ヤンマーテクニカルレビュー

新型油圧バックホーViO80-7の超低騒音化に向けた取り組みについて

Abstract

Hydraulic backhoes operate by using pressurized hydraulic fluid (oil) to transmit high levels of energy. The engine drives a hydraulic pump to pressurize the hydraulic fluid so that it can be used to drive the hydraulic motors and cylinders. Many construction machines such as backhoes use hydraulics as their means of power transfer. These machines use lever operation to regulate the flow of hydraulic fluid and this enables them to move around and accomplish work that requires high levels of force.
Compact excavators account for a large proportion of the construction machinery produced by Yanmar. As they have mainly been used in urban areas, the amount of noise they inflict on the surrounding area is an important concern. To meet customer demand for quieter machines, Yanmar’s latest full model change of the ViO80 succeeded in satisfying the Japanese government standard for ultra-low-noise construction machinery, the first 8-t-class Yanmar backhoe to do so.
Along with easier operation and improved comfort, Yanmar also embarked on a new initiative with the ViO80-7, to achieve ultra-low noise.

1. はじめに

油圧バックホーは油圧の力で作動しており、油圧とは加圧した油を介してより大きなエネルギの伝達を行なう技術です。エンジンによって油圧ポンプが駆動することで圧油が送り出され、圧油は油圧モータや油圧シリンダへ送り込まれます。多くの建設機械は動力の伝達に油圧を利用しており、レバー操作により油の流れを変えることで作業機を動かすことができ、力の必要な仕事を簡単に行うことができます。

図1. 油圧の仕組み
図1. 油圧の仕組み
図2. 油圧動力伝達フロー
図2. 油圧動力伝達フロー

ヤンマーが生産している建設機械の中で多くの生産台数を占めている小型バックホーは、従来から都心部での使用がメインであり周囲への騒音配慮が重要視されています。より静かな機械を求めるお客様からの要望も多い中、今回ViO80のフルモデルチェンジではその期待に応えるため、国土交通省が定める超低騒型建設機械をヤンマーの8tクラスバックホーで初めて実現しました。
従来機であるViO80-1Bからより操作性、快適性を向上させたViO80-7ですが、特にヤンマーにとって新たな挑戦となったViO80-7超低騒音化への取り組みについて紹介します。

2. 超低騒音化への方策と課題

2-1. 最高エンジン回転数の変更

建設機械の騒音の寄与率としてはエンジンファンが支配的な音源の一つであることが分かっており、騒音低減するためにはファン音を低減することが必須となります。
ファンはエンジンとベルトで直結しているため、エンジン回転数を下げるとファン回転数も下がり、ファンから発生する騒音を低減することができます。超低騒音化を実現するためViO80-7ではエンジン回転数を従来の1900min-1から1700min-1に変更しています。
しかし、エンジン回転数を下げることによる作業機速度の低下、ファン風量が低下することによるヒートバランスの悪化という課題への対策が必要となります。

2-2. 吸込冷却方式の採用

従来機では冷却に吐出方式(図3参照)を採用しており、吐出方式において騒音低減するには次のような方策により風の流れを改善する必要があります。①ファン上流の風の妨げとなる部品を遠くに配置する。②風の流れを良くするシュラウドへ形状変更する。③音が漏れ出ないようボンネット隙間を埋める。等の対策が考えられますが、レイアウト上制約が多く現実的ではありません。
吸込方式だと構造上ファン音が外に漏れにくいため、周囲騒音への影響を極力小さくすることが可能であり、ViO80-7では冷却を吸込方式に変更することで超低騒音化を実現しています。ただし、吸込方式は風流れを最適に設計しないと騒音が悪化する可能性があり、また図3で示すように機械内部(図中A,B,C点)に熱が滞留し易いため、キャビンや電装品への熱対策、キャビンの居住性への対策等が新たな課題となります。

