有限会社宇佐水産 様
住所:愛媛県南宇和郡愛南町
鯛養殖給餌船「第61住吉丸」
全長・幅・深さ(m):16.29×4.98×1.49
総トン数:14G/T
主機関:6HYPGG-WET
出典:YANMAR mare vol.47(2026年発行)

住所:愛媛県南宇和郡愛南町
全長・幅・深さ(m):16.29×4.98×1.49
総トン数:14G/T
主機関:6HYPGG-WET
出典:YANMAR mare vol.47(2026年発行)
四国の西端、愛媛県と高知県の境界に位置する宿毛湾から、宇和海へと続く海域。ここは、南から北上する黒潮の潮流が流れ込む、国内屈指の好漁場である。透明度の高い海水は、豊富な酸素とミネラルを蓄え、古来より多くの生命を育んできた。年間を通じて水温が安定しているこの海は、真鯛にとって最適な環境とされてきた。この地で養殖業を営むのが、有限会社宇佐水産である。
宇佐和人社長と宇佐光太郎専務が舵を取る現在の経営体制は、伝統的な経験則を大切にしながらも、科学的根拠に基づいた「持続可能な養殖」への転換を強力に推し進めている。厳しさを増す環境の変化に対応し、最高品質を維持し続けるために、「低密度飼育」と「最新テクノロジー」の導入という具体的な解決策を導き出したのだ。自然の脅威を受け止めながら、最新鋭の設備と緻密なデータ活用によって、リスクをコントロールする経営へと舵を切ったのである。


宇佐水産における養殖真鯛の特徴は、余分な脂がなく、天然ものに近い身の締まりと深い旨みにある。これを実現しているのが、業界でも類を見ない「低密度飼育」だ。通常、経営効率を優先すればイケス内の密度を高くしがちだが、同社では96基に及ぶ大型沈下イケスを運用しながら、1平方メートルあたりわずか4匹という広さを確保している。これにより魚のストレスを軽減し、健康被害を最小限に抑えるとともに、真鯛が自由に泳ぎ回れる環境を整えている。
鯛の品質を支えるのは、環境だけではない。先代が静岡大学の研究を基に開発した高機能飼料「ペプチドモイストペレット」の存在が大きい。厳密な温度管理のもと自社製造されるこの飼料は、他社製に比べ水分量が多く、タンパク質が効率良く分解され、魚が吸収しやすいアミノ酸やペプチドへと効率的に分解される。これにより、真鯛の肉質向上と成長の安定化という科学的エビデンスを確立。生産された真鯛は国内の大手回転寿司チェーンや量販店で高く評価されている。
海外展開も積極的だ。欧米へは現地の多様な調理ニーズに応え、頭と尻尾を残した「ラウンド」に近い状態で輸出。韓国市場でも徹底したトレーサビリティを武器に、活魚需要を取り込んでいる。国際認証の取得を進め、安心・安全な魚を世界へ届けるモットーを着実に実践してきた。
しかし今、時代の変化に伴い大きな転換期を迎えている。消費者の世代交代による嗜好の変化、欧米への輸出強化、そして給餌作業の効率化を見据え、飼料を新たな固形飼料へと変更する必要性が生じたためだ。この餌の変更は、給餌船の投餌機をはじめとする設備全体の刷新を意味する。同社はこれを機に、新船の導入という未来への一歩を踏み切った。これに伴い、先代から33年にわたり受け継がれ、同社の成長を牽引してきた独自のペプチドモイストペレットは、その歴史に幕を閉じる。伝統を礎にしながらも、同社は次なる進化へと向かって走り出しているのである。
広大な宿毛湾に点在する96基のイケスを管理し、毎日正確な給餌を行うためには、機動力と作業性に優れた船団が欠かせない。なかでも、2025年に導入された新造船「第61住吉丸」は、作業効率と安全性を飛躍的に高めるために設計された。
特注のつや消しブラックのクレーンの搭載やデッキをグレーで統一された船体には、最新テクノロジーが随所に息づいている。例えば、従来のリモコンヘッドをワイヤー式から油圧式へと変更。これにより操作性が向上しただけでなく、固着などの故障リスクも軽減した。また、カメラを用いたリアルタイム監視システムを導入。タブレット上で作業量や餌の投与量を確認できるデジタルコックピット化を実現した。また、配管設計を一新して2人同時の洗浄作業を可能にするなど、ハード・ソフト両面から徹底的な合理化が図られている。
現場の意見を徹底的に取り入れたフルフラットなデッキ構造も特徴的だ。錆対策としては、クレーンの操作レバーまで完全にカバーで囲い、収納スペースの形状をフラットに統一。さらに全面に滑り止めを装備することで、揺れる海上での作業安全性が大幅に向上した。船内には2人体制での休息を想定した仮眠スペースやシャワーも完備。作業効率と乗組員の快適性を高次元で両立させている。
この船の心臓部として採用されているのが、先代の頃から厚い信頼を寄せるヤンマーエンジン6HYPGG-WETである。燃費性能に優れるだけでなく、真空タンクと計量器を連動させた「自動給餌システム」の運用においても高い信頼性を発揮する。このシステムは、真空状態を作り出すことで飼料を吸い上げ、空気圧によって正確な量を各イケスへ投入する仕組みであり、エンジンの安定した出力によって初めて精密な管理が可能となる。さらに、リモコンでのボリューム調整など、現場の操作性を向上させるための細かな改良も続けられている。
また同社は2026年4月の新体制移行に伴い、1月には現在の給餌船に対して、全て61号と同等の設備を導入。高効率化により2隻減らし、6隻体制から4隻体制へと変更。効率的な養殖管理が実現し、省力化と省エネをさらに高いレベルで両立させていく。




宇佐水産の次なる挑戦は、テクノロジーによる経営の合理化である。その筆頭が、ヤンマーが開発したAIによる「魚の自動カウントシステム」の試験導入だ。これまで、イケス内の数万尾に及ぶ魚の数の把握は熟練者の目視に頼らざるを得なかったが、これをデジタル化することで、より正確な在庫管理と歩留まりの把握、そして最適な給餌量の算出が可能になる。また、過去に蓄積されたビッグデータを解析することで、水温や潮の流れに応じた最適な利益率向上策を検討・実行していく。
こうした近代化・DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進は、単なる効率化が目的ではない。その根底には、持続可能な事業継続と、次世代を担う若手技術者への円滑な技術継承という大きな目的がある。最新設備の導入によって労働負担を軽減し、より安全で知的な作業環境を整えることは、若い世代が意欲を持って水産業に飛び込める環境づくりに直結する。
真に安全で美味しい真鯛を世界へと送り出し続けるために。宇佐水産が目指すのは、経験に裏打ちされた伝統を重んじながらも、常に自己を変革し続ける、水産養殖の新しいスタンダードである。