代表取締役
西田 良弘 様
- 地域 : 京都府南丹市
- 掲載年 : 2025年
- 作物・作業 : 水稲(45ha、うち作業受託20ha)/にんにく(0.5ha)

京都府南丹市で水稲の栽培や販売、作業受託、乾燥・調製の受託を手がける株式会社Ryo。乾燥・調製作業を効率化するため2019年にライスセンターを建設された。6年が経過した今、改めて感じるメリットや経営ビジョンについてうかがった。
代表の西田さんのご実家は代々兼業農家で、もともとご自宅と親戚・知人で消費する米だけを生産されていた。近隣農家の高齢化に伴い、お父様の代には預かる農地が増えて面積が拡大。西田さんは自動車関係の会社に勤めながら、週末だけ農作業を手伝っておられた。当時は就農するつもりはなく、地域との密接な付き合いもなかったという。
就農を決心されたのは2015年のこと。お父様が逝去され、預かっていた農地を返そうとした時に、地域の方々から「継続してほしい」という声が上がった。その時、お父様からたびたび聞いていた「誰かが守らなければ農地が荒れてしまう」という言葉を思い出し、自らが農地の担い手になることを一念発起された。
しかし、農機の操作には慣れていたものの、栽培の知識はなかったという西田さん。「見よう見まねでやってみたら、1年目は失敗続きでした。苗もうまく育てられなかったし田んぼに水を入れる量もタイミングもわからなくて、近隣の農家に教わりに行くと『水を入れるのが遅い』と叱られたこともありました」。1年目は収量が激減し大赤字を出してしまったが、それでもやめるという選択肢がなかったのは、西田さんに強い覚悟があったからだ。「面積を増やしていかなければ農地は守れない」と、1年目から「株式会社Ryo」として法人化し、規模拡大を目指していった。
就農当初は近隣の方々からも「本当に農業ができるのか」と半信半疑で見られていたそうだが、毎日のように草刈りをするうちに、徐々に話しかけられる機会が増え、少しずつ信頼関係を築いていかれた。加えて農機や設備が充実していたこともあり2年目、3年目になると近隣農家からの作業受託依頼が西田さんのもとに集まり始め、面積は毎年4haずつ拡大していった。
増加する作業受託に対応するべく、2年目から密苗をスタート。「面積が増えていくことはわかっていたので、できるだけ苗の枚数を減らして作業を効率化したいと思い、密苗を導入しました」。また、米の品種をコシヒカリ、キヌヒカリをはじめ、多収品種を含む5品種に増やして刈取り時期を分散し、刈り遅れとそれによる品質低下を防いでいる。水が引けず米ができない中山間部の農地ではにんにくの栽培を開始するなど、栽培計画や農地の特性に応じて柔軟に品種や作物を変更し、全ての農地で収益を確保できるように工夫を重ねてこられた。「毎年同じことをやっているようだけど、同じ品種で同じ時期に水を入れても毎年生育が違う。農業は常に勉強ですが、その違いを攻略して成果を実感できるところが面白い」と、常に挑戦することを楽しまれている。
自社の栽培面積と作業受託面積の増加に伴い課題となったのが、乾燥・調製作業の効率化だ。就農当初の4年間は、お父様の代に導入していた小型の乾燥機を倉庫に4台設置して作業していたが、栽培から収穫、乾燥・調製までを1人でこなしていたこともあり、繁忙期は夜の11時ごろまで作業が続いた。「倉庫も小さかったし、袋詰めを終えた玄米を置くスペースも狭くて作業効率が悪かったんです。このままでは新たな農地を引き受けられなくなると思い、ライスセンターの建設をヤンマーさんに依頼しました」。
2019年に完成したライスセンターには、もともと使っていた乾燥機2台に加え、「遠赤乾燥機HD-45VAR」2台を追加導入して作業能率をアップさせた。特に西田さんがこだわったのは、効率的に作業ができるライン設計だ。それまでは籾コンテナから各乾燥機にホースをつないでいたが、投入に時間がかかっていたため、荷受けホッパーを導入して乾燥機に直接投入できるように変更した。また、「放冷タンクCT-5000」を2台導入することで、乾燥後の籾をすぐに移して乾燥機を空け、ダウンタイムを発生させることなく次の乾燥を始められるようになったことも大きな効率化につながった。乾燥機から放冷タンクまではコンベヤで自動搬送されるので手間もなく、17時には作業を終えられるようになったという。
籾すり機は、これまで使用していた1台に加えて2台目として「籾摺機YRZ450GWAK」を導入された。2台を向かい合わせで設置することでオペレーターがひとつの動線で操作できるラインをつくるなど、作業効率を上げる工夫がいたるところに見られる。また、機械を高い位置に設置したことに加え、電源も上部から取ることでコードが床に這うことがなく、作業後の清掃作業もしやすくなった。「こうしたい、という私のイメージを、ヤンマーさんが設計力で形にしてくれました」と西田さん。
建設から6年が経過した今、改めて感じておられるメリットをうかがうと、「やはり籾すり機を2台体制にして効率化できたことが良かったです。これまでの倍の量をこなせて時間短縮にもつながりますし、1台がメンテナンス中で使えない時も、もう1台で対応できるため、作業を止めることなくスムーズに運用できます」。加えて、休憩できる時間が生まれたことも大きな変化だと話す西田さん。ライスセンターができるまでは、作業者が休憩するには一度籾すり機を止めなければならなかったが、以前から使っていた貯蔵タンクを調製後の玄米タンクとして利用することで、機械を稼働させたまま一息つけるようになったそうだ。