図3. 冷却風の経路と温度の比較
図3. 冷却風の経路と温度の比較

3. 課題への対策

3-1. 作業機速度との両立

課題の一つであるエンジン回転数変更による作業機速度の低下を防ぐため、ターボエンジンを搭載しエンジン出力をUPしています。図4はポンプの圧力と流量の関係を示しており、図4の①の領域ではエンジン出力UPに伴いポンプ流量を15~20%多く出力可能となっているので、エンジン回転数を1700min-1にしても従来機ViO80-1B同等以上の作業機速度を確保しています。
図4の②の領域では回転数が1700min-1になった影響でポンプ流量が少なくなったように見えますが、シリンダ径の小径化と、ポンプの分流バランス調整、油圧回路の高圧化により従来機ViO80-1B同等の作業機速度、掘削推力を確保しています。

図4. ポンプ圧力とポンプ流量の関係
図4. ポンプ圧力とポンプ流量の関係

3-2. ヒートバランスとの両立

超低騒音とヒートバランスの両立のため、温度を検知して油圧ポンプの出力を変更する「通常モードマップ」制御を設定しており、図5左に示すように急激な温度上昇を防ぐため温度がある閾値(図中①)を超えると、ポンプ出力を抑制する制御を採用しています。また温度下降時(図中②から⑥)はポンプ出力復帰時の作業機速度の急激な上昇を防ぐため、徐々にポンプ出力を上げる制御になっています。図5右に示すようにそれぞれの温度でエンジン回転速度に応じたポンプ出力となるため、複合操作時の操作性を維持しつつ、高負荷作業時のオーバーヒートを防止しています。

図5. 通常モードマップ
図5. 通常モードマップ

DPFに溜まったススを焼き切るため高温の燃焼ガスが流れるDPF再生時においては、機械内部はより過酷な高温環境となるため、「再生モードマップ」の構築も併せて実施しています。「再生モードマップ」とは図6左に示すようにDPF再生時に温度が閾値を超えると、油圧ポンプの出力を抑制しつつ、エンジン回転速度を上昇させ冷却能力を上げるモードです。また再生モードマップでは任意にエンジン回転速度を下げることが出来ないため、図6右に示すようにポンプ出力を抑制することで操作性を維持し、再生モード時でも高負荷の作業を継続することが可能です。

図6. 再生モードマップ
図6. 再生モードマップ

3-3. 風流れの最適化

これまでファンとシュラウドのラップ量、ファンとラジエータの距離を最適にすることが騒音、冷却性能に大きく寄与することが分かっており、流体解析を用いて風流れ、風速分布、風圧力を確認しレイアウトを決定しました。また試作機にて音源分離や周波数分析等を駆使することで、解析と実測のカット&トライにより吸込方式において最適なボンネット開口、部品形状になるよう設計しています。

図7. ViO80ボンネット開口部変更
図7. ViO80ボンネット開口部変更
図8. 流体解析による風流れ検討
図8. 流体解析による風流れ検討

3-4. 部品への熱対策と、居住性への配慮

キャビン内への熱影響を最小化するため、エンジンルームとキャビン壁との間に樹脂製のカバーを配置することで熱影響を抑えています。また雰囲気温度が低い場所に電装品を配置し、さらに断熱材による保護を実施しています。またより性能が良いオート機能付きのエアコンユニットを搭載し、風量と吹出し口を増やすことで居住快適性を向上させています。

図9. 樹脂カバーレイアウト
図9. 樹脂カバーレイアウト

4. おわりに

従来機では98dBだった周囲騒音を、新型機ViO80-7では93dB未満まで低減しており、ViO80-7は国土交通省が定める超低騒音型建設機械の基準を達成することが出来ました。また騒音低減と併せ、操作性、快適性も妥協することなく商品開発を行った結果、ViO80-7はお客様が求めている最適な商品に近づけることが出来たと自負しています。
その開発過程において、ヤンマーの8tクラスバックホーで初の吸込冷却方式を採用するなど多くの課題をクリアし、新しい技術的知見を深めてまいりました。これらを活かして、今後もお客様に喜んでいただける商品を提供できるよう努めてまいります。

著者

ヤンマー建機株式会社 開発部
第一計設計部 設計第二グループ

三木 貴弘

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