ヤンマーテクニカルレビュー

普通型コンバインYH700Mの紹介
(~低価格で高能率な稲以外の穀類収穫に特化したコンバインの開発~)

2023年12月8日

Abstract

Improving food self-sufficiency is more important than ever for Japan given the current global situation, which includes some countries taking measures to hoard food supplies. This makes it important also that Japan diversify into the production of other grains such as soybeans, wheat, and corn, including by repurposing paddy fields that have fallen into disuse as westernization of the nation’s diet results in less rice being eaten. Yanmar has responded by developing a new combine harvester specifically for crops other than rice, taking advantage of the low cost and high efficiency of existing harvesters, but reducing their weight and prioritizing relevant functionality. To accompany the new harvester, headers purpose-designed for specific crop types have also been developed, delivering faster harvesting, higher harvest quality, and lower workloads. This support from Yanmar for crop diversification helps both those growing these crops for the first time and those looking to expand. Through these initiatives, Yanmar is helping Japan to improve food self-sufficiency and reduce dependence on imports.

1. はじめに

世界の人口増加や気候変動により、食料供給の不安定化が懸念される中、日本の食料自給率は、農林水産省の発表によると令和2年度、カロリーベースで過去最低の37%となっています。また、昨今の新型コロナウィルス感染拡大やウクライナ紛争の影響により、各国の食料を囲い込む動きが顕在化しています。それにより食糧自給率向上の重要性が高まっています。政府は令和12年度の食料自給率目標を45%と設定していますが、達成が難しい状況です。ところが日本人の食の欧米化による米離れが進むことで水田利用が減少し,さらに食糧自給率が下がる可能性があります。畜産物の国内生産量は増加していますが、飼料用とうもろこしなどの輸入飼料に大きく依存しています。また、輸入品からの代替が見込める大豆や麦の増産も急務で、農業従事者を始めとした生産力の維持、増加のためにも、水田活用を含めた稲以外の穀類への転作は重要な課題解決の手段のひとつです。

2. 課題と目的

穀類収穫のためのコンバインは大きく2種類あり、自脱型コンバイン(図1)は稲と麦の収穫に特化したコンバインで、穂先だけを機内に取り込むという特徴があります。それに対して、普通型コンバイン(図2)は作物全量を機内に取り込むという特徴から、稲・麦に限らず豆類・とうもろこし・蕎麦など様々な種類の穀類を収穫することが可能です。

図1 自脱型コンバイン
図1 自脱型コンバイン
図2 普通型コンバイン
図2 普通型コンバイン

現状、自社の普通型コンバインのラインナップは小型機(45馬力)と大型機(120馬力)があり、稲以外の穀類生産の新規参入者や規模拡大を狙う人にとって、小型機では能率があがらず採算が取れない。一方、大型機では投資が大きすぎる、機体が大きすぎる、という問題があります。稲以外の穀類の自給率を向上のためには、購入しやすい45馬力の価格帯で120馬力相当の能率がある普通型コンバインおよびアタッチメントの開発が必要と考えました。

3. 解決方策

3-1. 機能の絞り込み

自脱型コンバインが国内に浸透している今、稲は自脱型、他の穀類は普通型、と2台を上手く使っておられる生産者も増加しています。稲を対象作物から除外することで必要機能の絞り込みが可能となり、ハード面では角型バースレッシャー(図3)等、海外向け商品に採用している軽量化技術を用いて部品数の削減や簡素化を考えました。ソフト面では主に稲収穫時に使用される自動・センシング機能を削減することで、安価でコンパクト、かつ高効率化が期待できる中型(70馬力)の普通型コンバインYH700M(図2)を開発しました。

図3 角型バースレッシャー
図3 角型バースレッシャー
図4 普通型コンバイン馬力帯別価格
図4 普通型コンバイン馬力帯別価格

表1 普通型コンバイン馬力帯別比較

機種 YH400
45馬力
YH700M
70馬力
YH1150
120馬力
適応作物
大豆、小豆、そば

大豆、小豆、そば
とうもろこし


大豆、小豆、そば
とうもろこし
全長[mm] 5050 5280 6240
全幅[mm] 2310 2395 2370
重量[kg] 3230 3945 5190
作業速度[m/s]※1 1.38 1.55 2.00
  • ※1作物条件により変化する場合があります。

