「ADI(Air Direct Injection)」

撹拌槽内で速やかに内容物の乾燥を行うためには、加温された空気を撹拌槽内に流す必要があります。図3に、方式の異なる風の送り方で発生する槽内の風の流れのイメージを示します。図3左図のように、従来は槽内の空気を吸い出す「引き込み方式」が一般的でした。しかし、この方法では空気の「入口」付近で加温された空気が、内容物に触れる前に出口から排出され、乾燥効率が低くなります。そこでYC100では、図3右図に示すように、撹拌槽上部から空気を押し込むことで、内容物に接触する空気量を増加させ、乾燥効率を高くすることに成功しました。また、これも内容物の嫌気発酵を抑制することに繋がります。

図3. 引き込み方式の空気の流れ(左図 青色矢印)と ADI方式での空気の流れ(右図 赤色矢印)
図3. 引き込み方式の空気の流れ(左図 青色矢印)と ADI方式での空気の流れ(右図 赤色矢印)
2-3-3. 重量測定による運転制御、安全装置

日々排出される食料廃棄物量は一定でない場合が多いため、コンポスタへの投入量の変化に対して適切な制御を行うことが求められます。特に、投入される廃棄物量が少ない場合には出力を下げ、経済的にも環境的にも負荷を小さくすべきです。YC100では4つの脚部にロードセル(図4)を搭載したことにより、投入される廃棄物の重量を測定し、その値に応じた制御ができるようにしています。また、内容物の重量を測定し、それを表示することで、一日あたりに投入できる廃棄物量を超えないようにお客様に促すことや、定期取出しのタイミングをお知らせすることにより、機械を安全に長く使っていただけるように設計されています。

図4. YC100の脚部に搭載されたロードセル(赤丸部)
図4. YC100の脚部に搭載されたロードセル(赤丸部)

3. 導入事例

2021年12月からYC100の販売を開始し、食品加工会社、スーパー、ショッピングモール、自治体などに導入され、ご好評をいただいています。本章では、和食レストランを運営する「梅の花」と、こども園への導入事例をご紹介します。

3-1. 梅の花への導入事例

梅の花はSDGsを経営方針に掲げ、社会課題の解決を目指しており、和食レストラン「梅の花」を軸に、中華業態、かに料理専門店、テイクアウト専門店等、全国で約288店舗を展開しています。それらの店舗に食品を供給する梅の花の京都と久留米のセントラルキッチンで排出される食料廃棄物は、年間約270tであり、その年間処理費用に約1,400万円を要していました。これらを解決するために、YC100を導入いただきました(図5)。

図5 久留米セントラルキッチンに設置されたYC100
図5 久留米セントラルキッチンに設置されたYC100

梅の花では、YC100の導入によって、以下に示す循環型リサイクルシステムが構築されました。セントラルキッチンで発生した食料廃棄物は、YC100処理により1次生成物となります。この1次生成物を回収し、牛糞と混ぜて完熟するとミネラル豊富な堆肥となります。この堆肥を、生産者が有効活用することで農作物が生産されます。このようにして生産された農作物は梅の花のセントラルキッチンで加工され、同グループの各店舗で利用されます。この結果として、処理費用が約80%削減し、高騰する化学肥料の使用量の削減にも繋げることができました。今後、梅の花では他工場、他レストランでの食料廃棄物の循環サイクルを順次拡大していく予定です。

図6 梅の花の資源循環の取り組み
図6 梅の花の資源循環の取り組み

3-2. こども園への導入事例

自治体では単にごみ処理にかかる費用経費削減の観点だけでなく、環境保全や循環型社会の実現に向けた取り組みを強化しています。滋賀県多賀町立大滝たきのみやこども園は、園内にYC100を設置し、多賀町とも連携して、実証事業を行っています。この実証事業では、図7に示すように、各家庭で出た生ごみを、子どもたちが登園する際に、保護者と一緒に持ってきてもらいます。この生ごみはこども園に設置したYC100へ投入後、完熟堆肥化します。できた堆肥はこども園内の菜園で使用しています。また、地域のご家庭でも、お花や野菜などの栽培に活用していただいています。
既にある登園という人流を活用することにより、収集運搬時のCO2の発生を抑えることができます。この実証事業では、こども園に通う約80%のご家庭から、生ごみを集めることに成功しました。また、生ごみ用の袋として生分解性袋の開発を行い、YC100投入時に生ゴミを袋から出す手間を省いたこともあり、これまで累計4tの生ごみを集めることができ、現在も運用を続けています。こども園だけでなく、自治体の公共施設に通う人流を活かすことにより、資源循環の輪を拡大していきたいと考えています。

図7 現状の生ごみ収集と処理(左)および人流を活かした資源循環の提案(右)
図7 現状の生ごみ収集と処理(左)および人流を活かした資源循環の提案(右)

4. おわりに

4-1. 資源循環型、低環境負荷の食料生産

コンポスタYC100は、やむを得ず捨てられた食料廃棄物を農地へ還元し、作物栽培に再利用する資源循環を実現し、食料生産における化学肥料削減に寄与することを目的に開発、販売されました。この目的は、当初想定の導入先であった梅の花をはじめとする食品加工会社との取り組みの中で実現されつつあります。

4-2. 未来につながる社会と、都市・農地・海の資源循環

一方で、多賀町のこども園のように、当初想定していなかった導入先や関係者にも取組が広がっています。こども園に通う児童の保護者へのアンケートでは、「子どもがゴミの分別に気を付けるようになり、大人も環境意識が高くなった」とのご回答がありました。コンポスタによる資源循環は、自治体や地域、社会全体の課題をともに解決する、という気持ちを醸成することにもつながっています。
また、コンポスタは、地域の環境意識向上や、水産廃棄物を農地に還元し、それをさらに海の豊かさにつなげるといった、特色ある魅力的な地方創生にも活用されつつあります。
コンポスタYC100を活用し、廃棄物処理の課題解決だけでなく、環境負荷の低減を含むSDGsにつなげていきたいと考えています。また、ヤンマーのフィールドである大地・海・都市をつなぐ資源循環型の地方創生モデルや、地域や将来を担う子どもたちとも協力した、未来につながる持続可能な社会の構築など、さまざまなコンポスタ活用を推進したいと考えています。

著者

ヤンマーホールディングス株式会社
技術本部イノベーションセンター
プロトタイプ開発部 コンポスタグループ

中山 法和

ヤンマーホールディングス株式会社
技術本部 中央研究所
バイオイノベーションセンター

小西 充洋

ヤンマーeスター株式会社

赤澤 輝行

サポート・お問い合わせ