2021年には「フレコン計量ユニットYFC-AS」を導入し、作業受託分をフレコンで対応できるようになったことでさらなる効率化につながっている。「36袋分をひとつのフレコンにまとめられるので、大量の袋詰め作業とパレットへの積み上げ作業から解放されてかなり楽になりました。充填が終われば自動でストップしてくれますし、あとはフォークリフトでフレコンを移動するだけです」。荷受けから乾燥、調製、計量まで、袋体だった時は2〜3人で行っていた作業を1人でこなせるようになった分、刈取りなどの別の作業を同時に進めることができ、ライスセンターとほ場の2つの現場で作業が効率良く回っている。
時にライスセンターには、「うちの機械が壊れたから、乾燥をお願いしたい」と近隣農家が駆け込むこともあるという。難しいのが、荷受けの時点では品種も籾の状態もそれぞれ異なることだ。「不純物が混ざっていると規格外になって等級が落ちてしまいます。任されている責任があるので、籾すりの段階で状態をしっかり見て、色彩選別機の感度を上げたり、お客さんに相談してもう一度色彩選別機にかけたり、希望する等級を確保できるようにかなり気を使っています」。
こうした丁寧な対応に信頼が集まっているのだろう。乾燥・調製の受注は年間にして約2,000袋にのぼる。「毎年8月下旬になると受注が増えて、ホワイトボードの予定表がびっしり埋まるんですよ」と西田さん。
ライスセンターは今や地域にとってもなくてはならない施設になっているが、今後はどのような運用を計画されているのだろうか。「面積拡大に備えて、乾燥機の大型化を計画しています。集塵室のキャパシティも上げたいですね。近隣に住宅もあるので、ホコリが飛んで地域に迷惑がかからないようにしなければ」と、地域とともに歩む姿勢は揺るぎない。
米の販売先は、お父様から引き継いだ個人顧客や卸売業者、飲食店などが多く、直接販売が約7割を占める。口コミやインターネット等からの問い合わせの他、ご自身でも飲食店を利用した際に売り込みをかけることがあり、販売先が増え続けている。商談時には2名の従業員に現場の作業を任せ、西田さんが各品種のサンプルを持って交渉を進めるそうで、栽培だけでなく経営面でも手腕を発揮されている。
2024年は、米不足の影響で個人顧客からの紹介に加え卸売業者や弁当製造企業などからの問い合わせが急増した。受注増に備えて今年は在庫を多めに確保したが、それでもこの秋の収穫予定分はほとんど販売先が決まり、新規の受注をストップしている状態だという。「今後も栽培面積は増えていくので、今年お断りした方々にも再度アプローチをかけて販売につなげていくつもりです」とさらなる販路拡大にも意欲を燃やす西田さん。安定した供給量を確保できているのは、面積が拡大していることに加えて、作業受託で取引のある個人顧客から「うちは自宅と親戚分だけあればいいから、あとはRyoさんのところで売ってくれていい」と米の一部を買い取ることができているからだ。供給量の安定は販売先である卸売業者からの信頼にもつながっており、三方良しの商売が実現している。
近年の米不足に伴う米価の上昇は利益の押し上げにもつながっているが「10年の経営計画を立てているので、特別なことはせず基本的には計画に従って動いていきます。ただ、拡大する面積に対応するために、新しいトラクターの導入は考えています」と、地に足をつけた経営で一歩一歩着実に前進されている。
西田さんが経営を力強く進められる背景には、安心してほ場を任せられる2名の従業員の存在がある。未経験で同社に入社されたお2人は、西田さんのもとで栽培や農機の知識・経験を培われていった。西田さんは、ご自身がそうであったように、お2人にも現場で学んでもらうことを重視されている。「基本的な知識だけは教えますが、ほ場では本人の感覚も大事です。失敗することもありますが、そこから学べることもあるので、現場でどんどん経験を積んでもらいたい」。今では西田さんが機械に乗ることはほとんどなく、従業員のお2人がほ場での作業を担当しておられる。
過去には、同社で技術を覚えて独立を果たした従業員もおられ、自社の規模拡大だけでなく、農業全体の裾野を拡げることにも貢献されている。
農地が広がる中山間地で、「株式会社Ryo」と書かれた大きなライスセンターは目にとまりやすく、建物そのものが広告塔になり、「これだけの設備があるなら作業を任せても安心」と、作業受託や乾燥・調製の依頼に訪れる農家も多い。「ライスセンターを建設して一番良かったと思うのは、地域の皆さんから『ここに頼めばやってもらえる』と認識され、声をかけてもらえるようになったことです。最初は誰も知らなかった『Ryo』という名前も、この6年の間にずいぶん浸透しました」。
当初、対象面積40〜50haを目標に建設したライスセンターは現在の面積が作業受託を含め40haを超え、目標はすでに達成されたという。また近隣の農地は、株式会社Ryoが作業受託することで耕作放棄地になることなくほぼ活用できている状態で、「農地を守る」という意味でも、思い描いていたビジョンが現実のものとなった。最近では市外からも作業の受託依頼が増え、「地域ごとに異なる背景があるので、よくお話しをした上で、それでもうちに『任せたい』といってもらえるのであれば喜んで引き受けたいと思っています」。つながりはさらに広がりつつある。
最後に、今後の経営目標をうかがった。「作業受託を含め、栽培面積を100haへ拡大することを目指しています。農家がリタイアされたあとの農地を引き継いでいきたいですね。そのために、ライスセンターの増設や、ラジコン草刈機など最新機の導入でもっと作業効率を上げていきたいし、従業員の採用や教育も必要になると思っています」。ゆくゆくは生産を完全に従業員に任せ、ご自身は経営に専念できる体制を整えたいという西田さん。全国の農業経営者ともつながり、栽培方法や経営に関する情報交換にも力を入れている。「毎年新しいことに取り組んでいて、これで終わりということがありません」と、会社の成長のため、そして農地を守るため、歩みを止めず進み続けておられる。
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