3-2. 部品サイズの最適化と軽量化

大幅な軽量化を実現させるため、思い切った部品サイズの最適化に挑戦し、中型機でも最適なパフォーマンスが発揮できるようにしました。とうもろこし収穫ヘッダーのカッター支持構成を例にとると、従来はギヤボックス(図5)のみで支持されており、そのためケースやギヤを大きいものを採用していました。図6のような強度解析を繰り返し実施し、従来と同等の強度で軽量な構造を考えました。カッター先端部(図5)を支える構造に変更することで、結果、ケースやギヤの従来比50%の軽量化に成功しました。さらにギヤボックスを支持するフレーム(図5)の重量軽減につながり、クラス最軽量のコーンヘッダーを開発できました。
また、作業姿勢の見直しも行い、角度A(図7)を従来から小さくすることで機体前方への作物こぼれ防止のために必要な長さB(図7)を従来に比べて、約10%短くすることができました。
この軽量化と部品サイズの最適化により機体バランスが改善され、中型機に大型機用のヘッダーが搭載可能となり、高能率化が期待できます。

図5 とうもろこし収穫用ヘッダーのカッター支持構成
図5 とうもろこし収穫用ヘッダーのカッター支持構成
図6 ケースの強度解析
図6 ケースの強度解析
図7 とうもろこし収穫用ヘッダーの作業姿勢
図7 とうもろこし収穫用ヘッダーの作業姿勢

3-3. 高効率化

様々な品種の穀類収穫において能率アップを狙い、アタッチメントのひとつとして専用ヘッダーを開発しました。ここでは、豆類収穫用ヘッダーと、とうもろこし収穫用ヘッダーを紹介します。
豆類収穫用ヘッダーは、搬送ベルト(図8)で作物を掴み、円盤状のディスク刃(図8)で根本をカットし、掴んだ作物のみを機内へ搬送する仕組みなので、土の混入が少なく豆が汚れないという特徴があります。また、ディスク刃(図8)を地中に潜らせて刈り取る事ができるので、生っている豆の位置が地表から約10cm以下の低い作物でも収穫でき、約5%の収穫ロス低減が可能です。これに加えて、ベルトコンベア式の搬送を採用した事で豆が割れる懸念も少なく、収穫ロスが少ない構造です。能率面では、標準ヘッダー作業車速1.1m/s の条件下では、1.4m/s (約30%アップ)まで向上することができました。その上、前方のタイヤ(図8)で地面の凹凸を検知し、それに応じてヘッダーが自動で昇降するため、作業中は基本的に刈り高さを調整する必要がなくなり、運転者の操作負荷を大幅に低減することができました。
<動画①>https://youtu.be/hMZTWGdCOKQ

図8 標準ヘッダーと豆類収穫用ヘッダー
図8 標準ヘッダーと豆類収穫用ヘッダー

一方とうもろこし収穫用ヘッダーは、コーンの子実のみを脱穀機内に取り込み、葉や茎は刈取部下部へ落とす機構です。(図9)この機構により、脱粒時に必要となる負荷が大きく削減できるので作業車速を上げることができ、高能率作業が可能となります。例えば、同じ作物条件下では、標準ヘッダーでの作業車速0.8m/s に対し、とうもろこし収穫用ヘッダーでは1.3m/sと60%アップし、また、不要な夾雑物となる葉や茎が脱穀機内に入らないので、収穫物が非常にきれいな仕上がりとなる品質向上も果たしています。(図10)
<動画② >https://youtu.be/yr1dEdFEwZM

図9 とうもろこし収穫用ヘッダーの仕組み
図9 とうもろこし収穫用ヘッダーの仕組み
図10 仕上がり(左;標準ヘッダー 右;とうもろこし収穫用ヘッダー)
図10 仕上がり(左;標準ヘッダー 右;とうもろこし収穫用ヘッダー)

4. おわりに

政府は、令和12年までの大豆の生産努力目標を34万t(自給率10%)と設定しています。ヤンマーは、食料自給率の増加、穀類転作の拡大を収穫機でサポートします。新規参入、規模拡大に最適な高効率・低価格・コンパクトな普通型コンバインYH700Mを開発し、お客様の様々な要求にも応えられるようアタッチメントを充実させました。使われなくなった水田を稲以外の穀類の転作に有効活用することで、需要が高まっている大豆等の食料自給率が上がり、輸入への依存を減らすことができると考えます。
さらに、穀類転作の拡大によって資源循環型社会に資することができます。例えばとうもろこしは、家畜糞尿由来の堆肥を多く施用することが可能なことから堆肥処理に有効です。そして出来上がったとうもろこしは、飼料として畜産農家に供給され畜産物を生産するという資源循環型農業の確立に貢献できます。また、自治体で生産された飼料を活用した畜産物は地域プレミアムブランド化できる、といった可能性もあります。
ヤンマーは、お客様の要求に答えつつ、地球にやさしい農業を実現することで、日本をはじめ、世界の食料問題の解決に貢献したいと考えております。

著者

YAG開発統括部 作業機開発部 ハーベスタ第一G

阿部 大介

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